6周年ありがとうございます企画部屋

八千穂が 皆守を たおす(九龍)

どかん、ぐしゃり。
何かがぶつかり潰れるような音が彼の耳に広がり、彼はうわあと首をすくめた。
ああ、あれは痛いだろう。顔面から崩れ落ちている。その横を「皆守くんなんか面倒くさがりこじらせて脳みそ腐敗しちゃえ!」と小学生のような、しかし明らかな憎しみのこもった言葉を全力投球して手を下した張本人は女子寮の方角へ消えていく。律儀にもこの戦いの見届け人にはおやすみなさいと声をかけて。
残された青年はその勇ましき背中に手を振り、おやすみやっちーよい夢を!と明るく答え、視線を落とす。そこには崩れ落ちた黒い影。



おーい脳味噌腐敗男。生きてるか。




とりあえず声をかけてみれば地面と顔がぶつかりあっているため多少くぐもったうるせえ黙れほっとけどっかいけとの回答。その周りに散乱するテニスボールが惨劇を物語っている。葉佩はぐちゃりと潰れた青年の真横にしゃがみこみ、お疲れ様でしたねえと一応ねぎらいの言葉をかけた。まあさ、わかってるだろうけど君のその姿は自業自得だぞと釘を刺しながら。




君って奴はどうしてそんなに命知らずなんだい。

うるせえ。

やっちーは君のことを慮って、あえて君に構わないでいたんだぞ。君はきっと一人で考える時間が欲しいだろうからってさ。なのにどうして君って奴はどうしてわざわざ

うるせえっつうんだよ。

あっはっはなにをうこの行き倒れ未満。今俺が本気出したら君の胴体真っ二つなのわかってないな?

犯罪を宣告するなよ。

いいか皆守くん!やっちーがあんなに怒ってるのも!俺が今力の限り怒鳴っているのも!全部君の責任だぞ皆守くん!

わかった俺だ俺が悪かった全部俺が悪いんですごめんなさい。だから今すぐ黙りやがれ。

空が青いのも!井戸の水冷たいのも!みんな君のせいだぞ!

あーそうだそうだ俺が悪いんだよ馬鹿野郎。



言いたい放題のクラスメートの言葉にぐうの音も出なかった。自覚はある。人間苛ついているときは自分でも予想しないような言葉が飛び出る。そしてそれを取り繕うだけの気力も湧かないものなのだということを知りたくないほど知った。そんな状態であればおとなしくいつもの通り誰とも関わらなければいいのに自分はなぜか余計な言葉を吐き出してしまったのだ。心にもないとは言わないが、言ってはいけない言葉を。
そんな態度に対し目の前の彼や攻撃をしてきた彼女は容赦がなかった。かのテニス少女は全くといっていいほど手加減しなかった。
彼は食いしばった歯の間から言葉にならない言葉を漏らした。
ああどうしてあいつもお前もほっておいちゃくれないのか。


その言葉が聞こえたのかそりゃ君、それが友情というものだよと偉そうに転校生は笑った。幸せ者だぞ皆守くん。


ぼこぼこにボールをぶつけられこてんぱんにぶちのめされ地面に引き倒され立ち上がる気力もないような状態のどこが幸せなものかと彼は思ったが、それ以上は何も言うまいと心に決めた。
少なくとも彼女が自分の弱点を狙ってボールをぶつけてこなかったことに多少の友情感じつつ。









やっちーにぼっこぼこにされるカレーでした。
甘やかしてはくれないやっちー。

リクエストありがとうございました!


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Dramatic Irony