嫁の体をマタイ伝。

ここ1カ月で3キロも太った嫁は妊娠5ヶ月。

「このままでは妊娠中毒症になりますよ!」

1ヶ月に1キロぐらいだったら大丈夫だが太り過ぎである、と
産婦人科医に怒られて以来、甘い物を控えている。

栃木の実家に帰った時も帰ったら必ず所望する

「マックスコーヒー」

(栃木・茨城・千葉でしか買えない練乳が入った狂ったように
 馬鹿甘い缶コーヒー)

「みかもの月」(萩の月のパチモン)

といった定番栃木スウィーツにも手を伸ばさず、じっと
耐える姿を見せていた。

「ていうか、何でそんなに太ったの」

「毎日1個は甘いもの食べてたから。えへ」

「えへじゃねえだろ」

今夜は寝かさないぜハニーとか、めくるめく官能の世界へ誘うぜ
モナムーとか、僕の甘い囁きには全く耳を傾けず、目の届かない
ところで貪り食っていた嫁の自業自得な気もしないでもないが、
さすがに僕がひとりだけ

「うまいにょー。甘いにょー。でも君は耐えるんだジョージアー」

ホクホクと飲み食いしているわけにはいかず、嫁に付き合って
控えることにした。

しかし嫁を甘いものに誘う罠は実家の中だけに留まらず、遊びに行った
公園ではまるで待ち受けていたかのように

「おいしいアイスクリームはいかがですかあ~」

ワゴン車の流しのアイス屋が執拗に巡回していた。

「うあああ!アイス屋が追いかけて来る~!」

嫁は誘惑にぐらんぐらんになり、だんだん苦行の様相を醸し出し、
このアイス屋もキリストを「石をパンに変えてごらんなさい」と
誘惑した悪魔に見えてきた。

がんばれ嫁。人はアイスのみに生くるにあらず。でも無理しなくて
いいんだぞ。だって僕も食べられないからね!

そんな忍耐の日が終わろうとした夜。嫁が風呂に入ってきた隙に
母がそっとマックスコーヒーとみかもの月を持って来た。

「…何?」

「お嫁さんが見てないうちに食べちゃえ」

母よ、お主もワルよのう…。いや待て。これぞ神の試練。この母こそ
母の仮面を被った悪魔。僕に嫁への愛が本物であるかを試そうとする
御霊の試み。ふん。鋼の意思を持つ僕にそんな猪口才なことは…

「うまいにょー。甘いにょー」

人目を忍んで食べる甘いものは格別の美味さがあった。
許せ嫁。体で返すから。

誰でも一度だけ 経験するのよ~♪
誘惑の甘い母~♪
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