アサッテ君



「あさって」

今週に入ってからの娘・R(2才)の口癖だ。

「あさって、あーちゃん、くぅの」(あさって、婆ちゃん来るの)

婆ちゃん、つまり僕の母が週末来る予定があるのだが、すっかり婆ちゃん子に
なってしまったRは、そのことを知った月曜日からずっと言っている。Rの言う「あさって」は厳密な意味の「明後日」ではなく、「もういくつ寝ると」のニュアンスに近いようだ。

ところが昨晩、母から

「風邪を引いたので行けなくなった」

とのメールが届いたのでさあ大変。ひとまず具合はどうだろうか…と

「だいじけ?)」(栃木弁で『大丈夫?』の意)

と電話してみたところ

「あー。8度2分あるよー。ごめんねー。今週行けないわー」

かなり弱っている声。無理しないでくれと言っておいた。Rは僕が話している様子をじっと見ていたので

「R、ばあちゃんだよ。喋るかい?」

受話器を渡してやると、もそもそと耳に当てた。

「Rちゃんごめんねー。ばあちゃん行けなくなっちゃった」

という母の声が聞こえてくる。しかしRはここでも

「あさって。あーちゃん。あさって」

この言葉を無邪気に受話器に向かって連発していた。可哀想に。分かっていないのだ。母がいくら説明してもダメだった。電話を切った後、嫁と

「来れないってちゃんと説明した方がいいよなあ…でも分からせるのが大変だ。分かってくれたとしても、泣いちゃうだろうなあ…」

Rを悲しませないで知らせる言い方はないだろうか、と模索したが結局見付からなず、もう遅いから寝ようということになった。

翌朝、目が覚めても

「あさって。あーちゃん、くぅよお」

Rは未だニコニコと喋っている。忠犬ハチ公のような健気さである。今は亡き母をただただ待ち続けるR。っておい。母を殺すな。

これ以上Rの純粋な心を放って置くわけにはいかない。先に延ばせば延ばすほどRを傷つけてしまうことになるかもしれぬ。よし、言おう。決心した。Rの目線に座り、Rの頭に手をポンと置いて、

「Rちゃん…ばあちゃんは風邪引いて頭痛い、えーんってなっちゃったんだよ。だからあさっては来れなくなっちゃったんだよ…ごめんね」

さあここで泣いてしまうのか…と内心ビクビクもので構えていたが、Rは意外にも目をこちらにしっかり向けて

「うん」

と素直にコックリと頷いたではないか。なんと聞き分けの良い。

「風邪が治ったら来てくれるって言ってたから、その時まで待とうね」

「うん」

なんと凛々しい。儚げではあったが僕をじっと見て答える、いじらしい表情。昔、嫁と初めて契った時、

「僕でいいのかい?」

「うん」

と素直に頷いた時の嫁の顔に似ていた。

嘘である。そんな昔のことは忘れた。

Rは本当に分かってくれたようで、もう「あさって」とは言わなくなった。それが益々震えるぞハート、燃え尽きるほどヒートとなり、僕はRを

「お前はいい子だなあ。代わりにどこか連れて行ってやろう。面白い遊びができるところにね」

ぎゅうと抱き締めたのであった。ひとまずはお父ちゃんが面白い遊びとしていいものを見せてやろう。

あさって♪あさって♪あさってさってさってさって♪

さてはインキン玉ただれ。

…首くくって来ます。

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