酒を飲む前に煮え湯を飲まされた事。

この日記を見てメールをくれる人の中で

「実は近くに住んでるんですよ。酒でも飲みませんか」

ということが時々ある。初めてのメールで唐突に言われたら
「ちょっと待て」とさすがに引くが、何度かのやりとりの後で
こういう流れになった時、僕はこれを断る理由を知らぬ。
よって「いいですね。飲みましょう」ということになる。

あとは嫁の承認を得るだけだ。相手が男だったら気が楽だが
女性だった場合は深呼吸して気合を入れてから話を切り出す。

「…というわけで日曜日、ネットの人と飲みに行って
 よろしいでしょうか」

「一対一で?」

「うん。一対一で」

「どんな人?」

さあ、ここが正念場だ。僕は覚悟を決めて

「じょ、女子大生らしいよ…」

喉を振り絞って言った。ここで嫁に殺されるかと思ったら

「あそ。言っておいで」

あっさり承認されたので拍子抜けした。

昔は嫁以外の女性とサシで飲むことに後ろめたさを感じ、
隠れて飲んでいたらバレて怒られ、それ以降は事前に
嫁に伝えなければならなくなった。(嫁が知っている人は除く)

しかし伝えたら伝えたであーだこーだと揉めることが多く、
だったらやっぱりダマテンのほうがいいやと再び隠れて
飲んでいたらやっぱりばれて、修羅場がメビウスの輪のように
ループされていた時があった。

それが今は夫への愛も薄れ、関心もなくなってきたのだろうか。
嬉しくもあり、寂しくもあり。しかしその後

「でもあなたのネット繋がりの女の子ってみんな可愛いんだよね。
○○ちゃんとか×××ちゃんとか…」

読経のような低い声の呟きがブツブツと聞こえてきたので
やはり一抹の不安はあるらしい。

「大丈夫。かつてみだらな行為に及ぼうと思ったことはないから。
 いや、ないと言ったら嘘になるが実行したことはないから。
 というよりも酒でべろべろになるから」

「ほんとに〜?△△△さんとか※※※ちゃんとか…」

「マバンヤ様に誓ってもいい。その日の内に帰ってくるよ」

「■■■ちゃんとか☆☆ちゃんとか…」

…もういいよ。
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