お返事返事。

会社から帰って来て、嫁と娘・R(もうすぐ2才)が眠る
真っ暗な部屋を覗き込んだ。

黒い影があった。

起き上がり小法師のような、ちんまりとした影。すわ、
もしや帝都の夜を徘徊する魑魅魍魎の類か?そろそろ
稲川淳二が湧いてくる季節であることよなあと思ったが、
やがて目が暗闇に慣れ、それはRが暗闇の中でちょこんと
座っている姿であることが分かった。

「あ、起こしちゃったか。ごめんね」

Rは心ここに在らずといった感じでポケーとしている。
その表情は男女のまぐわいが終わり、放心状態になった
嫁の顔を思い出させ、非常に複雑な気持ちになった。
当の嫁も目を覚ましていたので、ひとまず

「トロチャーン、オトウチャンだよ」

お腹の中の子、トロ(仮名)に声を掛けて腹を撫で回し
たところ、

「め!め!めーーーっ!」

Rはしかめっ面で怒り出し、僕の手を払うではないか。
嫁に触れてはいけないのだろうか。さては昨晩、
僕が獣のように嫁を犯す姿を見てしまったのか。

見よ、Rはまるで嫁の体を身をもって守るかのように
うつ伏せに覆い被さったではないか。

ポンポンとRの頭を撫でても「めっ!」とうつ伏せの
まま手を振って僕を退ける。なんとかご機嫌を取ろうと

「Rちゃーん、お顔見せてー」

と猫撫で声で呼びかけると、突如Rはガバっと起き上がり

「はーい!」

精液を飲み込んだような顔から一転(なんという例えだ)
パアアと満面の笑みを浮かべ、両手を挙げて返事をした。

「そうか。Rも名前を呼んで欲しかったんだね」

僕がRより先にトロに呼びかけたため嫉妬したようだ。
Rも返事がしたかったのである。

それからのRは「見れ見れ」と言わんばかりにクルクルと
踊ったりその辺を走り回ったり。

うむうむ。父はちゃんとRのこと見てるよ。さっきも決して
ないがしろにしたわけじゃなく…

って、早く寝ろー!
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