6周年ありがとうございます企画部屋

なるほどくんと 真宵ちゃんが ちかう(逆転裁判)


うん、うんわかった。こっちも頑張るね。はみちゃんも無理しない程度にがんば…う、うんそうだね。ちょっと無理してもいいけど限界までがんばらないでね。うん、それじゃあ。
がちゃりと受話器を置いた真宵はほんとにだいじょうぶなのかなと独り言を呟き、しばらく受話器を見つめたまま動きを止めた。はみちゃんはこう、勢いがあるからなあ。あんまり頑張りすぎて熱とか出さないかなあ心配だなあ。明日…はムリだけど近いうち帰ったほうがよさそうだねえ。あ、そしたらお土産に駅にできたケーキ屋でシュークリーム買ってかえろうかな!うん、そうしよう美味しいもんねあれ…いやいやいやいや無駄遣いをなくそうとしてるのにそれが無駄遣いか。そしたら仕方ない自分でシューを


「焼くか!」

「…なにを?」


うっかり出てしまった最後の決意に、成歩堂が怪訝な顔をして尋ねた。さっきから電話を睨んだまま動かなくなったりしかもそれが結構おっかない表情であったり、しかもとどめの一言が物騒としか言い様がないものであったため法廷でツッコミの鬼と恐れられる彼はツッコミを入れずにはいられなかった。…法廷での呼び名が特にない一般的な人間でもさすがに疑問は抱くであろうが。


「シュークリームだよ、シュークリーム。はみちゃんへのお土産に」

「真宵ちゃんって作ったことあるの?そんな凝ったもの」

「うん、ない」

「やめといたほうがいいと思うよ。駅にケーキ屋ができたんだからそこにしときなさい」


馬鹿なこと言わないの、と当然のように言った言葉が、さきほどまでその思考でいたものの仕方なく(しかも金銭的に仕方なく!)それを諦めた彼女の怒りをどうしようもなく刺激した。お金がないんだもんしょうがないじゃないの!今はみちゃんが里で大変なのも全部お金がないからだよ!お金がないときはやる気でカバーするしかないんだよ!


彼女のあふれ出る言葉と身からあふれ出る怒りは成歩堂にびしびしと突き刺さった。ああこれはまずいことを言ったぞ。女性全般に弱い彼は特に綾里家の女性の怒りにかれは凄まじく弱かった。この助手に関してはうまくごまかす、うまくはぐらかすというスキルも会得してきたが、ここまで一気に沸点があがってしまった場合はそれらが全く効果がないことを彼は知っていた。ああ余計な口挟まないでそれはそうとラーメン食べる?とか適当な返事しておけばよかったなあ。…そんなことをしたら余計に怒られるという可能性もある。



「あのね、なるほどくん。やる気だよ!人間やる気があればあれば何でもできる!だってのに、あまりにやる気がないよなるほどくんは!!一体どうなってんの!」

「いや、どうなってるもなにも…」

「こんなにいい天気なのに仕事もしないで!?いいなるほどくん!気合注入!綾里直伝の気合注入方法を教えてあげるからわたしのあとについてちゃんと言うんだよ!」

「え、え??なにそれ、家訓とかそういうこと?」

「宣誓ー!」

「せ、宣誓ー」

「我々!成歩堂法律事務所職員一同はー!」

「一同っていっても二人だけどね」

「仕事はサボらずー!無駄遣いはせずー!」

「君の食費は無駄遣いじゃないのか」

「雨にも負けず風にも負けず夏の暑い日ざしにも負けずー!正々堂々悪徳検事と戦い続ける!」

「なんかそれどっかで聞いたことあるよ」

「そういう人に私はなりたい!」




彼女がだん、と勇ましく足を踏み鳴らし断言をしたところで耳に飛び込んでくるのは扉が開かれる控えめな音。そちらに2人で目をやればなんだかとても申し訳なさそうに立ち尽くす一人の姿。彼はあからさまに「うわーなんか変なところにやってきちゃったどうしよう」という表情で口を開いた。




「…それはええと、大いに頑張ってくれたまえ」

「あ!こんにちはみつるぎ検事!今なるほどくんにやる気とはなんぞやということを叩き込んで…あっ」




言いかけた言葉が思わず途切れる。我らが天才検事の右手には、土産として持ってきたらしい駅前のケーキ屋の包み紙。ああ、さすが御剣検事、なるほどくんとはやる気が違う。男前!なるほどくんも見習いなよと嬉しさのあまり笑顔を振りまけば、困りきった(呆れきったとも言う)表情で弁護士その人は静かに頭を振った。みやげものとやる気は関係ない?ええいなんとでもいうといいよなるほどくん。私は明日にでも焼かずにすんだお土産を持って実家に里帰りしてやるんだから!










直前まで怒りを放出していた彼女が突然待っててねはみちゃん、とすばらしい笑顔を浮かべる姿を横目でこっそりと見ながら、検事は弁護士に尋ねた。

「彼女はアレか。疳の虫でもいるのか?」

弁護士は検事に答えた。

「いるんじゃないかな、たぶん」






やっぱり勢いに飲まれる検事と弁護士。
空気読む検事と読まない弁護士。
そして君臨するまよいちゃん。

リクエストありがとうございました!

もどる

Dramatic Irony