はじめまして。○○市の△△科病院の○○と申します。先生のホームページを拝見し、感銘を受け、また、いくつかのご相談をさせて頂きたく、メールしました。私は、もともと神経放射線を中心とする全領域の放射線科医としてやってまいりましたが、現在は今の病院に勤務し、外来、入院、画像診断、検査等を行っています。
以前の私の仕事内容としては、CT、MRIの読影、血管撮影や内視鏡等で患者さんに直接接するのは、当直の時だけでした。今の病院では外来と入院患者を受け持っていますので毎日患者さんに接していますが、頭痛、吐き気、めまい、耳鳴りの患者さんが多いこと、また、そのほとんどが頭部の検査で異常を認めないことに驚かされました。しばらくは、「頭の異常はありません。」と緊張型頭痛と考えておりましたが、頭痛の患者さんに対して腱反射を行っていくうちに、所見がある患者さんを中心に頚椎XP検査を行ったところ、変形性頚椎症が多いことに気づきました。その中には強い脊柱管狭窄の方もおられ、頚椎症性脊髄症の診断で手術になる症例もありました。
では、いくつか質問をさせてください。
1.当院の院長は「頚性めまいなんて見たことがない。」とおっしゃるのですが、私にはむしろ非常に多いと思うのですが、いかがでしょうか?
2.私も変形性頚椎症と耳鳴とは非常に関係が深く、耳鼻科で診断がつかずにメニエール病と言われている患者さんの多くは、頚椎症が原因ではないかと思っています。ただ、神経学的に頚椎と耳鳴との関連がよくわからないのですが、先生はどうお考えでしょうか?
3.頚部前屈時、あるいは背屈時に、頚椎Xpで辷りが生じる不安定な頚椎の患者さんがいらっしゃいますが、このような方にはめまいが多い印象です。椎体がずれるときに椎骨動脈に狭窄が生じ、脳幹部に虚血を起こしているのでしょうか? また、そうであるとすれば、姿勢の指導とともに抗血小板剤を投与する必要があるでしょうか?
以上、よろしくお願いいたします。
A: ○○先生こんにちわ。
当クリニックホームページへのアクセスありがとうございます。
小生と同意見の先生がおられたということに、実は非常に嬉しく、感動する思いでメールを読まさせていただいております。
先生もこれまでの臨床から、素朴な感じとして色々感じとられてこられたように小生も開業して、実に多くの患者さんの中に、めまいや耳鳴り、そしてそれらの背景となる特徴が次第に見えてきまして、現在のホームページに書かせていただいたようにまとめてきたわけです。また、患者の指導に活かしてきているわけですが、以下のごとくご質問に出来るだけお答えしたいと思います。
1.頚性めまいというのは、通常の先生には理解しがたいかと思います。なぜならば、 頭からそれを否定しかかっておりますし、教科書的にも、頚性めまいについてはあまり記載がないからであります。しかしながら、小生のみるところ、頚椎症、とくに前彎の減少、特に直線化ないしは後弯変形などにより、MRIでくも膜下腔の狭窄、あるいは消失により、容易に頚の前屈姿勢に伴い、脊髄の微小循環が起こりやすい状態が生じますと、めまいがでてくるような印象を受けております。MRIのない今から100年以上も前にバレー先生やリュー先生が論文に発表されているとおりです。(いわゆるバレーリュー症候群)
特にそれに加えて、喫煙や高脂血症など、血液をドロドロにするような因子がありますと、めまい、浮揚感などが出やすいような印象を受けます。
また、このめまいは浮動感や不安定感、立ちくらみなどのようなものが非常に多いのですが、時には頭を枕につけたとたんに回転性のような激しいめまいもひどい時には、でてくることがあるように思います。通常は、そのような真性の回転性のめまいは少ないように思います。多くは、浮動感や失調性歩行のような印象を受けております。
私は、小脳脊髄路の一過性の微小循環障害かと思っております。
2.頚椎症と耳鳴との関係でありますが、頚椎症に伴う耳鳴りの多くは、むしろ頭鳴と捉えた方がいい場合が多いように思います。すなわち、一側性というよりは両側性、どちらかというと頭の中で響くという感じで訴えることが多いように思います。
頚椎症に伴う耳鳴りの詳細は、成書においては、いまだ記載はありませんので、推察の域をでないのでありますが、最近の微細解剖学の進歩とともに、例えば三叉神経脊髄路などが、第3・4頚髄後角灰白質のレベルあたりまで、ループのように下降しているということもわかってきつつあり、頚椎症に伴う眼の奥の痛みのメカニズムが解明されつつあります。おそらく、聴神経・内耳神経のレベルにおいても、同様な形態をとっている可能性があり、頚の前屈姿勢などに伴う軽い循環障害から症状がでているように思われます。
また、頚椎症に伴う耳鳴りの場合は、聴力障害はあっても一般に軽微なものです。
ほとんどの場合、鳴ったり止まったりしますが、鳴りっぱなしになりますと、多くの場合不可逆性のものと考えて、むしろ鳴りっ放しになる前に手当てをすべきと考えております。
3.まさに頚部前屈時、または背屈時に、頚椎の辷りなどが見られ、いわゆる不安定性の頚椎症がみられる場合に当然、MRIで見てみますとくも膜下腔が、圧迫される部分で消失しておりますし、一過性に脊髄の微小循環が障害されるということは、容易に推察されるわけです。必ずしも椎骨動脈そのものが圧迫されなくとも、私は、脊髄の圧迫そのものにより脊髄内の微小循環の障害により、これらの症状が出てくる可能性の方がむしろ高いのではないかと考えております。
MRIで見ますと、我々の想像以上に本当に多くの方が、脊柱管狭窄を来しており、そして頚の前屈姿勢や後屈姿勢により、容易に脊髄そのものが一過性の圧迫を受け、そして微小循環の障害を来たし、その部位にある各神経の脊髄路の障害を惹起するのではないかと考えておりますが、脊髄の微小循環の測定は今後、医学の進歩、診断学の進歩とともに、解明されていく問題かと思いますし、微小神経学の解剖はまだまだ緒についたばかりかと思われます。
もし、興味がありましたら、当ホームページの『頚と頭痛について』のページにあります『バレー・リュー症候群』の引用文献や日本医事新報の金沢医科大学の飯塚秀明先生の論文などを参考に読まれることをお勧めします。
4.尚、先生が感じておられたとおり、脊髄脳幹部の循環障害が背景にあるとみておりますが、既に私は、先生が思っておられたように脳梗塞合併例などに積極的に抗血小板製剤を投与しております。そうしますと、これらのめまいやしびれ、耳鳴りは驚くほど改善をみております。
特に、手指のしびれなども改善します。
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