忘れ難き恋敵。

「あれ、どうも久しぶりです」

駅前でバッタリ、友人のヅカ君に声をかけられた。

「ごめん。急いでるんで、さよならっ」

反射的に逃げたくなったが思いとどまった。
何故ならこのヅカ君、僕の永遠の憧れの美少女・Rちゃんの
元彼なのである。

Rちゃんとの付き合い自体は僕の方が長い。

かつて「ビートマニア」というゲームにはまり、近所のゲーセンの
通い詰めていた僕と、その店員だったRちゃん。

僕はその美少女っぷりに心を奪われたものの、当時僕には
結婚を誓った彼女、つまり今の嫁がおり、僕はRちゃんへの恋心を
必死に抑えつつも静かに燃やしながら健全な交際をしておった。
一年以上毎日のように会って文通もしていた…。

そこへどこの馬の骨とも分からないヅカ君が後からやって来て、
いつの間にかRちゃんの彼氏になっていたのである。
僕は面白いはずもなく…

しかし、これも過去のことである。

現在ヅカ君はRちゃんと別れ、Rちゃんはおそらくそれをきっかけに
この街を去った。僕はRちゃんの連絡先を半年以上知らされず
音信不通になっている。

美少女に捨てられた悲しい男ふたり。
わだかまりなく話すことにしよう。そう思った。

とはいっても「Rちゃんの今の連絡先分かる?」などということは
ヌケヌケと聞き出す度胸もなく、当たり障りのない会話が続く。

「ヅカ君、まだパチスロやってんだ」

「ええ。あ、かじりんさん、そういえばお子さんが生まれたそうで…」

「あ、うん。よく知ってたね」

なんと、ヅカ君は僕に子供が生まれたことを知っていた。
一年以上会ってないというのに、どこから聞いたのだろうか。

「で、お子さんのお名前は?」

「ごめん。急いでるんで、さよならっ」

反射的に逃げてしまった。

言えない…。君の元カノに憧れ続け、同じ名前にしたなんて
口が裂けても言えるものかっ。

もし口にしたとしても、ヅカ君の反応が予想できない。
呆れ…嘲り…怒り…それとも…?

かつての恋敵には言い難きことがあるものよのう。
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