§.民族変わればゲテモノ変わる
[ゲテモノ考:「食」の比較民族学
(About the bizarre food)

−− 2004.06.10 エルニーニョ深沢(ElNino Fukazawa)
2004.09.04 改訂

 ■はじめに − ゲテモノ、イカモノとは
 「ゲテモノ感」は何に起因するのか?、についてはその心理的メカニズムを既に
  「肉を食らう」ということ(Carnivorous life)
の中で、比較文化学を土台にする比較民族学的方法論についても既に
  民族占い(Comparative Ethnologic approach)
の中で、それぞれ詳しく論じて居ますが、本論考はその応用編に相当します。
 日常会話で良く「ゲテモノ」と言いますが、「ゲテモノ」とは漢字で「下手物」(※1)と書きます。その一般的意味は広辞苑に拠ると風変わりと見られるもの」を指し「下手物趣味」などと言います。これと似た言葉に「イカモノ」が在り「如何物」(※1−1)と書きます。
 そしてこれらの言葉は特に食べ物と結び付き、俗に「ゲテモノ食い」とか「イカモノ食い」とか言い、その意味は「常人の食べないものを、わざと又は好んで食べること。又、その人。」と在ります。更に隠語として普通には相手にしない女性と好んで通ずること。又、その人。」という、私の造語のダッチガールの様な意味も有りますので、その方面に通じて居られる方には御馴染みの言葉かと思います。序でに「ゲテモノ食い」「イカモノ食い」をここで「ダッチグルメ」と定義し、私のダッチ・コレクションに追加して置きましょう。
 特に「如何物師(いかものし)」が「如何様師(いかさまし)」を指す様に、「イカモノ」は元来が「如何様(いかさま)」から派生した「いかさまもの(如何様物、如何様者)」の略語(※1−1)なのです。
 以上の様に「ゲテモノ」「イカモノ」という言葉は主に食べ物について使われることが多く、そこから連想されるイメージは凡そ

  風変わり、珍奇食趣味、悪食趣味、
  野蛮、獣的、変態 −−−−−−−−−−−−−−−−−− [1]

の様な意味を包含して居ます。そして精神異常的・狂気的な
  糞尿・腐肉の嗜食 −−−−−−−−−−−−−−−−−− [2−1]
  屍肉の嗜食 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− [2−2]
を経て、遂には禁断の
  人の吸血、人肉嗜食(カニバリズム) −−−−−−−−− [3]

に行き着くのでしょう。しかし「ゲテモノ食い」「イカモノ食い」と言う場合、通常は吸血(※2〜※2−1) −ドラキュラ(※2−2)の様な− やカニバリズム(※2−3)や精神異常者の嗜食は含めませんので、これらは別の範疇として置きます。
 [ちょっと一言]方向指示(次) しかし乍ら「ゲテモノ食い」「イカモノ食い」の窮極とカニバリズム(人肉嗜食)の境界は、それ程明瞭では無いということも指摘して置きます。つまり料理の仕方に依って人肉もノーマルな肉と遜色無い物に成るからです。当サイトでは、人肉と判って敢えて食べることをカニバリズムと呼ぶことにします。

 ということで今回は食べ物に関して[1]の範疇で「ゲテモノ」「イカモノ」比較民族学的に考察します。又、以上見て来た様に「ゲテモノ」と「イカモノ」は、「イカモノ」の方が「悪食趣味」というニュアンスが強いですが、世間一般では両者は殆ど同じ意味で使われて居ますので、以降は「ゲテモノ」で統一することにします。

 ■ゲテモノの範疇の区分け
 ところで一口に「ゲテモノ」と言っても、民族宗教地域時代個人料理法などに依って、その”感じ方”には大きな差異が有ります。
 例えば「牛のヒレ肉」を食べることは日本人にとっては”当たり前”のノーマルな行為ですが、ヒンドゥー教徒にとってはゲテモノ所では無く神を冒涜する行為と成ります、これは宗教観の違いです。同様にユダヤ教徒やイスラム教徒は豚を不浄視し豚肉は決して食いません。尤もこれを宗教観の違いに100%帰する考えには私は異論を持っていて、中東地域の”トイレ事情”が根底に在る(或いは嘗て在った)と勘繰って居ます。
 又、同じ日本人でも江戸時代の人は、例え目の前に牛ヒレのステーキを出されても食べなかったでしょう、これは時代の違いです。そして現代の日本人に限れば、同じ牛肉でも内臓の所謂ホルモン/モツ系の肉(※3、※3−1)は多くの人が敬遠します(←「ホルモン料理」は戦前の大阪の「北極星」というレストランの登録商標だったとか(△1のp220))。”得体の知れない物”を飲み込むには勇気が要りますからね、これは個人差でしょう、地域差も有るかも知れません。更に現代の日本人で、ユッケ(※4)の様に牛肉を生(なま)で食べる人は半減します、これは料理法の違いです。この様に「牛肉」一つを取ってみても一つの基準で割り切ることが出来ません。
 又、子供の”食わず嫌い”、例えば子供がピーマンを嫌うのは、その青臭さがイモ虫を連想させるのかも知れません。これも個人差であり成長途上での感じ方の違いです。そこで当面は個人差は無視して現代の大人の日本人に限定して、類型化して考えることにします。
 それでも例えば関西人と関東人とでは「ゲテモノ感」に随分違いが有ります、これは地域差です。これも関西と関東、即ち日本列島の西と東という荒っぽい基準で区分けすることにしましょう。
 ところが「ゲテモノ食い」と明瞭な一線を画し難いのに、食通(しょくつう)即ちグルメ(※5)が居ます。例えば食通で鳴らした歌舞伎役者の8代目・坂東三津五郎は京都のフグ(河豚)料理店で「フグの肝臓(キモ)」をドバドバ食ってその毒に当たり御陀仏しましたが、この「フグの卵巣や肝臓」などは広義では「ゲテモノ」の範疇に入りますが、ここではこの様な通好みの料理を所謂「ゲテモノ」と分けて考え、区分けすることにします。”一応”と言った訳は、この両者は境界が曖昧で、明確に或る一線で区分することが難しいからです。
 さてイカモノ食いが有るならタコモノ食いが在っても良いという洒落で、普通の人から見たら”わざわざ不味くして食べる人”をタコモノ食いと定義して、区分けに追加します。しかし私の造語のタコモノ食いは他人の追随を許さない個性派で、変態の一種かも知れません。
 又、「味の違いが判らず思い込みの強い人」を、私は既にアホモンと定義して居ますが、これも区分けに追加しましょう。アホモンは味覚を自分の「眼と鼻と歯と舌」で味わうことが出来ず、能書きやラベルに頼り、テレビやブームを”追っ掛け”する傾向が有ります。健康オタクやダイエット・オタクが「痩せる石鹸」なるモノに群がった様に、他人が並んで居る店頭の列に後ろから並ぶのが好きで、完全な食オタク(※6)と言えましょう。一見グルメっぽい知識や能書きをペラペラ喋る人が多いですが、情報源は殆どテレビの垂れ流しを鵜呑みにして居て軽薄です。違いが判ってこそ本当のグルメなのですが、アホモンは全て”見掛け倒し”で生半可な”半可通”(※7)で”安直な拘泥り”の”俗物”で”ハマり易い性格”で”ええカッコしいの似非グルメ”、言い換えると”理屈っぽいミーハー”(※8)に過ぎません。
 尚、「違いが判らないアホモン」にインスタントコーヒー愛飲者が多いかどうかは定かではありませんゾ、ムッフッフ!

 ■現代の日本人が忌避するゲテモノ
 以上の「ゲテモノの範疇の区分け」に従い、実際の食べ物を各範疇に当て嵌め、日本人が何をゲテモノと感じるかを列挙したのが下の一覧で、これは私の”独断と偏見”の産物です。

  <現代の大人の日本人のゲテモノ一覧>
    ●関西人が忌避するゲテモノ
  納豆、醤油で真っ赤な汁の東京型うどん、もんじゃ焼き(※9)
    ●関東人が忌避するゲテモノ
  マヨネーズの掛かったお好み焼き、ハモ
    ●タコモノ食い(=わざわざ不味くして食べる人)が好む物
  伸びたラーメン、冷えたカレーライス、刺身にマヨネーズ
    ●アホモン(=味の違いが判らない人)が好む物
  黒和牛ラベルの付いた輸入肉、テレビの追っ掛けやブームの料理
    ●食通(=グルメ)が好む物
  フグの卵巣や肝臓、さんまや拳螺(さざえ)の腸(はらわた)、たこの頭、
  鯛(たい)の煮付けの目玉(※10)、鮒鮓(※10−1〜※10−3)、
  スッポン(※11)、蝸牛(エスカルゴ)、幻覚性キノコ(※12)
    ●平均的日本人が忌避するゲテモノ
  虫類、爬虫類、両生類、鯨類、野鳥、兎、馬、山羊、犬、猫、猿、
  牛豚のホルモン/モツ系の肉、くさや、ドリアン、糞尿


 どうでしょうか?、大雑把ではありますが、そんなに外れても居ないでしょう。最後に「糞尿」を加えて在るのは「ご愛嬌」ですが、人以外の動物は尻を紙で拭いたりせず哺乳類はペロペロ舐めて処理します。元はノーマルな食べ物が体内で変質したものですから、ここに「糞尿」を加えてもそれ程唐突ではありません。そもそも牛豚のホルモン/モツ系の肉、鮒鮓、くさや、ドリアンなどは何れも「糞」の匂いがするのです!!
 現代の日本人に限って極めて大雑把に分類してもこれだけの多様性が有るのです。大雑把と言ったのは、例えば馬肉に関しては九州や長野県・福島県に於いては「馬刺し」はノーマルな食材ですが、ここではそういう少数派を無視して居るからです。況してや少数民族を含めた全世界の人々のマトリックス(=一覧表)を作るなどは至難の業です。
 しかし現実には、マトリックスに記述出来ない数の「食」の多様性が存在し人間はその中で日々生活して居るのだ、ということは是非認識する必要が有ります。又、同一民族に於いても「食」の嗜好(=指向性)は歴史的に変化するということも知って置く必要が有るでしょう、現代の平均的日本人が忌避するを昔の日本人は食べていたのです(△2のp124)。
 これが私の主張する文明のグローバリズムに対する文化のローカリズム(=文化の固有性)ということで、文化の固有性が文化の多様性を下支えするのです。そして文化の多様性やローカリズムの源は、案外「食」の指向性の違いに基づくのではないか、更に「人に食われる動物」の痛みを知り感謝の気持ちを大切にしよう、というのが私の基本姿勢です。

 ■民族変わればゲテモノ変わる − 生卵と蛇とどちらがゲテモノ?
 「所変われば品変わる」という諺が在りますが、ここで民族が変わればゲテモノの”感じ方”がこんなに違う、という経験談をご紹介しましょう。これは02年に中国の広州に行った時の話です。この時の華南地方の旅は
  2002年・”脱雲南”桃源紀行(Escape from Yunnan, China, 2002)
で既にご報告して居ますので、お読み下さった方も居られると思います。あれは確か02年10月20日(日)のことです。
                ▼▼▼
 私たちを広州市内の観光案内して呉れた華南農業大学の黄寿山教授(←北山先生に昔お世話に為ったとか)が、昼飯にレストランに案内して呉れる事に成りました。何しろ「食在広州」、即ち「食は広州に在り」(△3のp10)ですから私はもう嬉しく成り、是非とも蛇料理を食べたいと所望したら「OK、OK」と二つ返事でレストランに到着。店に着くなり蛇が入った檻や猫が入った檻が店頭に並び”圧巻”でした。日本の魚料理店の生簀の魚と同じです。特に今皮を剥いだばかりの「蛇の剥き身」がドサッと積まれモゴモゴと動いて居る姿は何とも形容し難く無気味です、何しろ私はそれ迄「アサリの剥き身」しか知りませんでしたから、アッハッハ!
写真1:蛇皮とセロリの炒め物。
 蛇はノーマルな料理として中国 −特に広州− では出て来ますし、スーパーでは蛇料理のセットを普通の食材として売って居ます。蛇料理は唐揚げと「蛇皮とセロリの炒め物」を頼みましたが、特に後者は大変美味でした。蛇皮の裏はゼラチン質のコラーゲンです。右の写真が「蛇皮とセロリの炒め物」、黒く見えるのが蛇皮です。
 さて、大方食事が終わった所で、日本人は朝食に炊き立てのご飯に生卵(なまたまご)を掛けて食べる「玉子掛けご飯」が好きだ、という話が出てそれをこれから実演するから先生試食してみて下さい、と言ったら先生思わず頬が引き攣りました。それを無視して生卵と醤油(日本の醤油とほぼ同じ)を注文しました。ご飯は既に鍋に入ってテーブルの上に在ります。
 そして私たち日本人が先ず「玉子掛けご飯」を”実演”して食べて見せました。この時既に先生の奥さんは顔を顰(しか)めて居ましたが、これも無視。
 私たちは「玉子掛けご飯」を2人前作り教授夫妻に差し出し、「食べてみて下さい」と言いました。先生の奥さんは顔を顰(しか)めた儘手を大きく横に振り”No”のジェスチャーで全く箸を着けませんでした。先生は、流石男の子!、笑顔を作りしかし”慎重”に半分程食べ「味はマアマアだ」みたいな事を言いましたが、全部は食べませんでした。
 すると先生、お茶を一口飲み下し、未だ大皿に残っていた先程の「蛇皮とセロリの炒め物」を”口直し”にバクバク食い出し、あっと言う間に全部平らげて仕舞ったではありませんか!!

                ▲▲▲
 この時の私は唯もう笑いを堪(こら)えるのがやっとでしたね、アッハッハッハッハ!

 ■中国人が感じているゲテモノ
 いやあ、「所変われば品変わる」、そして正に「民族変わればゲテモノ変わる」なのです。日本人には”当たり前”の生卵は、蛇やサソリや犬や猫や鼠迄食い「食」に関して全中国人中最もタフな広州人にとって、吐き気がする程のゲテモノなのです、火を通した玉子料理は大好物なクセに。そして面白い事に、生卵に限らず中国人は生物(なまもの)は食べません。生野菜も元々は食べないのですが、最近は都会では洋食文化が徐々に浸透し、ホテルの朝食のヴァイキング方式の料理には生野菜のサラダが出て来ます。しかし、最近アジアを中心に流行ったSARS鳥インフルエンザの状況を見ているとこれは正解、「生物(なまもの)を食べない飲まない」はアジアに於けるサバイバルの方程式です。これらのウイルスは熱に弱いので加熱して食えばヘッチャラです。まあ、新鮮な果物位は良いでしょうが。
 他に中国人が食べない物、即ち「中国人が感じているゲテモノ」の代表に海の魚が在ります。逆に川の魚はどんなに汚い川や池に居る魚でも殆ど食い、この魚の嗜好は日本人とは正反対です。有名な上海蟹も揚子江や他の河川で獲れるカニで、基本的には淡水性の蟹です。”基本的には”と言ったのは、上海蟹はモクズガニと同様に通常は河川に生息し、産卵時のみ川を下り海で産卵し、子ガニは川を遡るからです。
 しかし中国の都会にも日本の「回転寿司」が進出して居ますので、彼等がマグロやイカの握りをパクパク食う日もそう遠く無いかも知れません。何しろあの海鼠(なまこ)を最初に食い、「机以外の四つ足、飛行機以外の飛ぶ物(昆虫やコウモリも含めて)は何でも食う」と言われて居る中国人のことですから!!
 実はその可能性は大いに有るのです。広東や福建など中国南東沿海部の華僑が渡って行った「島国」の台湾では中国人も環境適応を果たし海水魚を食べていて、海鮮料理屋や寿司屋が随分目に付きました。
                (-_*)

 しかし何にでも「例外」は有るもので、流石の広州人も金魚カラスは食いませんね、鮒は良く食べるクセに。金魚は親近感の強い観賞用ペットのみならず地方に依っては「放生魚」(※13)と称し小川に放し、カラスは屍肉を漁るから不浄なのでしょう。参考の為にタフな広州人が忌避するゲテモノを列挙して置きましょう。

    ●参考 − タフな広州人が忌避するゲテモノ
  生物(なまもの)一般:生水、生野菜、生肉
  海鼠(ナマコ)・イカ以外の海の魚、金魚、カラス


 しかし何にでも上手(うわて)が居るもので、広州人が忌避する金魚を刺身で食った日本人が居て、感想は「フナの刺身にそっくり」だそうです(△4のp43)、まあ当然ですね!
 実はこれは△4の著者なのですが、この御仁はクモナメクジカタツムリも食べていて、特にナメクジを食べる写真が載って居ます(△4のp42)。この本の第2章「正食記(現代人の偏食をただす試み)」(△4のp25〜53)は是非読むことを私が強く推薦します。

 ■食人種の味覚
 日本には人魚(※14)を食うと長寿に成るという「八百比丘尼伝説」が在りますが、最後に”禁断”の人肉嗜食について、チラッと触れて置きましょう。料理に使う化学調味料は所謂「ダシを取る」代わりに手っ取り早く旨味を出す為のものですが、成分はグルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムなどです。これは料理の隠し味として添加して使うものですが、これだけを舐めたこと有りますか?、もう不味いですよね、吐き気がする程不味い。ところがです、これをニューギニアの食人種(※2−4、※2−5)に舐めて貰い、どんな味がするか尋ねたら、皆一様に「人肉の味」と答えたそうですよ(△5のp185)。
 私も人肉を食った暁には化学調味料を美味しく舐められるかしら?!、ブワッハッハッハ!!!

 ■結び − 「ゲテモノ感」は何に起因するのか
 以上見て来た様に、特定の食べ物を忌避乃至は禁忌する観念(=所謂「ゲテモノ感」)は、民族宗教地域時代個人料理法などに対する禁忌(タブー)意識に起因して居て、それが何時の間にか「食」の嗜好の”壁”を形成します。この「ゲテモノ感」は「当たり前感」と共に生活習慣として心の深層に定着し、私たちは無意識の裡に、或る特定の食材を”当たり前”に「ゲテモノ」と感じて仕舞い偏食(=「食」に対する偏見に陥って居るのです。つまり「食」の嗜好(=指向性)こそ文化のローカリズム(=文化の固有性)の典型的な一側面です。そして又「食」の嗜好の”壁”を乗り越えるには時間を要します。つまり「食」の嗜好(=指向性)は保守的なのです。
 特に「肉食」については既に「「肉を食らう」ということ」の中で「肉食」の嗜好を人間の心理的側面から分析し、「肉食」の禁忌は「セックス」の禁忌と相似的であるという「肉食とセックスの相似性」に関するエルニーニョの小定理を打ち立て、「食」の嗜好の”壁”についても指摘して居ますので、是非一度精読されることをお薦めします。この中で私は、現代の日本人は「原形を残さず部分抽出された精肉」だけを食べる”管理食”に陥り、「全体摂取」「形有る物をバリバリ食う」ことをもゲテモノ視して本来の「食」の醍醐味を忘れている、とも指摘して居ます。

 ところで私は今月、04年6月26日から西域の一部、中国のシルクロード地域の旅に出掛けますが、今度は是非是非、駱駝(らくだ)を食ってみたいというイケナイ野望を抱いて居まっせ!、駱駝の味は帰って来てからの旅行記で取り上げますので、乞う御期待、ブワッハッハッハッハ!!
 結局、駱駝は食いませんでした、駱駝料理の店が見付からなくて。「駱駝の試食」は駱駝のメニューが在った昆明に持ち越しですね。

−−− 完 −−−

【脚注】
※1:ゲテモノ/下手物(げてもの)とは、[1].average goods。並の品。高価で精巧な一品作りの品に対し、日常用いる大衆的・郷土的で質朴な雑器。←→上手物(じょうてもの)。
 [2].bizarre taste。一般から風変わりと見られるもの。「―趣味」。
※1−1:イカモノ/如何物(いかもの)とは、「如何様物(いかさまもの)」の略。
 [1].fake。贋物・偽物。擬(まが)い物。「―を掴まされる」。
 [2].freak food。(主に食べ物について)普通と違った妙なもの。

※2:吸血(きゅうけつ、bloodsucker)とは、生き血を吸うこと。
※2−1:吸血鬼(きゅうけつき、vampire)とは、西洋の伝説で夜半墓場から抜け出て人の生き血を吸うと言われる死霊。生き血を吸われた人も又、吸血鬼に成るとされる。ドラキュラ伝説は有名。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>
※2−2:ドラキュラ(Dracula)は、[1].アイルランドの作家ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」(1897年作)の主人公の名。度々映画化された。モデルは15世紀の実在の人。
 [2].ルーマニアの城主で、名をヴラド・ツェペシュ(Vlad Thepesh、Thepesh は通称の串刺し公の意味、1431〜76)と言い、トランシルヴァニアのワラキア地方の名家だが、彼の父も悪魔公と呼ばれ彼の前後は悪人が続くが、特に彼は典型的なサディストで人跡未踏のポエナリ城を隠れ家とした。彼の父がドラゴン騎士団に叙され、ドラキュラはドラクル(龍/竜)に由来。
※2−3:カニバリズム(cannibalism)とは、人肉を食うこと。又その風習。人肉嗜食(じんにくししょく)。食人
※2−4:食人(しょくじん、cannibalism)とは、人肉を食うこと。親族や集団の一員の死を哀悼する意味で行うもの(=近親食人を含めた族内食人)と、敵に対する復讐や勇気・生命力を誇示する為に行う場合(=族外食人)とが有り、宗教的・呪術的な信仰や儀礼と結び付いた習俗。カニバリズム
※2−5:食人種(しょくじんしゅ、cannibal race, cannibals)とは、食人の習俗を持つ種族。一般には、未知の他種族を不当に野蛮視する偏見の結果として、食人種のイメージが作られる例が多かった。

※3:ホルモンとは、ホルモン焼きに使う内臓肉のことで、「捨てる物」という意味の関西弁の「放るもん」語源説が有力。明治の肉食文化移入直後は食べずに捨てていたのを、大阪の新世界や西成辺りの労働者が食べ出したらしく、性ホルモンの様に如何にも精力が付く料理を連想させる労働者向きの命名です。
※3−1:モツは、(「ぞうもつ(臓物)」の略)鳥獣の料理で、内臓などの称。

※4:ユッケは、(朝鮮語)朝鮮料理の一。新鮮な牛の赤身肉を千切りにして調味料で和え、生の卵黄をのせて供する。

※5:グルメ(gourmet[仏])は、食通。美食家。

※6:オタクとは、パソコンやファミコン、ビデオ、アニメなど一つのことにのめり込み、その世界の中に自分自身を全て投入して仕舞う人間。自分が入り込んだ世界から外部を眺めると全て客体化されて居る為に、友達に対しても「おたく」としか表現することが出来ない。その世界に於いて全てのことを知ろうとする知識欲には凄いものが在るが、それ以外に関しては殆ど無関心である。<出典:「最新日本語活用事典」>

※7:半可通(はんかつう)とは、通人振ること。良く知らないのに知っている様に振舞うこと。又、そういう人。生齧り。

※8:ミーハーとは、(「ミーちゃん、ハーちゃん」の略語)戦後の流行語。松竹映画の大船撮影所長の城戸四郎氏が昭和10年代(1935〜1945年)に造語したものと言われ、映画は美代子さんや花子さん(←その当時の女性の名前に多いと言われた)の様な大衆レベルに解るもので無ければ為らない、という論に使用された。しかし時代が経るに連れて昭和20年代後半には歌謡曲や映画スターに熱を上げる女性の意味で使われる様に成った。<出典:「最新日本語活用事典」>
 補足すると、現在では老若男女を問わず、ブームを追っ掛ける軽っぽい人々を指します。

※9:もんじゃ焼き(―やき)とは、小麦粉を緩く溶き、具を余り入れずに、鉄板で焼き乍ら食べる料理。焼く時に鉄板に種(たね)で字を書いて楽しんだことで「文字焼き」の転と言う。
 補足すると、これは東京下町の食べ物で、爪楊枝で掬って食べ”舐めた爪楊枝で又掬う”ので関西人の中にはゲテモノ視する人が多く居ます。

※10:魚の目玉(うおのめだま)は、最近では健康オタクのアイテムとして静かなブームに成っていて、従ってブームに飛び付く食オタクのアホモンのアイテムにも加わって居ます。
※10−1:鮒鮨/鮒鮓(ふなずし)は、馴鮨(なれずし)の一種。ニゴロブナの鱗/鰓(えら)/臓物を取り去って塩漬にしたものを、飯と交互に重ねて漬け込み自然発酵させたもの。酸味と臭味が強い近江の名産。季語は夏。
※10−2:馴鮨/熟鮨(なれずし)とは、塩漬にした魚の腹に飯を詰め、又は魚と飯とを交互に重ね重石(おもし)で圧し、良く熟(な)れさせた鮨。魚介類と飯などを発酵させて、自然の酸味で食べる。近江の鮒鮨吉野の釣瓶鮨(つるべずし)などが有名。腐れ鮨(くされずし)。
※10−3:煮頃鮒/似五郎鮒(にごろぶな)は、琵琶湖産の鮒の内、源五郎鮒に次いで大きくて丸い型のものの称。鮒鮓(ふなずし)とする。丸鮒(まるぶな)。

※11:鼈(スッポン/すっぽん、soft-shelled turtle)は、カメの一種。爬虫綱カメ目スッポン科。甲羅は軟らかな皮膚で覆われ、他のカメと異なり鱗板は無い。又、中央を除いて骨質板の退化が著しく、縁辺は軟らかい。頸は長く、自在に伸縮する。背部は淡暗青灰色、腹部は白色、口吻は尖って良く物を噛む。前後肢共に3爪を具える。本州・四国・九州の河川・池沼に棲む。肉は美味、滋養に富み、血は強精剤とされる。又、広義にはスッポン科のカメの総称。アジア/アフリカ/アメリカに約20種。蓋(ふた)。川亀。泥亀。丸(まる)。<出典:一部「学研新世紀ビジュアル百科辞典」より>
※11−1:まる(丸・円)とは、上方で、スッポン(鼈)の異称。浮世風呂2「―とは何だヱ。御当地でいふすつぽんぢやがな」。

※12:幻覚性キノコ(げんかくせい―、magic mushroom、略称MM)は、マニア向けです。日本ではベニテングタケワライタケが古来から知られて居ます。MMはLSDと同様のトリップ感覚が味わえる為、ドラッグに煩い日本を脱出してタイやバリ島にMMの野菜炒めやオムレツなどを食いに行き、序でにフィリピンで拳銃を撃って帰って来る、というツアーが1980年代後半に流行りその手の店のガイドマップ迄出ました。この時期は「バブル景気」上昇期で皆が日本の未来に幻想を抱いて居た時期でもありました。
※12−1:LSD(lysergic acid diethylamide)は、リゼルギン酸ジエチルアミド。麦角(ばっかく)という麦類その他イネ科植物の子房に寄生した麦角菌が作る菌核から分離され、服用すると幻想・幻覚が顕著。脳内の神経伝達物質セロトニンの作用を抑える。麻薬取締法で規制。
 補足すると、LSDの”愛飲”は1960年代からアメリカの若者の間で広まり60年代中頃からサイケデリック・アート(psychedelic art)として爆発的に流行してアメリカ風俗の一部として定着、タバコより害が少ないとアメリカでは信じられて居ます。
 尚、この方面に興味をお持ちの方には【参考文献】△6をお薦めします。ここで私が薦めたからと言っても、実践するのは貴方(貴女)の判断。パクられても貴方(貴女)の自己責任ですゾ!

※13:放生(ほうじょう)とは、捕らえた生物を放ち逃がすこと。仏教で慈悲の行いとする。

※14:人魚(にんぎょ、mermaid(女の), merman(男の))は、上半身が人間(通常は女)で下半身が魚体という想像上の生物。動物ではジュゴン(儒艮)マナティーが比定されて居る。

    (以上、出典は主に広辞苑です)

【参考文献】
△1:『最新 大阪ものしり事典』(創元社編・発行)。

△2:『日本書紀(五)』(坂本太郎・家永三郎・井上光貞・大野晋校注、岩波文庫)。

△3:『食は広州に在り』(邱永漢著、中公文庫)。しかし著者は台湾の台南市の生まれです。

△4:『町人学者の博物誌』(筒井嘉隆著、河出書房新社)。著者は大阪天王寺動物園の園長などを務めた動物学者で作家・筒井康隆の実父です。この本の野生的食の実践記録は貴重且つ希少です。

△5:『さらば文明人』(西丸震哉著、角川文庫)。

△6:『危ない薬』(青山正明著、(株)データハウス)。実践経験の無い学者の書いた空知識の書物では無く、著者の実験と経験が凝縮され、化学組成や”薬効”のみならず原料植物の栽培法からカクテルの作り方迄が記された、実践者必携のスグレモノです。

●関連リンク
参照ページ(Reference-Page):華南や広州の地図▼
地図−中国・広東省の広州(Map of Guangzhou of Guangdong, -China-)
参照ページ(Reference-Page):感染症や免疫関連の用語集▼
資料−最近流行した感染症(Recent infectious disease)
補完ページ(Complementary):肉食の哲学▼
(文化のローカリズムの源にも言及)
「肉を食らう」ということ(Carnivorous life)
補完ページ(Complementary):比較民族学的方法論▼
民族占い(Comparative Ethnologic approach)
補完ページ(Complementary):中国の蛇料理や各種料理紹介▼
中国のヘビーなお食事−”食狗蛇蠍的!”(Chinese heavy meal)
横顔(Profile):「雲南桃源倶楽部」や北山先生について▼
雲南桃源倶楽部(Yunnan is Shangri-La)
「形有る物をバリバリ食う」生き方▼
(健康オタクや「痩せる石鹸」にも言及)
私の健康論−不摂生は健康の母(My healthy life)
偏見や偏食に基づくゲテモノ視を払拭する実践▼
日本、形有る物を食う旅(Practice of active meal, Japan)
イスラムの駱駝料理や豚の不浄視▼
昆明の「清真」通り('Qingzhen' street of Kunming, China)
「島国」に適応した台湾漢族▼
2004年・台湾”味試し”旅(Let's banquet and sing in Taiwan, 2004)
昔の日本人の肉食▼
日本の肉食文化の変遷(History of MEAT-EATING in Japan)
文明のグローバリズムと文化のローカリズムについて▼
デフレ論議に疑問を呈す(Is our DEFLATION true ?)
ダッチガール、ダッチグルメって何?▼
接頭語ダッチについて−蘭学オメ始
(The 'Dutch', let's start Dutch language)

ホルモン/モツ系料理の発祥地のホルモン焼き屋▼
阪堺電車沿線の風景−大阪編(Along the Hankai-Line, Osaka)
「人に食われる動物」の痛みを知る▼
「動物の為の謝肉祭」の提唱(Carnival for Animals)
感謝の気持ち▼
2003年・年頭所感−感謝の心を思い出そう!
(Be thankful everybody !, 2003 beginning)

広州や華南地方の旅▼
2002年・”脱雲南”桃源紀行(Escape from Yunnan, China, 2002)
玉子焼きの色々▼
一卵性双子、又は玉子焼きの研究(About identical twins or omelet)
人魚を食う話▼
浪速のケッタイ(Strange spots in Naniwa, Osaka)


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