善福寺公園

新型コロナウィルスの感染拡大を防止するために在宅勤務始まって一月半が過ぎた。

すでにこの生活が「日常」になりつつある。この奇妙な日常生活を記録しておこうと思う。

在宅勤務ができるのは、いろいろな意味で恵まれている。製造業や建設業のように現場へ出ていかななければならない仕事では在宅はできないし、事務職でも個人情報を扱う仕事は家ではできないし、そうでなくてもIT環境が整っていなければ在宅勤務は不可能。

とりわけ私のように人の目を気にするうつ病の患者にとっては、一人でいられる在宅勤務はとてもありがたい。

今、働いている会社はデジタル化が進んでいる。セキュリティはHDD、PC、会社のネットワーク、アジア地区のネットワークまで4重にかけられている。役所に提出する文書に社印を押す以外、ほとんどの業務は会社支給のパソコンからできる。

在宅勤務をしている者は、どんなに退屈で窮屈であっても、自分が恵まれている環境にいること、「デジタル格差」の上位にいることを忘れてはならない。


夜10時前に寝ることは変わらない。最近はダンテ『神曲』「地獄篇」の解説を読んでから寝る。一度目は解説を読まずに読んだ。今度は新書を読むつもりで解説を読んでいる。

朝は6時に起きる。たいていアラームを設定した時間より早く目が覚めている。このところ快眠度がずっと高い。薬なしでもよく眠れている。これはうれしい。

洗濯機を動かしてから散歩に出る。先月はダウンジャケットを着ていたけれど、もういらない。6時過ぎに外へ出るとお日様はもう高く昇っている。

膝をよく痛めるので、ウォーキング用のタイツを履いている。靴は息子が履かなくなった黒のスニーカー。表側も破けて、靴底もめくれあがりはじめている。ダメになるまでこの靴で歩く。ちょっと重いのがトレーニングには好都合。

歩き始めたらポッドキャストで米国の公共放送、NPRのニュースを聴く。前夜のニュースを聴き終えてしまったら音楽を聴く。「朝」とか"Morning"とか単語で検索してライブラリからシャッフルで聴く。これが楽しい。自分でも録音したことを忘れている曲が流れてくることがあるから。公園には密集というほどではないものの、多くの人が集まっている。ラジオ体操をしたり、サッカーや野球の練習をしたり。外出の自粛が要請されている今、朝に公園に来る人は多い。

我が家から徒歩30分の圏内に大きな公園がいくつかある。元々は軍需工場だったところや大学の野球練習場だったところなど。どちらも緑豊かで出かけると心が和む。

公園を一回りして帰ってくるとちょうど7時過ぎ。それから新聞に目を通しながら朝食。

今は8時からNHKの朝ドラ『エール』を見ている。ふだんテレビドラマはほとんど見ない。主人公が窮地に陥るところを見るのが嫌だから。翌日には話は好転するとわかっていてもハラハラドキドキすることが好きになれない。一度で完結する映画の方がまだいい。といっても、映画もあまり見ない

8時15分には自室に入り、出勤する。上長に在宅勤務を開始することをメールで伝えて業務開始。1日に一度、部署の5人で電話会議をして各々の業務を報告する。

仕事には波がある。ほとんど用件がない日もあれば、何件もの頼まれごとに追われる日もある。元々「障害者枠」で採用されているので、仕事の負荷はそれほど重くない。


在宅勤務は気楽。これがとりあえず6週間やってみての感想。混んだ電車で通勤する必要もないし、オフィスで人の目を気にすることもない。万事マイ・ペースでできる。

一人でいても退屈ではない。雑談の代わりにときどきTwitterを見ている。世の中の動きもわかるし、息抜きにもなる。正直に言えば、暇なときには、こうして文章を書いている。

音楽もラジオも聴かない。仕事をするにも文章を書くにも、BGMはない方がいい。推敲をするときには音楽を流していることが多い。

昼食は前夜の残り物を食べることが多い。近所に手頃な食堂がないし、コンビニで空腹を満たそうとすると意外に高くつく。

急ぎの用件がないときは、昼食後に30分程度、昼寝をする。これも会社ではできないことなので、在宅勤務のいいところ。携帯電話を枕元に置いておけば、電話にもすぐ出られる。

15時すぎにベランダに出て洗濯物を取り込む。乾いた洗濯物は各人の部屋の前に配る。

在宅勤務をはじめる前は不安だった。前職で仕事が終わらず持ち帰り夜中まで仕事をしたこともしばしばだったし具合が悪くて休んでいるのに電話に出たりメールに返答しなければならなかったので、家で仕事をすることに抵抗があった。

今回は、何も期待されていない身分なので、慣れてくるにつれて、不安や恐怖感は収まってきた。今は、むしろこれがいい。

家にいること自体は苦ではない。病気退職したあとの半年間は散歩以外、ほとんど家から出なかった。ただ、あの時は図書館に行けた。今は図書館も閉館しているので、その点では楽しみが減った。


業務は17時で終了。基本的に在宅勤務で残業は認められていない。とはいえ、多くの人は遅くまで働いているだろう。滅多にないことだが、私も17時近くに用事を頼まれて残業することもある。

電車で通勤していれば、途中で寄り道をして本屋を見たり服屋を見たりする。いまは夕方に出かけることはほとんどない。

夕飯までの時間は何をしているか。音楽を聴いたり、本を読んだり、動画を見たり。この時間が一番寛いだ気分になれる。最近の箱庭が長いのは、この時間にゆったりとした気分で書いているから。

平日は呑まない、と一応は決めている。でも、水曜日あたりで挫けてしまい、呑んでしまうこともある。続けて禁を破ることのないようにはしている。

夕飯は19時。20時過ぎには入浴。9時のニュースの見出しを見たら、自室へ上がる。


外出自粛になって残念なのは、習慣になったスポーツジム通いができなくなったこと。家でWii Fitをすれば同じと言えば同じだけれど、トレーナーの指導を受けながらするのとは違いなかなか続けられない。

この生活はいつまで続くのだろうか。ニュースや特報番組を見ていると大型連休明けにすぐさま前の日常に戻るのは難しそう。会社も最初は半分ずつ出社、在宅となるのではないか。

そうなると心配なのはライブハウス。行きつけのライブハウスは地下にある。「三密」を避けることは引き続き呼びかけられるだろう。となると再開の目処が立たない。心配。

信頼のおけるワクチンが開発されるまで「三密」を避けた生活をまだ数ヶ月から年単位で続けなければならないと説く報道もある。そうなったら経済も教育も、社会全体が「崩壊」しかねない。ライブハウスの行末も案じないわけにはいかない。

理由のない不安で眠れない状態から少しずつ解放されているのに、理由のある不安を目を閉じる前につい考えてしまう。でも、今は考えても仕方がない。考えることは止めてすぐ目を閉じてしまう。


夜は、BBC Radio 4 - Six O'Clock Newsを聴きながら目を閉じる。米語の聞き取りにはそれなりの自信があるものの、イギリス英語は半分もわからない。

だから、すぐ眠りに落ちる。夜中に起きることもない。


さくいん:ダンテケネディハウス銀座労働