案ずるより海は難し。

日曜の朝、僕と嫁は迷っていた。

嫁の出産まで1ヶ月を切ったので、そろそろ遠出は
控える時期になった。なので今日は海にでも行き、
僕と嫁と娘・R(2才)の3人家族での最後の旅行
としよう、と思ったのだが雲行きがあやしかった。

大型で強い勢力を持つ台風が近付いてきており、
A型で強い精力を持つ僕は判断に苦しんだ。

せっかく海に行くなら青い空の下がいい。その考えは
嫁も一緒だ。散々迷ったが、結局この時点では晴れて
いたこともあり決行を決断。横須賀の観音崎に向かった。

幸運なことに海岸に着いても天気は良し。9月なれど
泳いでる人達も沢山いる暑さ。海も綺麗。Eじゃん
スカジャン最高じゃん。

さて問題はRである。Rは海を怖がり、何度挑戦しても
泣き喚いて海に絶対近寄らなかったのである。今日も
砂浜に連れて行ったがやはりダメ。僕にダッコをせがみ、
足を付けようともしない。仕方なく海沿いの石畳の道に
降ろすとようやく歩いたのだが、ビーサンと足の間に砂が
入っただけで

「あんよー!あんよー!」

と泣き出し、流石に親馬鹿な僕もこのヘナチョコぶりには

「どこのお嬢様だお前はー!」

蝶よ花よと育てて来たことを後悔したのであった。しかし
後悔するだけでは何も生まれない。僕はRの大好きなアンパン
マンを砂浜に描いてみせた。するとRは

「あんまん!(アンパンマンのこと)」

ようやく瞳を輝かし初めて砂浜に足を付けたのであった。
たかがこれだけのために月面着陸並みの難作業。

僕はアンパンマンを少しずつ海に近付けて何個も描くと、
Rもそれに釣られて来たので、程よい場所で砂場グッズを
与えると、バケツや熊手でニコニコと遊び始めた。泳ぐのは
さすがに無理だが、今日のところはこれでよしとしよう…。

さてその間の嫁は、大海原に向かって太鼓腹を突き出し、
大ガニ股で岩場にドオンと腰を下ろしていた。

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「君…なんかの合戦の総大将みたいだよ」

「え、義経とか?」

タッキー好きの嫁は笑顔になったが

「いや、武田信玄って感じ」

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「あ、そう…」

一瞬で嫁の顔を曇らせてしまった。いや、ごめんね。
僕もタッキーじゃなくてオタッキーだから…。

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