6周年ありがとうございます企画部屋

ヴェルナーが リリーを しめる(アトリエ)

ちょっと散らかってて悪いけどという前置きを受け、いつものことだろうそんなのと扉を開けた彼は目の前に広がる光景に言葉を失った。二段目と三段目が破壊され崩落した棚、床中に広がる木片とガラス片となんだかちょっとわからない黒い塊、粉っぽい机の上に判を押されたように残る手のあと、焦げ付いた天井。…なんだこれは。普段から綺麗に整頓されているわけじゃあ決してないがなんというか荒らされたとしか言いようがない有様ではなかろうか。ただ、城下町の職人通りの中でもだんとつぶっちぎり一位で"危険"認定をされているこのアトリエと証した建物に賊が入るというのも考えにくい。第一盗るものがない。第二に盗るものがあったとしてもそれを見つけることができるはずがない。第三に命を賭けてまで賊に入るメリットがない。誰が好き好んで爆弾開発に命を賭ける(そしてそれをためらいなく街中で爆破させる)女の仕事場兼住処に中和剤盗みに入るものか。


危ないからこれ履いてと鉄板が貼られたブーツを渡された彼はそれを嫌そうに見つめて、しかし無駄に怪我をするのもごめんなのでしぶしぶ受け取った。今日は自分が依頼していたものを取りに来たのである。わざわざここまでやってきたというのに手ぶらで帰るのも腹が立つ。(わざわざやってきたという距離でもないが)


「ごめんねーこれちょっと色々あって」

「色々の一言で片付かないだろ、これは」

「あの子達がちょっと本気出して喧嘩しちゃってね。この建物よく壊れなかったと思うわ」

「あの子達ってチビどもか?この暴れっぷりはあいつらだけじゃないだろう」

「まああんまり言うこと聞かないんで喧嘩両成敗で叱ったけど」


それがこの現場の一番の原因であることを彼は痛いほど理解し、それ以上の言葉を控えた。爆薬使ってるな、これは。自分の店がこの悪魔の館の近くでないことに心から安堵する。どこもかしこも崩れ落ちそうなためどこにも寄りかかることができず棒立ちで彼女が依頼の品を見つけるのを待ちながら、彼はとりあえず片付けろよと足元の石のようなもの(もしかすると宝石かもしれない)を蹴っ飛ばすと、今うちの子たちが掃除用具を買出し中なの、とのこと。ああそうですか。とりあえず隣には謝りにはいったんだけど、笑顔で許してもらっちゃったのよね。もう慣れましたって。そういえば昔はご近所さんからの苦情があったんだけどねと彼女は首をかしげた。
彼にはわかる。隣人は諦めたのだ。




「お前をここでシメたほうが世のため人のためなんじゃないかと思う。俺は」




少なくともこの建物の周辺の人間からは確実に感謝されることを確信しつつの言葉に、彼女は怒ることも驚くこともせず、当然のことのように膝を打って爆笑した。
そうなのよ、私ザールブルグの魔王って呼ばれてるの知ってた?いつかみんなの期待に応えた勇者様が私を退治にしにきたりして!そのときはぜひ先陣切って退治しに来てね。まずはこちらも二人の魔人で応戦するから。あ、あったあった。はいこれ依頼のやつね。ちょっと汚れちゃったから半額で。


"ちょっと"どころではない煤けっぷりのその小さな小瓶を受け取り、彼はくたびれて首を振った。天地がひっくり返ろうが海の水が消えてなくなろうが、ここへに攻め入って勝てるはずがないことを強く思いながら。床に落ちている崩れきって原型を留めない石像のようにされるのは目に見えていた。












「俺がお前退治しようと思ったら、とりあえずここの大家になってお前ら全員追い出すね」

魔王城の大家ということはなに、魔神?強すぎじゃないの!と彼の言葉を全く意に介した様子もなくげらげらと笑う彼女を眺めて、ああやっぱり今トドメさすかと彼は思った。








ヴェルナーが本気で怒ったらたぶんリリーは折れるでしょうが
怒るとくたびれるのできっと怒らないイメージです(結局リリーの一人勝ち)。

リクエストありがとうございました!

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Dramatic Irony