ようこそ。はじめまして。こんにちは。
あかさかようこと申します。
杉坂初江を演じさせていただきます。
なんという作品、なんという役に出会ってしまったのでしょう。
未熟者なのは百も千も承知で、公演まで、せいいっぱい走らせていただきます。
四年ほど前、ひょんなきっかけで参加した演劇大学で、
お芝居というものに出会ってしまったばっかりに。
こんな恋をどうしてくれるんでしょう。あぁ、街中みんなが演劇をやったらいい!
ジムへ行くように稽古に行き、映画を見るように芝居を観る人口がふえたら どんなにおもしろい、
おかしな街になるだろうとにんまりしてしまうのです。
タイトルのとおり、今回の作品には、飛行機、というモチーフが登場します。 初めてこの作品の本をひらいた日から、毎日毎日、それはもうすっかりわたしのこころにすみついてしまった、テーマです。
明治という時代にあって、飛行機というものが、 はたしてどれほど象徴的なものであったのか。鳥のように飛ぶことができたなら、 きっとなんだってできると、心から信じていたのではないかと思うのです。
・
6月に旅帰りの父を空港まで迎えにいくことがありました。
展望テラスから見あげるのは、かつてのカーチス式複葉機ではなく、
現代の、最新の信じられないような重さのおおきなジェット飛行機でしたが、
地を蹴って離陸し、重力をおしあげるように高度をあげ、
頭上をなんの迷いもなくひとすじに空をきりさいてゆくさまを、
見あげる、このちいさなちいさな「わたし」のふたつの目にうつるそれは、
もしかしたら明治のころとそう違わないのでないかと感じられました。
点となり、もはや見えなくなった空のむこうに、 まるで見たことのない世界が自分だけを待っているかのように、 あたり一面を揺らし巻きあげる烈風が、それを急きたてるかのように、 飛び去ろう爆音が、たかくたかく、いつまでも耳にのこるのです。
・
今回の舞台となる明治という時代を、ずいぶん散歩しています。
それはそれはゆたかな、たのしい散歩です。
この時代を生きた詩人のひとり、恩地孝四郎氏の詩をさいごにご紹介します。
…ほんとうはもっと伝えたい、飛行機にまつわる詩があるのじゃないかって?
ぜひ舞台を観ていただいて、なにかこころに感じるものがあったら、
この作品のタイトルを、検索してみてください。
舞台の表も裏も、参加者全員、
この作品に惚れこんでいる熱意が伝わる公演にできたらと思います。
観おわって、劇場をあとにされるとき、
恋人、家族、友人かもしれない、観ていただいた方それぞれの、
忘れられない大切なひとのことを想うような、そんな舞台にできたら最高です。
劇場にて、こころより、お待ちしております。
----------------------------------------------------------
『空中詩』
海は
ひろく
ひろく
ひろく
波はこまかく
こまかく
貫く潮
あるはまた
海のなかの
ひそまる島
「しづかなる航海」
高度1000
*
耳にひびくは
とほき世の子守唄
眠はしづかに
額をつつむ
ねむりのなかに泛む肉躰
音・すべて消え
ひびくはとほき子守唄
げに
とほき世の母のこゑ
*
何がなし 心うつろとなり
何がなし 物戀ふる
遠きむかしの願なりしか
わが現身を
ありも得ぬ幻のごとく茫然と見やりつつ
この高空にひとり戀ふる
このうつろ心を充たすは何ぞ
うつろ心にかく思ふ
この戀ふるものは何ぞ
世ははるかなり
姿もはるかなり
恩地孝四郎『飛行官能』1934年 より
----------------------------------------------------------
さて次回は、キャスト:光島延ぶ役 国定久美子さんです。