硝子の林檎の樹の下で 烏兎の庭 第四部
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2011年6月


6/25/2011/SAT

また何も書かないうちにひと月が過ぎてしまった。特別忙しいというわけではないのに文章を書く気にはなれない。昼の間、パソコンの画面を見ていることが多いので、家に帰ってからはできることならパソコンを開きたくない。

このひと月の間にちょっとした生活の変化があった。まず家で酒を呑むことをやめた。それから、通勤の帰りに日刊ゲンダイを買うことを止めた。禁酒の直接のきっかけは健康診断。肝機能の数値がこの15年間で最悪だった。もともと酒を呑んではいけない薬を服用しているのだから禁酒は遅いくらい。

この一か月、家では一滴も口にしなかった。外では三度、呑む機会があった。そのうち二回は潰れるまで呑んだ。適量というものがわからない私はたしかにきっぱりやめるべきなのだろう。

体重も毎朝、毎晩、計るようになった。酒を減らしただけで数キロ体重は減った。そこから先がたいへんとダイエットの先輩は言う。


日刊ゲンダイでは、「狐の書評」も宇能鴻一郎の小説もずっと前になくなってしまったので、読むところが少なくなった。

つい最近まであった松尾貴史のコラムは面白かったのに、長くは続かなかった。このコラムは、さまざまな統計について松尾をひとくさり語るというもの。堀江憲一郎のように自前の統計ではないので、取り上げる統計そのものは面白いものではなかったものの、目のつけどころが鋭く、それでいてユーモアもある、言ってみればゲンダイらしいコーナーだった。

最終回では、日本の自死の数が3万人から減少しないことをとりあげ、報道の仕方に問題があるのではと問いかけ、自死の報道を規制した結果、自死を減少させたオーストラリアの実績が紹介されていた。

現場の状況を詳細に報道したり、著名人だからといってことさら大きく取り上げたり、その理由を詮索したり、そういうメディアの在り方が、連鎖を生んだり、自死を取り得る「選択肢」と思わせてしまうような影響を与えかねない、と松尾は結んでいた。

題材も彼が選んでいたのかはわからない。少し硬派すぎたのかもしれない。ともかく、一つ楽しみにしていたコーナーがなくなり、買い続ける理由が減った。


日刊ゲンダイを止めたので定期的に読むのは週刊アスキーだけになった。

酒を止めるとお金が貯まる。クルマを捨てたとき、そう実感した。でも人生の大きな楽しみを一つ失くしてしまったような気もする

そこまで言うのは大袈裟か。そもそも、それくらいしか楽しみがないところに問題があったのだから。


本は読んでいない。そのかわりに音楽はよく聴いている。図書館で予約しては毎週10枚ずつ借りてきている。

70年代から80年代の歌謡曲やアイドル、ニューミュージックと呼ばれたジャンルをよく聴く。図書館ではそういった曲を集めたコンピレーションアルバムもたくさんおいてある。

そのなかで、最近、集中して聴いているのが『喫茶ロック』シリーズ。レコード会社各社からそれぞれ出ていて合計10枚ある。あまり知られていないアーティストの楽曲が多い。有名な人でもアルバムにしか収録されていないような曲が収録されている。

CDにあわせて、解説のような編集後記でもあるような本、『喫茶ロック』(ソニーマガジンズ、2002)が出版されている。これは、古本をネット書店で買った。


10枚のアルバムのなかでは『エキスポ・ソフトロック編』が面白い。ちょうど大阪万博のころに作られた(必ずしも流行ったわけではないが)作品が並ぶ。あの頃、見えていた「未来」、明るくて幸せな未来の「文明」が感じられる。

幼い頃、よく眺めていた図鑑。自動車の図鑑では、タイヤのないエア・カー、飛行機の図鑑では誰もが旅行気分で行ける宇宙ステーション。そういう「未来」が当然来るものとして描かれていた。

時代は1970年代前半。60年代のフォークソングと70年代後半から80年代前半に隆盛したニューミュージックの間に、いま、J-POPと呼ばれている音楽に直接つながるようなさわなやなポップスの曲がたくさんあった。

70年代は「転換期」だったと思う。ずばり、それを書名にした『一九七〇年代転換期における「展望」を読む――思想が現実だった頃』(大澤正幸斎藤美奈子原武史・橋本努著編、筑摩書房、2010)という本をしばらく前に読んだ。読後、考えさせられることが多すぎて、感想は書けなかった。いや、まだ書くつもりは残っているので、書けていない、と言うべきだろう。今年の夏休みの宿題にしよう。


そのほかに気に入ってよく聴いているのは、伊藤つかさ。きっかけは、図書館で借りた都倉俊一の作品集「SONGS」(ビクター、2008)。これに伊藤つかさ「ハートの季節」が入っていた(作詞は松井五郎)。ほぼ同じころ、これまた図書館で手に取った、時代劇の主題歌を集めたコンピレーションアルバム『ちょんまげ紅白歌合戦』(ソニー、2010)に、伊藤つかさの歌う「夕暮れ物語」が入っていた。

二つの曲は発売された当時に聞いた記憶はない。でも、どちらも感じのいい曲だったので、ほかの曲も聞いてみたくなり、図書館で『つかさ』(1981)と『さよなら こんにちわ』(1982、いずれも徳間ジャンパン、CD化は1994)を借りてきた。

あとで調べてみると、「夕暮れ物語」は作詞は安井かずみ、作曲は加藤和彦。1980年代前半、人気アイドルの作品にはシングルはもちろん、アルバムにしか入らない曲でも有名な作家が起用されていた。

『つかさ』と『さよなら こんにちわ』では、加藤和彦以外にも、竹内まりや、矢野顕子、坂本龍一、南こうせつ、原由子など錚々たる顔ぶれが楽曲を提供している。


もう一人、聴きこんでいるのが大滝詠一音楽に詳しい友人に勧められ、『レコードコレクターズ 4月号』を読んだ。特集は「大滝詠一/ロング・バケイション――10年ぶりの最新リマスター! 80年代日本のポップ界を代表する名盤に再び迫る」。

リマスタリングということが、乏しい音質でしか音楽を聴かない私にはよくわからない。でも、同じ作品を何度も何度も創りなおすという姿勢に興味を引かれる。それから、インタビューで答えていた「自分がリアルタイムで体験したもの」をいつまでも、何度でも聴きかえすという言葉にも。

『喫茶ロック』シリーズのように、リアルタイムでは聴いていなかった作品でも、自分が体験した時代の音楽は、いま聴いてみると、けっして「懐かしい」だけではなく、「新しい」音楽として聴くことができる。

ところで、正しい表記は「大瀧」でなく「大滝」ということをこの特集で初めて知った。『庭』のこれまでの表記も修正しておく。

『A LONG VACATION』の作詞を担当した松本隆の『作詞家生活40周年記念 新・風街図鑑』(ソニーダイレクト、2009)や、女性シンガーだけでつくったトリビュート・アルバム『A LONG VACATION from Ladies』(ユニバーサル、2009)は10人以上の予約待ち。借りられる日は最短でも半年近く先になる。


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uto_midoriXyahoo.co.jp