震えるぞハート!燃え尽きるほどデート!
「パパ、こっちおいでー」
家の中で僕を連れ回す娘・R。僕はされるがまま家中引き回しの刑となる。愛を背負う者の弱みで逆らう事は出来ない。今までの人生の中で、僕がこれほど愛の奴隷と化してしまった相手は、このRと、Rの名前のルーツとなっているRちゃんである。
元近所に住んでいた僕の超お気に入りのディ・モールト美少女、Rちゃん。現在音信不通である…。彼女も移り気で思わせぶりで、動物でいうと仔猫ちゃんタイプの女であったことよ。ファスター・プッシーキャット・キル!キル!
嫁は違う。どんなタイプかと言っても、偉大なる母にして革命的家庭指導者である嫁を動物なんぞに例えることは畏れ多くて不可能である。嫁は動物などではない。鬼である。
話を戻す。Rは僕の手を取り、
風呂場の入口(↑こんなとこ)に連れて行き、「ぱぱ、どうじょ」と僕を座らせて自らも横に座った。何が楽しくてこんなところに。
「何をやってるのこの人たち。絶対変だわ。でも私達は紛れもない家族。私はこの人達からは逃れられないんだわ。ああなんということ」
嫁も諦めと無常の表情で遠巻きに眺めているではないか。
しかしふたりで並んで座っていると妙なもので、僕らがベンチに座るデート中のカップルのように思えてきた。さっきから遠巻きに見てる女の人は僕らのラビュラビュぶりを僻んでるんだよきっと。無視無視。
さて一体何をすればいいんだ、とドキドキして来たが、デートでもよくこんなこと考えたっけと思い出した。まだ付き合って日の浅く、初めてか2度目の相手の出方を少しずつ伺いながらのデート。
「ちょっと休もうか」
なんて彼女を隣に座らせて、さて次はどこに行こうか、などとこれからのデートの組み立てを考えたりするインターバルタイム。ちょっと腕が触れてしまって、以外に密着して座っていることに気付き、ひょっとしたら抱き寄せてちゅーとか出来るんではないか、などと間合いを計ってみたり。よし、あと10分で接吻、とか考えてひとりでウケてたりして。そしてフラれたり。
結婚してからというもの、もう記憶の底に埋もれていたあの頃の甘酸っぱい気持ちを再びこうして味わっているわけだ。何という至福。何という喜び。何という破廉恥。ああ、娘を作ってよかった。僕らはベンチのカップル。
「あ、Rちゃん、何かおしゃべりでもしましょうか…」
ドキドキしながらRの様子を伺ったのだが、そこで夢のようなひとときは終わりを告げた。
「ばいばーい」
Rはすっと立ち上がってこの愛のベンチを去り、とっととままごとセットのオモチャで遊び始めてしまったではないか。僕はフラれたようである。RちゃんといいRといい、僕のどこが悪かったというのだ。
ひとりベンチに残された格好の僕であったが、Rがままごとのお皿を持って戻って来た。
「いらっしゃいましぇー。なんにしまっか?」
若き美しき時代の思い出に浸る父をとっとと切り捨て、さっきまでのことなどまるで無かったかのように、次の遊び「お店屋さんごっこ」にシフトチェンジしているR。これだから仔猫ちゃんタイプは!
でもいいんです。僕なんて女の子にフラれて途方に暮れて、ひとりベンチでケータイでドラクエとかやってるのがお似合いなんです。放っておいて下さい。
「ぱぱ、なんにしまっか?」
しかしRはそれを許さなかった。
「…じゃあ、お子様ベンチで…」
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