天丼よしみ。

朝から降っている雨を恨めしそうに眺めていた。

せっかくの休みなのに、R(1才の娘)と外で
遊べないなんて。しかもとても寒い。無理に
連れ出して風邪でも引かせてしまったらおおごとだ。
父親としてアルマジロ行為である。

では何をして過ごそうかと悩んでいたら
嫁が僕の伸びた髪を見て言った。

「あなた、とりあえず床屋行ってくればあ?」

「ん?ああ、そうだな」

「じゃあ帰りに『てんや』に寄って天丼買ってきて!
 お昼に食べたいの!無性に『てんや』が食べたいの!」

しまった。嫁に謀られた。自分は寒い外に出ずとも熱々の
天丼だけは頂こうという謀略にはまってしまった。

「まあいいけどさ…何を買ってくればいいの?」

「えーと、『冬天丼』!」

「…何それ?」

「冬天丼ひとつって言って買ってくればいいの!」

「本当にそんなメニューがあるのか?」

「何ヶ月か前に通りかかった時には『秋天丼』があったから
 きっと今頃は『冬天丼』になってるでしょうよ」

なんといういい加減な…。この理屈だと「冬のソナタ」が
あるのなら「春のソナタ」もあるだろうよ、ということに
なってしまうではないか。秋野暢子がいるのなら冬野暢子も、
あき竹城がいるのならふゆ竹城も…(以下略)
僕はいまいち承諾しかねていたが

「もしなかったら電話ちょうだい!それと、何か炭酸系の
 飲み物買ってきて!」

嫁に一方的に指示され、僕は床屋に向かわされた。
床屋に入ると、理容師の兄ちゃんが僕の着ている
パーカーを見てニヤニヤしていた。

「お客さん、それいいですね」

「…?」

一瞬何のことか分からず僕も視線を胸元に落とす。
はっ…しまった。

カリアゲ美容師

こんなパーカーを着ていたのである。
床屋に来るのに、よりによってこんな服を選ぶなんて。
コーディネイトミス!おしゃれミス!

一時間後、頼んでもいないのにカリアゲにされていた
僕は「てんや」に向かった。信じられないことに、
嫁の言うとおり「冬天丼」はあった。あやつは
食い物のことになるとトリュフ犬以上の嗅覚と
察知力を持つのかも知れぬ、と帰路に着いた。

家の前まで来て、

「あ、炭酸の飲み物も買って来いって言ってたっけ」

と、重要なことを思い出した。また引き返すのは
面倒である。雨だし。寒いし。

床屋帰りだけに、ほっとこーや、なんつってウヒャヒャ
などと考えては見たものの、食い物絡みの嫁の怒りは
凄まじいので、Uターンして買ってきましたよあたしゃ。

怒髪天丼。
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