息子がマルガリータ


「お義母さん、バリカン貸して下さい」

栃木の実家に帰っている今、バリカンがあると聞いた嫁が息子・タク(10ヶ月)の髪を刈ろうとしていた。

タクの髪は、現在スポーツ刈りのような感じになっており、地元栃木の男子中学生(卓球部所属)のような野暮ったさを醸し出しているが、嫁は更に短くしたいのだという。

「ふーむふむ」

やけに高校野球を熱心に見ていると思ったら、選手の坊主頭を見てイメトレしていたらしい。

「じゃあちょっとためし刈りを」

とばかりにバリカンを持った嫁は、いきなり僕の顔にそれを向けた。

「ギャアアアア!」

あっという間に右のもみ上げが半分なくなった。

「お、刈れてる刈れてる」

「勝手に刈るな!オヤジ刈りよりひどいぞ!」

「じゃあタクの頭を刈りますか」

「血も涙もないのかお前は…」

タクと共に風呂場に移動して、嫁が刈る人僕抑える人。レッツバリカン開始。いや~んばりか~ん。

ぞりりりりり…と嫁が刈り、タクの頭に一直線の坊主道が走る。

「あれ、ちょっと短くしすぎちゃった」

「うわ…ちょっと、これ、やり過ぎ」

なんとバリカンの設定を誤っていたらしく、高校球児というよりも少林寺拳法になって来てしまった。

「でも今更後へは引けない。このままで全部刈るしかないよ…」

「ごめんねータクちゃん」

「うわあああん!ぎゃああああん!」

海の波も怖がらないタクであったが、不気味なバリカン音と髪を刈られる感触は苦手だったらしい。両親の無慈悲な言葉も恐怖を与えてしまったのかどうかは分からないが、タクは火が付いたように泣き、悪戦苦闘の中ようやく全体を刈り終わったのであった。

シャワーを浴びさせて、新生ヘアスタイルのタクを改めて見てみると…。

「や、やばい…」

あまりの薄さに痛々し過ぎた。可哀想過ぎて、とてもここに画像を載せられない。なので例えて言うと…

松平健
松平健のような危機的な状況であった。僕はタクのことをよく「坊ちゃん」と呼ぶ。「坊ちゃん、それ触っちゃだめよー」といった感じで使っていたのだが、刈った後の顔を見たら、つい「上様」と呼んでしまった。上様、それに触れてはなりませぬ。

「…まあ、この子は髪の伸びが早いから」

「見慣れてくれば、これはこれでかわいいはずだ」

僕と嫁でできるだけ罪悪感から逃れようと、言い訳がましいことを言い合っていたが、嫁がタクの後ろに回って見たところ

「あっ!後頭部、全然刈れてない。虎刈りだよこれじゃ…」

とうとう致命的なミスも見つかってしまった。

「でもあんなに泣いてたし、あれ以上やるのは気の毒だったよ…」

フウと溜め息をひとつついて、嫁が言った。

「これがトラウマにならなければいいけど…。虎刈りだけに、虎ウマ」

「お前ね…」

虎なのか馬なのかハッキリさせて欲しい。


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