江戸前出産前寿司。

嫁のお腹の中の第2子・トロ(胎児名)の出産予定日は10月1日。
あと1週間を切った。

出産前祝いというか景気付けというか、そんな意味合いで寿司
でも食いに行くか、ということになった。

「でも妊婦は大きな魚を食べないほうがいいって…水銀が多く
 含まれているから…」

嫁は多少気にしていたが、魚ばかり食べているわけでもなし、
と諭してみたら

「トロちゃんの安産をトロを食べて祈ろう〜」

2秒で翻ってホイホイ付いてきた。

妊娠前にはよく行っていた通称「バイオレンス寿司」は避け
(行くと必ず客が喧嘩していたり酔っ払いに絡まれたりする
デンジャラスな寿司屋なのである)、今まで行った事のない
商店街の外れの寿司屋に行った。

座敷に通されて食べ始めると、驚いたことに娘・R(2才)が
呪われたように食べる。今迄ナマモノは食べさせたことはなか
ったが、マグロやホタテなどをペロリと食べてしまった。

「あらー。よく食べるわねえ」

寿司屋の女将が目を丸くして驚いていると

「おいしー!」

なかなか外交術にも長けてきたRはそう言って更にトロにも
食指を伸ばすのであった。その一方でRは突然

「あんまん!」(アンパンマンのこと)

と叫びだすので

「ん?どこにアンパンマンがいるのかな?」

と辺りを見回してみると嫁がそっと耳打ちした。

「隣の座敷に座ってる女の子の靴下がそうなのよ」

「あ…」

ちょうどその小1ぐらいの女の子にギロリと睨まれてしまった。
へへ、怪しいもんじゃないよ…おいら、ベロってんだ。

最後に嫁とトロを一貫ずつ手に取って

「じゃあ安産を祈って…乾杯」

寿司の食べ納めをしたのであった。

「あー。トロちゃん、トロおいしかったねー」

帰り道、嫁が溜息をつきながら呟いていた。トロがトロを…
これって共食いになるのだろうか。いや、直接食べたのは嫁
だから間接共食いに…などとどうでもいいことを考えていたが、
突如僕は閃いた。

「トロの出産予定日は、ト・ロだから10月6日だ!」

金田一少年並みの素晴らしい推理であったが

「えー。5日も伸びるなんてやだよ」

嫁はお気に召さなかったようである。

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