家族全員妊娠。

嫁のお腹の中にいる第2子。僕らはトロと呼んでいる。

産まれて来るまでの仮名である。いわばウームネーム。
僕は時々お腹をさすって

「トロ〜。元気か〜」

などと話しかけるのだけれども、娘・R(2才)も

「トロチャーン、トロチャーン」

僕と同じことをする。嫁の話だと1日何回もやるのだという。

「Rもお腹の中にいることが分かってるんだねえ」

と嫁に言うと

「さあ…それはどうかしら」

嫁は首を傾げる。それはどういうことかと思ったら、
Rは自分のお腹も撫で回して

「トロチャーン」

と言っているではないか。そこで僕は

「ははは、Rのお腹の中に赤ちゃんがいるのか。はは…
 そうかそうか…えーちょっと待て…。

 …誰の子だー!

 なーんちゃって」

気さくでエスプリの効いたギャグを飛ばしたのだが、嫁は
ノーリアクションであり、なんだか周りの空気が寒い。おい。
夫がボケてんだからちゃんとツッコミ入れろ。ていうより
今晩あたり突っ込ませろ。

しかし僕のギャグは100回に1回ぐらいしかウケないので
大して気にすることもせず、

「ひょっとしてお父さんの子かナ?」

引き続きボケをかましたのだが、一瞬だけ嫁の眼が鋭く光った。

「あんたなら本当にやりかねないんだから、これ以上そんな
 こと言ったら殺すわよ」

という殺気を覚えたのは気のせいだろうか。僕は最早これまでと

「ははは…R、そろそろねんねしようか」

Rとの戯れをお開きにしようとしたところ

「トロチャーン」

Rは僕のお腹もナデナデしてしまうのであった。僕が妊娠かよ!
娘よ。見事じゃ。そのボケがあったか!

父を上回るボケをかますRを見て、やはり血は争えないのだなあと
思ったのであった。

いわばブラッド・キャント・バトル。

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台風と氷川きよしと母。

朝っぱらから電話が鳴ったので取ったら無言電話だった。

「もしもし」と問いかけても、10秒程間を置いても無言。
無言電話魔、猪口才なり、返り討ちにしてくれるわ、と

「オカケニナッタ電話番号ハ 現在使ワレテオリマセン。
 番号ヲオ確カメノ上 出直シテ下サイ」

鼻にかかったメカ声で嫌がらせアナウンスを始めたら

「ちょ、ちょっと待って下さい。変わります」

電話の向こうから初めて中年女性らしき声がした。恐れを
なしたか痴れ者め。しかし「変わる」とは一体?と様子を
窺っていたら、次に電話に出て来たのは、なんと我が母。

「はーい。お母さんですよ〜」

「母さんなの?何なんだよ!ていうか今の誰?」

「きよ友の田村さん」

きよ友、とは氷川きよしの追っかけ仲間のことである。母は
氷川のことになると半狂乱のバーサク状態になって手が付け
られない。還暦過ぎて道楽デビューすると歯止めが効かない
から恐ろしい。そういえば今週コンサートのためにわざわざ
飛行機で博多に行くと言っていた。ということは

「今、博多からかけてるの?」

「そう。お母さん携帯をトイレに落としちゃったのよ!」

「いい年してギャルみたいなドジ踏まないでくれ…」

「何かあった時にはこの田村さんの携帯にかけて欲しい
 と思って、田村さんにお願いして電話してもらったの」

顔に脂汗が浮かんだ。母のドジのとばっちりを受けてTEL
してくれた田村さんに、僕は何てことをしてしまったのだ。
田村さん、親子揃って大馬鹿ですみません。

「実はイタ電だと思ってずっと田村さんにNTTのモノマネ
 しちゃってて…うわー!まじヤバイ!」

「あらまー。何やってるのよー」

「それはこっちのセリフだ!」

「それと今、台風直撃なのよ。飛行機止まってるし栃木に
 帰れるんかなあ」

「知らん!博多見物でもしてゆっくり帰ればいい!」

コンサート前で浮かれている母に何を言っても無駄だ。
ひとりじゃないし、何だか台風すら楽しんでるみたいだし。
おそらくなんとか帰ってくるだろう。

「あ…それと田村さんにはくれぐれもよろしく。じゃ」

母に色々まくし立てられた僕は疲れて電話を切った。

しかし母のあのパワフルさは何だろう…と呆れ返っていたら
驚きの事実をWEB上で発見した。↓

こちらの記事

今日(9/6)はきよしの誕生日コンサートだったのだ!
どうりでテンションが異常に高いと思った。

きよしの誕生日イベントのためなら博多にだって飛ぶわ!でも
携帯落としちゃってチョドジー!おまけに台風直撃でギャフン!

ドジキャラぶりもここまで来ると、最早呆れるを通り越し、
母とはいえ少しだけ萌えてしまうから不思議である。

これを「博多もえくぼ」といいます。なんつって。

夜、母がまた電話をかけて来た。

「コンサート、中止になっちゃった…」

さすがにちょっとかわいそうになった。

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電撃夜這い作戦/日記才人10万票御礼。

大雨洪水警報が出された夜。僕のリビドオも無意味に高まり
もうダメ洪水警報が発令されていた。

嫁が娘・R(2才)を寝かし付けている。僕は隣に添い寝し、
Rが完全に寝たことを見計らって嫁を襲うことを決意した。

もうすぐ第2子が産まれる嫁の体だが、まぐわっても問題
なしとの助産師のお墨付きがあるので僕の血も情け容赦
なく騒ぐ。どうせ僕はエロなのさ。

ちっちゃな頃からエロガキで、15でドエロと呼ばれたよ。
ワイフ見たなりつがっては、触る嫁また孕ませた。

寝転がりながら窓の外を眺めながらひたすら待つ。大型台風、
すなわちグレートタイフーンの影響による雨と、煌めく雷光、
すなわちエレクトリックサンダーの美しさに見惚れていた。

やがてRが完全に寝たようで、嫁がゴソゴソと起き上がった。
さあ今だ。求愛のポオズを決めるのだ。

「さあ、おいで」

僕は両手を広げて嫁を迎え入れることとした。しかし嫁は僕に
一瞥をくれただけで、とっとと風呂に入って行くではないか!
何というツンツン嫁。やりたくないのは分かる。しかしシカト
はないだろう!結局それ以上なす術もなく、風呂から上がった
嫁はそのまま寝てしまった。

分かってくれとは言わないが、そんなに俺が悪いのか。

と考えつつ僕はまたひとり窓を眺めていた。雨は殆ど上がり、
静かな夜となっていたその刹那、閃光弾かと見間違うほどの
鋭い光が僕の目を射し、

「じゅどおん!」

凄まじい轟音と地響きで家が揺れた。

「ち、近くに落ちた…おっかねー!嫁ー!」

腰を抜かしそうになる程驚いた僕は、さすがに今の衝撃で嫁も
目覚めただろうと思い、嫁の布団に飛び込み抱きしめ、救いを
求めたのだが

「ぐおおわお」

あくまで嫁は眠り続け、雷鳴に劣らぬ重低音サウンドの鼾でもって
返事をしたのみであった。これだけのエレクトリックサンダーにも
かかわらず、堂々とした眠りっぷりはもはや「サンダーが大将」
と褒め称えるしかあるまい。

もういい。誰にもかまってもらえない夜。僕もとっとと寝る。

落雷落雷おやすみよ。ギザギザハートの子守唄。

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案ずるより海は難し。

日曜の朝、僕と嫁は迷っていた。

嫁の出産まで1ヶ月を切ったので、そろそろ遠出は
控える時期になった。なので今日は海にでも行き、
僕と嫁と娘・R(2才)の3人家族での最後の旅行
としよう、と思ったのだが雲行きがあやしかった。

大型で強い勢力を持つ台風が近付いてきており、
A型で強い精力を持つ僕は判断に苦しんだ。

せっかく海に行くなら青い空の下がいい。その考えは
嫁も一緒だ。散々迷ったが、結局この時点では晴れて
いたこともあり決行を決断。横須賀の観音崎に向かった。

幸運なことに海岸に着いても天気は良し。9月なれど
泳いでる人達も沢山いる暑さ。海も綺麗。Eじゃん
スカジャン最高じゃん。

さて問題はRである。Rは海を怖がり、何度挑戦しても
泣き喚いて海に絶対近寄らなかったのである。今日も
砂浜に連れて行ったがやはりダメ。僕にダッコをせがみ、
足を付けようともしない。仕方なく海沿いの石畳の道に
降ろすとようやく歩いたのだが、ビーサンと足の間に砂が
入っただけで

「あんよー!あんよー!」

と泣き出し、流石に親馬鹿な僕もこのヘナチョコぶりには

「どこのお嬢様だお前はー!」

蝶よ花よと育てて来たことを後悔したのであった。しかし
後悔するだけでは何も生まれない。僕はRの大好きなアンパン
マンを砂浜に描いてみせた。するとRは

「あんまん!(アンパンマンのこと)」

ようやく瞳を輝かし初めて砂浜に足を付けたのであった。
たかがこれだけのために月面着陸並みの難作業。

僕はアンパンマンを少しずつ海に近付けて何個も描くと、
Rもそれに釣られて来たので、程よい場所で砂場グッズを
与えると、バケツや熊手でニコニコと遊び始めた。泳ぐのは
さすがに無理だが、今日のところはこれでよしとしよう…。

さてその間の嫁は、大海原に向かって太鼓腹を突き出し、
大ガニ股で岩場にドオンと腰を下ろしていた。

photo

「君…なんかの合戦の総大将みたいだよ」

「え、義経とか?」

タッキー好きの嫁は笑顔になったが

「いや、武田信玄って感じ」

photo

「あ、そう…」

一瞬で嫁の顔を曇らせてしまった。いや、ごめんね。
僕もタッキーじゃなくてオタッキーだから…。

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案ずるより産むは恥ずかし。

第2子の出産予定日まであと1ヶ月を切った。

僕と嫁は出産においての心得を叩き込まれるべく、
嫁が産むことになる助産院に赴き、助産師の話を
聞くことになった。

集まったのは僕らを含め夫婦4組。それと子供2人。
うちの娘・R(2才)の他に2人目を産む夫婦がもう
ひと組いた。

豊富な経験に裏打ちされた落ち着きを持つ感がある
院長から、出産を迎えるまでの健康管理、入院する
にあたり準備するもの、いよいよ破水した時の対応
…などの話を聞かされる。

「破水してから出産までの進行の度合いは人により
 異なりますが、あなたはすぐ来て下さい。
 あなたはきっと早いです!」

「えー!?」

断定されたのはうちの嫁。

「君…そんなにガバガバユルユルだったのか…」

「いやほら、Rを産んだ時も早かったし、先生はそれを
 考えて言っているんじゃないかな…?」

そのうち院長の話は雑談レベルになってきて、

「エラが張っている人はお産が軽いと言われています。
 あなたがそうですね!」

「えー!?」

またもや断定されたのはうちの嫁。アハハ、と他の夫婦
から笑い声が起こった。その後も院長は何かとエラエラ
うちの嫁うちの嫁と、このネタを何回も繰り返して話し、
エラ張り妊婦の嫁とそれを娶った僕は、笑っていいともで
タモリにいじられる一般素人のような、カノッサの屈辱
並みの辱めを受けたのであった。

何故にうちだけがこんな恥ずかしい思いをしなければ
ならぬのだ、と帰りたくなったのだが先生はよいことも
言った。

「とにかく妊婦さんに心掛けてもらうのは常にリラックスして
 いることです。ですからそういった意味で37週を過ぎれば
 セックスもどんどんして下さい。体をほぐしてあげて下さい」

よっしゃー!先生ナイス援護射撃。いつも夫婦のまぐわいを
避ける嫁に対し、これで正当な性交の大義名分ができた。

辱めを受けたり喜んだりの出産勉強会であったが…

案ずるより嬉し恥ずかし。

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