ヒキコモリンピック



都内某所の子供遊び場にて、娘・R(2才)が大好きなミニチュアハウスで遊ばせていた。

ミニチュアハウス
こんな感じのやつ。

Rは我が物顔でそのハウスの中に入り、とても嬉しそうに遊んでいた。更には自分のみならず、

「ぱぱ、おいで。どうじょー」

その家の主であるが如き振る舞いで、扉を開けて僕も家の中に入るように言った。

「いや、パパはいいよ…他の子が入れなくなっちゃうでしょう」

「めー!ぱぱもおうち!どうじょ!どうじょ!」

断っても断ってもRは何故か執拗にハウスの中に入れと言ってきかない。仕方がないのでよっこい庄一、と身を小さくして入った。しかし入ったら入ったでRは僕をほったらかし。ハウス備え付けのキッチンセットでガチャガチャ遊んでいるだけである。

「R…パパ、出ていい?」

「めっ!」

何故。これでは軟禁ではないか。さては軟禁玉すだれ。そういえばここの建物が建っている場所は、かつて巣鴨プリズンと呼ばれた監獄であった。その跡地で僕は愛のプリズナー。ハウスの中は狭いので、体育座りをするしかない僕は、この状況をどう打破するかを考えた。やがて1才半ぐらいの小さな男の子がチョコチョコと歩いて来て、ハウスの中に入りたがっていたので

「ボク、おいで。さあどうぞ」

扉を開けて招き入れ、その隙に僕は脱出する魂胆だったのだが、その子は扉の前のわずかな段差にコケてしまい、逃げて行ってしまった。なんて使えない奴…じゃなかった、ボク、痛くなかったかい…と心配する暇もなく、

「ぱぱ、行っちゃダメ!」

Rの怒りの声が飛び、僕は万事に窮した。

「R、もういいだろう。これは子供用の遊び場なんだよ。パパはね、今年35なんだよ。こんなところで体育SUWARIしてる姿なんて嫁に見られたら…」

と泣き言を吐いても後の祭り、嫁は既にばっちり一部始終を見ていた。

「あははは!きっとあなたオタクの引きこもりだからRもそう思って閉じ込めてるのよ!オタクはお宅にいなさいってね」

「なんだとー!」

嫁はゲラゲラ笑っていた。おのれ。オタクは僕も認めるが引きこもりとは何だ。僕は家を飛び出せば、それを迎え入れてくれる愛人宅が東京23区のそれぞれに1つづつ、合計23宅あるんだぞ…いや、ないよ。見得張ってごめんよ。

「あなたのパソコンがある部屋をね、Rは『ぱぱのおうち』って呼んでるのよ」

「え、そうなの」

そんなに僕は引きこもってるイメージが強いのだろうか。一応会社には行ってるんだけど…。

Rにだけは「かっこいいパパ」と見られたいという夢があった。しかし最早もうダメなようである。オタクで引きこもりなパパ…僕だったらいらん。

「Rちゃん、オバチャマはね…」

ヒキコモリのオバチャマよ〜、というギャグを言ってみたが、勿論21世紀生まれのRに分かる筈もなく。

子守をしてたら引きこもり扱いされた、というお話でございます。


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