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院長の挨拶

当クリニックには,うつ病,パニック障害,摂食障害,不登校,ひきこもりの悩みを持つ方が多く通院しておられます。しかしながら,診断名は限られていても,一人ひとり心の病理が違うのはいうまでもありません。

うつ病ひとつをとっても,個々の事情はさまざまです。薬がよく効いて,短期間で満足できる状態になる方も珍しくはありません。その一方で,薬だけでは難しい方も少なくありません。「うつ病は3ヶ月で治ると本に書いてありましたが,なぜこんなに長くなるのですか?」と疑問を持たれる患者さんもおられます。それはたいていの病理に,性格の反映があるからです。

性格は対人関係の影響をつよく受けて形成されます。それは生まれたときから始まり,早期ほど受ける影響が大きいので,対人関係といってもふつうは両親との関係が問題になります。本人はまったく記憶していなくても,いわゆる”負”の体験は,大小とりまぜて日常的に起こるものです。それは無意識の世界に刻印されて残ります。どんなによい母,よい父でも,子供に”負”の体験をさせずに済ませることは不可能です。そういう体験の堆積が無意識の世界で大きな勢力となり,あるとき場合によっては”発病”するのです。

そのような事情ですから,問題の解決はそもそも容易ではないのです。このことを理解し,気長に自分と向き合う気持ちを持つことが必要です。

また”病気”がよくなった,わるくなったと考えるのも,考え方の筋が少し違います。そうではなくて,養育環境の影響を受けて歪められ,埋没してしまった自分の筋(無意識の心には,その人本来の自分の筋が刻印されていると考えられます)を,いわば発掘する作業がもとめられているのです。

心理的な治療を通じて,自己発見へと向けた心の作業が進行すれば,自分らしくなった,人間として成長したという感覚を味わえると思います。またそれに伴って,”病気”もよくなったと感じられるのです。

いわゆる性格は,自我と呼ばれるものにおおむね相当します。心には他に無意識の領域があります。叡智豊かな馬にまたがった騎手を想像してみてください。この比喩でいえば,馬が無意識で,騎手が自我です。本当は馬が主体者で,エネルギーと叡智を蓄えているのですが,人生を生きるについては騎手が一切の責任を負っているのです。”自分の筋”は馬が知っていると思いますが,教えてはくれません。騎手は自分の力でそれを探り当てねばならず,馬は騎手の仕事を黙って見ています。騎手が有能ならば,つまり機敏に馬の叡智を察知できれば,力が全身にみなぎりはじめるのを感じるかも知れません。それは,いわば馬に承認された証しです。

この自我の仕事に協力するのが,われわれの役割です。外科医のように治してあげるという立場ではありません。つまり,心を癒し,たすけることができるのは,本人以外にはないということです。それが根本の問題です。ですから治療者は,よい意味で受身でなければなりません。患者さんと共に悩み,共に考えながら,患者さんの筋で問題を考え,組み立て,患者さん自身が自分の問題に気がつくことを援助するのが,われわれ精神科医の役割と考えています。

院長 大河内 恒


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