▼セラが 主人公に ふるえる(ジルオール)
「突然だけどネモさん、聞いて。私の決意」
「なんだどうした。なにをそんなバカみたいに真面目な顔をして」
「私、冒険者を引退しようと思います」
「そうか、そいつはめでたい。とにかく凶悪な獲物こっち向けんな話はそれからだ」
「この愛用のハンマーともお別れと思うと悲しい」
「お前それ誕生日の贈り物で貰ったんだろ」
「うん。生活必需品を貰うのが一番だと思って」
「生活…必需品ねえ…。ま、こんな世の中じゃ無理もねえけど」
「そうそう。魔人の台詞とは思えないけど概ね同意してもらえて嬉しい」
「人間とは思えねえ怪力女に嬉しがられても迷惑だがね」
「ありがとう」
「褒めてねえぞ」
「でもそんな怪力女と呼ばれるのもあと少し。寂しくなります」
「装備をはずしても基礎的な腕力体力は減らねえと思うけどな。つかお前まだ色々世界的な強敵が残ってねえ?」
「残ってる。と、いうわけでさくっと竜王をやっつけてきます」
「おーおーいってこい。あんまりセラを泣かすなよ」
無限のソウルを持つ彼女が世界の問題すべてに止めを刺して冒険者を辞める、という情報が遅ればせながら彼の耳にも届いた。世界中の魔物という魔物、邪悪な精霊という精霊、挙句竜に魔人に邪悪神でさえ恐怖のどん底に叩き落すと評判の(決して彼はそれを否定できない)彼女が、まさか。
彼にとって竜王を倒す、ということが心配なのではない。問題はその後であった。
冒険者を始めてから数年が立ち、少女は雨後の筍のようにめきめきと成長した。剣聖を拳一撃で沈め、獅子帝を拳三撃で沈めた彼女である。いくら見た目がごく普通の、どちらかといえば地味な顔立ちだとはいえ、ここまで成長した彼女が普通の生活を営めることができるのか、彼は心配でしようがなかった。きっと玉子を割るように林檎を潰す。薪を割ろうとして台の切り株まで真っ二つにするだろう。まっとうな生活ができるとは思えない。考えただけで震えが止まらない。
無愛想で口の悪い彼だが、その実お人良しの部分を持っていた。彼女と冒険を始めてからそれが顕著になったような気はしないでもないが。
とにかく、と彼は自分に言い聞かせる。彼女が辞めるというならそれを止めることはできない。彼女がどうするかは彼女自身の問題で、彼には無関係になるのだから。
「というわけでセラ、最後までよろしくお願いします」
「まあ、最後まで気を抜くなよ」
「了解です。で、セラにはまだ話してないんだけど、全部片付いたらね」
「ああ、冒険者辞めるんだろう」
「情報早いね。ネモって口軽いなあ魔人のくせに」
「お前が決めたことなら、俺は何も言わんぞ」
「一応私の決意を聞いておいてね。私竜王倒したら」
「ああ」
「寿引退します」
「…………ああ?」
「寿引退」
「…誰が?誰と?」
「ほら、その辺は空気読んでセラがもらってくれないと」
いつも冗談ばかり言うその表情は真剣なのかふざけているのか読み取れなかった。
そしてようやく悟る。心配するべきは彼女ではなく、自分自身であったのか。ああ、お願いだから玉子を割るように潰したり、薪を割るようにまっぷたつだけは勘弁してくれ無限のソウル。
それ以上は望まない。高望みはしないからどうか命だけは。
「な、泣かないでセラ!私がもらうほうになるから!」
「問題はそこじゃない!」
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対セラ最終決戦兵器とジルオールのへそだしさんの攻防。
セラはお姉さんと親友がいっぺんにいなくなったときに主人公と会っちゃったのである意味依存しちゃっているような心のそこから心配しているような、いやいややっぱり怯えているような複雑な心境でお願いします(意味不明)
主人公は本気です(笑)
リクエストありがとうございました!
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