頚(くび)の外見からは全く想像もつかないような、変形性頚椎症・頚部脊柱管狭窄症・頚椎椎間板ヘルニア・頚椎後縦靭帯骨化症(けいついこうじゅうじんたいこっかしょう)など、
 実に多彩な
頚椎頚髄の形態的変形を背景に長時間の頚の前屈姿勢などを強いられることにより、頭痛、頚部痛、肩こり、手指のしびれ、めまいなど後頭神経痛、筋緊張性頭痛や頚肩腕症候群(けいけんわんしょうこうぐん)をはじめとする多彩な症状を呈する。

          
      63才 女性
高度な変形性頚椎症がみられ、頭痛、頚部痛、手指のしびれが主訴。後頭神経痛の診断で治療されていたが、軽状せず来院。
             51才 男性  後縦靭帯骨化症
後縦靭帯骨化症に C4/5,5/6にヘルニアを合併しており、高度な脊柱管狭窄をきたし、脊髄も著明に圧排されている。主訴は頭痛、めまい、頚部痛、手指のしびれ。慢性頭痛、片頭痛などの診断を受けていた。

      

【変形性頚椎症における枕について】

1) 正常な頚椎の方はどんな枕でも気にならない 
2) 枕を気にする人はMRIにて頚椎・頚髄の形状になんらかの異常を認める
枕をたくさんもっている。この前も新しい枕を買った。あお向けで寝られないなど。
3) 世に健康枕といわれているものは健常者の形状に合わせるようにつくられており、本当に枕を気にする人には、症状の悪化を招く事がある。(特に後弯変形の場合は気をつけて!!)
4) 長い生活環境形成された頚椎の変形は、長い時間をかけて日常の生活の中で『頚の前屈姿勢を避ける事を心がけ、徐々に正して行くべきである。
5) 既に変形した頚椎には、この変形を優しく吸収し、包み込むもののほうがより合理的・安全であり、かつ、安眠をもたらすことから、柔らかさが重要であり加えて、枕の大切な要素である高さにも適切に対応することも重要である。


《どんな職業の方に変形性頚椎症が多いか?》

 コンピューター事務職、教師、美・理容師、運転手、営業マン、職人、整備士、和裁縫師、保母看護師介護職、調理師、厨房、皿洗い、清掃業、農・漁業従事者、大工匠、土木作業員、書道家、アイロンがけ、店員など立ち仕事読書(漫画)、iメール、テレビゲーム、麻雀、パチンコ、囲碁など長時間《頚の前屈姿勢を強いられる》業種の方々に多い
       
          35才  男性  頚椎ヘルニア(C4/5
  頚椎ヘルニア症例:C4/5を中心に多発性にヘルニアを認める。
MRIで明瞭に描出されるようになり、本症の詳細な解明が進みつつある。
本例も当初、クモ膜下出血疑いで頭部CTを施行、異常なしとのことで、難治性の筋緊張性頭痛として治療されていたが改善せず来院する。
 このような正中型ヘルニアの場合、頭痛以外には一見、不定愁訴が多く、神経根症状や脊髄症状などの局所神経症状のはっきりしないケースも多い。
 又、無症候性のものも少なくない。
   頚椎正常例
椎間板はみずみずしく白く輝き、椎体の変形もなく、クモ膜下腔の狭窄や圧排もみられない。

    

《どんな症状が多いか?》

 頭痛チクチク刺すような、締め付けられる、髪の毛に触ってもイヤな痛み等:特に風邪気味生理やませ下を向いた時などに悪化)、耳介後部痛、後頚部痛、後頭部痛、不眠肩こり
 手指のしびれ
と痛み(両側性が多い)、前腕・上腕痛・しびれ、腕や手のだるさ、力が入らない、むくみ、物をよく落とす、耳鳴(キーン:頭鳴;両側性)、耳閉感めまいふらつき吐気肩甲骨内側部痛前胸部痛、こめかみ痛、鼻の奥の痛、頬部痛・違和感、顔面のシビレ(三叉神経痛との鑑別)、舌・口唇のしびれ、上顎部痛、開口障害(顎関節症、歯髄炎との鑑別)、のどの違和感、つかえる感じ、声が出ない、ロレツが回らない。
 目のしょぼしょぼ感
眼の奥に痛み(緑内障などの鑑別)、集中力低下イライラ、眠気、生あくび動悸体のだるさなどが多く、
 これらの症状は、机やモニター画面の高さの調節等の職場環境の改善・工夫や草取り・清掃・運転などの長時間の頚の前屈姿勢を避けることや、
 ソファーの肘掛け、クッション、座布団などを枕にテレビ観劇や読書などを控え、適切な枕の使用などによって効果的に軽減されることも多い。

《今までどんな診断で治療されてきたか?》

 自律神経失調症、更年期障害、肩こり症、筋緊張性頭痛、心身症、うつ病、労作性頭痛、片頭痛、クモ膜下出血、メニエール病などの疑いで治療を受けられ、症状が改善せず来院する方が多く、きわめて身近な疾患であり、また頚椎MRI検査はその診断や治療方針決定に最も優れた検査方法の一つであり、本症の詳細が飛躍的に解明されつつある疾患です。
   
      13才 テレビゲームの好きな女の子 頚椎症に伴う頭痛
テレビゲーム、漫画本に夢中な女の子、1年前より、朝 毎日のように頭痛を訴えて起きてくる。学校も早退することが多くなった。脳MRIは正常で、不登校症を疑われていたが、テレビゲームと漫画本を止めて、枕を柔らかいものと替えて頚をいたわることにより、1週間後には頭痛も消失す。現在、元気に学校に通っている。

症例 9歳/ 岐阜県/ K様
 岐阜に住む○○と申します。
大変ご親切で分かり易いHPを、しっかりと拝見させて頂きました。
なかなか親身になって下さる先生が見当たらず、何処に相談したら良いのか迷っておりました。
 
実は、9歳の息子が、時々、首の痛みを訴えます。
ズキズキ、どーんとした感じの様だといいますが、階段を上ったりすると悪化する(その後、治まるようですが)というので(これも、毎回ではございません。)、心配しております。
 
右目の視力が低下していて、眼科の先生に診察して頂きましたが、眼鏡をかけると視力が上がる事から、脳腫瘍などの恐い病気から来る視力の低下ではなく、一般的なものだとご指導頂きました。
 
その為か、目の奥の痛みもたまに訴えます。
 
心配しておりますのは、脳腫瘍などの恐い病気ではないかと言うことです。
頭蓋咽頭腫など、随分腫瘍が大きくなってからしか症状の出ない場合もあると伺い、心配しています。
 
TVゲームを夢中になってやっている事からも、緊張性の頭痛の可能性が高いのでしょうか?
 それから、個人の脳神経外科の先生が、「子供」のMRIなどの画像は、上手く判断できないなどと言う事は無いと判断させて頂いて宜しいものでしょうか?
  
大変ご多忙とは存じ上げますが、どうかお返事頂けます事を心より祈っております。

A: 
   ○○さま、こんにちわ。
   当クリニックホームページへのアクセスありがとうございます。
 
さて、ご子息さまの慢性の頚部痛について、ご心配の様子がよくわかりました。これまでの経緯を見ますと、やはり頚の前屈姿勢を強いられるゲームとかTV、マンガ本、読書などが、基本的に影響しているように思われます。
 当ホームページの『頚と頭痛について』と『頚へのアドバイス』のページを、今一度ご子息さまと一緒に熟読され、ご子息自身が頚へのいたわりについて理解された時に、現在の症状は改善してくるかと思います。
 なお、一度MRIを撮っておられますと、かなり小さなものでも見落とすことはまずありません。あまり心配ないかと思います。
また、眼科の検査でも、特に異常がないということですので、当クリニックホームページにあります、頚から、目の奥の痛み、目のしょぼしょぼがでてくるという、まさにそれにあたるかと思います。
お返事:  えびな先生様
 
 この度は、大変お忙しい中、ご丁寧なご指導を頂きまして誠に有難うございました。
 感謝の想いで一杯でございます。
先生のようなお心のある、優しく慈愛に満ちたお医者様が増えて下さる事を祈るばかりでございます。
 
息子の事は、先生のご指導を頂き、安心致しました。症状が改善できるよう、息子と共に頑張ってみます。
 


   
脳ドック受診者において、集計分析してみると、60才代より頚椎症やヘルニアが急増しているようだ。又、テレビゲームやIT化に伴い低年齢化傾向もうかがわれるようになった。 脳ドックにおいては、MRIでみると予想以上に頚椎ヘルニアが多く、無症候性のものも多く、又、C5/6を中心に多発性に見られることが多い。慢性頭痛の隠れた原因となっていることも少なくない。

   

症例1 33歳 男性、立ち仕事
主訴: 頭痛、めまい、右手シビレ感
既往歴: H14.夏頃 頭痛、めまいあり。○○HPで頭CTでは異常なし。
現症歴: 12月末、車運転中、グワァーとめまいがして頭がしめられる感じあり。
       右顔面や右手全体がしびれ、ふるえる感じあり。
       ○○内科で、薬をもらい、一時治った。
       1/18、風呂に入っていたら、フワフワめまいがし、右手がふるえる感じになった。
       その後も、フラフラめまい感がすっきりとれない。
       めまいがしてくると、頭がしめられ、後頭部がはり、右手のしびれ、ふるえ、動悸、
       息苦しさがでてくる。(特に朝方)
       また最近、眼の奥の痛みもあり、点眼薬をしてもよくならない。

症例2 20代 / 兵庫県 / K 様
はじめまして。兵庫県在住の○歳の女性です。
仕事は、パソコンを使用した事務職です。1日中、パソコンの使用と、下を向いて読み書きをしています。
 今年に入ったくらいから、下記のような症状に悩まされ、貴クリニックのHPを拝見して、変形性頚椎症ではないかと思い、先生のご意見をぜひお伺いしたいと思いました。

@肩がこり、首の後ろが痛い。こめかみ付近の頭痛。
 背中の痛み。右わき腹痛。手のしびれ。
 手のしびれは、特に左手の手首から先が、しびれたような状態が継続的にある。また、右手の二の腕内側に筋肉痛のような痛みある。

A右耳痛み(夜、右を下にして横向きで寝ると、 朝起きたとき、右耳が痛くなっている)・のどに何かがつかえている感じ
 →今年、1月中頃、耳鼻咽喉科で、風邪の初期でのどがはれていて、耳も特に何ともないと診断されました。

B右前胸部痛。(鎖骨と乳房のあいだくらいの所の痛み)

C頭のふらつき。
 歩いているときや、机に座って仕事をしているときに、
 頭がふわふわ宙にういているような感じになる。
 机に座っているときに、ふわふわなるときは、 同時に、両腕がすごくだるく感じる。

D頭や目の疲れ。
 仕事中に、机に座って、読み書きをしたり、パソコンに向かっている 時に、頭がボーっとして、目が疲れる。

E右側の歯の痛み。顎の関節あたりの痛み。
 →歯科に行きましたが、虫歯等ではありませんでした。

以上のような症状が、今年に入った頃から入れ替わり現れ、原因がわからず、気分も晴れない日々が続いています。
あまりにもいろいろな症状がでるので、
先日、○○市の△△病院の○○科を受診し、3/1に脳のMRI検査を受けることになりました。
貴クリニックのHPにあるような変形性頚椎症でしょうか?
また、この症例の、主な症状の中に、背中の痛みは入っていませんでしたが、頚椎の異常から背中の痛みなども起こるのでしょうか?
お忙しいとは思いますが、ぜひご意見お聞かせ願います。


A:  ○○様 こんにちは
   当クリニックのホームページへアクセスありがとうございます。

○○様が何となく感じてこられたようにように現在の症状は頚椎症由来の症状が中心のように思われます。
しかしながら、頚椎症の程度がいかに強いものであれ、弱いものであれ、基本的には頚への過重な負担がその背景にあると考えられて、むしろ、その負担をいかにして減らすかということに工夫されるようお勧めしたいところです。
なお背部痛などは、症候群の中に書いておりますように、肩甲骨の内側の痛み、背部痛と書いておりますがそのことを指しております。
ですから現在見られる色々な症状はしばしば見られる症状の一つなのであります。

 3月1日に脳のMRIの検査を受けられるようですがおそらくはそこでは特別現在の症状を説明しうるような所見は得られないかと思います。しかしながら一度はきちんと検査を受けておくことも大切ですので、3月1日の検査は是非受けられることをお勧めいたします。
 その上で、もし特に異常がないということになりますれば、これからは頚をいたわるということへの工夫に色々、知恵をめぐらせてはいかがでしょうか?


お返事:
  こんにちは、○○です。
        先日は、ご返信頂き、ありがとうございました。

 先生のおっしゃる通り、3/1に受けた脳のMRIの検査結果は、異常なしでした。
その後、同じ病院の○○科を受診し、レントゲンをとりましたが、特に治療が必要なほどの異常は見られないとの所見でした。
先生のホームページを見たことによって、いろいろな体の不調が、頚椎からきているのではないか?ということが分かり、首をいたわる生活をはじめました。
最近は、頭の浮動感や、背中の痛みはなくなってきました。
これからも、首をいたわり、あまり思いつめずに生活していきたいと思います。
メールにてお話を聞いていただき、本当にありがとうございました。

 

  



 大後頭神経(第二頚神経の後枝)、小後頭神経大耳介神経(ともに頚神経叢の枝)の分布領域の神経痛である。一側性、あるいは両側性にあらわれる。大後頭神経痛は、痛みが項部から後頭部を過ぎ、頭頂部に放散する。Valleix の圧痛点は、大後頭神経が皮下に出る部分、すなわち僧帽筋の起始のところで、正中線から2,3cm離れたところにある。小後頭神経痛、大耳介神経痛では、痛みは項部から耳の前後に向かって放散する。圧痛点は胸鎖乳突筋、僧帽筋の付着部と乳様突起の上にある。

 後頭神経痛の痛みは、
発作的に起こり、しばらくの時間持続し、重苦しい緊張性の痛みで、さらに増強するときは、極めて強い拍動性の痛みを感ずることがある。あるものは、いわゆる筋緊張性頭痛と呼ばれる。
 三叉神経痛に本態性と症候性のものがあるのと同様に、後頭部、すなわち上部頚神経の痛みが、本態性に起こるもの(上述)と症候性に起こるものとがある。この後者の上部頚神経の刺激によって生ずる後頭部の痛みは、後頭部に限局し、発作的にあらわれ、ある程度の時間持続し、重苦しい緊張性の頭痛である。ときとしては血管拍動性の性質をもつこともある。
痛みが強くなると、悪心、嘔吐を来たすことがあり、ときとしてさらに失神をもたらすこともある。

 このような症候性の
後頭部の神経痛は、頚椎症、頚椎ヘルニア、頚椎捻挫長時間にわたる頚への前屈姿勢による負荷、後頭頚椎関節の形成不全、頚髄腫瘍(神経鞘腫、髄膜腫髄内腫瘍)、などによってもたらされることがある。


 
 



 Barre(1925年)および Lieou(1928年)等により頚椎症に伴う症状の詳細な臨床研究があいついで報告され、頚椎症などを背景に主として後頭部にみられる頭痛と、いろいろな随伴症状、すなわちめまい、耳鳴り、眼の障害などを伴うものである。頭痛のもっとも強い点は、明らかに後頭部にあって、この痛みは両側の頭頂から前頭にかけて、またしばしば眼球後部に放散する。痛みは一側性のこともあり、また両側性のこともある。また他方痛みは項から肩、ときとしては一側、あるいは両側の上肢に放散する。頭痛は頭の位置の変動、前屈姿勢、頚への過度な負荷、運動、精神的興奮、頚の冷却、生理、低気圧、風邪気味などによって引き起こされ、また増強する。またある形のものでは、痛みが顔面に放散し、三叉神経痛様の焼けるような痛さ(三叉神経痛との鑑別)、あるいは顔面の違和感、知覚障害、顔面の血管運動障害、すなわち同じ側の顔面のほてりや発汗、眼の充血、紅潮のみられるものがある。

 
めまいの多くは立ちくらみ、浮動感で、地震のような揺れる感じ、歩行、起立不安定状態を招き、回転感は稀である。しばしば一側又は両側性耳鳴りを伴う(頭鳴)。またときとして耳閉感、軽度の聴力障害(多くは両側性)を伴うこともあり、あるいは耳の痛みを感ずる。眼の障害は疲れ眼になりやすく、眼の奥や周りに痛みが強く(緑内障との鑑別)、眼がぼんやり、眼のショボショボ感などがある。また角膜の知覚鈍麻をみることがある。

 Barre 症候群の経過中に、咽頭の症状を呈することがあり、多くの場合は咽の違和感で、重大なものではないが、
ノドのつかえる感じや、ときとして咽頭の灼熱感、痛み、さらには頚のほうへの放散痛をきたすことがある。また異物感、舌基部の痛み、場合によっては咽頭の知覚鈍麻、咽頭反射の減弱などもみられることがある。喉頭の障害としては、声の低下、嗄声 aphonie の急速な出現、あるいは憎悪などがみられる。”むち打ち症候群”、頚の前屈姿勢を強いられる趣味や業務などに際してしばしばみられる。
 精神状態はだいたい正常であるが、うつ状態、不安感、イライラや不眠など若干障害のみられる場合がある。診察に際し他覚的な陽性所見を認めることは、かなり少ないが、頚が回らない、寝違いを起こしやすい、頚椎棘突起の圧痛、神経根部の圧痛、その両側の筋肉の圧痛、Arnold 神経(大後頭神経)の圧痛点陽性などのみられることがある。

 Barre-Lieou 症候群の診断にとって、重要なのは、レントゲン写真、MRI所見である。正面像では、中央部において椎間部に靱帯の硬化による陰影の増強がみられ、椎体の上面および下面に異常な陰影増強がみられる。外側のほうでは、脊椎間の関節面の変形がみられ、ときには上下関節突起の融合が起こって、さらにはときとして鉤型に外に向かって骨の突起が生ずる。
側面像では、しばしば頚椎にみられる生理的な前彎の減少(いわゆるストレートネック)がみられ、ひどくなると後弯変形もみられ、脊柱管狭窄が高度なことも少なくない。これは特に Barre が指摘する点である。椎体の前面および後面の角に、鉤状の突起を生ずる。これら病変は、最近の知見では、C4,5,6椎体や椎間板に特に強く、日常生活、趣味、業務などによって、長時間頚の前屈姿勢を強いられた時に負荷のかかりやすい部である。このような頚椎の病変が、そこを通る椎骨動脈に伴って走る神経を刺激し、すなわち下頚部交感神経症候群、syndrome sympathique cervical posterieur(Barre-Lieou 症候群)を起こすと考えられている。しかしながらこのほかに頚部に存在する神経もまた、耳鼻科的、眼科的症状を引き起こすのに関与していると考えられる。


 この Barre あるいは Lieou の業績とは離れて、近年頚部の discopathie によって引き起こされる頭痛が認知されるようになった。その頭痛の特徴は、強さ、持続時間、場所はいろいろであって、
例えば痛みが眼の周辺やこめかみ、あるいは側頭部にあることもある。ツキツキ刺すような痛みしめつけられる様な痛み髪の毛に触っても痛いなどのことが多い。さらに随伴する症状として、悪心、嘔吐、眼(眼のショボショボ感、眼痛)および聴覚の症状(耳鳴、耳閉塞感)、いろいろな自律神経障害、動悸ならびに精神不安、集中力低下がみられ、痛みは頚から上肢のつけ根に放散、さらには前腕や手指のしびれや痛みなどを伴うことがある。レントゲン学的に頚椎の生理的前彎は減少して、直線化し、MRI所見では下部頚椎(C5からC7)の脊柱管が狭くなっている。これらの形態学的変形を背景に、頚の前屈(下を見る)、後屈(見上げる)などにより、容易に脊髄の微小循環の障害が発生し、多彩な症状を発生しうることが推察される。
 さらにこの頚椎の障害に伴って、虹彩異色症 heterochromie irienne,Horner 症候群、Adie 症候群などを伴うことがある。近年、本症候群の詳細は、MRI検査の発展に伴い、その病態の解明が期待される。



 平山惠造著「神経症候学」319-320頁、1971年、文光堂様、平山惠造先生のご高配により許可を頂き、転載させていただきました。(一部改変)




むち打ち損傷(whiplashinjury)とは、頚椎を支えている靱帯、筋、椎間板などの損傷に伴い、頚部痛、頭痛だけでなく、上肢の脱力、しびれ、肩こり、手指のしびれ、めまい、悪心、眼痛、眼の疲れ、顔面の痛み、羞明、耳鳴、集中力の低下など、多彩な症状を呈する外傷性頚部症候群の一般的な名称である。
 
むち打ち損傷や頚椎症での頭痛の発生機序としては、後頭部の筋肉の過度な緊張や負荷によりもたらされる緊張型頭痛が多い。また、頭皮の後半部分に分布している大後頭神経、小後頭神経、大耳介神経などの領域の痛みを訴える患者が多い。僧帽筋の腱膜部で線維性のトンネルが発達しており、大後頭神経は皮下に出る時ここで絞扼されやすく、僧帽筋の収縮により大後頭神経は牽引され、頭痛が増強する。また、第一・第二頚椎椎体間への衝撃により第二頚神経根が損傷されやすいが、この第二頚神経が大後頭神経となることからも、この部の痛みを生じうる。また、精神的緊張や心因性要素、交感神経の障害など種々の因子が頭痛の悪化を来すことも知られている。

 
一、三叉神経の関与
むち打ち損傷や頚椎症
に伴って境界不鮮明な、一側性、時に両側性の顔や口唇の痛みや知覚障害を生じることがあり、この機序として三叉神経脊髄路の障害の関与を示唆する報告がある。
 頚部の過度な伸展(見上げる)、過度な屈曲(下を見る)による頚髄の伸長、振盪、さらに上部頚神経への刺激によって、これらと吻合している三叉神経が刺激される可能性がある。最近の神経解剖学の進歩により、
温痛覚を伝える三叉神経脊髄路は第二〜四頚髄後角灰白質のレベルまで下降しており、上位頚髄への損傷や障害より三叉神経領域である顔や口唇、眼の奥などへの放散痛やしびれを来すことが推測されている。
 また、前述した
大後頭神経と、三叉神経の分枝である眼神経とは吻合があり、これが眼痛や顔面への放散痛の原因となることが指摘されており、大後頭・三叉神経症候群などとも呼ばれる。

 
二、副神経の関与
副神経の脊髄根は第二頚髄から第六頚髄に及ぶ脊髄前角の前外側
から側索内を上行し、一つ上のレベルの神経根と合流し、大後頭孔を通り、頭蓋内へ入る。頚静脈孔を通り抜けると頚部を下降し、胸鎖乳突筋、僧帽筋の上半分を支配する。副神経も三叉神経と同様に頚部の過度な伸展、過度な屈曲により障害を受け、これにより、頚肩腕症候群の原因となりうる。

 〔文  献〕
1) McGlone,R.,et al.:Injury,19(5):366,1988.

2) Knibestol,M.,et al.:Acta Neurol.Scand.,82:271,1990.

3) Edmeads,J.:Neurology,38:1874,1988.

               
(飯塚秀明著より改訂)日本醫事新報 No.3949


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