母娘丼


朝仕事に出かける時に、家を出て30歩ぐらいしてから忘れ物に気付いて戻ったりする。

だいたいケータイだったりタバコだったりするのだけれども、しょっちゅうそんなことをしているので娘・R(2才)も覚えてしまったようである。

今日もタバコを忘れてバタバタと取りに戻ってくると

「あ、ぱぱ、あんわ(電話)?んにゃこ(タバコ)?」

と聞いてくるようになった。なかなかしっかり者のようである。いずれ大きくなったら世話焼き女房のようになるのかも知れない。

「パパ、ハンカチ持った?ティッシュは?」

「ちゃんと持ったよ~」

「はい、じゃあ行ってらっしゃい」

「あ、パンツ履くの忘れた」

「パパのバカー!」

などと娘にツンツン言われるのも悪くない。そして

「はいはいちゃんとパンツはいて!遅刻しちゃうわよ!」

「あ、もうひとつだけ忘れ物があった」

「もう!何よ!」

「行って来ますのチューさ、子猫ちゃん」

「きゃあ!パパったら」

なあんてことが出来たら僕の中高年期はどんなにバラ色になることであろうか。。いや待て。それは本来嫁とやるべきではないのか。第一娘が父親に対してそんな親身になるとは思えぬ。嫁と新婚の頃はどうだったであろうか。

思い返すに、嫁と一緒に暮らし始めてからしばらくは、確か

「ズームイン朝~ベッドイン朝~」

とかほざいていた覚えがあるので、朝も早よから朝駆けのちんちん生活を満喫していた記憶がある。なんだ、既に嫁ともっと凄いことをしていたのではないか。

現在嫁は絶対やってくれそうにもないので、もしかしたらその過ぎし良き日をもう一度Rと…と淡い期待を抱いているのかもしれない。娘とのやりとりは嫁とはまた違う楽しさと甘さとくすぐったさがあるものである。

「じゃ、行って来ます」

そんなことを考えながら忘れたタバコを胸ポケットに入れ、再び家を出ようとしたところRが泣きながらすっ飛んできた。

「ぱぱー!ばいばいしてー!あーくーしゅーしてー!

しまった。いつもRとする挨拶、「握手でバイバイバイ」も忘れてた。既にRは僕の忘れ物チェックをしておったわ!ごめんねR。先程の妄想シーンの、ツンツンと僕をたしなめるシチュエイションもそそるが、「パパ忘れてるよ」と泣いてすがってくる今のRも充分僕をノックアウトする力があったわけで…。

なんだかうまくオチないのでおわり。すみません。

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