結婚指輪物語


娘・R(2才)が眠りに落ちる間際に、僕も添い寝してピロートークでゴートーク。

布団の中でキャアキャアとじゃれあったりして。嫁以外の女人と布団でイチャつくのは新鮮である。

「ぱぱ、これは?」

僕の左手をいじくりまわすRが、薬指の指輪を目に留めて言った。

「これは指輪だよ」

「ゆびわ?」

「結婚指輪っていうんだよ。Rも大きくなったら…」

と言ったところでウッと胸にこみ上げる悲しみに襲われた。大きくなったRが、キラキラと輝く結婚指輪を幸せそうな表情で眺める姿が脳裏に浮かんだのである。そしてそのRに寄り添う、どこぞの馬の骨…

「ふあああああ!」

悲鳴が喉まで出かかった。その男を抹殺したい。いつまでも布団でパパと戯れるパパだけの娘であって欲しい。しかしRの幸せを考えると、僕はただ草葉の陰から眺めることしか許されないのだ。若いふたりを送り出した老いた父に残されたものは嫁の嫁の老いた乳しかない。人生とはそういうものだ。セ・ラ・ヴィ。エッチなヴィデオの略。それはエロヴィ。

我に返ると、Rが指輪を懸命に取り外しにかかっていた。Rも指輪をしてみたいらしい。

「ん…。Rも指輪はめたいか?」

「はめたい!ゆびわ、はめたい!」

はめたい…。僕はまたウッと胸にこみ上げる悲しみに襲われた。大きくなったRが男に向かって「はめたい」などと言っている姿が脳裏に浮かんだのである。そしてまんざらでもない笑みを浮かべるどこぞの馬の骨…

「ふあああああ!」

悲鳴が喉まで出かかった。その男を抹殺したい。いつまでも布団でパパと戯れるパパだけの娘であって欲しい。しかしRの幸せを考えると、僕はただ草葉の陰から眺めることしか許されないのだ。いや、覗いてたらまずいだろ。

我に返ると、Rが指輪をはめてもらいたくてウズウズしているので、

これか?お前の欲しい物はこれか?おっちゃんがぶちこんだるわい。指輪だけどね…」

2才児に対してあるまじき言葉を以ってはめてあげたところ、

「ゆびわ、きれいねー」

Rは無邪気に喜んでくれた。小さなRの指から指輪がブラブラと揺れていた。

「あはは。でもブカブカだね」

「うん。おっきい。ゆびわ、おおきい」

大きい…。僕は三度ウッと胸にこみ上げる悲しみに襲われた。大きくなったRが男の下になって「大きい…」などと言っている姿が脳裏に浮かんだのである。そ得意気に笑みを浮かべるどこぞの馬の骨…

「ふあああああ!」

悲鳴が喉まで出かかっ…って一体なんなんだこの無限ループは。僕はRとまったりとお話したいだけなのに。この結婚指輪に呪いでもかかっているのだろうか。いや、結婚指輪はそれ以上でもそれ以下でもない。単に「私はSOLD OUT」を意味するシルシに過ぎない。結婚制度こそ人生を縛り付ける強力な呪いである。

今そんなことをRに言っても分からないだろうけど…。

Rもいつか父の手を離れる日が来る。左手薬指に指輪がはめられる日がきっと来る。それはどうしようもないことであり、娘の幸せを願うのであれば、僕もその日を望まなければならない…。

そう自らに言い聞かせるのであるが、なかなか眠れない夜になってしまった。頭の中で、とあるメロディーが繰り返され…

来ーるー。きっと来るー。

リング(指輪)のテーマでございました。

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