T-SHOCK(定食)
日曜日の午前中。
「嫁、昼飯どうする?」
「さあ、どうしよっか」
どうやら嫁はあまりクッキングする気がないらしい。
「じゃあ食べに行こうぜ。…えーと、あそこがいい。久しぶりに」
以前住んでいた街の定食屋が思い浮かんだ。カツカレーと生姜焼き、その他揚げ物が美味い、初老のご夫婦が切り盛りしている小さな店。嫁とも時々一緒に行ったことがある。今の家からでも歩いて20分くらいだが、引っ越して以来5、6年行っていない。そこの味が恋しくなったので行くことにした。
街のメインストリートから一本離れた、細い路地に面したその店に入ると、
「いらっしゃい」
ちょっと老けたかと思わせるご主人が調理をしていたが、少し間を置いて僕と嫁の顔をシゲシゲと見、
「あれ…前食べに来てくれてましたよね」
改めて声を掛けてくれた。
「あ、覚えててくれてたんですか」
「ああ、やっぱりそうだ」
「江古田に引っ越しまして、それ以来ご無沙汰してました」
「その間にちょっと人数増えちゃって…」
嫁がよいこらしょ、と娘・R(3才)と息子・タク(1才)を座らせた。
「あれまあ可愛いねえ。じゃあ今日は何かの用事で寄ったの?」
「いや、久しぶりにココに来てみようかなあと」
「え、そうなの?そりゃ悪いねえ」
テレビからは春風亭小朝の落語が流れ、Rが興味深そうに眺めている。タクは壁に掛けられているミッフィーの時計を目敏く見つけ
「みーっひー!」
と興奮。ご主人はその後常連客と近所の話題で盛り上がっており、やはり昔のままのアットホームな空気の流れが良い。勿論味も以前と変わらぬ美味しさで大満足。子供達もバクバク食べていた。
満腹になったらじっとしていないタクが、椅子の上で「うやああん」と唸り出したので下ろしてやったら、あっという間にスタタタと店の外に出て行ってしまった。
「こら待て食い逃げー!」
嫁に財布を預けタクを追うと既に路地裏に逃げ込んでおり、僕を見るなり
「なんなん!」
と叫んで指差した。そこには猫が寝込んでいた(シャレか)
「なでなでしてごらん」
そう勧めるとタクはいきなり人差し指で猫に目潰し。
「やめなさい!お前さっきから突っ走り過ぎ!」
と押さえにかかったが、猫はそれでも寝返りを打って腹を見せて昼寝を決め込んでいた。
ポカポカした陽だまりで昼寝する猫。雑草生い茂る路地裏は静かで、ポテポテと歩く近所のお婆さんとウンコ座りで猫観察するタクと僕のみ。東京なのに時間が止まったようなこの空間。絵に描いたようなのんびりとした休日のひと時であることよ…。
「おーおー…その猫は噛むから手を出すのはよしなさい」
お婆さんが通りすがりに言って去っていった。どう見ても油断しまくり千代子な猫なのだが…?
遅れて食べ終わったRも外に出て来て、一緒に猫を眺めていた。店の奥さんも何故か出て来て
「その猫ちゃんは大人しいからナデナデしても大丈夫よ~」
一体どちらを信じたらいいのか。
「パパ、いまにゃんこが『ニャンニャン』ってしたの」
Rが猫のマネをして手招きのポーズをした。ネコ耳のコスプレをさせたら最高に可愛いんじゃないかと思った僕はオタクバカ親である。
会計を終えた嫁も出て来たのでご主人に挨拶。
「ごちそうさまでした」
「わざわざ来てくれてすいませんねー」
料理だけでなく何かほのぼのとしたものも満喫して家に帰った。
夜、風呂の中でRに
「今日は何が楽しかったかな?」
と聞いてみると
「らーめんやさん」
「いやあそこラーメン屋じゃないし。お前ラーメン食べてないし」
どうやら外食の店は全てラーメン屋だと思っているらしいことが判明した。そりゃラーメン屋が一番多く行ってるけどさ…。
真夜中、猫のマネをして嫁にニャンニャンの誘いをしてみたところ
「声かけないで」
今日の嫁はクッキングにもファッキングにもやる気が見られなかった。
問題:以前住んでいたアパートも見て帰った、そこで驚いたことは何でしょう?
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