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トーマスが セシルを すくう(幻水3)


セシル、と城主は目の前の守備隊長を呼ばわった。
どうしましたトーマス様!もう少しでお部屋つきますからっと元気良く帰ってきた返答に、彼はため息をつくしかなかった。耳を貸す様子はない。負けじと訴えてはみるものの、いいえっ何を言われようと天と地がひっくりかえろうとも私はトーマス様を放しませんからねっと力強い返答。
だから大人しくおんぶされててくださいときっぱり返され、彼は情けない表情で鎧を着ていない彼女の肩にぐったりと頭を預けた。


ああ恥ずかしい情けない。何が悲しくて年下の彼女に背負われなくてはならないのか。しかも軽々と。やせ気味で小柄ではあるものの平均的な青年の身長と体重を持ち合わせてはいるんですが。さすがセシル、幼いころから兜鎧槍盾のフル装備で鍛えてきたことはあるなあ。まあ悲しいことながら今下ろされたところでしばらくそこで座り込んでしまう自信も持ち合わせているのだが。
いやしかし、まさか自室にたどり着く前にばたんと倒れてしまうとは自分でも思わなかった。あっちへこっちへ駆け回り、ひと段落着いたから休憩しようと向かったその足が城の入り口手前あと3歩、というところで歩みを止めてしまうとは。いや、そこまではいい。最近暑く寝苦しい日も続いていたから疲れがとりきれていなかったのだろうし、これまでに輪をかけて忙しかったということもあるのだろう。問題は原因が分かっているそこではない。


「セシル」

「なんですかトーマス様。もうちょっとですからね!がんばってくださいね!」

「う、うんがんばるのは君のほうだけどね。いや、セシル。なんで僕おぶわれてるの」

「お姫様抱っこのほうがいいですか!?」

「えっそれはちょっと勘弁してほし…あ、いやそういう問題じゃなくてね」

「はい」

「なんで君が僕をおぶってるの?」

「トーマス様をお助けするのが私のお仕事だからですよ」

「いや、でもね。セシルがわざわざやってくれなくてもいいんじゃないかな」


その言葉に彼女は何も返さなかった。そのまま無言で歩みを進め城主の執務室兼寝室のドアをお行儀悪くてすみません失礼します!とばぁんと足で蹴り空け決して広いとはいえないベッドに彼を投げ込む。彼が礼を言うその前に彼女は回答を発した。その真っ直ぐな視線が彼に突き刺さる。


「いいですかトーマス様無茶して倒れちゃった人に拒否権も選択権もありません!わたしに担がれるのがお嫌なら倒れないでくださいっ」


もっともであった。もっともではあるのだが。
いつもありがとうとなんともいえない表情を前面に押し出して礼を言えば、あのですね、と彼女は笑った。


「トーマス様がいるっていうだけでこの城の人たちは大助かりなんですからねっ!わたしがちょっと働いたくらいじゃ返せないくらい御恩を受けてるんですから、ちっさなことは気にしないで今はゆっくり休んでとっとと元気になってください!!」


わかりましたか!わかりましたね?ではおやすみなさい!
カーテンをぴしゃりと閉め、失礼しました!と彼女は部屋を出て行こうとしたが、まだ納得がいかないという顔を作っていた彼を見て、突然私、泳げないのはご存知ですよね!?と言った。


「トーマス様泳ぎお得意ですよね!?」

「え?!う、うん」

「じゃあ今度私うっかり湖に落ちちゃって溺れますからそのときは飛び込んで助けてくださいね!」


網ですくってくれてもいいですよ!それでおあいこです!では今度こそお休みなさい!それ以上反論を許さず部屋を出て行った彼女を見送り、彼は深い息を吐いて布団にもぐりこんだ。
ああセシル。君ってばどういう理屈なんだそれは。いつも僕は君に助けてもらってばっかりではあるけれど、今回に関しては僕は単純に君に背負われて城内を歩き回られるのが恥ずかしかっただけなんだけどなあ。よりによって君におぶわれるっていうことが!









エンディングから5年後くらい妄想です。
うまいこと噛み合わないトーマスとセシルにもだえ転げます(危険)

カカオさんリクエストありがとうございました!

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Dramatic Irony