血はチョコより濃し



バレンタインデーはその日飛び交うチョコほど甘くはない。過度の期待を持つと、その夜ひとり枕を濡らし慟哭する羽目になる。

僕は妻帯者であり勤め人なので、そもそも何の期待を持つのかと問われる方もあろうが、去年は中学生の女の子からチョコを貰ったりして、生きててよかったと心から思える気持ちになったものだ。

今年は打って変わって職場の勇者ライディーンに似ているおばさまから頂いたチョコのみ。これも1個は1個だが、それはキン消しに例えるとベンキマン並みの価値でしかない。

イワシの不漁に悩む漁師のような心持ちで帰宅すると

「どうじょー」

娘・R(2才)が部屋の扉を開けてくれた。そして

「はい、ぱぱ」

バレンタインチョコ
手作りのチョコと市販品(ガーナチョコレート)を手渡してくれた。ああR。最愛の娘よ。最大の恋人よ。お前が俺には最後の女。

勿論R自身が作ったり買ったりした訳ではない。嫁が後ろで糸を引いている。すなわち嫁の愛プラスRの愛。愛の二乗。感動も二乗。

「そうだ。Rちゃん、タクにはあげたのかな?」

我が家には生まれて始めてのバレンタインを迎える息子・タク(4ヶ月)がいる。今までRからのチョコは僕が独占していたが、今年からはタクもなのだと考えると少しだけ寂しい気持ちになったが、人生経験と経済力においてはタクはまだ僕の敵ではない。だからRの本命は僕のはずである。けれども乳児とマジで争う僕って…などと複雑な心境でいたら、

「タクには私からあげました」

との嫁の一声が。おお。では今年も僕がRのチョコを独占だなと甚だ満足であったがちょっと待て。

嫁から僕へのチョコはなかった。

嫁はとっとと若い男に乗り換えたようである。べ、別に悲しくなんかないし…。それともう一つ。R経由でタクにチョコをあげなかったことは、

「タクにチョコをあげるのは私だけ!」

という嫁の独占欲によるものと考えられなくもない。その辺を嫁に聞くのは些か恐ろしいのであるが。チョコよりも黒い謀略が見え隠れしているような、ないような。

ただ、先程「はいパパ」と渡してくれたRのピュアな気持ちだけは本物である。僕はそれを糧に生きていこう。

と思った矢先、Rがくれた筈であったガーナチョコをRはひょいと奪い返し、

「きれいねー」

包装のデザインを気に入ったのか、

バレンタインチョコ
包装紙をビリビリ破り始めてしまった。

「あ、それ、パパにくれたんでしょ…返して…」

「めー!Rちゃんの!」

突如Rは自分のものであると主張し始め、冷たい娘となってしまった。Rのピュアな気持ちすら怪しくなって来た。ついさっきまでの抱き締めたくなるほどのデレデレさはどこに行ったのか。ツンデレの反対のデレツンなのか。

僕は何を信じて生きていけばいいのだろう。もうこんな悲しみを伴うイベントは止めにしてもらいたい。

バレンタインデー。娘ツメタインデー…。

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