一期は夢よ、ただ踊れ。

「クラブ行きませんか?」

WIRE05というレイヴパーティーの翌々日、友達の美女
ちあきちゃんからお誘いがかかった。

普通クラブイベントやレイヴは終電後あたりから盛り上がり、
朝になるまで続くものなので妻子持ちにはきついものがある。
だから僕の嫁は年に1度の最大のイベント、WIREだけ許可して
くれている。

しかし美女からのお誘いを断れない貧乏性の僕は嫁に夜遊び
申請を出したところ、昼間は娘・R(もうすぐ2才)をプールに
連れて行く事(昨日の日記参照)を条件にOKが出た。

今回は夜通しではなく23時頃には引き上げる予定だったため、
嫁の承認も得られやすかったと思われる。

また嫁もちあきちゃんの事をよく知っており、彼女ほどの
美人がうちのバカ亭主と間違ってもあやしい関係になる訳は
ない、という確信を持っていたからとも言える。些か悲しい
事ではあるが、嫁は正確に物事を見ている。

そんなわけで万難を排して向かったクラブは名を「WOMB」
という。ウームと読む。子宮の意である。まことにもって
よい名前のクラブだと思う。

男は子宮が大好きである。子宮より出でて、子宮に向かって
腰を振るのが男の人生。そんな子宮を模したクラブで踊る。
なんと複雑怪奇な胎内回帰であることよ。

道すがら、ちあきちゃんは最近彼氏と「解散」したこと、仕事を
辞めることなどをポツリポツリと寂しそうに話し出す。何となく
そのような事は僕も薄々感じていたので、それで今夜付いて来たのも
ちょっとあった。慰めなんて出来ないけれども、せめて今宵は楽しく
踊り明かすことに付き合いましょうぞと決めた。

彼女はまだ若いし、バイオグラフィーのちょっと谷間に差し掛かって
いるだけ。そんな風に見て取れた。胸の谷間は見えなかった。

誘われるがままに来たクラブであったが、この日のメインDJのプレイは
素晴らしく見事で、僕はWIREの時以上に弾け飛んでしまった。

ちあきちゃんはさすが美女である。ふと気が付くとカッコよさげな
若い男にナンパされていたので、僕は

「お、新しい彼氏誕生の瞬間か?」

少し距離を置いて見守っていた。ここは渋谷円山町ラブホテル街の
ど真ん中。何だったらそのまま消えてゆけ、と念を送っていたのだが
メイルアドレス交換に留まったようだ。

「えー。いいじゃん今の男。カッコよくない?」

「でも絶対年下ですよ!また年下というのはちょっと…」

とちあきちゃんは苦笑いするものの、おじさんにとっては恋愛ごとの
やりとちを出来る若さが羨ましい。あっという間に人間五十年の半分
以上を越えてしまった僕は、10年でも若返れるものならばクラブの
ナンパで生まれる恋愛というのも一度ぐらい経験してみたい…などと
言ったら嫁に殺されるか。

人間五十年、下天の内をクラブれば、夢幻の如くなり。
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