夢の中へ。嫁の中へ。

真夜中、娘・R(もうすぐ2才)が寝ながら泣いていた。

ひく、ひくと静かに震える胸に合わせて漏れる悲しそうな
吐息。閉じたままの目からほろほろとこぼれる涙。

「悲しい夢でも見てるんだろうか」

「Rの見る夢ってどんなんだろうね」

僕と嫁はRを覗き込む。1才児の見る夢を想像してみた。
おそらくとてもシンプルな夢。それだけにただひたすら
純粋に悲しい夢。

まだお化けなどの怖さも理解できていない小さな子供に
とって一番泣きたくなる夢というのは、ひとりぼっちの夢
ではないだろうか。僕にも覚えがある。

何才だったかも覚えていないぐらい昔。僕は昼寝をしていた。
ふと目が覚めると、家の中には誰もいない。外は夕焼けの
時間をとうに過ぎ、夜が忍び寄って来ていた。

何故僕はひとりなのか。何故いるべき母親がいないのか。
何故いつもは明かりが付いているのに今は暗いのか。
僕は怖くて悲しくて泣いてしまった。

母親は単に近所の道端で井戸端会議に夢中であっただけ
だったりするのだが、幼い僕にしてみれば、眠っている内に
僕だけ置いて家族みんないなくなってしまったのではないかと
パニックになってしまったのである。

ただひたすら絶望的に泣くのみで、母を探すとかそういう機転も
思い付かない。当然泣いたからといって何かが解決するわけ
でもなく、更には

「泣け。わめけ。誰も、助けには来ない。ひゃーっはっはっは!」

というへドリアン女王の甲高い罵り声が頭の中にこだまし始め
たりして、ますます絶望スパイラルに陥って行ったのであった。

「R。大丈夫だよ。お父さんもお母さんもここにいるよ」

僕はRの手を握って声を掛けた。Rにあんな悲しい思いは
させたくない。

「ふああああん!」

とうとうRが起きた。ぬくもりが欲しかったのだろう、嫁に覆い
被さって来た。そしてRと目が合った。

「にひひ」

Rは笑った。ようやく安堵したようだ。大丈夫。僕らは君を置いて
どこかに行ったりはしない。

「お父さんもお母さんもいつも一緒だよー」

そう、僕らはとても仲良しだ。その証拠をRに見せたいところで
あったが、そういうわけにはいかなかった。何故ならば、

僕らは今、下半身丸裸なんだ。
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