6周年ありがとうございます企画部屋

真宵ちゃんが 御剣を よぶ(逆転裁判)


なるほどくん、と至極真剣な顔をして見上げられ、彼はびくりと肩を揺らした。この事務所きっての、そして唯一絶対の助手がこんな目をすることはそうそうない。空腹だが先立つものがないとき、暇で暇でしょうがないときに彼にとって迷惑極まりないことを思いついたとき。どっちだ、今回はどっちなんだと彼が広げた新聞から眼を離さず、その視線に気がつかないふりをしてなんだいとなんでもないことを装って応えた。なんだい真宵ちゃん。さっき昼ごはん食べたばかりじゃない。まだ2時だから晩御飯には早いよ。
彼女はそんな簡単なごまかしには騙されず、ぽつりとつぶやいた。なるほどくん、掃除。

…掃除?



「なるほどくんよ」

「だから、なんだい」

「秋だよ」

「…まあ、9月だからね」

「掃除の季節だね」

「そうかな」

「掃除の季節だよ」

「そうかな」



深い肯きをもって宣言する彼女に引き続き目を合わせないようにして彼は言った。ああ、やっぱりでたよ。何が彼女をそうさせるのかは知らないが4ヶ月に一度くらい彼女のスイッチが入るらしく掃除しよう掃除しようと彼をせっつくのである。そういえば彼女の姉も恐ろしいまでの片付け魔であった。本の順番を1から順に完璧に並べ窓枠のほこりを完璧にふき取り水場という水場、床という床
壁という壁を磨ききる彼女は何かにとりつかれているのではないかと思ったものであった。その血筋は霊媒師のそれよりも確実に妹にもきている。



「なるほどくんはなんで掃除が嫌いなんだろうねえ。トイレ掃除は好きなのに」

「トイレ掃除を馬鹿にするなよ真宵ちゃん。意外と重要なんだぞ」

「他のとこも片付けようよ」

「それはちょっと、いいや」



一応今は新聞なんて読んでいるものの、仕事はあることにはあるのだ。掃除をするのがいやなわけではないが彼女に言いくるめられるのもどうかなあという彼の少ない少ないプライドを盾にし、彼が無駄な抵抗をすることにして返事を返す。その途端返ってくるのは雷のようにばりばりと響く彼女の言葉。いいやじゃない!ちょっと忙しかったから大目に見てたけどダメだよ!もう我慢ならないよ!綺麗な事務所がいい仕事を呼ぶってこの間風水師のおじさんが言ってたよテレビで!霊媒師って風水信じるの?鰯の心も信心!これでもそんなこといえるかな!と彼女は窓に向かって駆け出し、がらりと勢い良く窓を開ける。
窓を開けて、振り返った。その笑顔ときたら。
そういえばこの笑顔が見れなかった一時期、仕事をやる気が全くなかったことを彼は思い出した。彼女が実家の田舎にひっこんでしまった一時期の間、何もかもやる気がなくなってただでさえ少なかった依頼をいくつか断った。自分的に引き受けたくないような依頼人であったということもあるが、それでも。なんだろうどうして自分はこんなにまで立場が弱いのだろうと彼はつらつら考えた。きっとこのまま彼女に押し負けるのであろうと思いながら。














「ほらなるほどくん見て見て!秋の風だよ!」

「見て分かるものじゃないだろそれ!」

「あーでもほら!雰囲気を感じろってやつだよ!」

「君がそこに立ってたら邪魔で風も感じないよ!」

「邪魔って言ったな!あっこうなったら御剣検事呼んでやる!掃除が上手な人を呼ぶべきだよねこういうときは!あ、知ってるなるほどくん、検事の部屋ってめっちゃくちゃ綺麗なんだよ!?なんかねえこういかした模型とか飾ってあるし!」

「うちも飾ろうか、いかした模型」

「でっかいトロフィーとかも自慢げにどかんと置いてあるんだよ!?」

「うちも置こうか、でっかいトロフィー」

「いいねえ!…じゃあうまく納得したところで掃除を」

「してないよ納得!」










このあと御剣氏をほんとに呼んで、ついでにトロフィーをねだるふたり。
なるほどくんは最終的にいつも負けでお願いしたい!(何を!)

まりもさんリクエストありがとうございました!

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Dramatic Irony