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英雄が サナを しかる(幻水3)


サナはさ俺のことまるっきり、全部、なにもかも信じる?と青年は傍らで本を読む女に尋ねた。

なぜか目の前に親の敵がいるような険しい表情で活字に視線を落としていた女は、視線を動かすことはなくその突然の放たれた言葉を一期一句確認するかのように聞き返した。なにもかも?信じる?あなたを?

ほら、あなたなんて信じられない!っていうのが一番のきっかけになるかなと思ってと青年は彼にしか意味が分からない言葉を彼女に返す。彼が自分語を喋るのはいつものことであったので、彼女はなにがなんのきっかけになるの、と適当に尋ねてやった。
彼は嬉しそうに答えた。


「やっぱね、俺とサナみたいにこう永遠の愛を誓っちゃってる万年ラブラブ状態はすばらしすぎるとは思うんだけど、やっぱり人生たまには刺激が必要なんじゃないかって思ったんだよ。ほらこのあいだダッククラン寄ったじゃん、そんときに酒場でもう凄まじい勢いで彼女に向かって彼氏が怒ってる状況に遭遇したんだ。なんか彼女が悩み事があってでも一人で悩んでて酒場に入り浸っちゃって、でもそのことは彼氏に全く言わなかったんだってさ。で、まあすったもんだの喧嘩があって、ああ私が悪かったわあなたのことが信じられなかったなんて!僕こそ君の事を信じてあげられなくてごめん!固い抱擁。感動の嵐だったわけ。2人ともダックだからめっちゃ後姿とか可愛いんだけどさ」

「うん、いい話ね。それで」

「だから俺たちもたまにはこう喧嘩をして、でもって感動的に仲直りしたい。最近サナは俺のこと全然怒んなくなっちゃったからさあ。そのきっかけを作りたい」

「だってあなたのこと怒ったってまったく気にしないんだもの。喧嘩したければ私に喧嘩売ればいいじゃない。喜んで買うわよ、最近腕もなまってるし」

「えっ喧嘩ってそんな拳と拳のぶつかり合い的なほうを希望なの!?」

「そのほうがお互いすっきりして新しい感情が生まれるわよきっと」

「そりゃ俺の求めてるやつじゃないよ!サナが言ってるのは"お前もやるな"、"お前もな!"っていう熱いやつのことだろ!?」

「固い抱擁も感動の嵐もあるから方向性は間違ってないわよ」



大体、と彼女は読んでいた本から視線を上げ、ようやく彼を見やり、あなたが見たその感動の男女とは根本から違うと思うのよと口を開いた。


「わたしはあなたのことは信じてはいるけど、あなたがやることすべてが正しいと信じてるわけじゃないからね」

「それはええとつまるどういうこと」

「あなたがなにをしようと今更失望したりしないということ。無駄だから」


今までのしかめ面が考えられないほどのすばらしい笑顔でのたまった。それは明らかに彼に対して褒め言葉ではなかったが、彼はいたく感動した。ああ彼女はこんなにも俺のことを理解してくれている!だというのに俺ときたら喧嘩なんて馬鹿なことをしてサナを試そうとするなんて!馬鹿だ!俺はなんて馬鹿なんだ!
猛反省する彼を横に、彼女は再び笑顔からしかめっ面に戻し、本の続きを読むことにした。一番の山場を迎えているらしいその物語の中で、主人公の男はヒロインに痛烈なビンタを食らわされていた。そして、どこも一緒なのかしら、と静かに思った。















「サナ!」

「なあに」

「俺は今猛反省中だ!気持ちが治まらないから俺を殴ってくれ!」

「あら、本気で殴り合いのほうのやる気なの?」

「最後に固い抱擁と感動の嵐があるのを期待してもいい?」






英雄とサナ。
久々でしたがなんだかにやにやしてしまいました。なんなんだこの英雄!(笑)
楽しかったです(笑顔で)

リクエストありがとうございました!