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断片集

1.子育てについて
2.患者さんは先生です
3.騎手と馬
4.病気がなかなか良くならないのは何故ですか?
5.引き受ける精神−1
6.引き受ける精神−2(雄雄しさと女々しさ)
7.引き受ける精神ー3(死にたがるあなたへ)
8.白い満足、黒い満足−1
9.「頑張る」ということ

断片集−その2

■患者さんは先生です

医者は患者のみなさんから,先生といわれるのが慣わしのようになっております。ですから,先生と呼ばれても特には違和感はないのですが,考えてみると,この言葉に安住してはいけないように思います。

いつも人の悩みを聞いていて疲れないかと,訊かれることがあります。いわれてみて,仕事とはいえ,来る日も来る日も人の悩みを聞いているのは確かだと,いまさらのように思います。しかし,疲れるかといえば,そうでもありません。うまく自分の感情をコントロールできなくて,患者さんにいらいらしながら対応してしまったとか,後悔するようなことが起こると,確かに疲れます。ですから,平常心を保つように心がけ,自分なりに最善をつくすのが疲れない最良のことと思っています。

しかし,なぜ疲れないかというと,医者と患者の関係が,一方的に指導したり,教えたりということではないからだと思います。つまり両者の関係は,持ちつ持たれつだからです。一方向的だと,いわばエネルギーは放出されるばかりなので,疲れると思います。相互交流的であれば,医者も患者さんからエネルギーをもらえるということだと思います。患者さんが元気になっていけば,医者も元気になれるわけです。

患者さんが自分の悩みを打ち明ける,医者はそれを受け止める,医者としての考えを返す,患者がそれに対して意見をいう,医者が新たに考えを返す…という交流が両者のあいだに起こります。両者が信頼でつながれていなければ,この交流は円滑に進行しません。最終的に,医者の対応が正しかったかどうかを決めるのは,患者のみなさんです。元気になったという結果が出るか,出ないかということが,すべてを物語ります。

こびるつもりはありませんが,こんなふうに考えていくと,患者さんが先生という図式になるようです。

ところでジェイムズ・ヒルマンという人は,癒す心と病む心とが元型としてだれにでもあると考えています。これに従えば,病む心をたずさえて患者が医者を訪れ,癒す心をたずさえて医者が患者を向かえるということになります。そして医者は病む心があればこそ患者の病む心を理解することができ,患者は癒す心があればこそ癒そうとする医者の心と協同できるということになると思います。

そういうことは確かにいえると私も思います。

H14/02/27


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