赤いパンツ着せましょか…。

うちの母が還暦を迎えるにあたり、

「赤いパンツでも買ってもらおうかしら」

などと言っていたので嫁と娘・R(11ヶ月)を連れて
池袋臀部百貨店(仮名)下着売り場におもむく。

そこはたくさんの若い女性と色とりどりのブラジャアだの
パンツが溢れるお色気むんむんの場。嫁がいなければ
とても僕のような純情三十路おじさんが入れる場所ではなかった。

眼福眼福、とばかりに辺りを見回すが、どう見ても
若い人向けの勝負下着みたいなのしかない。

勇気を出して店員を捕まえ

「還暦に贈る赤いパンツが欲しいのです。サイズはLL」

決して不審者ではないことをアッピールすると、
店員の女の子は快く持ってきてくれた。

さすがLL、びろーんと横に広がった貫禄がある赤いパンツ。
いくつかの候補の中から嫁に選んでもらって、
実家の母まで宅配してくれるように頼む。

「少々お待ちください」

包装と宅配の手配をするために店員は場を離れていった。
改めて店内を見渡すと、男は僕しかいない。
いつの間にか嫁とRもいなくなっていた。
あやつめ、いつの間に僕の側を離れたのか。

こ、心細いじゃないか。ひとりで店員を待ち、下着売り場の
ド真ん中でぼーっと突っ立っている男。それが僕。

あ、怪しいもんじゃないよ。おいらベロってんだ…。

僕には還暦の母にプレゼントを贈るという大義名分がある。
孝行息子なのである。

しかしなかなか店員が戻ってこないので、すぐ近くにある
ブラジャアなぞ見てみたり。仏壇に添える茶碗のような、
派手だか地味だか分からない花柄…。今時の子はこんなの
付けてるんだろうか…僕にとっては単に剥ぎ取るものとして
しか見てないのでデザインまで目を配ったことはない。

それに、Rもあと十何年したらこんなものを付けるんだろうか、
などと考えていたら鼻血が出て来そうになった。
お、お父ちゃんと一緒に買いに来ようね…(そんな親父いねーよ)
早速将来のRに似合うのはどんなものか、商品やタグを手に取って

「むう、70のBカップか」

などとやっていたら

「あなた、浮いてるわよ、怪しいわよ」

背後から嫁の声がしてはっとなった。

「お、お前がいなくなっちゃうから僕だけ
 浮いちゃうんじゃないかよ!」

「そうよ〜だからあなたをひとりにして観察してたのよ〜」

おのれ嫁、わざとであったか。たばかったな。
お前に勝負下着は買ってやらん。

そんなこんなでようやく店員が戻ってきて手配完了。
ようやく場違いな下着売り場での買い物は終わったのであった。

カズキ、カンゲキー。
母は、カンレキー。
.

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