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HHJ

　

▼　高松宮日記メモ　関連記事一覧

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*日付順

Updated 2013.1.5

高松宮日記メモ:

光輪閣の晩餐に

出席した〈アンダーサン〉

昭和21年　1946

10月1日

[上欄]急に話があり、〈セックススミス〉が帰国することになったという。その後は〈ネッカー〉であるとその席で聞く。午前復員局へ。午後上野美術館の新制作派協会(略)。ついでに一水会と行動美術協会とを見る。(キク子は風邪を用心して行かなかった。)

アトリエの庭

晩餐。アメリカ赤十字関係者。〈クリスチンセン〉の代わりに来た〈ルイス〉を中心として〈カルバン〉〈パックソン〉〈ネッカー〉〈セックススミス〉〈オルド〉〈アンダーサン〉、島津夫妻、赤木、(徳川)義知夫妻。

[現代風に書きあらためた。テーマに無関係な文と曜日は省略した。]

☆GHQの民政局で戦後の建築設計を担当したヘンリー・アンダースンが日記に出ることは予想しなかった。しかし、その日の晩餐でアメリカ赤十字関係者の一人として〈アンダーサン〉というアメリカ人の名前が書きとめられている。Andersonという名前は普通アンダーソンと記されるが、〈パックソン〉の場合とちがって、なぜか〈アンダーサン〉である。おそらく無意識的に親愛感が現われて日本語の〈さん〉に変化したのだろう。本人を知る人たちは賛成するはずだ。

高松宮は美術展を見たあとにアメリカ赤十字関係者と会った。ヘンリー・アンダースンが日本の美術界との関係をやがて深めることになる運命を思うと、光輪閣の晩餐に出席した可能性がないわけではない、と想像させる。

注記には〈アンダーサン〉について不詳とある。ネッカーは日本赤十字社顧問。

高輪の高松宮邸は昭和20年12月から光輪閣と名づけられて迎賓館として使用された。

民政局というのは推測である。

☆　H

→恋文横丁の暗い記憶

→高松宮日記メモ; 〈リンゴの唄〉の秘密　

〈リンゴの唄の秘密〉をめぐる対話

Updated 2014.1.1

高松宮日記メモ:

高松宮は国民主権に反対した

昭和21年　1946

5月22日

晩餐(ウィットニー〔1〕、カーディス〔2〕、ロビンソン〔3〕、ハルセイ〔4〕、加瀬〔5〕、松平康昌〔6〕)

大館橋

2013.12.30

MC元帥も陛下を支持することを強調する〔7〕。皇族に宮内省から金や物を賜ってはならない、特権を認めてはならない、というGHQ指令が今日出たことに質疑応酬する。要するに主権在民に基づく考え方で〈議会が金を出すなら、それはよい。第2世からは働いて食えばよい〉ということだった。今までの考え方と異なるから、それに伴う切りかえに時間を要するということを話す。[略]

5月31日

1100秩父宮妃殿下が訪れる。食後、同車して親睦会(皇室典範草案構想の説明、皇族に関するGHQ指令に関する報告)、いろいろご意見に出て宮内省がはっきりしないこと論議した。私としては主義の問題、根本方針をはっきりして、ただどのようにして指令の実施上の〈もがき〉をするというのではいけない。本当に皇室がひとつになってやってゆくいう陛下のお考えなら、そこから決心してやればよい。民主主義でゆくと決心して皇族を陛下から離すことが天皇の地位、国体を守るによいというなら、それに徹底するようにしたほうがよい。[略]

宮内大臣に会った。昨夜、憲法草案の枢府会議にはその主権在民があまりはっきりしているので、私としては賛成しかねるから、会議には出席しないつもりでいると陛下に申し上げた〔8〕。陛下はそのとき何とも仰らなかったが、陛下がとても心配しているのに、そんなことを言うのはよくない、と宮内大臣は話した。[略]出席して賛成しないのは現情勢からもよくない。

[ 現代風に書きあらためた。]

☆2月27日の日記にはフェラーズが高松宮邸を訪れて、マッカーサーは〈陛下が唯一の指導適格者と認めるから、もっと積極的にすればよい〉と伝えたことが記されている〔9〕。昭和天皇は、マッカーサー元帥がアウトラインを書いた民主主義憲法案を受け入れたが、理由は明らかでない。

高松宮はGHQ指令の主権在民の考え方に反対している。天皇主権でなければならないということだが、理論を持っていたようには見えない。しかし、帝国主義の制度には懐疑的なハムレットであり、民主主義者ではないが、ヒューマニズムあるいは人間愛中心主義を生きた現実的な個人主義者である。海軍らしくリベラルでメカニックである。

昭和天皇の理想主義とは波長が合わない。国民主権で日本の歯車がスムーズに回るのか、疑問なのだろう。

高松宮が国民主権に反対したのはなぜか？最大の理由は、最近急に不安の渦を巻いているように軍隊のコントロールにあると思う。天皇の〈拒否権〉は絶対である。統帥権は2.26事件のクーデターに終止符を打ち、アメリカとの開戦は卑劣さに負けて不運にも止められなかったが、終戦の決意をまとめて破滅を防ぐ力を示すことができた。歴史的に見れば、最も信頼できる安全保障機関である。高松宮の考え方から推測すれば、シビリアン･コントロールは否定される。大人の考え方と言うべきだろう。

しかし、日本国民は国民主権と象徴天皇制を選んだ。平和主義と戦争放棄を明言した第9条がなかったら、どうなっていたか、分からない。高松宮はその規定にわずかな希望を見出したのではないか？

ついでに言うと、安倍内閣が設置した安全保障会議と安全保障局はシビリアン･コントロールを装っているにすぎない。

拒否権という言葉は明治憲法にはない。第4条の統治権の総覧、第6条の法律の裁可とその公布と執行の命令という規定のうちに内在する。総覧には全体の管理という意味があり、それが現実的には重要な目的なので、元首である天皇にとって政治は透明でなければならない。しかし、裁可は内閣と議会の決定の承認にすぎないとすれば、総覧する行為が無意味になる。第11条に定められた天皇による陸海軍の統帥は、その規定から解釈しなければならない。

☆　H

1 Courtney Whitney 民政局(GS)局長

2 Charls L. Kades 民生局次長

3 Robinson ？ GS

4 ハッシー(Hussey)中佐？ 民生局法規課長

5 俊一 外務省参与

6 宗秩寮総裁

7 Douglas MacArthur

8枢府会議　枢密院の略称

9 Bonner F. Fellers マッカーサー元帥の軍事秘書官

▼　List 1 マッカーサー･ノート;

Aマッカーサー憲法の原案から草案まで　

Bマッカーサー憲法の原案と草案の違い

▼　高松宮日記メモ : 2.26　皇族集合と伏見宮の悲嘆

▼　高松宮日記メモ : 2.26　反軍が存在しない戒厳令

▼　2.26事件

秋北バス・ターミナル

Updated 2010.2.3

高松宮日記メモ:

〈リンゴの唄〉の秘密--a

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

昭和20年　1945

11月10 日　土

1330 軍務局素人演芸会。

　別紙---演芸会のプログラム

　 別離の歌--〈(歌詞)さらば軍務局また逢う日まで---〉

独唱--　赤いリンゴ　森の小径　　--西山

(略)

☆有栖川宮の継承者高松宮宣仁(のぶひと)は、その日陸軍軍務局が主催する素人演芸会に招待された。軍務局の武藤章局長は情報局の設立を主導した一人で、サイパンをアメリカ軍に占領されたあとクーデターを計画した首謀者の一人らしいことが日記に示されている。クーデター計画の挫折は未然に情報が漏れたのが知れたからだろうと思われる。有栖川宮の影を引く皇族、対立的な海軍の自由主義者が招待に応じたのは勇気ある行動だ。

宮様は、そこで〈赤いリンゴ〉という歌を聞いた。ちょうど1か月前の10月10日、GHQの検閲をパスした戦後初の映画《そよかぜ》が公開された〔1〕。ヒロインを演じる並木路子(みちこ)が歌った主題歌〈リンゴの唄〉が空襲の焼け跡に流れて、人々の心情に明るい希望を吹き込んでいた。しかし、陸軍の好戦主義者が対抗的に選んだのは〈赤いリンゴ〉という歌だった。

☆ H

連載 cat willow 2009.7.18~

1　監督　佐々木康

映画《そよかぜ》と〈リンゴの唄〉

▼　V字型の階段の記憶　15

▼　昔どこかで見たようなクーデター計画

この記事についてもっと考えると

▼〈リンゴの唄の秘密〉をめぐる対話

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

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大町　化粧品店

Updated 2010.2.3

高松宮日記メモ:

〈リンゴの唄〉の秘密—b　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

☆高松宮は何を想い出したか？1939年長谷川テルが書いたエスペラントの詩〈なくなった二つのリンゴ〉ではないか？これは重慶放送局で抗日戦争のためにアナウンサーをしながら出版した《あらしの中からささやく声》の白眉である〔1〕。高松宮は海軍軍令部の通信傍受でテルの放送を聞いたかもしれない。軍務局の目的は何だったのか？

高松宮は何を考えたか？主題歌〈リンゴの唄〉の選定は自分とGHQが下書きしたと疑われている、ということだろう〔2〕。

GHQに対する疑惑には、それを正当化するような事実がある。ウィキペディアを参照すると、万城目正の作曲が間に合わなかったので、映画の撮影でヒロインは別の歌〈丘を越えて〉を歌い、曲の完成後に〈リンゴの唄〉を吹き込んだ。これは、リンゴ園のシーンで歌うことを考えれば、最初から指令で決まっていた主題歌が妨害された結果らしく思える。

GHQのアドバイスという想像は、映画の題名が狂気の〈カミカゼ・アタック〉に対するジョークのように受け取られることから、それほど突飛な疑惑ではない。

映画《そよかぜ》は民衆に受けたが、朝日新聞は嫌った。ウィキペディアから引用すると、〈戦後初めての映画評を行うにあたって、1945年10月12日付けでこの映画を取り上げたが、「ムシヅを走らせたいと思ふ人はこの映画の最初の十分間を経験しても十分である」と評した。〉この記念碑的な映画を見るのが難しいのは、そういう事情があるからだろう？

☆ H

1 長谷川テル作品集　: 宮本正男　著　　亜紀書房　1979年

1939年4月　重慶 〈あらしの中からささやく声〉より　

訳　竹内義一

テルの生涯　: 利根光一　著　　エスペラント学会後援

2 作詞　サトウハチロウ　作曲　万城目正

戦時中に書かれた詩に映画撮影中に曲をつけたという。

長谷川テルの放送と〈なくなった二つのリンゴ〉

▼　V字型の階段の記憶　14

▼　V字型の階段の記憶　15

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

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リヴァー・ポート

Updated 2010.2.3

高松宮日記メモ:

〈リンゴの唄〉の秘密—c　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

昭和21年　1946

9月12日　木　晴

日本ハップ薬工業会社の〈タペシリン[1]〉(10円)に切符をつけて、売り上げから慶福会に寄付するという第1回の試み、日比谷公会堂で。1400からの予定が前の部がおくれて1530頃になってやっと始められたと思ったら、1630になって進駐軍の時間になって中止。入場者は超満員だった(3500名)。

夜、御所、映画(夏以来久しぶりで)。

[別紙]　

社会事業基金募集　芸能祭

プログラム

日時　九月十二日(木)十一時・二時開演

場所

主催　恩賜財団　慶福会　日本ハップ薬工業株式会社

後援　厚生省社会局

出演者　順不同　　　やれたのは〇印だけ　[高松宮の書き込み]　　　　　　　　　　　　

司会　奈美乃一郎 〇　奈美乃一郎の声帯模写 [書き込み]

西崎緑

三笠晴美 〇　歌と舞踊

岡本八重子姉妹と渡辺弘楽団 〇　楽団の演奏2曲　

岡本姉妹のアクロバット

灰田勝彦・晴彦楽団

東京放送管弦楽団[2]

松竹大船軽音楽団

並木路子

霧島昇

松原操

小梅 〇

橋本典子

小唄幸子

小唄幸

加々美一郎

川田正子 〇

　[現代風に書きあらためた。]

☆〈赤いリンゴ〉事件から1年近い9月、日比谷公会堂。慈善芸能祭は人気スターを眩しいほど並べた。何となくセンチメンタルに想像した。渡辺弘楽団はジャズを2曲演奏した。ハワイアン・バンドの灰田勝彦と晴彦楽団は、ステージに姿を見せなかった。兄の晴彦が作曲した〈鈴懸の径〉を聞けないのは残念だっただろう。

しかし、ショッキングなのは〈リンゴの唄〉で人気絶頂の並木路子と、彼女と映画《そよかぜ》で競演した霧島昇が歌う予定だったという事実だ。1時間半の遅れには裏があるんじゃないのか？ 敗戦後の恐るべきドラマを予感させる。

☆ H

1 結核治療薬ペニシリンの商品名。

2 JOAK(後のNHK)の専属楽団。

情報局と記号問題について

▼〈文化という美名に隠れて〉に関する会話

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

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`　　　　　　大館市民文化会館

Updated 2010.2.3

高松宮日記メモ:

〈リンゴの唄〉の秘密—d　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

昭和22年　1947

8月30日 土　曇

宮内省で陛下の巡幸のことをなどを聞いたり話したりする。

8月31日　日　晴

夜、川田正子のお別れ放送30分。やっぱりもの悲しい。別にどうなるというのでもない。子どもが大人になる当たり前のことなのだが、あの川田正子がやはり放送やあの姿から姿を見せなくなるということは胸にせまるものがある。放送の編集もよかった。どんな気持ちで歌っているのかと思う心持で珍しい情のうつった放送を聞いた。秋の淋しさが染み渡ってきた。

[ひらがな書き]

☆日比谷公会堂の芸能祭から1年近い夏の夜、少女歌手のお別れ放送が行なわれた。川田正子(まさこ)は芸能祭で歌ったが、1年後の日記では宮様と知り合いなのか、と思うような雰囲気がただよう。芸能人その他に対するセンチメンタリズムは一度もなかった。北白川宮のおば様に対してときおり現われるだけである。どんな歌手か、調べてみると、敗戦後1946年8月〈みかんの花咲く丘〉を歌って一躍スターになった童謡歌手だった。並木路子が歌う〈リンゴの唄〉と歌合戦のようなタイミングだが、少女歌手は不意に声変わりで引退したのだった。NHK放送でどんな歌を歌ったか、記録はない。

☆ H

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

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三の丸

Updated 2010.2.3

高松宮日記メモ:

〈リンゴの唄〉の秘密—e　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

☆高松宮の悲しみは、こんな想像を引き起こした。

長谷川テルは1934年(昭和10)１月東京放送局を受験する前に父幸之助の知人に就職の世話を頼んでいたが、吉永の他にもうひとり川田という人物がいた。少女歌手川田正子が長谷川の知人川田とどんな関係か、分からないが、その名前は高松宮に長谷川テルを想い出させたのではないか？芸能祭では少女歌手の前に加々美一郎という歌手の名前が記号として使用された。鏡、つまり〈想起しろ〉というメッセージである。そして、〈みかんの花咲く丘〉は〈リンゴの唄〉とあのリンゴを想い出させたにちがいない。そうすれば、〈どんな気持ちで歌っているのかと思う心持で珍しい情のうつった放送を聞いた〉というせつない哀感が理解できる。

少女歌手の引退とラジオのお別れ放送には、旧陸軍のメッセージがあるだろう。タイミングはよく合っている。

長谷川テルは1946年夫リュー・レンの故郷満州に行った。そして、異説があるが、その年の秋リュー・レンがチフスで死亡、テルも半年後おそらく春チフスで死んだ。芸能祭から1年のあいだに反戦と反日放送のヒロインが報道されることもなく歴史から消えていったのである。高松宮がその情報を知っていたとすれば、その日の日記は文学的なレトリックで書かれている。2度くりかえされる〈姿〉はミラー・イメージと考えていい。お別れ放送の少女歌手とはエスペラントと日本語で話した〈売国奴〉アナウンサーの影、分身、メタフォール…当然、長谷川テルの名前はブランクである。放送の編集をほめたことに哀悼の気持がさりげなく表現されているようだ。海軍の軍令部でテルの放送を受信していたのだろう。

東京では1946年5月3日から極東国際軍事裁判が行なわれていた。宮様の日記はそれからまもなく11月5日付けで終了するが、〈リンゴの唄〉と〈赤いりんご〉、そして少女歌手のお別れ放送の文章はそれ以前の日記で長谷川テルにかかわるように思えた記号論的な疑問をかなり正当化した。

☆ H

長谷川テルについて

▼ V字型の階段の記憶　3

▼ V字型の階段の記憶　6

吉永と川田という人物

▼ V字型の階段の記憶　13

海軍軍令部について

▼　パール・ハーバー　シリーズ

ミラー・イメージについて

▼　東京駅暗殺事件~11

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

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米代川　天神荘と七座神社前

遠景にきみまち阪

Updated 2010.2.3

高松宮日記メモ:

〈リンゴの唄〉の秘密—エピローグ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

☆お別れ放送の前の日の行動は、そういう一連のドラマと連関させようとしていないだろうか？

高松宮宣仁は昭和天皇の巡幸について聞いたり話したりするために御所でなく、宮内省に出かけた。何か問題があったにちがいない。巡幸について調べてみると、8月5日から19日に行なわれた東北巡幸のことだった。天皇は常磐線で行き、仙台や盛岡、八戸、弘前、大館、鷹巣、秋田、新庄、山形、福島など各地を回り、そして、那須御用邸で巡幸を終えた〔1〕。この巡幸は戦争で国民に迷惑をかけたことをわびて励ますのが目的だったという〔2〕。しかし、秋田県では7月と8月の洪水の被害が大きく、天皇は12日大館駅前と鷹巣駅前での歓迎式典で挨拶したが、そのあとスケジュールが狂った。

二ツ井の女学校に通っていた母は、鷹巣駅前で日の丸の小旗を振りながら歓迎して小繋に帰った。母の母親キンさんは天皇に再会するのを楽しみにしていた。1937年(昭和12) 天皇が七座(ななくら)営林署の天神貯木場を視察して天神荘に宿泊したとき、きりたんぽを作って歓迎した想い出がある。しかし、天皇は二ツ井駅を素通りして天神貯木場ときみまち阪、天神荘に立ち寄らなかった。公の記録では大雨のせいで、ということである〔3〕。

高松宮の話とは、怒りをこめた非難だったと思う。つまり、〈陛下がきみまち阪と天神荘に行くのを、なぜ中止したのか？〉…天神荘ではキンさんの弟長谷川喜之助と妻ハルと養子秀之が待っていたはすだ。そして、長谷川テルのその後について話をすることになっていた…喜之助とテルの関係の線はまだ明らかでないが、高松宮がみずから天神荘を訪れるのは、それから2年後のことである。

☆ H

1　天皇戦後巡幸鉄道区間HP

2　日本の心をはぐくむネットワークＨＰ

3　能代市役所資料

▼　天神荘と何か重大な事実

▼　天皇と皇族の天神荘ものがたり

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

東大館駅前

Updated 2010.3.7

高松宮日記メモ:

御所でニュース映画を

昭和21年　1946

5月2日

御所。以前ニュース映画は警視庁に検閲の日に持ってきてご覧になり、それをご一緒に見ていたが、爆弾がひどくなりあまりできなくなった。それ以来両陛下とお話しする機会がなくなったので、映画がなくても一週に一度ぐらいはと言っていたが、ちっとも実現せず、やっと先週から始まった。

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆ニュース映画という新しい単語は戦争の足音とともに日記に出るが、それ以外には書いていないので、うっかりメモを取らなかった。しかし、電気機械が支える現代生活の象徴的なシーンは、考えてみると、御所という孤立した空間の中に現実とは異なる《現実》を映し出す時間でもあったにちがいない。天皇と皇族はニュース映画の意図的な劇化や事実偽造を見破れただろうか？悪賢い陸軍がフィルムに秘密のメッセージを入れなかっただろうか？

宮様は、終戦後やっとニュース映画の上映に関することを語った。情報がもっと必要だ、と不満に思う。

☆　H

▼　V字型の階段の記憶 7

▼　偽装事故と特殊話法

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

アトリエ

Updated 2010.3.7

高松宮日記メモ:

生の感触---

ある画家へのリンクと、それから

昭和20年　1945

12月22日　

1030　龍村の陳列館(元東郷青児アトリエ)が最近できたので、見に行く。アメリカ側より先日見に来て、古代布の意匠をよいと言ったということだ。これは戦前(アメリカ人が)ついに了解しなかったものである。すなわち傾向として落ちついた気分の出るものを家庭で要求しようとするものと、〈ベルベット〉流の深い色の変化と織物の重さなどによる垂れる趣きを欲するようなものと。そして、�@騒がしい街から帰った室内と、�A郊外に逃避したバンガローの生活と、�B---に金をかけて楽しもうとする。(略)

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆龍村とは、編集者の注記によれば、京都の龍村織物美術研究所のことである。大正末期に帝室博物館から正倉院御物の研究と復元を委嘱されたのが始まりで、日本と世界のさまざまな古代織物の復元を手がけた。その中には有栖川錦と呼ばれる中央アジア風の幾何学模様の織物がある。

高松宮は伝統的な美術で日本に対するアメリカ人の認識を少しでも変えようとした。野蛮なサムライが文化を壊しまくるドラマは終わった。皇族特有のセンスは終戦後の廃墟で生の感触を味わっている。

龍村の陳列館に改造されたのは東郷青児のアトリエだった。井の頭線沿線にあったのかもしれない。東郷青児はその日だけ名前が出るが、高松宮は美術を愛する自由人だから、会ったことがないとは思えない。そして、このリンクは勝手気ままに山本嘉次郎監督がいる映画製作の現場につながる。

今日は二科会の会長東郷青児にかわいがられたジャニー・アンダースンの命日なので、あえて関連する日記の記事をアップロードした。

☆　H

Cat willow 2009.2.28より。

この記事に関する会話

▼　終戦後の生の感触

▼　浅草→京橋→赤坂→渋谷　1939年　メトロの連想

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Updated 2009.9.16

東大館駅前交差点

高松宮日記メモ:

秘密にされた

マッカーサーの日本語廃止計画

昭和20年　1945

10月17日

下村宏。

1 近衛、木戸はともに開戦当時の責任者である。

(略)

4　カナ文字使用はローマ字より一足先に奨励するべきものである。

昭和21年　1946

3月6日

日本語改善の話。

5月12日　

(略)

夜、松坂忠則。カナモジ会の話を聞く。カナモジ会はただ漢字を制限する態度。私としては漢字乱用時代の前に立ち戻って日本語の復興をやるとともに再び漢字を用いないですむようにやっていきたいと思う。すなわち漢字を止めた穴埋めの語を英語等でやらずに日本語の本来の表現を活かしてゆきたい。そのために国語学者の研究を必要とすると考える。

　 [現代風に書きあらためた。]

☆アメリカ人ウィリアム･マンチェスターが書いたマッカーサーの伝記には、気になる一言があった〔1〕。日本占領の前マッカーサーは日本語を廃止しようと考えていたというものだが、東京のGHQ時代にはそれに関するようなことは見出されない。しかし、そう考える動機はよく分かる。日本の国家権力は言語の発音と表記法およびレタリング(書体)を支配の道具に悪用した。それが戦前から国際的に秘密のメッセージ送信として使われていたことを理解して、幸運だった。

マッカーサーは天皇に関しても厳しく利用する意思を持っていたので、日本語廃止計画も悲惨な廃墟に消滅したのだろう。そう思っていたが、日記には日本語廃止案を突きつけられたような話が出る。

下村宏とは朝日新聞社副社長、日本放送協会会長、終戦時の情報局総裁である。英語よりは日本語のローマ字表記ではだめか、いや、それよりはカナ文字の方がいい、シナではやりすぎたな、とか何とか対応に悩んで代替案を言い合っている様子だ。この問題で大事なのは、下村その他情報関係者の手で日本語廃止計画が歴史の闇に葬られたことである。民主主義と平和のために理由を教えなくてはいけないのだから。

☆　H

1　ダグラス・マッカーサー AMERICAN CESAR

by William Manchester

copyright 1978

この記事に関する会話

▼　日本語の表現に関する責任

▼　環境サイン問題

▼　東京駅暗殺事件

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小坂町　明治100年通り

Updated 2010.3.7

高松宮日記メモ:

近衛文麿が真実を話していたら!

昭和20年　　1945

10月4日

政治犯人釈放、内大臣以下警察部長全員罷免、特高警察、思想政治犯法令廃止指令。

10月5日

東久邇内閣総辞職。

10月10日

マッカーサーは外相に〈憲法および議員法の改正は必ずやるべきだ〉と。

マッカーサーは近衛に〈近衛みずからフロントに立って憲法改正あるいは次の内閣をやるべきではないか〉と。

10月17日

下村宏。

1 近衛、木戸はともに開戦当時の責任者である。

[略]

4 カナ文字使用はローマ字より一足先に奨励するべきものである。

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆GHQの指令は東久邇稔彦(なるひこ)による初の皇族内閣を総辞職に追いこんだ。右翼の反対で実行がむずかしいからである。10日幣原(しではら)喜重郎内閣が発足した日の日記には、ヒューマニズムと民主主義にかけるマッカーサーの強い決意が示されている。それが同日の出来事だとすれば、外相は吉田茂。近衛文麿は東久邇内閣の国務大臣だったが、マッカーサーは元首相の政治力か知性を惜しんでいたようだ。

1週間後、終戦時の情報局総裁下村宏が近衛を開戦当時の責任者と決めつける。近衛内閣でなく、次の東条英機内閣がアメリカを世界大戦に引きずりこんだのだから、これは明らかな間違いである。　　　

しかし、近衛文麿は12月極東国際軍事裁判のA級戦犯容疑者のリストにのり、16日自殺した。昭和天皇に戦争責任が及ぶのを恐れたという通説は、信じがたい。近衛が真実を話せば、彼の戦争責任は免れないが、連合国による天皇の責任追及論は容易に避けることができたにちがいない。自殺は反近衛的な行為である。

☆　H

▼　秘密にされたマッカーサーの日本語廃止計画

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Updated 2014.1.1

高松宮日記メモ:

ソ連兵が日本人女性たちを性的虐待？

昭和20年　1945

9月28日

1400宮内省、情報会(終戦連絡事務局　太田三郎第三課長)　1630帰る。

1900済生会(鈴木信太郎常務理事、救療部長飯村保三、会計部長戸田信義、庶務部長日向貞)

1

風呂屋町大火発生地点

通常議会前に総辞職[東久邇内閣]。もし仕事をやるとすれば、幕僚強化が必要だ。

2 小畑[敏四郎]国務相のみ仕事をやりたいと考える。

朝鮮北部で強姦。(南下の途上のソ連兵に1日数回強姦される。[略])

くじ引きで性交を提供する。日本内地人のみに強制する。[略]

10月23日

靖国神社例祭。[略]

MC[マッカーサー]司令部で靖国神社をなくそうという考えがあるそうだ。昨今雨中で参拝者が多数あることなど、MC司令部の認識を改めさせるべき国民的祭事を証明することができたはずだ。これを軍国主義の表兆とは言わないはずだ。

情報会(遠藤柳作[朝鮮総督府政務総監]、朝鮮事情)

[略]

0815厚生大臣、戦災援護に関する放送を私にしてくれという話。承諾する。[略]

朝鮮北部に侵入したソ連兵は白昼街道で通行中の婦女を犯す。汽車が通らないため歩いて来る途中、一日数度強姦された。二人の娘をともなう老婦人はこうして上の娘は妊娠、下の娘は性病にかかる。元山か清津では慰安婦の提供を強いられて人数不足なので、くじ引きで決めた。日本婦人の全部が強姦された。強要されて自殺したものも少なくない。男女は別にされて、男は労働させられる。知事その他の高等官も道路清掃などをさせられつつある。幼児の死亡も少なくない。満州より南下する列車もほとんどピョンヤンに止められ、悲惨な光景が現われている。その他の地は、それから推測して理解できるだろう。

[]HHJ注記

[現代風の文章に書きあらためて、曜日と天気を省略した。]

☆9月27日、昭和天皇は第一生命のGHQ総司令部でマッカッサー元帥と会談した。その翌日の日記には敗戦国の底辺の悲惨な一面が書きとめられている。朝鮮北部で日本人の女性たちがソ連兵から非人間的な性的虐待を受けた、という話は信じられることだろうか？

似たような事実を今まで聞いたことも読んだこともないので、敗戦まで日本軍がソ連や中国などの女性に対して実行していた人権侵害作戦の裏返しのように思えた。終戦連絡事務局のデマだろう。

しかし、高松宮は懐疑的な表現を使っていない。これは朝鮮北部のニュースよりもショッキングだ。性的な事柄がどれほど知性に対して激しい影響力を持つか、日本軍はよく研究していた。資源の乏しい国がひそかに頼ったのは、生物化学兵器と心理戦だった。

1か月後、もう一度、もっとリアルに朝鮮北部の悲惨な状況が出る。朝鮮総督府政務総監が話した朝鮮事情の一部らしい。しかし、朝鮮人の女性たちが被害を受けたかどうか、焦点が当てられていない。慰安婦は日本人の女性である。このストーリーは日本人の生物的な怒りをあおる目的ではないか、と疑っていい。背景には当然ロシアに対する深いパトスがある。自由、平等、人間愛、個人の尊重、民主主義、ヒューマニズム、そういう言葉を使えない人間たちのパトスである。

海軍軍人としての経験も豊かな高松宮がそれを信じたのは、なぜか？話し手が割に信頼できる人間で、偽造写真と偽造映像を見せられたから、だろう。この想像は満州で開発したかもしれない極秘のハイ・テクノロジーにリンクする。

　高松宮は9月28日付けの人権侵害の概略を10月23日付けでリアルに書きあらためている。これは、最初に話を聞いたかレポートを読んだとき事実関係に不信を示したことを暗示すると考えていい。それで証明資料が必要になったのだろう。

　高松宮は朝鮮半島に行ったことがあるか？海軍の任務で行ったかどうか、明らかでないが、朝鮮半島に関する記述は印象に残っていない。満州には一度視察旅行した。

靖国神社をなくす案はおもしろい。実現していたら、宗教臭さが消えていたにちがいない。

☆　H

▼　List 3 高松宮日記メモ ; 御所でニュース映画を

見せかけの中立の裏で

▼　List 2 日本とロシアの関連記事 ;

誰かの変装で悪いことをしたら

写真雑誌〈フロント〉

▼　東京ローズとNHKの裏面

満州帝国の最新装置

▼　List 1 V字型の階段の記憶;

6 エスペラントで話したレポート

14 川向こうのソ連軍に対する謀略放送

Updated 2014.1.1

高松宮日記メモ:

運命を共有する人間

昭和20年　1945

8月30日

夜、御神楽があった。

9月27日

午前十時、陛下にはマク(マッカーサー)元帥御訪問。

半地下のスタジオ

撮影。それから約15分MCはひとりで語る。〈戦争の破壊力は極めて大となった。今後の戦争は勝敗いずれともはなはだしい損害を受けるにちがいない。陛下は実によい時機に戦を止められた。〉

陛下は〈戦争にならないように努めたが、及ばなかった。〉MC〈一人の力ではどうともならないことがある。〉陛下〈自分も国民も十分に戦敗を認め知っている。〉MC〈陛下は一番日本国と国民をご存知の方である。今後お考えのこと、重大なご心配があれば、極秘裏に伝えられたい。マッカーサーは一人で十分考えて協力する。〉(略)

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆連合軍最高司令官マッカーサー(Douglas MacArthur)が厚木基地に降り立った日、御所ではお神楽が催された。

祈りが天に通じたらしく、1か月後第1生命ビルのGHQ本部でマッカーサーは運命を共有する人間として天皇に語る。あのような戦争を遂行した帝国の不思議な実体を理解している。〈一人の力ではどうともならないことがある〉とは、天皇がいつからか孤独に何度も感じたことだ。

マッカーサーは戦争中から〈悪いのはシステムだ〉と見抜いていた〔1〕。これが憲法その他のショッキングな改革につながる。

☆　H

1ダグラス･マッカーサー AMERICAN CESAR: William Manchester copyright 1978

▼　List 1 マッカーサー･ノート;

Aマッカーサー憲法の原案から草案まで　

Bマッカーサー憲法の原案と草案の違い

Updated 2011.2.3

大館橋

高松宮日記メモ:

ホームメイドの

アイス・クリームは

宮様のアイディアか？

昭和20年　1945

8月26日

秩父宮様に電気冷蔵庫をひとつとどける。

[現代風に書きあらためた。テーマに無関係な文と曜日などは省略した。]

☆16日東久邇宮稔彦親王が皇族首相になる。東久邇宮の回想によれば、フランスに遊学していたときパリの占い女が予言したことだった。

高松宮宣仁は御殿場の別荘で肺炎の療養生活を送っている兄の東久邇宮に電気冷蔵庫をとどけた。たぶん戦後普及したタイプの電気冷蔵庫ではない。そういう電気冷蔵庫が日本ですでに製造販売されていたかどうか疑問だが、東京が廃墟だったとき、これはどこで手に入れたのか？

思い当たるのは、長谷川木工所が戦前から旧式の電気冷蔵庫を製造していたことである。木の箱の上部に氷を置かなければ、よく冷却できない電気冷蔵庫だった。大館には空襲がなかったので、そう不思議な話ではない。

ともあれ、おもしろい類似がある。母の想い出話では、1950年大館橋のたもとに長谷川食堂を開くとき、菓子店山田桂月堂の主人がアイス・キャンデーとアイス・クリーム製造機を持ってきた。桂月堂が共同経営でやらないか、と言うので、食堂に置いて売ることにしたが、次の年から食堂だけで経営した。ホームメイドのアイス・キャンデーとアイス・クリームは、びっくりほどよく売れた。

ぼくの記憶では、これは横長の本格的な製造機だった。それが宮様のアイディアだったとすれば、想い出の味はなおさらおいしくなる。

☆　H

秩父宮と大館橋の関係について

▼ V字型の階段の記憶　21

▼ V字型の階段の記憶　22

▼ V字型の階段の記憶　23

▼ V字型の階段の記憶　24

山田桂月堂

▼　キューピーと明けがらす

長谷川テルに関するシリーズ記事

▼　V字型の階段の記憶

▼　秩父宮の病気と天皇の絶望

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

田町球場

Updated 2010.2.19

高松宮日記メモ:

1945　終戦までの影のストーリー---a

高松宮日記

昭和20年　1945

7月4日

1800国際文化振興会の人を招いて会食。(徳川頼貞、他。略)

私は、日本が今まで武力を背景にしてきたのが、今後はやはり文化で外国に向かって言わねばならない、速やかに戦争終末の仕事に準備をせねば間に合わない(と言った)。(略)

7月12日

高木少将の話では、天皇陛下はソ連への特使派遣を催促した。

7月14日

アメリカの機動部隊の飛行機が郡山、松島、函館、青森を空襲。青森では駆逐艦1、連絡船2沈没。

[7.16原子爆弾の実験成功　7.26　ポツダム宣言]

7月28日

B-29、青森空襲。

7月31日

大蔵男爵、イタリアが宣戦布告したので、日伊協会総裁を辞退する。

[イタリア宣戦布告 7.14]

　[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆日記には沖縄が出ないが、6月23日沖縄戦が終わったあと、一種の空白感がある。終戦までの時間が迫ってきたのだ。高松宮が文化を強調したのは新しいことではない。しかし、すみやかに戦争を終わらせなければ間に合わないという話し方には激しい焦燥が感じられる。遅れたら、どうなるのか？これは天皇がソ連に特使を派遣しようと指示したこととパラレルである。常識的に考えて、目的は中立関係にあるソ連に依頼してアメリカとの戦争を終結させることだろう。ソ連はまさか連合国を裏切ることはできないので、前に日本政府のそういう交渉を断っていた。敗戦後の日本の頭脳はそれに対する逆恨みを持っているが、大人げないことである。天皇の特使派遣工作は誰かに邪魔されていたが、その経緯を知らなかったのか？知りながらソ連に希望を見出そうとしたのか？ミッドウェイの敗北後に高松宮は満州をソ連に譲って戦争を終わらせる案を書いていたが、いつでも何でもロシア、という調子なのがおもしろい。

日本が墓場の島になってもかまわないと思うのはニヒリズムである。原子爆弾は16日実験に成功した。それは秘密の開発計画だったが、完成してしまえば、終戦の実現のために敵国にそれとなく知らせるという手法もヒューマニズムにかなって効果的だろう。外交的には、26日連合国は日本に対するポツダム宣言で無条件降伏を勧告した。

青函連絡船は７月11日から本土決戦のためにおそらく軍需物資をも運んだ。〈国内戦場化に伴う運輸緊急対策に関する件〉が鈴木内閣の閣議で決定されている[1]。14日の攻撃は下北半島に接近した空母から行なわれた。28日の空襲は夜大館から見えたと聞いたことがある。イタリアの宣戦布告は、歴史愛好者にもショックである。

☆ H

連載 cat willow 2009.~

1 青函連絡船空襲 HP
青森空襲を記録する会　

▼ 1945.8.9 悪夢を正しく解釈すれば

▼ 1945.8.6 書かれた歴史

同盟国の裏切り

▼　日本とアメリカの新防衛協力; 不信のガイドライン

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

∫∫∫

JR下川沿駅

Updated 2010.2.3

高松宮日記メモ:

1945　終戦までの影のストーリー---b

高松宮日記

昭和20年　1945

8月2日

1800 華族会館で映画《風とともに去りぬ》をやる。見に行く。

8月5日

1310海軍省発。連合艦隊長官一行のDC3で1530厚木発。1705松島航空隊着。(略)[原注:長官　小沢治三郎]

8月6日

広島空襲で李鍝公が戦傷、翌7日薨去。

8月9日

700有馬大佐より0400サンフランシスコ放送でソ連が対日宣戦をした旨の電話。

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆有栖川宮を継承した高松宮宣仁は当然ながら芸術的な感受性にめぐまれて、さまざまな芸術に深い関心を持っている。しかし、真夏の暑い夕方、自動車で行ったと思うが、九段下の華族会館にわざわざ行って総天然色のアメリカ映画を見たのは特別の理由からだろう。日記では御所か高輪の自宅でしか映画を見たことがない。これは天皇と皇族の特権と考えていいが、選ぶ権利がどれほどあったか、アメリカ映画の上映は一度も記録されていない。華族会館での上映はその日がはじめて。

《風とともに去りぬ》の主演スター、クラーク・ゲイブルと妻の名前は海軍の情報ファイルに入っていたと思う〔1〕。女優のキャロル・ロンバートは、1941年パール・ハーバーの悲劇の前にヒッチコックの映画《スミス夫妻》に主演した。イギリスの反日的な映画監督はロンバートから借りた家に住んでいた。〈パール・ハーバーを忘れるな〉の合言葉で、1942年1月ルーズヴェルト大統領の支持者として戦時公債の募集を手伝ってツアーに出たが、16日インディアナポリスから帰る途中乗っていた飛行機がラスヴェガス郊外の山に激突した。貴族的な美人女優と彼女の母、ゲイブルのマネージャーが死亡した。風とともに去った、というのは悪いジョークである。その映画を選定したのは陸軍と情報局か？

5日、高松宮はアメリカ製のDC3で宮城県の松島に飛ぶ。島が点在する松島湾の風景は印象的だっただろう。それは慣れしたしんだ瀬戸内海の島々と海に似ている。広島が原子爆弾で廃墟になり、李王家の李鍝（イ・ウ）公が死んだと聞いたとき、高松宮は見たばかりのアメリカ映画を想い出したのではないか？皇族待遇の李鍝公は何度か日記に名前が出る。

長崎への原子爆弾投下に関して、日記は沈黙している。これは期待はずれだった。

7月から天皇と会って話し合うのを予想したが、高松宮が批判するようにそれは一度もなかった。

☆ H

1 東京駅暗殺事件~8

▼　1945.8.6 書かれた歴史

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

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アトリエの庭

Updated 2010.2.3

高松宮日記メモ:

1945　終戦までの影のストーリー---c

高松宮日記

昭和20年　1945

8月11日

明日1500御所に各皇族をお召しという。

夜中の警報で原子爆弾を持ってくるとの予報があったが、来なかった。

山本大将が戦争を早く止める必要があるという意見書の写しを持参する。

昨夜御前会議決定、御親裁があった、と軍令部一部長が告げる。これが初耳だった。

皇族集まり、外務大臣から経過一般を聴く。三笠宮、朝香宮、東久邇宮、他。

8月12日　

講和に関する解答文の放送がある。

1500 吹上大本営防空壕で皇族集合。陛下より今回の決心を示される。

皆国体護持の思召しにそってつとめると梨本宮が答える。

大西次長が、ぜひ戦争継続のように取りはからってくれ、と話しに来邸する。

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆アメリカは原子爆弾を3個製造した〔1〕。実験で1個使用したので、広島と長崎の他には犠牲にならないはずだが、11日夜東京かどこかに原子爆弾が落ちるという警報が出された。これはまだ原子爆弾があると考えられていたことを示している。スパイによる情報か、アメリカが終戦の決意を急がせるためにそう思わせたのか？しかし、それよりも疑問なのは避難命令が出たかどうか、ということだ。

ポツダム宣言の受諾は、日記にあるとおり10日未明御前会議で決定した。天皇の聖断で最終的に無条件降伏に同意した。高松宮は〈初耳〉と書いて、別に意見を記さない。

連合軍への受諾の通知は中立国スイスとスウェーデンの日本公使を通して行なわれた〔1〕。12日の放送とは、それに対するサンフランシスコ放送による連合国の回答の放送である。そのあと天皇は防空壕の中ではじめて皇族に重大な決心を告げた。

高松宮には海軍の軍人と皇族の二面性がある。自分の主義に反する戦争だから、敗北だろうと、終戦は宮様の勝利である。現実の構図を浮き上がらせれば、高松宮は有栖川宮の継承者としての自覚を次第に強めて、明治維新のときのように徳川派との戦いに勝ったのである。

気楽な宮様は、高輪の光輪閣に帰って再び戦争のドラマに連れ戻される。軍令部の大西瀧治郎次長が来て戦争の継続を要求したのだが、大西は1939年5月から中国の臨時首都重慶(チョンキン)の爆撃を指揮した海軍の冷酷なサムライだった〔2〕。チョンキン放送局のアナウンサー長谷川テルは今どうしているのか？〔3〕

☆ H

1　wikipedia
2　戦略爆撃の思想:前田憲男
3 →Ｖ字型の階段の記憶　3

▼ 1945.8.9 悪夢を正しく解釈すれば

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

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アトリエの庭

Updated 2010.2.3

高松宮日記メモ:

1945 終戦までの影のストーリー

1946 ---エピローグ

高松宮日記

昭和20年　1945

8月14 日

0800~(空白)

[降服に反対する陸軍将校によるクーデター　宮城事件][御前会議。天皇が玉音放送を提案。]

8月15日

御殿場へ。(略)

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆14日は編集者の注記のとおり空白である。これは前例がない。

終戦に関する動きを描けば、サンフランシスコ放送による回答について御前会議が開かれ、天皇がみずから国民に語りかける決意を示した〔1〕。有名な玉音放送である。しかし、宮城と周辺では降服に反対する陸軍将校グループが絶望的なクーデター騒ぎを起こした。高松宮が暇だったとは思えない。15日は病気療養中の兄秩父宮に車で会いに行った。終戦の報告のためだろう。

高松宮日記を読んだ理由は、天神荘と長谷川テルに関する何かがあると考えたからである。収穫は少なくなかった。暗号的な記述のように直観的に見えたものでも、〈リンゴの唄の秘密〉の出来事でも分かるようにあとであいまいさが薄れた。皇族が〈売国奴〉アナウンサーの活動を支援していたとすれば、センセーションを巻き起こすけれど、世界平和と人間の尊厳のためである。それはいつか書いてみたい。

☆ H

1 wikipedia

▼〈リンゴの唄〉の秘密

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2011.1.7

大館市民文化会館　公民館　駐車場

高松宮日記メモ:

沖縄戦が終わった日に

〈ヂャズかダンス曲の方がましだ〉

昭和20年　1945

6月23日　

長谷川かず雄の舞踊はとても人気だった。

軽音楽は私にはどうもあまり好きになれない。〈ヂャズ〉か〈ダンス曲〉の方がましだ。

猫八は面白いし上手だ。

女子の舞踊はすきだ。

[現代風に書きあらためた。テーマに無関係な文と曜日などは省略した。]

☆この日、沖縄守備軍司令官牛島満中将と参謀長長勇中将が摩文仁(まぶに)司令部で自決して、沖縄戦が終わった。司令部といっても、最南端の海岸に面した断崖の洞窟で、戦後は観光旅行のコースだった。高松宮は陸軍のクーデター・マニア桜会メンバーの長勇について、1940年10月20日こう書いていた。[長大佐のこと。やはり済南事件の火元みたいな人は変わらない札付きである。]

高松宮はサイパン陥落のあと戦況報告を書かなくなったが、沖縄戦についても触れない。そして、6月23日には舞踊と音楽など芸能話を最初に持ってきて上欄に書く。長大佐の死と終戦の期待で、幸せな気分なのか？陸軍幕府に対するブラック・ユーモアなのか？本土決戦よりも芸術文化が大事だと宣言しているのか？

　しかし、舞踊と音楽などの芸能話は次のページでその日開催された東宝の慰問演芸会のことだと間接的に知らされる。演芸会の主催者は映画制作会社東宝か？いずれにしても、沖縄戦の情報が届いているはずだから、これはどうも複雑だ。

　長谷川かず雄とは1937年東宝に移ったとき林長十郎から本名の長谷川一夫に名前を変えた美男俳優である。1938年に山本嘉次郎監督の《藤十郎の恋》に主演した。高松宮はわざとらしく苗字だけを正確に書いている。これは落語家2代目江戸家猫八の本名が長谷川栄太郎であることを思うと、なおさら長谷川テルに関する何か秘密のメッセージを残すような記述である。

軽音楽はどんなジャンルを言うのか、分からない。戦後は軽音楽と言えば、舶来のポピュラーとジャズのことだった。

☆　H

長谷川テルに関するシリーズ記事

▼　V字型の階段の記憶

▼　南京の声: ラジオ放送のトリックか？

▼　上海—東京　悩めるハムレットのような毎日

▼　都鳥と上海事変

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2010.8.17

アトリエの庭

高松宮日記メモ:

1945 悪夢を正しく解釈すれば

昭和20年　1945

1月31日

この頃食事に〈はたはた〉が2匹づつ日に1回は出る。秋田の魚で大漁らしい。

2月25日

宮城に初めて爆弾落下。

5月3日

上島慶徳、新爆薬〈四鉛化ウラン〉などを政府に提唱。〈ウラン・鉛・ラヂューム〉とつながるものだけに偉力がある。[要点]

5月27日

電灯、電話、水道、ガス、まったく来ない。都電もまったく不通。これでは帝都の機能がほとんど断たれる。

　　　　　　　　　[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆語源を知る人は秋田の魚〈はたはた〉がそこに出ることに動揺するだろう。しかし、それには触れないで、原子爆弾のストーリーに移る。上島という人物は大華鉱業社長。新爆薬はそれまでとは次元が違う性質の爆弾である。〈ウラン・鉛・ラヂューム〉と化学反応を起こす。

原子爆弾の開発計画との連関を疑わせる記述は、それが最初ではない。有名な仁科博士や湯川博士の名前、そして、陸軍がウランの話をしたという簡単なメモがあったが、PCのファイルが消えて日付が分からない。ともあれ、敗戦を予期したミッドウェイ戦以後のことである。

新爆薬は三つの事実を想い出させた。

★《戦後秘史》の対談で右翼のボス児玉誉志夫が失言して、ラジウムの使用について触れた。識別のために高射砲の弾丸に塗ったものだと言い訳したが、裏を疑わせた。[1]

★硫黄島で奇跡的に生き残った兵士が、2月のスリバチ山占領後の戦いで一度すごい爆弾が落ちたのを見た。アパート一軒が入るほどの穴が開いたという。アメリカのアパートだから3階建て以上の高さだと想像する。[2]

★2年前だったか、TBSのニュースサイトの連載〈インテリジェンス　EYE〉によれば、戦争中日本で原子爆弾の開発計画が進められていた。朝鮮半島北部のウランを利用したのではないか?しかし、具体的な事実と文献資料については記されていない。[3]

今日は長崎に原子爆弾が落ちた日である。B-29は〈Necessary evil 必要悪〉と名づけられていた。アメリカ人の自覚なアクションは、それと反対の〈聖戦〉に対する嫌味だろう。若いとき理解できなかったが、要するに逆手に取った報復なのだ。

しかし、超国家主義者がそれでも戦争を止めようとしなかったのは象徴的だ。内外の区別なく国民を個性のない動物扱いにして激しく憎んでいたのでなければ、何なのか?彼らはナチス・ドイツと連携しながら恐怖を売り物にして、その結果、地球を吹き飛ばしかねない恐怖の霊を日本に招いてしまった。敗戦後、超国家主義者は原子爆弾の被害を善の証明のように宣伝したが、狂った論理である。　

広島と長崎の市民は複雑な思いだろう。いけにえとして選ばれたのはなぜか、文化の遅れた地域の人々に代わって答を探さなければいけない。悪夢を正しく解釈すれば、悪夢は消えるはずである。

☆ H

1大森実　当時毎日新聞記者

2 IWO 地獄の戦場

by Richard Wheeler copyright 1980 出版:恒文社

3 ジャーナリスト藤村幹雄

▼　ヒロシマ・ナガサキ---ただ人間愛があれば、それでいい

▼　ヒロシマ・ナガサキ---〈戦争は終わったのであり、そっとしておくべきだ〉

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2009.10.6

アトリエの庭

高松宮日記メモ:

日付の問題

昭和19年　1944

8月9日 木

北白川宮のおば様が来る。時局の心配。皇族がしなければならない案がないか。7.7に天皇に話した。ご自分でやる思召しが大切と言う。お上は、どうにもならないのだ、と答える。少し工作したが、まずく行った、と言う。

　 [現代風に書きあらためた。]

☆6月末アメリカ軍のサイパン占領で敗戦が決定的になった。日記には新型爆撃機B-29から東京を守る防空対策の記述が増える。北白川宮のおば様房子妃と昭和天皇の対話は日記では初めて。皇族と協力して危機を切りぬけるように要望したのは当然のことである。しかし、おば様の他に言える人がいなかったというのは天皇制の舞台裏を暗示する。

日付の問題はそこにもある。7.7に天皇に会って話したというのは、女性らしく七夕伝説を想い出させるが、それがランデブーの目的のひとつだろう。高松宮はそれを書き忘れなかった。

8月9日の出来事は、ちょうど1年後の長崎原爆投下にリンクする。北白川宮のおば様は経験的に祟りを信じておびえる女性である。この偶然もやはり別の世界を考えさせる。

☆ H

▼〈たたるから嫌だ〉と北白川宮のおば様が反対

▼　4と14の歴史　有栖川宮家

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2016.7.16

高松宮日記メモ:

大館橋

中国から北九州に

B-29の〈あいまいな爆弾〉

昭和19年　1944

6月15日(木)　曇り

防護団2名と警官1名が夜勤に来た。食事がないので、我が家で食べさせた。

0830　軍令部に行く。1820　帰る。〈サイパン〉に敵が上陸を開始した。硫黄島が空襲された。兵備局長が次官に

〈あ号作戦〉の機会は予備戦力の整備と海軍重点戦備などの当分ない機会なので、大臣総長が一人でやる効果を発揮できるようにはっきり陸海軍の腹を決める必要があると語る。

1730　警戒警報(第1種)発令。

2300~0100 北九州と南朝鮮にアメリカ(支那)機が来襲して、あいまいな爆弾を投下した。

6月16日(金)　曇り

防護団と警官。0830　軍令部に行く。1820　帰る。〈サイパン〉を敵が占領したが、追い落とすことができず1日経過した。我が軍は大砲がなく、心もとない。

[略]

(19.6.16)[注によれば、日記の第16冊巻末、昭和19年の最後に記されているので、日付どおりに並べた。]

初めて出現したB-29。九州で夜間撃墜した1機は、陸軍双発戦闘機が敵機の下に入ったので、B-29はだんだん上昇舵を取り、ついに失速したようになって墜落した。銃撃したものの効果がなかった。もう1機は、双発戦闘機がうしろから追跡したのを敵機は左右に回避運動したが、何とか追尾して初めに外側の発動機をねらって射撃、次に内側の発動機を射撃して、発火させたので、墜落した。

[現代風に書きあらためた。]

☆アメリカ軍は、マリアナ諸島のサイパン島とテニアン島、硫黄島を同時に攻撃した。兵備局長(原注:保科善四郎中将)は、マリアナ沖海戦の計画〈あ号作戦〉について語った。予備戦力の整備と海軍重点戦備が当分ない状況なので、東条英機首相(兼陸軍大臣、参謀総長)が一人でやるとすれば、効果が上がるように陸海軍は覚悟を決める必要がある、と。この海戦は、日本側の作戦文書がアメリカ軍の手に入って惨敗に終わり、サイパン島とテニアン島を奪い返す可能性がなくなり、日本の敗戦が決定的になった〔1〕。

アメリカ軍がマリアナ諸島を攻撃した日の深夜、高松宮は予期しなかった事実を書きとめることになる。午後11時から16日午前1時のあいだに〈北九州と南朝鮮にアメリカ(支那)機が来襲して、あいまいな爆弾を投下した〉というのだ。アメリカ(支那)機とは何か？アメリカ軍の爆撃機と中国軍の爆撃機か、識別できなかったか、あるいはアメリカ軍のB-29爆撃機が中国奥地の成都から飛び立って日本列島に来ることが信じられなかったのか？それ以上に分かりにくいのは〈あいまいな爆弾〉という表現である。北九州と南朝鮮の現地からの情報が〈あいまいな爆弾〉と伝えたのか？未知の爆弾や新型の爆弾をそう呼んだのか？

6月15日と16日の日記は、重要なことを書いているが、なぜかメモには一言も記録がなかった。成都(チェンツー)からのB-29北九州爆撃を想い出して、あらためて日記のページを探した。すると、〈あいまいな爆弾〉とは近年ジャーナリズムがときどき焦点を当てる〈パンプキン爆弾〉のことじゃないか、とイメージのリンクが結びついた。長崎に投下したファットマン型の爆弾で、練習用の模擬原子爆弾と言われているが、マリアナ諸島上陸作戦とのタイミングから見れば、予告爆弾ではないか？

B-29の最初の爆撃については、たぶん軍令部の文書にもとづいて、年末にリアルに書いている。2機とも八幡製鉄所のある北九州爆撃のように思える。被害は明らかでない。

☆　H

1 wikipedia

この記事のプロローグ

▼　B-29が中国から飛来していたら？　+

▼　B-29が中国から飛来していたら？

6.15の古い記事　その後の展開

▼　昔どこかで見たようなクーデター計画

▼　東京に爆弾！？

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

大館橋

Updated 2009.11.19

高松宮日記メモ:

昔どこかで

見たようなクーデター計画 　

昭和19年　1944

6月15日

サイパン島に敵(アメリカ軍)上陸開始。

6月20日

0830　軍令部。戦況が詳細にされない。好ましくないものがあるのは明らかだ。殊にサイパンの問題は重大な致命的のことだ。

☆有栖川宮を継承した高松宮宣仁海軍大佐は世界大戦の情報を受信傍受する軍令部に勤務していた。日記には戦況がリアルに書き込まれている。潜水艦の活動の記述は非常におもしろい。ところが、サイパン島の戦いでは内部でさえ明確な情報が知らされない。

6月22日

天皇に、サイパンを失うことの重大さに関して一言申し上げる。

☆天皇の弟の宮様だからいろいろ具体的な記述があるか、と思ったら、その日までは全然なかった。アメリカ軍が南太平洋のサイパン島を占領すれば、どうなるか？約2350キロ北の日本本土をB-29で空襲することができる。

6月23日

陸軍はサイパンの敵の追い落としに難色を示す。戦争の致命傷となるか。

6月24日

東久邇宮は、成算なき奪回はやらない、あと何んとかなるかもしれない(と言う)。

戦況記録を止める。[編集者の注; 最終ページ余白に次の記述がある。]

16-8-13　東京に爆弾を落とし戒厳令を布(し)き、軍政を樹立し、対ソ連戦に引き摺る。

武藤軍務(章少将、局長)、田中参本一部長、富永人事局長、池田純久、辻正信(中佐、参謀本部部員)(関与している)

東条(英機首相)、杉山(元大将、参謀総長)(暗黙諒解している)

(その他の人物…略)

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆関心がないことは省略した。アンダーラインを引いた注記は日記にある言葉である。

それから推理すると、この記述は陸軍によるクーデター計画の極秘情報である。帝都に爆弾を落とすのはアメリカ軍である、と思いこむ人がいるだろうか？こういう狂言芝居は封建的な日本の十八番で、危機的な状況で繰り返される無意識のパターンである。

対ソ連戦の計画を最後の最後まで断念しなかった執念にはあきれる。理由が明らかでない挫折は戦後の政治に悪い影響を残したようだ。

戦後、側近の細川護貞(もりさだ)は手記で高松宮が東条暗殺を計画したと告白したが、反対にクーデターで最初に狙われるのは高松宮だったと思う。これも古い手だが、手記はクーデター妨害の書き換えにちがいない。

☆　H

1 　wikipedia

6.15のリアルな事実

▼　中国から北九州にB-29の〈あいまいな爆弾〉

▼ 日ソ戦のプラン---1　2　3

▼　東京に爆弾！？

▼　日本とロシアの関連記事

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

大館橋

Updated 2016.8.21

高松宮日記メモ:

中国のB-29飛行場占領作戦

昭和19年　1944

4月28日(金)　春雨

0830軍令部。[略]

1745 三笠宮が来邸。すぐ帰る。[略]

〔上欄〕アメリカは最近西安〈ルート〉による対中国連絡に着目して、これに期待する傾向が著しく強まった、と陸軍は言う。アメリカは将来中国に関係することが非常に多くなる。中国共産党もアメリカの影響を大きく受ける。しかしながら、〈ヒマラヤ〉山系を通るのは寒気のためから見ても困難で、大きな輸送力を発揮するとは考えられない、と6課は言う。アメリカはやはり〈ビルマ〉ルートにして、送油管の併置工事をしている。そして、一挙に南中国に船舶輸送する必要があるとも勝手に言っている。

4月30日(日)　晴

[略]

〔上欄〕4-30密偵の報告では、B-29が成都近郊の新津(シンシン)飛行場に2機ある。その後暗号解読によれば、2機、ついで3機あることは確実である。

[現代風に書きあらためた。]

☆1943年8月の第1回ケベック会談でルーズヴェルト(Franklin Roosevelt)大統領とチャーチル(Winston Churchill)首相は原子爆弾開発に関する合意とB-29を日本爆撃のために使用するという合意をまとめた。カナダのケベックで1年後の9月開かれた第2回会談では原子爆弾を日本に対して使用することを決定した。原子爆弾を投下する爆撃機はB-29である。このケベック協定は秘密だった〔1〕。

第1回ケベック会談から3か月後の11月末、カイロ会談が開かれた。ルーズヴェルト大統領とチャーチル首相は蒋介石国民政府主席を招いた。12月1日発表されたカイロ宣言は、アメリカとイギリスと中国の連合国が日本の無条件降伏をめざして戦う決意を表明していた。蒋介石主席は第1回ケベック会談のあとB-29について知らされていたが、原子爆弾についてはどうだったか？チャーチルの回想録によれば、蒋介石と宋美齢夫人はカイロで〈権力の絶頂〉にあったという。日本の無条件降伏の可能性を信じたにちがいない。

しかし、中国の国民政府軍は堕落していて、共産党との合作も表向きで、アメリカの援助は効果がなかった。日記に暗示されたとおり、アメリカは毛沢東が率いる延安の共産党に期待するようになっていた。中国支援ルートは、西安ルート、ヒマラヤ山系ルート、ビルマルートで、最初のB-29はインドからヒマラヤの東側を越えて中国に入った。

その情報は三笠宮崇仁陸軍少佐をわざわざ訪問させたり、高松宮嫌いの陸軍を何やら愛想よく話好きにしたようだ。

4月17日から日本陸軍はアメリカ軍が使用する中国西南部の飛行場を占領する作戦をはじめた。目的は、B-29の使用が予想される飛行場を占領して日本本土空襲を予防することである。第1回ケベック協定とカイロ宣言から推測すれば、B-29は原子爆弾による恐るべきカタストロフを予告している。

制空権はアメリカが握っていたが、国民政府軍は戦意がなく退却の連続だった。日本軍は点と線の支配を広げて12月に作戦を終了した。その結果アメリカは中国の基地から日本本土を爆撃するという構想をあきらめて、太平洋の島々を占領して日本本土を爆撃するというシナリオに変更した。

6月のサイパン占領のときはまだ中国からのB-29日本爆撃作戦も並行していたことになる。

〈密偵〉の報告という言い方は、日記にただ1度だけ出る。B-29が中国奥地の新津(シンシン)飛行場に2機あるという。軍令部で世界中の通信傍受をしていた高松宮宣仁(のぶひと)海軍大佐は、〈空飛ぶ要塞B-29〉についてどんなことを知っていたか？サイパンから日本本土をすべて爆撃できることを昭和天皇に伝えたのはサイパンが陥落した1944年7月9日である。その1か月近く前6月15日、北九州に〈あいまいな爆弾〉が投下されたとき、日記にB-29空爆の可能性などは書いていない。

これは小説でも映画でもないが、もし8月6日B-29が中国の飛行場から広島に飛んでいたら、その後の歴史はどうなっていただろうか？広島市民と長崎市民、日本国民は何を考えるだろうか？

☆　H

1 wikipedia 他

▼ List 3 高松宮日記メモ;

中国から北九州にB-29の〈あいまいな爆弾〉 

昔どこかで見たようなクーデター計画

▼　B-29が中国から飛来していたら？　+

▼　B-29が中国から飛来していたら？

片山　JR花輪線陸橋

Updated 2010.1.29

高松宮日記メモ:

陸軍幕府の問題

昭和18年　1943　　

11月10 日

清水博士(枢密顧問官)が語る。憲法の解釈を都合よくする方針なら、幕府を作ってもいいことになる。これは天皇が許さないことだ。

昭和19年　　1944 　　　

1月5日

海軍大臣島田繁太郎(大将)と語る。陸軍幕府の問題。

昭和20年　1945 　　

1月10日

フィリピン作戦の不振にともない小磯内閣は投げ出しの噂がある。または東条内閣末期の軍政施行の案をやるとの話もある。

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆クーデター計画と微妙に関連する事実を並べた。1944年6月24日のサイパン奪回作戦放棄のあと7月22日東条英機内閣に代わって小磯国昭内閣がスタートした。その時期には皇族を首相にする動きが起きていた。兄の秩父宮は戦争前から肺結核だから、実質的にNO.2の高松宮を首相に立て和平工作を進めようという構想である。この例外的な構想はパール・ハーバー攻撃の前にもあった。戦争遂行派がそれを恐れて、過激なリアクションを起こそうとするのは当然と言えるだろう。〈陸軍幕府〉という造語は初めてだが、一言で実体を浮かび上がらせている。

☆　H

▼　昔どこかで見たようなクーデター計画

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JR大館駅

Updated 2010.7.21

高松宮日記メモ:

皇族首相

昭和18年　1943

7月22日

平泉博士と語る。東条総理では国民の心を満足して敗勢を挽回することに一致させることはできないだろう。国民はまだ勝っているつもりでいる。今から一生懸命に喜んで努力するように立て直さなければならない。それには皇族が乗り出す時機はすでに来ているだろう。最悪の例を取って言えば、無条件降服となったときにも国民が一致して再興を近い臥薪嘗胆するつもりになればよいだろう。

宮—今からもう一度少しでもよいと思うことを努力実現しなくてはならない。陸海軍が互いに悪口を言い合うようではならない。皇族といえば、私はどうも自信が持てない。秩父宮ならだが、目下、東久邇宮は近衛公爵とか他の人々と接触して経験も理解もあるから、よいかもしれない。

[編集者　注; 平泉澄 福井県大野郡平泉寺村の白山神社宮司]

昭和19年　1944

1月5日

海軍大臣島田繁太郎(大将)と語る。陸軍幕府の問題。

5月3日

1900義親侯爵。帰朝してみて、陸軍の人に会って、それが〈どうなるのだろう〉と投げているのを見て、いよいよ寝て夢心地で、皇族が何とか総理大臣になるのでなく、打開の道をつけるために積極的に働いてもらう時と考える。重臣も手を上げている。

昭和20年　1945

8月16日

東久邇宮に組閣の命令。

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆敗戦後、東久邇宮稔彦(なるひこ)が慣例を破って皇族首相になった。明治憲法その他の法律で禁じられていないようだが、それまで皇族首相が出なかったのは要するに帝国議会の主体性が尊重されたからだろう。しかし、ミッドウェイの致命的な敗北のあとは皇族首相を立てる動きが表面に浮かび上がる。そこには神道と仏教の対立が隠れている。

高松宮は否定的に応じるが、有栖川宮対徳川という構図が厳然と生きているので、余計な反発を恐れたと思う。徳川義親の態度には恐るべきものがある。どこから帰ったのか分からないが、わざわざ会って威圧的に皇族首相に反対する。その結論はオール・オア・ナッシング。

〈夢心地で〉というせりふはコンテクストから外れて、意味ありげに響く。

☆ H

これと深いつながりがあること

▼　ショー・タウン---4

徳川義親について

▼　東京駅暗殺事件~6

▼　ナチスの鉤十字と日の丸の旗　C

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西大館橋南

Updated 2010.2.1

高松宮日記メモ:

皇道派と統制派の違い:

平等という言葉の魔力

昭和18年　1943

7月15日

近衛公爵、来談。時局困難にともない国内態勢の問題について。要するに癌は陸軍であり、皇道派と統制派が問題である。皇道派と統制派の違いを天皇は誤解している。皇道派は比較的素朴で国体変革には無害だが、統制派は〈インテリ〉であり転向者を集めているので、変革論者であるが、その全貌を示さずに一部分の改新案を小出しにして企画院で画策している。

昭和6年の3月事件と10月事件は統制派によって起こされ、満州事変となった。それを暴露するように皇道派が陸軍で地位を得た。2.26事件は皇道派だが、統制派の策動の反暴露でもある。

昭和20年　1945

10月1日

樺山伯爵。国際文化振興会。

2 共産運動への注視へと転換。�@　地下潜行。　�A　軍人との地下結合。

(略)

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆共産主義の平等思想は、徳川派が天皇と皇族から権力を横取りするために都合がよかった。平等は自由と並んで個人の存在を前提にしているのでなければ、フランスのような個人主義の国では理想とはならなかったが、アジアのある国では権利の平等を越えて阿片患者のように無制限に概念を広げる傾向があった。平等という言葉の魔力は自由と個人よりも強かった。これは成熟しない社会では自然な成り行きだろう。

しかし、アンチ･デモクラシーの徳川時代を懐かしむ悪賢い殿様とサムライが明治天皇と西洋派の真似をしてオーダーメイドの新しい国家創造を夢見たとき、平等思想は彼らの欲求に奉仕することになる。超国家主義統制派の原点と言える。

クーデター未遂の3月事件には徳川義親(よしちか)が巨額の資金を提供している。

近衛文麿元首相の分析は正しいと思うが、それを天皇に話す機会はなかったかもしれない。

共産運動と軍人の地下結合というストーリーは敗戦後も生きている。話したのは樺山伯爵だろうか？

☆　H

3月事件と徳川義親について

▼　東京駅暗殺事件~6

▼　ナチスの鉤十字と日の丸の旗　C

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2009.9.28

高松宮日記メモ:

4と14の歴史　有栖川宮家

昭和18年　1943

7月14日

京都で有栖川宮幟仁親王の皇子、女王の百年祭。別当を遣わす。

天保14年　沽(きつ)宮　7.14　染宮　8.4　長宮　8.14　　奈良中宮寺墓所。

　 [現代風に書きあらためた。]

東京駅暗殺事件シリーズ

☆7月14日は、フランス革命記念日である。大太鼓で有名な北秋田市綴子神社の祭りの初日である。しかし、忘れてはいけない事実が新たに見出された。幟仁(たかひと)親王は、明治維新のとき明治の理想を誓った天皇の五箇条のご誓文を有栖川流で清書した人である。長男の熾仁(たるひと)親王は主役を演じた。

天保14(1844) 年に3人の皇子と女王があいついで死んだのは、それだけでも悲劇である。年と日にすべて不吉な4の数字が付くのは偶然でないと思われるが、同時に14が三つも並ぶと、その背景に人間の意志がひそむという明らかなメッセージのように受け取れる。高松宮は身近な過去の暗殺事件を想い出したはずである。

1878 明治11年5月14日

　大久保利通内務卿→東京駅暗殺事件11

1921 大正10年11月4日　

原敬首相→東京駅暗殺事件17

1930 昭和5年11月14日　

浜口雄幸首相→東京駅暗殺事件 1

1923年4月1日　北白川宮成久親王の自動車事故死？

→ナチスの鉤十字と日の丸の旗-C

ついでに言うと、明治天皇の誕生日は11月4日。不思議なことに明治維新記念日というのはない。

☆　H

参照;

旧暦(天保暦)

7月=文月　　　8月=葉月

有栖川宮家の始まり

▼　キリシタンと朝廷

熾仁親王と明治憲法の関係

▼　東京駅暗殺事件 13

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

アトリエ

Updated 2010.3.5

高松宮日記メモ:

高松宮の意識の遠近法

昭和18年　1943

6月19日 (土)

北白川宮様(房子妃)より秋田の土産。ショデ、ウリイ、ワラビ、板麩。

ショデは秩父宮が弘前にいたころから毎年到来。

7月13日

皇后様、風邪のため各妃殿下のご視察の慰労午餐にも出席なし。(略)

[現代風に書きあらためた。]

☆北白川宮大妃房子はそのころ秋田県と山形県を視察旅行した。しかし、出発と帰京の記述はない。能代市提供の資料によれば、秋田県では旧二ツ井町麻生の当時東洋一の規模を誇った天神貯木場を視察して天神荘で休憩したという。どういうわけか、山形のお土産はない。秋田の自慢をするつもりはないが、きみまち阪を有名にした明治天皇のプリンセスだから、別に変なことではない。

秩父宮は昭和10年8月から昭和11年11月まで弘前歩兵連隊大隊長だった。高松宮は前年2月7日大鰐スキー大会に出席するために青森まわりで弘前に行き、兄の秩父宮が住んでいた家を訪問した。

この視察旅行で興味をそそるのは、慰労の午餐に関する記述である。12日と13日に同じようなことを書いている。これは白神山地の十二湖と津軽の十三湖を連想させるが、〈仮面について~ギャルリー〉を参照してほしい。

7巻の1944年を読み終えて、特に目立つのはサイパン陥落まで皇族の中で北白川宮房子おば様が話した言葉だけがリアルに書かれているという事実である。だから、おば様の人柄がよく理解できる。これは意図的でないと思うが、高松宮の意識の遠近法が現われている。

☆　H

▼　〈たたるから嫌だ〉と北白川宮のおば様が反対

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

北海道フェアのポテト・チップス

Updated 2009.11.12

高松宮日記メモ:

　

書式設定を疑わせる秘密のプラン

昭和18年　1943

2月6日

日ソ戦プラン。2---4(東条)総長官邸において。参謀本部の説明。

○ 東ソ連軍の所在　[略]

○ 国軍としての条件

�@対ソ連戦の処理は国軍の主作戦になる。国の死活問題である。

�A作戦の終末---持久戦となるが、用兵綱領(帝国国防方針に基づく作戦計画)に示すカムチャッカ---北カラフト---大興安嶺北部(ソ連国境と満州西部の山脈)から東へ海岸に出る線を初期作戦の終末線として一挙に出る必要がある。バイカル湖に押し出す力は今のところ計画的にない。黒竜江の沿線も考えられるが、これは第2年目にそれから出るための冬季作戦をやらなければならない不利がある。

�B作戦目標---地域ではなく、東ソ連の敵野戦軍ならびに航空兵力を殲滅することである。あわせて終末線に出ることである。そして、ウラジオストック要塞、海空軍基地、ペトロパブロフスキ港、オハ(サハリン北端の油田地帯の町)などを占領しなければならないだろう。

---以下　省略

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆1月8日の近衛文麿と東条首相の話し合いから1か月、日ソ戦の序曲が突然のように響きわたる。のんきに読んでいる読者はめまいがする。プランは、ソ連側の戦力の調査資料もあるので、アメリカとの戦争前から具体的に練られていたにちがいない。

参謀本部は皇軍という言葉を嫌う。帝国軍も使わない。ただの国軍である。これは〈陸軍幕府〉の本心を反映している。

死活問題というのは、そう簡単に説明できない。シベリアの冬に勝てない、全方位戦争をやるだけの資源と物資が欠けている、連合国特にアメリカの陸海空軍と戦うおそれがある…勝利はどんな計算でも無理だろう。3番目の脅威は単なる予想ではなく、東ソ連軍の飛行機2000機にはアメリカの飛行機も加わるという記述がある。アメリカ空軍の星印!?…この事実はアリューシャン列島での惨めな負け方を予言しているように思えた。

最終的に日ソ戦プランは実現しなかった。中立条約を紳士的に尊重することの意義は大きいので、それが理性的な判断である。しかし、中立条約を破ってソ連に侵略しようとした計画があったことは、戦後の国際関係の書式設定を疑わしいものにするはずだ。

☆　H

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国道7号線　片山通り

Updated 2009.11.12

高松宮日記メモ:

見せかけの中立の裏で

昭和18年　1943

1月8日　

東条総理の話。開戦について心配したことは、

1 陸海軍が対立、分かれ分かれになること。

2 ソ連が攻撃してくること。

3 国内が混乱に陥ること。

この三つが負ける原因になると考え、これに対しては開戦と同時に全国戒厳を奏請しようかと思ったが、どうも日本ではこれは不適当で、[略]…ドイツとソ連の和平についてはスターマー新大使に対して日本がそのような希望を持っているように見せてはならない。[略]

近衛―[略]日本が日ソ開戦などをほのめかしてドイツとソ連を和平に導くのは日本が攻勢を取りうる戦力を持たなければやるべきでなく、沿海州ぐらいをアメリカが利用しようとするとき占領はできるが、その程度では攻撃の意味にならない。ソ連は痛がらない。

[現代風に書きあらためた。]

☆1942年6月5日のミッドウェイ戦敗北のあと、戦争継続に対する悲観論と楽観論が巻き起こる。近衛文麿・海軍対東条英機・陸軍幕府。近衛はすでに2月12日ソ連スパイのゾルゲ事件で事情聴取を受けたことが日記に短く記されている。皇族が巻き添えになる危機感が漂う。高松宮宣仁は軍令部で仕事をしている海軍大佐だが、両者の対立抗争が激しくなると、異例なことに話し合いのために皇族の役割にもどる。近衛と東条首相の対談は高松宮邸で行なわれた。

　東条はソ連の攻撃を警戒していた。アメリカを戦争に引きずり込んだあとのリアクションを恐れるのは当然だろう。ロシアを侵略しているナチス・ドイツは日本と軍事同盟の関係にある。1941年4月成立した日ソ中立条約が保証される状況はすでに終わっていた。

ドイツとソ連の戦争ほど日本にとってありがたいことはない。その間帝国の軍隊は東アジアと太平洋で自由勝手に暴れまわることができる。東条のそういう思考には抽象的な実務家の欠点がある。

その日の話し合いでは、陸軍がシベリアの沿海州を占領する計画を立てていることが分かる。これは資源の豊富な連合国にチャンスを与えることにつながる。

☆　H

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国道7号線　片山通り

Updated 2009.11.12

高松宮日記メモ:

妄想的な戦線

　

昭和16年　1941

12月16日

ノックス海軍長官の報告。日本の第5列部隊は最成功した。[パールハーバーの被害について]

駐ソ連陸軍武官山岡大佐電。〈ソ連が帝国に積極的行動に出る実力がないので、南方方面に全力をあげられる。片が付いたら、世界戦線の薄弱部を突破する必要がある。明春以後のドイツ軍に呼応できる準備をする必要がある。〉

[現代風に書きあらためた。]

☆第5列は普通テロと情報による撹乱を任務とする。アメリカ軍の報告では人間魚雷〈回天〉の部隊らしいが、日記にはそれに関する説明はない。

パール・ハーバー攻撃から1週間後、世界大戦が開始されたときに意外な情報が送られてくる。ナチス・ドイツが首都モスクワに接近していたので、ソ連は防衛に必死だった。世界戦線の薄弱部とは、どこか？おそらく中国奥地とカスピ海の間、中央アジアだろう。明春以後、1942年6月の状況を見ると、ドイツ、ルーマニア、ハンガリー、イタリアの枢軸国軍がカスピ海北北西ボルガ川西岸のスターリングラードとコーカサス地方の油田地帯をめざした。日本はその計画を知っていたように思える。しかし、これは妄想的な戦線だ。

☆　H

▼　昔どこかで見たようなクーデター計画

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旧二ツ井町小繋　七座(ななくら)神社

Updated 2009.12.13

高松宮日記メモ:

パール・ハーバー　a :

12月6日の日記に8日の事実

昭和16年　1941

12月6日

0900 軍令部へ。1800帰る。

1730ニュース、フランス領インドシナ、ゴビ砂漠の映画をやる。映写室で川中島映画があった。見る。

戦況発表について、陸軍では日本のタイ進駐に英兵が攻撃して戦端を開きはじめたとする案を出したが、(私は)反対して、すべて詔書の後にすることを主張して、今後そんな〈インチキ〉発表や武力行使をびくびく遠慮しつつやるような仕方をしないように云った。

八日の朝まで陸軍ともめて0600、西太平洋で英米と交戦を始めたと大本営発表をして、あとは全部詔書の後ちと決まっていたのに、報道部の失策でその前に帝国海軍の〈ハワイ空襲〉の〈ニュース〉を〈ラヂオ〉で出して、陸軍をだしぬいた事になり、不信な事になった。陸軍はがんがん云う。謝ったが、取りかえせるものではない。

12月7日

ハワイは異状がなく、航空母艦C1(重巡洋艦)の他が在港する。

1800　大宮御所へ。三笠宮のご婚儀について関係宮内官を39人ほどお召し、晩餐。

[略]

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆パール・ハーバー攻撃の2日前だが、編集者が疑うように、〈戦況発表〉のあとは8日の日記であるはずだ。冷静な海軍大佐の宮様でさえいくらか混乱していたと考えるべきだろうか？しかし、8日の日記は普通の書き方でないので、判断に迷う。いずれにしても、〈八日の朝まで陸軍ともめて〉とあるから、そのあとに書いたにちがいない。

詳しい事実には触れないが、アメリカとの戦争が始まったパール・ハーバー攻撃には双方に錯覚と混乱がある。しかし、〈報道部の失策〉は本当に何かの思いちがいで起きたのではないだろう。陸軍は何を考えたか、〈西太平洋で英米と交戦〉と発表するつもりだった。ハワイではない。宣戦布告を攻撃のあとまで遅れさせた陰謀と共通点があるが、高松宮宣仁はめずらしく怒って陰険な〈インチキ〉発表を非難した。これは皇族らしい良識である。

天皇の詔書に関しては、残念ながら内容が記されていない。

大正天皇の四男三笠宮崇仁の結婚式は10月22日に行なわれた。それに関連する晩餐がパール・ハーバー攻撃の前夜に御所で開かれた。これは古代からつづく戦争前夜の儀式と考えていい。

☆ H

解決編

▼　List 8 歴史　世界と日本;

昭和天皇実録から; 違法な宣戦布告文の送信は〈こじれてもいいのでは〉

▼パール・ハーバー　b : 宣戦詔書と宣戦布告文書の秘密

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

小繋　七座神社前　対岸の天神荘跡

Updated 2009.12.13

高松宮日記メモ:

パール・ハーバー　b :

宣戦詔書と宣戦布告文書の秘密

昭和16年　1941

12月8日

0500軍令部へ行く。

0130マレイ上陸開始。0412　〈シンゴラ〉成功。

0330　第一航空艦隊〈ハワイ〉奇襲成功。

台湾は霧で飛行機の出発が遅れる。

0430 アメリカ海軍長官[Frank Knox]、日本軍に対して戦闘行為を開始しろ(作戦計画第46の発動を命令する)。

1135頃 宣戦詔書を裁可。

12 00 ラヂオ放送。

[略]

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆8日の午前5時高松宮は軍令部に行き、太平洋戦線の戦況報告を受け取る。パール・ハーバー奇襲攻撃の最初の受信は午前3時30分。1時間後ノックス海軍長官が戦闘行為の開始を命令するという情報が入る。日記でもアメリカ軍の混乱が想像される。

11時35分ごろ天皇が宣戦詔書を裁可とあるのは、イギリスとアメリカに対して宣戦した事実をラジオで国民に知らせる文書を承認したということである。12時のラジオ放送にどうにかこうにか間に合ったが、この裁可は開戦の前に行なわれているはずではないか?それに関する規則はなかったのか？

この疑惑は宣戦布告の謎に反射した。宣戦布告はいわゆるパープル暗号でワシントンの大使館に送られた。宣戦すると明記していない奇妙な内容だが、文書でないから、天皇のサインなどはない。しかし、パール・ハーバー奇襲攻撃とその文書でアメリカ側は日本の宣戦布告を了解した。

高松宮は自分の目で宣戦詔書を見たとは書いていない。6日に陸軍と激しく言い争った問題は、他にもあったのではないか、という疑問が巻き起こる。天皇が宣戦詔書を裁可しようとしなければ、つまり、拒否権を行使すれば、アメリカとイギリスとの開戦計画はどうなるだろうか？天皇と皇族、戦争反対派の最後の抵抗がそこに見えるように思う。

☆ H

解決編

▼　List 8 歴史　世界と日本;

昭和天皇実録から; 違法な宣戦布告文の送信は〈こじれてもいいのでは〉

▼　覚書と宣戦詔書というダブル・イメージの宣戦布告　A B

▼　NHKのずるい歴史フィクション

▼　パール・ハーバー　c : 一発勝負の大戦争

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

小繋　七座神社

Updated 2009.12.13

高松宮日記メモ:

パール・ハーバー　c :

一発勝負の大戦争

昭和16年　1941

12月8日

外国の放送はアメリカ海軍の無電傍受のみでなかなか戦闘概報がえられない。[略]

夜、1930頃ぽつぽつ機動部隊と台湾の概報が来た。パールの戦果が大成功で喜ぶ。

〈ガム〉はやりすぎるくらい爆撃する。

〈ウェーキ〉も甘くいった。

第7駆逐隊の〈ミッドウェイ〉砲撃も焔上させた。

東条首相の詔勅発表後の話は、文も話し振りも上出来。

2200　帰邸。灯火管制。ひっそりしていて町の中は真っ黒である。入浴。寝る。一安心だ。しかし、前途はなお遠い感が深い。

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆12月8日の日付が二つあるのは、思いちがいの結果ではない。皇族などの支配階層に古代から伝わる特殊な文書様式であると見るべきだろう。これは《仮面について》の考察が明らかにしたが、具体的には《無意味な破片》の対話で〈ミラー・イメージ〉と名づけられた。生命の危険を冒した銅製錬と青銅鏡の製造を起源としている。例をあげれば、比山橋と比山。何かの呪術、幸運を祈る一種のまじない、もっと現実的に秘密のメッセージを表わすための記号、と考えられる。銅製錬の作業は戦争にたとえられる一発勝負だった。

〈ミッドウェイ〉とは、編集者の注記によれば、北太平洋のミッドウェイ島である。高松宮がパール・ハーバーの戦果を喜ぶのは、意外なことである。それから海軍の軍人として戦況を日記に書きつけるが、戦争が終わったあとの備忘録の意図もあったようだ。

東条首相の話とはどんなものだったか？ラジオ放送の記録がないのは残念である。〈上出来〉という評価には真相を知る人のシニカルな気持が現われている。

宮様は高輪に帰り、大都市が真っ暗な様子を書きとめた。一人の人間としての心情が感じられる。

☆ H

▼パール・ハーバー関連記事

▼

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

小繋　七座神社と対岸の天神荘跡

Updated 2009.12.30

高松宮日記メモ:

パール・ハーバー　d :

アマテラスの鏡に宣戦の報告

昭和16年　1941

12月9日

0955 賢所(かしこどころ)参集所、宣戦報告の儀。[略]

〈ハワイ〉空襲による恐慌の追撃的拡充策の必要を感じる。[略]

12月9日

香港、本防御線に進出する。

[略]

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆12月9日の日付も2度くりかえされる。

前日は開戦の日だが、この日は鏡などの三種の神器が置かれてある賢所でアマテラスに宣戦を報告する儀式が行なわれた。この記述はミラー・イメージの分析を証明している。文章の形式に応用された貴重な資料である。

ハワイのパニックに関しては、落下傘部隊が来るとか商船から敵が上陸する、という現地の混乱状態の情報が入っていた。

イギリスの植民地ホンコンでは、対岸の九龍(クーロン)半島を攻撃されていた。

☆ H

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大館橋

Updated 2009.12. 30

高松宮日記メモ:

パール・ハーバー　e :

開戦前の〈ごたごた〉と親電工作の真相

昭和16年　1941

12月10日

1450 プリンス・オブ・ウェールズが沈没した。

◎1429 レパルス沈没(1530受)

[略]

ルーズベルト大統領の親書はグルー大使を通じて、〈日本がフランス領インドシナより撤兵しろ。フランス領インドシナ進駐の目的をうかがう〉というようなもので、政府間の話し合いの通り返事させたということだ。つまらないことを云ってくるものだとおっしゃっていた。

7日の夜はこの親書があったので、首相官邸とか外務省のごたごたしているのを、報道関係者はそのためと思い、作戦の秘匿になった。

[略]

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆世界最強と言われた戦艦2隻プリンス・オブ・ウェールズとレパルスがマレー半島沖で沈没したというニュースは、ナチス・ドイツに追いつめられていたイギリス国民にショックを与えた。

フランス領インドシナはナチス・ドイツに降服したあとのフランスのヴィシー政権が日本軍の進駐を認めていた[1]。日本軍はそこから中国軍支援ルートを叩き、さらにシンガポール侵略をねらっていた。

ルーズヴェルト大統領の親書は、《天皇独白録》でも語られている問題の多い出来事である。アメリカは日本との戦争を避けるために昭和天皇ヒロヒトに直接話すことを試みた。7日正午、日本の電信局に届くが、陸軍が妨害したので、グルー大使が親電を天皇に渡したのはパール・ハーバー攻撃の30分前だった。

高松宮が陛下に会って聞いた話を書いたとすれば、天皇ヒロヒトは返事を送信させた。《天皇独白録》で親電を〈黙殺できてよかった〉と回想したのは真実でないことになる。これは回想文書に信用できない内容があるという批判の正しさを証明する。

7日の夜は政府の中枢で〈ごたごた〉が起きていた。報道関係者はそれを察知したが、タイミングからルーズベルト大統領の親電をめぐる〈ごたごた〉であると考えた。しかし、それは〈作戦の秘匿〉を引き起こした、というのは何か？コンテクストから考えれば、作戦とはハワイ攻撃である。宣戦布告に関することか？

7日の夜の〈ごたごた〉と6日の陸海軍の争いの間には、おそらくつながりがあるだろう。

☆　H

1 wikipedia

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Updated 2015.10.1

高松宮日記メモ:

開戦前に貞明皇太后のお言葉

〈こじれてもいいのでは〉-A

昭和16年 1941

12月1日[1]

11月30日、お姉様と同車して御殿場へ。1820到着。車中より胸心地悪く、ちょっと吐いてみたら脈が乱れてジギタリス2錠もらって飲む。それで夕食もちょっとで止めた。

[略]

半地下室

[注 1; この間、宮は11月20日付軍令部部員(第1部第1課)に転補。この日御前会議で対米英蘭開戦決定。]

12月3日

0900軍令部へ。1130帰り。1240賀陽宮へ。1300御葬儀[1]にお供して豊島岡葬場へ。午後軍令部。

[注1; 賀陽宮邦憲王妃好子。11月26日薨去。]

夕方帰って、入浴してすぐベッドにもぐりこんでいたら、宮城からお電話で、今夜か明朝出勤前に来いとのこと。

1900上がる。7日夜、晩餐を大宮御所での開催について、8日開戦の前日を知ってのお祝いの会食は後日、歴史家の非難もあるだろうから、止めたほうがよいと思うが、ということで、私もどうかと思っていたので、そう申し上げることにした。予想計画状況をお話して、自発的にお止めになるようにするのがいいだろうということだった。

2100東京駅へ。賀陽宮王妃殿下の霊柩、京都へ御発ちを見送る。

[現代風に書きあらためた。天気は省略。]

☆アメリカとの交渉が失敗に終わり、12月1日の御前会議で最終的に8日アメリカ、イギリス、オランダに宣戦することが想定どおり決定した〔1〕。

海軍中佐高松宮宣仁(のぶひと)はそれについて日記に書いていない。30日別邸で療養中の秩父宮雍仁(やすひと)に自動車で勢津子妃とともに会いに行ったことだけ。〈国交調整〉の結果と開戦の決定などを話すためだろう。

3日賀陽(かや)宮邦憲王妃好子の葬儀。亡くなられた11月26日、連合艦隊がエトロフ島ヒトカップ(単冠)湾から出撃していた。行き先はハワイのオアフ島、アメリカ太平洋艦隊の基地パールハーバーだった。3日にはどの辺を航行しているのか？

海軍中佐高松宮は御殿場行きの夜から体調が思わしくなく、夕方ベッドにもぐりこんだ。すると、宮城から至急の電話がきて、7時に昭和天皇に会って話を聞いた。貞明皇太后の御所で開催する晩餐とは、復古主義的な三笠宮崇仁(たかひと)と百合子妃の結婚を祝う会食である。7日の日記によれば、関係宮内官を招く。結婚式は10月22日だったが、開戦前夜にその種の祝宴を開くのは武家の古い伝統の復活だろう。

天皇裕仁は歴史家の非難も考えて、それを止めたほうがいいと突然のように言った。歴史家の非難の他に理由は何か、明らかでない。そして、天皇は貞明皇太后に話してほしいと高松宮に頼んだ。高松宮は、自分もどうかと思っていたので、承諾した。会ってみたら、重要さも緊急さもない事柄だった。

予想計画状況とは、開戦に関することだろう。皇太后は事実を知らないかもしれない。

疑問が浮かぶ。弟の宮にご自分で命令して止めるように言えばいいのではないか？

母の貞明皇太后が大宮御所での晩餐の主催者だとしたら、遠慮があるかもしれない。しかし、皇太后に話せないのは不自然でないか？高松宮は天皇の言葉に深い陰影が映っているように思ったかもしれない。止めさせるとは何のことか？

2時間後、高松宮は東京駅に行き、賀陽宮王妃の霊柩を見送った。

賀陽宮邦憲王は明治時代伊勢神宮の祭主だった〔1〕。

王妃の死はかなり不吉なタイミングに感じられただろう。

☆　H

1　 wikipedia　その他

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秩父宮の病気と天皇の絶望

▼　言葉の樹; 真珠湾と入江日記

Updated 2015.10.25

高松宮日記メモ:

開戦前に貞明皇太后のお言葉

〈こじれてもいいのでは〉-B

昭和16年 1941

12月4日

アトリエ

1400大宮御所へ上がる。7日、マレー部隊の輸送船団が反撃されるか機動部隊も攻撃される機会がある。8日も、0130から始まることを申し上げたところ、それでは招待者のなかにはそれを知っているものもあるだろう(内大臣[1]等が知っているだろうと言って)、止めた方がよいようだという御模様で、三笠宮のことも余りすらすらいったから、一つくらいこじれてもかえっていいだろうとなどとお話があった。大夫[2]に帰りがけに言ったら、それは困った、招待状も出ていて、かえってお止めになったら変だろうと言っていた。

それから宮城に上がったら、拝謁の連続だったので、〈申し上げておきました〉と侍従に頼んで帰る。ちょうど宮内大臣[3]にあったら、そのことで[陛下と]お話していたところだが、お止めになるとかえって秘密上よくないかもしれないと申し上げていたのだということだった。それなら、事が現われねばよいかもしれない、と言っておく。ただ、大戦争の立ち上がりというだけが考えなければならないので、戦争中だからというわけではないと思うと言った。

[注;　1　木戸幸一　2　貞明皇太后大夫(だいぶ)大谷正男　　

3　松平恒雄]

[現代風に書きあらためた。天気は省略。]

☆高松宮は天皇裕仁と話し合った翌日、午後2時大宮御所に行き、母の貞明皇太后に会う。高松宮が話した開戦の秘密計画は、皇太后がまだ知らなかったように思える。それは日記では最初に出るので、当惑させられる。

7日に何が起きるか？〈マレー部隊の輸送船団が反撃されるか機動部隊も攻撃される機会がある〉

8日には？〈0130から始まる〉

計画では、帝国陸軍のマレー部隊はマレー半島の北に上陸してイギリスの東洋の本拠地シンガポールを攻略する。これは宣戦布告前の軍事行動だが、当然イギリスの反撃が予想されるということだ。機動部隊とはハワイに向かっている連合艦隊のことである。8日も午前1時30分(日本時間)から始まるとは、日記だけでは理解できないが、攻撃作戦つまり戦争の開始時刻である。パールハーバー攻撃とマレー半島上陸は同時でなければ、アメリカかイギリスの一方に奇襲作戦がばれてしまうので、その時刻に決定されたようだ〔1〕。

高松宮は、シンガポール攻略とパールハーバー攻撃について書いていない。しかし、皇太后にはその計画も説明しただろう。1時30分に何がはじまるか、日記ではあいまいにされているが、反撃や攻撃を受ける時刻ではありえない。皇太后が疑惑にとらわれるにちがいない。

高松宮の話を聞いて、皇太后は〈止めた方がよいようだという御模様〉を示した。

第1の理由は、それを知っている招待客がいるかもしれないから。〈それ〉というのはコンテキストが明らかにする。開戦の秘密計画である。しかし、宮内省の職員の誰かが知っているとしても、中止の合理的な理由は何か？内大臣についてはもっと分かりにくい。内大臣は天皇の私的な秘書のような補佐役である。内大臣木戸幸一は重臣会議の主宰者として10月東条陸軍大臣を首相に推薦するなど政治の舞台裏に深くかかわりあう。開戦の秘密計画を知っていると思うのが当然だが、微妙なニュアンスがある。

皇太后は会食の出席者に対して何か不信を感じるのか？それとも、そういう前夜祭的な会食に嫌悪を感じるのか？

第2の理由は政治と無関係な態度で、三笠宮の結婚が皇太后の予想以上にすらすら進んだから、〈一つくらいこじれてもかえっていいだろう〉ということだ。事実は〈すらすら〉と反対に3年の苦心があった。

歴史家の非難をおそれることについて、皇太后がどう考えたか、日記では分からない。

天皇裕仁の心配は大げさに聞こえる。戦後70年、12月8日前夜の会食という事実に注意を引かれた歴史書その他ジャーナリズムの記事や番組を知っている人はいないだろう。〈歌だけの御聖断〉を書くまで、ぼくも適当に考えていた。その反対に侵略された国には倫理的な問題として批判する人がいるかもしれない。天皇と皇族は国際社会に対して責任があり、国際関係に鋭敏な感受性を持っている。しかし、それなら外国政府の非難をも気にしていい。

皇太后は中止することに同意した。高松宮は母皇太后が見せた〈模様〉を正確に解読したと思う。前夜の会食の中止は開戦の中止につながるメッセージである。これは呪術的な因果関係に由来するレトリックである。皇太后の同意で天皇裕仁は開戦中止のために行動するかもしれない。そう思わせる。

皇太后の家政係である大谷正男は話を聞いて、止めたら変に思われると反対した。単純な理由だが、よくあることだ。そこにはおそろしく緊迫した空気が感じられる。何がどこにつながるか、誰も予想できない状況だ。これは昭和天皇が電話で呼び出した最初で最後のドラマに象徴的に現われている。

[Cにつづく]

☆　H

1 wikipedia マレー作戦

▼　開戦前に貞明皇太后のお言葉〈こじれてもいいのでは〉-A

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秩父宮の病気と天皇の絶望

Updated 2015.11.7

高松宮日記メモ:

開戦前に貞明皇太后のお言葉

〈こじれてもいいのでは〉-C

昭和16年 1941

12月4日　

[Bのつづき]

アトリエ

☆高松宮はすぐ天皇に会いに行った。しかし、〈拝謁の連続〉という理由で会うことができない。仕方なく侍従に伝言を頼む。〈申し上げておきました〉の一言。皇太后が同意したということは？直接会ったときに、と思ったかもしれないが、日記ではもう天皇に会わない。〈拝謁の連続〉には高松宮と会うことを拒否するという暗黙のメッセージがあり、天皇に自由がないことを悟ったから、失望して最小限の伝言を頼んだのだろう。

天皇裕仁が高松宮の報告を聞こうとしなかったのはなぜか？これは歴史の秘密に触れる。

そのあと宮内大臣松平恒雄に偶然会う。松平はそのことで陛下と話していたところだった。宮内大臣の職務の範囲でないと思うが、妨害行動だろうか？この出会いはショッキンクだ。冷静なら天皇は宣仁(のぶひと)親王を呼び寄せて報告を聞きたいはずだ。

松平恒雄は明治維新で徹底抗戦した最後の会津藩主水戸徳川系の松平容保(かたもり)の六男で、外交官から1936年2.26事件の直後宮内大臣に就任した。天皇の側近である内大臣になる予定だったようだが、長女勢津子の夫秩父宮が反対したので、終戦まで外様的に宮内省の長だった。陸軍幕府との関係が不安を引きずったのかもしれない。内大臣は御璽と国璽を保管して詔勅や勅書その他宮中の文書に関する重要な事務を執り行ない、その仕事は天皇との信頼関係で成り立っている。したがって、宮中と政府に影響力を持つことができる〔1〕。

宮内大臣松平の意見は、中止はかえって〈秘密上よくない〉ということだ。計画の変更を恐れる常識的な心理学か、あるいは迷信に囚われている。高松宮は海軍の機械の中で育ったモダンボーイなので、必要でない部品を取り外すことにためらいを感じない。中止しても〈事が現われねば〉それでいいと考える。大戦争の立ち上がりに影響しなければ、問題はないということだ。といっても、論証的ではない。

その話で変なのは、その種の儀式が戦争の幸運祈願であると知っている人間に怪しまれるが、それを問題にしていないことである。しかし、結婚式の2か月後の祝宴なら、疑われないだろうと考えたのか？これもおかしなことである。

☆　H

1 wikipedia

▼　開戦前に貞明皇太后のお言葉〈こじれてもいいのでは〉-B

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Updated 2015.11.23

高松宮日記メモ:

開戦前に貞明皇太后のお言葉

〈こじれてもいいのでは〉-D

アトリエ

昭和16年 1941

12月5日　

宮内大臣が会いたいとのことで、電話で聞いたら、きのうのこと事が現われねば予定通り、事が現われたら止めるということにお聞き届けを得たということだった。0900軍令部へ。1000賀陽宮王妃十日祭に行く。それから軍令部。

[現代風に書きあらためた。天気は省略。]

☆宮内大臣松平恒雄と電話で話すと、松平は天皇裕仁に会っていた。天皇は〈きのうのこと事が現われねば予定通り、事が現われたら止める〉ということで了解した。高松宮は4日の日記に〈事が現われねばよいかもしれない〉と書いて、5日は〈きのうのこと事が〉と思わせぶりにミラー・イメージを使う。事には、同音の琴を指示するメッセージが隠れている。これは分かりやすいが、開戦前の場合、事は端的に古事記と日本書紀に語られた枯野という船のストーリーを想起させるメッセージである。

10月23日の日記には二荒(ふたら芳徳)伯爵とラジオ放送と古事記のドイツ語訳のことなどを話したとある。

11月10日にはドイツ語訳古事記出版祝賀会の名簿を別紙で日記に残した。名簿には日独文化協会、独訳古事記出版委員会などの役員の名がある。後者にはドイツ人の理事が一人いる。

古事記の仁徳天皇の章では、枯野(からの)という優秀な船が老朽化したので、それを焼いた残りで琴をつくる。しかし、開戦前なので、その幸福なドラマは日本書紀の応神天皇の章に描かれた悲劇に重なる。新羅の船が武庫(むこ)川の港で火事を起こして多数の船を燃やしてしまうパニック映画。被害を受けたのは伊豆の国から天皇に献上された枯野という船の記念として製造させた船だ。日本書紀でも枯野の燃え残りで琴をつくる。事が大変な事柄という意味を持つようになった起源を暗示する。

開戦前にはパール・ハーバー奇襲攻撃の予想映像である。

現実にもどれば、ハワイに向かっている連合艦隊がアメリカ軍に発見されたら、計画はそこで沈没なので、8日前夜の祝宴も無意味になる。当然のことだ。発見されなければ？しかし、宣戦布告をアメリカ政府に伝える前にハワイ攻撃の意図を持ってエトロフ島を出港したのは正当化できる行動でない。当時の国際法の規定ではどうか？少なくともアメリカ合衆国の領海と領空に入ったら、その時点で明らかな侵略と見なされるだろう。ばれなければいいという考え方は通用しない。

国際派の代表である天皇がそういうずるい手法に同意したとは、信じがたい。天皇の平和主義や宮内大臣との関係から考えても、不思議なことである。それとも、この関係は法律を超えた複雑な関係だったのか？高松宮は実態を知っているはずだが、宮内大臣の言葉が真実かどうか、確認しない。

この出来事で奇妙なのは、内大臣木戸幸一が顔を見せないことである。

木戸幸一は明治維新の英雄の一人桂小五郎 (木戸孝允)の妹の長男木戸孝正の子。宮内大臣松平恒雄は賊軍の会津藩主の子なので、復讐劇の最終幕である。木戸内大臣の日記には書かれていないだろう。この日記は東京裁判のA級戦犯容疑で起訴されたとき証拠として提出されたというが、貞明皇太后の家族のドラマが時々刻々に書き記されていたら、無罪になっていたにちがいない。

連合艦隊は12月2日17時30分大本営から攻撃命令の暗号電文を受信した。〈ニイタカヤマノボレ一二〇八〉

戦争回避の場合攻撃中止の電文は〈ツクバヤマハレ〉だった〔1〕。

連合艦隊は位置を探知されないように無線の発信を止めて航行していた。

高松宮は午前9時海軍軍令部に行った。暗号電文を知っていたら、そこから思いきってストップの指令を送信できたかもしれない。あるいは、これは天皇の妙案でなかったか？

☆　H

1 wikipedia

解決編

▼　List 8 歴史　世界と日本;

昭和天皇実録から; 違法な宣戦布告文の送信は〈こじれてもいいのでは〉

▼　覚書と宣戦詔書というダブル・イメージの宣戦布告　A B

枯野

▼　List 2 有栖川宮の歴史; アリスと有栖川宮 n t

▼　開戦前に貞明皇太后のお言葉〈こじれてもいいのでは〉-C

▼　開戦前に貞明皇太后のお言葉〈こじれてもいいのでは〉-B

▼　開戦前に貞明皇太后のお言葉〈こじれてもいいのでは〉-A

▼　List 3 高松宮日記メモ ; パール・ハーバー　a b c d

Updated 2009.8.10

高松宮日記メモ:

文化という美名に隠れて

昭和16年　1941

10月29日

国際文化振興会。青木主事職の退職の理由。

本人〈よく分からない〉

徳川頼貞副会長〈制度改正のため〉

外務省情報局が強力に統制しようとする傾向がますます強まる。民間でやる主義に対抗。

[現代風に書きあらためた。]

☆適当に現代風に書きあらためた。これは有栖川宮の継承者である高松宮宣仁と徳川一族の力関係を示している。日記では他にそういう事実は語られていない。アメリカとの戦争が目前に迫ったという危機感によるものだろう。

国際文化振興会は、国際連盟脱退後に創設された。外務省の公言する目的がどこまで本当だったか、疑わしい。高松宮は国際文化振興会の会長らしいが、日記では明確でない。徳川頼貞(よりさだ)侯爵は、徳川頼倫（よりみち)の跡継ぎで、ケンブリッジ大学で音楽理論を学んだ音楽界のボスのような存在だった。柳田国男追放事件の黒幕は16代将軍になりそこねた貴族院議長徳川家達(いえさと)と弟の紀州徳川家当主頼倫だったが、君子豹変ぶりはあきれるほど性格が似ている。徳川頼貞が大正末期から映画とラジオ放送にどうかかわったか、興味が湧く。

この異変で印象的なのは、〈よく分からない〉というせりふである。日本文化の深層が現われている。

☆　H

▼〈文化という美名に隠れて〉に関する会話

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2016.2.18

高松宮日記メモ:

三笠宮の反発; 洋服か和服か？

貸し衣装店

昭和16年 1941

8月26日　

[略]

夜、宮城映画に、暑いから略服でとのことだったが、背広で上がる。皇后様は風邪でお引っ込み中。三笠様は、そんなら和服でよいかと伺ったら、洋服でよいとの陛下のお返事で、断然軍服で出ると申し上げたという。そのせいか、せっかく私が背広で行ったのに、海軍の軍服を着ていた。三笠様は、この頃、女も和服を着て参内するようにと主張している。一時はそんな気で張りきる年頃があるものだ。その意気その意気と言いたいところである。

[現代風に書きあらためた。曜日と天気は省略。]

☆8月、昭和天皇はアメリカとの外交関係の調整を熱心に望んだ。しかし、平和主義のイメージがある皇族の中から予期しない反抗が現われる。御所で映画を上映するときに、三笠宮は和服を着ていいか、と聞く。天皇陛下は、〈洋服でよい〉という返事。和服か？洋服か？これが重大な対立であることを理解した日本人は当時もそう多くなかっただろう。戦後の日本人はTVで女性の皇族の和服姿を見なれているから、何でもないことだと思ってしまう。

ところが、高松宮喜久子妃のエセー《菊と葵のものがたり》を読むと、戦前は洋服でなければ御所に入れなかったと一言書いてある。慣例らしいが、別に説明はない。それを理解するには、明治の文明開化のさまざまなシーンを想い浮かべて、日本民族文化と西洋文化の対立という枠組みの中で見なければならない。

しかし、和服の禁止は極端な反日本を意味すると社会に受け取られるおそれもあった。こんな大胆さはもっと歴史の奥深いところから来るかもしれない。たぶん有栖川宮の歴史の考察で再現したキリシタンの時代から、だろう。天皇と公家は西洋文化の定着を望んでいたが、仏教と徳川幕府がキリスト教とともに西洋文化を禁止したのだった。これは文字で言い表わされた禁止ではない。しかし、日常生活に便利なさまざまな道具と事物までも消えてしまった…時計、手袋、靴、靴下、帽子、マント、おそらくズボンも、など。時計の他は、寒い地域に住む人たちにとって冷酷な禁止である。

☆ H

▼　開戦前に貞明皇太后のお言葉〈こじれてもいいのでは〉-D

▼　開戦前に貞明皇太后のお言葉〈こじれてもいいのでは〉-C

▼　開戦前に貞明皇太后のお言葉〈こじれてもいいのでは〉-B

▼　開戦前に貞明皇太后のお言葉〈こじれてもいいのでは〉-A

Updated 2011.2.3

大館橋

高松宮日記メモ:

〈ラヂオテルミー〉のメッセージ　–前

昭和16年　1941

4月3日

0930 出門。賢所。神武天皇祭へ。陛下、大宮様は御代拝。皇后様は御代拝もない。帰ってすぐ御霊殿へ。有栖川栽仁王の御命日。

4月4日

右の手に何とか性神経痛でブツブツの水泡が出て鈍痛がある。ラヂオテルミーをかけてもらう。〈ビタミンC〉がよいとかでのんで見る。[略(原注)]

4月10日

ヘルペスがますますひどく、水泡が膿をもちだしたので、山下に小川に電話して薬をもってきてもらうようにいったら、小島先生が来ることになった。

4月10日

毎夜、手がいたくてよく眠られない。アダリンを飲んでも1、2時間ごとに目覚める。

4月20日　4月21日

初めて航空隊へ出て見る。

右手がいたいので、何もできない。ラヂオテルミーをかける。

[現代風に書きあらためた。曜日と関心のない部分は省略した。]

☆有栖川宮威仁(たけひと)の子栽仁(たねひと)王は明治41年21才のとき病死した。ウィキペディアの記事によれば、虫垂炎である。継承者がいないので、有栖川宮は断絶が決まった。ちょうど神武天皇祭の日だった。

その翌日、高松宮は横須賀港に停泊中の戦艦比叡に泊る。5日付で航空隊教官になるように命令が出たので、船に乗るのはそれが最後だった。しかし、右手に水泡ができて鈍痛が起きた。神経痛と思ったが、ウィルス感染症のヘルペスであることがあとで分かる。この病気は7月にやっと〈大分よくなる。〉

ラヂオテルミーとは、言葉から想像すると、放射線治療装置らしいが、船に持ち運びできる小型の機械である。

☆　H

長谷川テルに関するシリーズ記事

▼　V字型の階段の記憶

▼　南京の声: ラジオ放送のトリックか？

▼　上海—東京　悩めるハムレットのような毎日

▼　都鳥と上海事変

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

∫∫∫

Updated 2011.2.3

大館橋

高松宮日記メモ:

〈ラヂオテルミー〉のメッセージ　–後

☆長谷川テルに関する秘密の記述でもないか、と期待して読んだので、それはすぐこんな意味に分節された。

1〈ラジオ　テル　ミー〉→ラジオ〈テル・ミー　私に話して〉

ラジオ放送の局名、あるいは番組のタイトル。

2〈ラジオ　テル　ミー〉→〈Radio tells me ラジオが私に話す〉

そのころ長谷川テルは臨時首都チョンキン(重慶)にいた。しかし、国民党の反日ラジオ放送の仕事をしていたかどうか、疑わしい。〈ファシズムに反対する立場なので、次第に放送の仕事から遠ざけられた。彼女は共産主義にひかれて、郭沫若(Guo Moruo)の下で対敵文化工作委員会に入る。〉アメリカとの開戦後の情報はない〔1〕。

高松宮宣仁(のぶひと)海軍大尉はその気になれば、軍艦で海外放送を聞くことができた。

高松宮が長谷川テルの反日活動の舞台裏にいるという嫌疑を知らなければ、〈ラヂオテルミー〉は耳ざわりな冗談でしかない。

高松宮が長谷川テルの反日活動の舞台裏にいるという仮説が正しければ、〈ラヂオテルミー〉は自然にテルのラジオ放送というメッセージになる。メッセージを送ったのは、高松宮の大胆な反抗を捜査していた陸軍の機関である。したがって、右手の病気は計画的に感染させられた結果だということになる。〈ラヂオテルミー〉という名の機械はその作戦のために用意されたと考えることもできる。

高松宮はそのころ危険な存在だった。天皇派のあるグループは、12月に予定されたアメリカとの開戦を阻止するために平和主義の皇族首相を最後の切り札にしようと考えていたのだ。これはなぜか挫折した。そして、高松宮は謀略の網にかからないでアメリカとの開戦前に海軍軍令部に入り、世界中の無線情報を傍受した。

〈リンゴの唄の秘密〉から推理すると、高松宮は長谷川テルの反日活動の舞台裏にいた。

☆　H

1 V字型の階段の記憶　6

〈ラヂオテルミー〉の他の可能なメッセージ

▼　ショー・タウン　7

長谷川テルに関するシリーズ記事

▼　V字型の階段の記憶

▼　南京の声: ラジオ放送のトリックか？

▼　上海—東京　悩めるハムレットのような毎日

▼　都鳥と上海事変

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Updated 2010. 8.3

三の丸の階段

高松宮日記メモ:

高松宮、背広姿で湊川神社に参拝

昭和15　1940

11月11日

1310 出門、宮城前の奉祝式へ。

11月17日

東京駅発、西下。

11月18日

0643名古屋駅着。1040奈良駅着。自動車で石上神宮へ。中宮寺へ、1215着。直ちに墓所にまいり、1235頃中宮寺着。夢殿のすっかり手入れのできたのを見て、金堂、五重塔を見て、少憩。

11月19日

0855 畝傍山東北陵(神武天皇陵)着。

11月22日

0950 桃山御陵(明治天皇陵)着。参拝。1025泉山御陵(京都市東山区泉涌(せんにゅう)寺月輪陵のこと。霊元天皇、東山天皇など)。1130、私のみ平安神宮にゆく。

1400 (都)ホテル発、龍光院へ。

11月23日

1145 円福寺着。臥龍庵で焼香して昼食。1345発、八幡の町で自動車(原注;宮内省のビック)故障。1445天王寺駅着。キク子が白浜へ行くので、降ろして、神戸へ。

1550 湊川神社着。背広だったが、参拝して、奉献の刀をやってる室蘭の刀工の鍛冶場を見て1610発、1620福厳寺着。

1745　桟橋着。1620、こがね丸に乗船して別府へ向け出発。

11月24日

1050　別府桟橋着。

[現代風に書きあらためた。関心のない部分は省略した。]

☆秩父宮が肺炎で寝たきりなので、弟の高松宮が代わりに皇紀2600年の奉祝式をつとめた。神話では神武天皇が即位してから2600年だった。この記念は神武天皇が大和への東征を開始した日向国宮崎への旅行で終わる。

11月17日高松宮は喜久子妃とともに東京駅を出発して、名古屋から奈良に入る。伊勢神宮は関係がないようだ。それから、自動車で石上(いそのかみ)神宮と中宮寺に行く。中宮寺の墓所には有栖川宮幟仁(たかひと)の早世した子どもたちの墓がある。法隆寺はどんな縁があって行くのか、別に書いていないが、有栖川宮との関係で考えるべきだろう。

龍光院は大徳寺の境内にあり、有栖川宮家の墓所である。大徳寺は京都市北区紫野にある禅宗の寺院で、後醍醐天皇の特別な保護を受けていた。臥龍庵は、編集者の注によれば、有栖川宮家の御位牌所である。

高松宮は八幡の町から大阪府の車で天王寺駅に行き、そこで喜久子妃と別れて、神戸に向かう。湊川神社に参拝する目的は何か？ この神社は建武の中興で後醍醐天皇を支えて鎌倉幕府を倒した楠木正成を祭る。高松宮は、反陸軍幕府勢力の勝利を祈ったかもしれない。背広を着て、という解説がおもしろい。

それから、船で別府に行き、宮崎市の宮崎神宮で開催される奉祝会に出席する。別府から宇佐に行くか、と思ったら、別府はただの通過地点である。歴史的には天皇家は宇佐神宮の祭神応神天皇を祖先としているが、神話の祭典には宇佐神宮は必要がないと考えた権力集団がいたということだろう。

☆　H

▼　軽くあつかわれたシャンハイ行き計画

▼　上海—東京　悩めるハムレットのような毎日

▼　都鳥と上海事変

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Updated 2010. 12.4

長根山旧ジャンプ・スキー場と市営球場

高松宮日記メモ:

北白川宮永久王の死 -A:

永久王が飛行機に殺される

昭和15　1940

8月8日

0820 発。0907大磯。宮の下へ。0940頃着。1030頃小涌谷の秩父宮のところへゆく。

北白川宮永久より手紙が来る。返事を書く。

手紙---7月30日張家口で 永久　拝

　[略]当地は中国軍外モンゴル軍およびイスラム教の工作、またモンゴル政府軍の指導などがあり、一種特別の面白味があります。

8月20日

秩父宮様、結核菌が出たという話だった。

8月27日

1600上陸。葉山へ。三笠宮が来ているので、御用邸へ。夕食、照宮様方と一緒にいただき、あとニュース映画。2100頃帰る。

9月5日

M-8当直。夜中に御付武官に信号があった。〈電話葉山一色12につけ〉とある。また〈至急の書類がある〉というので、土師少佐、0310頃艦載水雷艇で取りに行く。[略]0430頃その至急の書類を見せる。〈永久王殿下、対空監視所で飛行機事故のため、昨日1100御負傷(永さまは地上にいた模様。飛行中ではない)、同日1900薨去された、云々〉と。

永様は出発のときも、おば様(房子妃)が心配していた。何しろ能久親王は台湾で、成久王はフランスで、いずれも薨去になっているので、今度もお気にしていらっしゃった。

[現代風に書きあらためた。テーマに無関係な文と曜日などは省略した。]

☆秩父宮の病気が重い日々、北白川宮永久から手紙が来る。イスラム教徒とはウィグル民族のことだろう。モンゴル人民共和国はソ連の構成国だが、日本の陸軍がヨーロッパ戦線の裏側で図々しく何やら指導している。そういう〈一種特別の面白味〉は、歴史のテキストでは分からない。

ところが、横須賀に停泊中の重巡洋艦〈扶桑〉に当直の夜、高松宮は至急の書類を受け取る。永久王が飛行機に殺されたという奇想天外な異変。飛行機に乗っていたとき事故で死んだとか墜落して死んだという普通考えられるようなケースではない。どういう状況だったのか、なかなか想像しがたい。

永久王の母房子妃は、たたりを信じる女性である。しかし、高松宮は機械に強い海軍軍人なので、クールに考えている。

☆　H

▼　秩父宮の病気と天皇の絶望

▼　高松宮、背広姿で湊川神社に参拝

▼　軽くあつかわれたシャンハイ行き計画

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∫　∫　∫

Updated 2010. 12.21

アトリエ

高松宮日記メモ:

北白川宮永久王の死 -B:

死の状況と政治への悪影響

昭和15　1940

9月5日　つづき

夕食を食べないで三笠宮と打ち合わせて1900参内。天皇陛下のご機嫌を伺い、2000頃退出した。私たちのみ北白川宮へ行く。祥君様(永久王妃祥子)とおば様(母房子妃)にお目にかかったが、お疲れの様でもあり、もちろんおなぐさめの言葉もないので、十数分で退出した。

[別紙]

15.9.5　0400頃　艦で見た第1報

(他筆) 9月5日午前1、30　吉島事務官より電話受ける

9月6日

永久王の御遺骸が2018お帰りになったとラジオで言っていた。

9月7日

0800入港。

大急ぎで昼食をして北白川宮へ行く。

まだふたをしていなくて、お顔が見られた。やはり色は悪いが、顔面に傷がなくてよかった。[略]ちょっと聞いたら、右の足の先が飛んで行方不明とのことである。頭のは皮がずっとめくられてしまったのだそうだ。

9月9日

張家口からついてきた軍医の人(黒江末彦軍医中佐)に永久王のオケガの様子を聞く(朝香宮様、東様と)。

オケガの様子をお兄様(秩父宮)に書く。

9月18日

0600北白川宮へ。

0745照宮様方がいらっしゃる。

1015豊島が丘に到着。

おくれたが、葬儀場より墓所へのお供は、雨も小降りなので、マントだけで行く。

[現代風に書きあらためた。テーマに無関係な文と曜日などは省略した。]

☆9月5日の日付が二度くりかえされる。これはミラー・イメージのように青銅鏡が起源であり、特別に不幸なときの呪術的な表現であると考えていい。

第1報の書類を最初の日に入れない理由も、古いしきたりではないか？高松宮は第1報が遅れたことに憤りを感じたと思うが、それには触れていない。

永久王の遺骸は、想像したよりも傷が軽い。飛行機がどんな状況で永久王の死の原因になりえたのか？9日その飛行場で手当てをしたらしい黒江軍医が朝香宮鳩彦と東久邇宮稔彦と高松宮に事故の状況を話したが、説明は日記に書かれていない。病気療養中の秩父宮には書き送っている。これは政治情勢のように理解しがたい。

やはり日記にはないが、16日近衛文麿内閣はドイツ、イタリアと三国軍事同盟を結ぶことを決定した。そして、27日対アメリカ・イギリス戦に向けて調印した。アメリカ大使グルーの日記によれば、近衛首相と昭和天皇裕仁は絶村反対だったが、皇室が危うくなると告げる者があった。親英米派の天皇は近衛に、〈死なばもろともだね〉と話したということである。二人の考えが急変した背景には永久王の常識を超えた飛行機事故があったと疑いたくなる。つまり、これは陸軍幕府の謀略だろう。永久王の死は、万世一系の天皇の死というメッセージに思える。

祥子(さちこ)妃は徳川義恕(よしくみ)男爵の次女で、母は最後の津軽藩主津軽承昭(つぐあきら)の娘寛子である。

照宮が葬儀に出席したというのは、特別な書き込みである。他の皇族は名前が出ない。

☆　H

三国軍事同盟の調印の裏話

▼　偽装事故 /　米代川デイト

▼　秩父宮の病気と天皇の絶望

▼　高松宮、背広姿で湊川神社に参拝

▼　軽くあつかわれたシャンハイ行き計画

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大町

Updated 2009.12.13

高松宮日記メモ:

浅草→京橋→赤坂→渋谷　

1939年 メトロの連想

昭和15年　1940

8月4日　

葉山発。メルセデスで。活動写真館のところで水たまりに乗り込み、エンジンがストップ。通りすがりのタクシーに乗って帰る。運転手の名前、榎本金冶。

昭和17　1942

12月11日

帝国ホテルで三国軍事同盟締結記念パーティ。

ニュース映画。映画《ハワイマレー沖海戦》(12月封切り。東宝。山本嘉次郎監督。)

[宮城か高松宮邸で上映か？特に記述なし。前例がない。]

松平泰昌、綾子、康愛婦人久美子、キサ子(榊原夫人)、キク子、夕食会食。

[現代風に書きあらためた。]

☆葉山の別荘から東京に帰るために愛車に乗った宮様は、その日他の人には何でもないような偶然の出来事を書くことになる。エンジンがストップした地点に映画館のマークをつけたのは、位置が分かりやすいからだが、普通なら日記に書きとめる理由はない。しかし、タクシー運転手の名前は喜劇俳優エノケン(榎本健一の愛称)を想い出させただろう。

映画館で人気絶頂のエノケンの映画を上映しているとき、そんなアクシデントが起きれば、その名前の類似は客観的に重要な何らかの意味をおびる。別にそんな小説的なストーリーは書いていないので、宮様がその出来事を記憶しようとした理由を他に探してみると、山本嘉次郎監督が背景に浮かんだ。

彼は1930年代初期からエノケン主演のジャズオペレッタ映画を数多く製作していた。宮様はジャズ・ファンだから、大ヒットの映画シリーズをも楽しんだということは、十分考えられる。とはいえ、映画監督との関係については記述がない。

この出来事でおもしろいと思うのは、前年1939年に地下鉄銀座線が全通して浅草と渋谷を結びつけたことである。つまり、エノケンが活躍する本拠地と映画監督が生まれ育った京橋と赤坂御所とハチ公の青銅像が建った渋谷の間が想像を超えて時間的な地図で親密になった時代なのである。

《ハワイマレー沖海戦》は、アメリカのTV局制作の第2次世界大戦ドキュメンタリーをDVDで見たら、パール・ハーバー奇襲攻撃に説明抜きで使用されていた。

☆　H

▼　歌内川→宇田川

▼　ハチ公ストーリー

▼　映画監督のメッセージ

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Updated 2010. 9.10

石田ローズガーデン

高松宮日記メモ:

秩父宮の病気と天皇の絶望

昭和15　1940

7月14日

1730　帰りに秩父宮へ立ち寄る。色白くなったが、先ごろよりはやつれていない。

7月16日

米内内閣が総辞職。

7月17日

陸軍の倒閣運動。久原と通ずる陸軍一部等、陸軍の不純な不統制はまだ浄化されていない感が深い。

7月21日

キク子より手紙。お兄さま、8月には箱根辺りへ転地なさるとのこと。

7月22日

近衛内閣が成立した。

8月1日

0600　御出門で、秩父宮が箱根小涌谷藤田邸へ。先ごろのおやすみ中糸すじみたいな血がタンの中に出て1年近くのお咳が止まらない気管支と考え合わせ、肺病の一歩手前とかで大事である。当分お休養。冬は御避寒の必要があるという。お兄さまも今度は大分ご自身ご心配の様子である。でも、おうちの人には口では相変らず強がりをおっしゃるらしい。

[現代風に書きあらためた。テーマに無関係な文は省略した。]

☆高松宮日記は昭和13年と14年がない。ヨーロッパで第2次世界大戦が火を噴いた1939年の翌年の日記は、4月1日の〈BBC短波ラジオ放送〉という好奇心をそそる事実を書きとめているが、戦争に関しては無関心である。6月、満州に視察旅行に行き、昭和製鋼所が回転窯のパテントをドイツのクルップから買ったことを記す。満州とナチス・ドイツの経済関係の事実はめずらしい。当然それだけではないはずだ。クルップ財閥は鉄道の車輪その他の製鉄機械工業が中心で、ナチス第3帝国を支えていた。

7月、ドイツ・イタリアとの三国同盟推進に反対する米内光政内閣が陸軍に潰された。米内海軍大将に日本の舵取りを命じた昭和天皇は絶望に追い込まれる。久原房之助は藤田組と関係が深く、政界の黒幕と言われた人物である。

秩父宮は、昭和12年のヨーロッパ旅行からずっと病気だったように思える。公式の発表では6月以来風邪で、8月から急性肺炎である。弟の高松宮は、他の日も病気の原因などについて疑惑を書かないが、強い関心を持っていることが分かる表現である。皇族が統治機関の一部だから、当然である。

キク子とは喜久子妃のことである。

☆　H

▼　高松宮、背広姿で湊川神社に参拝

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Updated 2011.6.9

高松宮日記メモ:

生け捕りにされた動物の運命

昭和15年　1940

6月16日

旧小坂鉄道　新沢駅

山下師団長が予定通り昼食をしないで待っていてくれて具合悪かった。

松花江の桟橋よりモーターボートで対岸の州にゆき、引き網を見る。

山下中将がノロをくれるとかで、それにつれて集まった熊、タヌキ、オオカミ、キツネ等が庭にいて、好きなのを持ち帰れ、とのこと。ノロと狸をもらうことにしたら、熊もということになり、大連の〈日向〉に積むことになる。

6月22日

さいべりあ丸で新潟に向かう。

宿いろいろ　　

○佳木斯　山下中将の官舎に泊まる。1泊である。6-16

庭に動物園然とクマやノロや狐や狼やの子どもが箱に入れられてあったのも、私にくれるためで、そういうやり方は陸軍に一脈あるようだが、悪い気持はしない。ただケモノなどもらうのはうれしくないが、他のモテナシと綜合しての心持ちが買われるわけだった。

[現代風に書きあらためた。曜日と関心のない部分は省略した。]

☆6月2日高松宮は満州視察のために門司から吉林丸で大連に向かう。この視察旅行は高松宮が希望したのか？昭和12年シャンハイ事変のとき北シナか上海に行きたいと情熱的に昭和天皇に願い出て失敗した計画と関連があるかもしれない。その時期ヨーロッパではナチス・ドイツのフランス侵攻がはじまっていて、14日ドイツ軍はパリに入った。

高松宮は15日チチハルから孫呉に行き、宿泊。16日飛行機でチャムス(佳木斯)に到着した。山下師団長とは1942年シンガポール攻略でイギリスを降伏させた山下奉文のことだが、2.26事件で反乱軍の味方とみなされてロシア国境に近い町に流されていた。松花江(ソンホワチアン)は、アムール川の源流で最大の川である。

高松宮は山下師団長から動物の贈り物をもらい、事実だけ書きとめた。ぼくには興味のない出来事だった。しかし、しばらくしてからチャムスが長谷川テルの夫リュウ・レンの故郷であることを想い出すと、生け捕りにされた動物が反日運動のヒーローたちのイメージに見えた。

高松宮は22日新潟に向かう船の中で同じ話を書いた。そして、その出来事はあとで簡略にくりかえされる。三度も書く理由は22日の記述に隠れているように思える。つまり、陸軍に対する不信が贈り物の意味(メッセージ)を変えるということだ。反日宣伝放送のアナウンサー長谷川テルと満州青年リュウ・レンが無事かどうか、高松宮は船の中で急に心配になったのかもしれない。これは高松宮が満州青年リュウ・レンについて知っていたと仮定しての推理である。

長谷川テルと満州青年は戦後1946年チャムスに行き、まもなくそこで死んだと言われている。

☆　H

長谷川テルに関するシリーズ記事

▼　V字型の階段の記憶

満州視察旅行のあとの出来事

▼　北白川宮永久王の死

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Updated 2010. 8.15

下町橋上流

高松宮日記メモ:

南京の声:

ラジオ放送のトリックか？

昭和12年　1937　

9月26日

5　こうして南京空襲も、防空準備のよい南京に対しては日本で考えるほどの結果は与えられなかったと言えよう[略] 。放送局の損害もたちまち、補用のものだろう、大したことなしにつづけているのも手際がよい。

6 南京放送で、17日に小野田敏子発信の手紙が撃墜機の中からあったというのに、〈毎日心配していますが、お元気ですか…[略]〉と、本物かどうか分からないが、まことの心だろう。

7 上海の戦闘の発端も、必ずしもシナ側の発砲によるものとも言えないようであり、[略]　

[現代風に書きあらためた。テーマに無関係な文は省略した。]

☆シャンハイ攻略に失敗した国民党政府軍は、首都南京に撤退して日本軍の追撃に備えていた。陸軍の南京空襲は期待されたような成果を上げなかった。高松宮は、事変が起きた原因についても懐疑的に考える。

長谷川テルはシャンハイから日本のエスペラント運動関係者に〈中国の勝利が明日のアジアの鍵である〉という手紙を送り、イギリスの船でホンコンに脱出していた。日付は分からない。しかし、9月にはイギリスの植民地で平穏なアパート生活を送っていたにちがいない。テルが1939年チョンキンで書いた《嵐の中でささやく声》によれば、おそらくその時期、ルポルタージュを書いて日本の出版社から原稿料を受け取った。他にどんな仕事をしたか、明らかでない。

日記にはラジオ放送に関する記述が急に増えるが、26日は現代戦の様相にリアルに迫って南京放送の内容が出る。この情報は海軍軍令部で手に入れたらしい。日本軍の撃墜機から見つかった手紙には、どんな言葉が記されていたか？〈毎日心配しています〉

これは高松宮の内面を翻訳したかのようにタイミングがぴったり合う。手紙が〈本物かどうか〉と疑うのは、当然だろう。高松宮は早くもラジオ放送のトリックの可能性を認識している。とはいえ、国民党政府の放送局が高松宮に対して心理戦を仕かける理由があるだろうか？放送局の中にも日本のロボットがいると考えなければならない。それは軍人の常識であるはずだ。

日記にこの種の出来事は他にない。

☆　H

▼　高松宮、背広姿で湊川神社に参拝

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大館橋　右岸

Updated 2010. 7.25

高松宮日記メモ:

軽くあつかわれた

シャンハイ行き計画

昭和12年　1937　

9月18日

夜、宮城のニュース映画を拝見に上がる。防空演習中という理由で警視庁の自動車がついてくる(前もって話があった)。上海行きの件について〈話の行き違いがあって…〉という陛下のお言葉があった。…どうも宮内大臣の伺いかたが間違っていたとも思えたが、行けなくなって気の毒とはお思いでない様子である。

9月25日

6 最近ナチス党機関紙が日本とシナの戦争でシナにひいきする記事として日本の侵略態度を記しているという。

7 秩父宮の手紙にも、日本とドイツの協調をとく説にもとから一致した考えを持たない、ドイツを見ておいて自信ある説を言えるという考えでドイツに行くのだ、ということもあったりで、[略]

[現代風に書きあらためた。テーマに無関係な文は省略した。]

☆高松宮がシャンハイ行きを希望した問題で、18日はじめて天皇は高松宮に会って話した。天皇が映画上映会に皇族を招待して語り合う習慣はおそらくその日からはじまったように思う。リベラルな高松宮は警察などのガードというかプレザンスをむしろ警戒している。

〈話の行き違い〉は無理もない。側近が忠実に話を伝えることがむずかしい状況だからだ。しかし、顔を合わせて熱い口調でシャンハイ行きの理由を説明しても、天皇陛下は冷静である。軽くあつかわれている。二人の対話が書かれていないのは、残念だ。

シャンハイ戦線では、そのころ日本の派遣軍が上陸して国民党政府軍を敗走させていた。ナチス党機関紙が日本の侵略を非難したのは、中国への投資が無駄になるのを恐れたからだろう。経済をわきに置いても、ドイツ製の鉄道を利用されることが愉快であるはずがない。

高松宮は、それが全面戦争を回避する要素になることを期待したかもしれない。しかし、8月末には国民党と共産党の第2次合作が成立していた。ナチスは中国で共産主義を支援するだろうか？これは不可能だった。

秩父宮の手紙は、安心させたにちがいない。日本とナチス・ドイツの協調の発展に否定的な考えだから。とはいえ、あいまいな病気がドイツ行きを決意させたと疑いたくなる。秩父宮が無事に日本に帰っても、言論で陸軍と戦えるような情勢だろうか？

☆　H

▼　上海—東京　悩めるハムレットのような毎日

▼　高松宮のシャンハイ戦線行き計画

▼　肺炎の秩父宮、帰国かドイツ行きか？

▼　都鳥と上海事変

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大館橋

Updated 2010. 7.18

高松宮日記メモ:

上海—東京　

悩めるハムレットのような毎日

昭和12年　1937　

9月10日

6南京AP報でドイツのファルケンハウゼン男爵以下の軍事使節団が、ドイツ将軍5名、大佐、大尉100名で、抗日戦の統率指揮に貢献していると。4日。

9月11日

1700木戸総裁が来る。今日侍従長(百武三郎)から話があった。よく分からないので、午後、宮内大臣(松平恒雄)が参内して陛下にうかがうと、〈何とか上海に行かないようにしろ。きのうはよいというように言ったが。〉というわけで、自発的に止めてほしいという次第。[略]

木戸の話では〈秩父宮のお帰り後まで待って、(上海に)ゆけ〉ということになっている。[略]〈ロボット〉としての皇族は平常軍人のように装って政治にかかわらないで、軍人であろうとすれば万一の場合の政治家として待機を余儀なくされ、しかもこれに対する素養を与えられないで、いたずらな存在である不満は、上海行きの差し止めでいよいよ深い。[略]

[現代風に書きあらためた。テーマに無関係な文は省略した。]

☆南京のAP通信は、シャンハイ事変の一面を報道した。1934年2月ヒトラーが総統になって独裁政治を開始していたので、このドイツ軍人たちは裏切りなのか、と思った。しかし、現実はそう単純でない。近代化以来の中国政府はドイツと友好的な関係を続けていた。ナチスも資源の必要さに迫られて、日本と対抗できる中国にしようと計画した。21世紀の状況と似ているが、ナチスの協力で重要なのは遅れていた鉄道網の整備だった。この産業振興計画はシャンハイ事変で挫折した。ナチスが共産主義を壊滅させるために日本を選んだことが背景にある。そして、8月21日中国とソ連の不可侵条約が成立すると、ナチスは中国との協力関係を止めた。[1]

APのニュースはナチスの独裁政治に抵抗するドイツ国防軍のグループだ、と高松宮は推測したのかもしれない。そうだとすれば、高松宮が共感する何かがある。

翌日、木戸幸一総裁がシャンハイ行きの件で来る。内大臣を総裁と言ったのか？この日の話もすっきりしない。天皇陛下の意見が宮内大臣と侍従長と木戸総裁の口を回りまわって伝わる。そして、陛下の考えも落ち着かない。秩父宮が置かれた状況を心配して、命がけの大胆な行動をおさえて東京にいろ、ということだろうか？

高松宮は、そこで悩めるハムレットのような言葉を長々と書く。〈いたずらな存在〉というのは事実である。シャンハイ戦線に飛び込んで何ができるか、と考えれば、戦争の拡大を防ぐことは困難だろう。ただ中国で本当に何が起きているか、自由に動きまわって真実を知ることはできる…

☆　H

1 日記には30日公布で公布の日より効力発生、期間5年間と記されている。ナチスとの関係はwikipediaを参考にした。

▼　高松宮のシャンハイ戦線行き計画

▼　肺炎の秩父宮、帰国かドイツ行きか？

▼　都鳥と上海事変

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

大館橋　南交差点

Updated 2010. 7.3

高松宮日記メモ:

高松宮のシャンハイ戦線行き計画

昭和12年　1937　

8月22日

北シナまたは上海戦線を見に行くことに対して、宮内省側に根本的に不可とする理由があるか、別当に尋ねさせた。

2　赤子国民を死地において国民の危険を黙ってみているのは皇族としてできない。

8月24日

秩父宮、9月18日サウザンプトン発〈エム・ブリテン号〉で、10月2日バンクーバー発氷川丸、10月15日横浜着と内定という。

昼、軍令部でニュース映画があった。なかなかラヂオとともに活動が盛んになったものである。

[現代風に書きあらためた。テーマに無関係な文は省略した。]

☆秩父宮が肺炎を病みながら、イギリスから帰国かドイツ行きか、と関係者の抗争が起きているとき、弟の高松宮は突然中国北部か上海に視察に行きたいというプランを出した。秩父宮の救済が目的ではない。シャンハイにいる赤子国民の危機を傍観するのは皇族として無責任だから、という理由だ。赤子(せきし)国民とは戦線で戦う兵隊と在留日本人のことらしい。この情熱的なプランは関係者と昭和天皇をも当惑させることになる。高松宮はそのとき32才、海軍大学校に通う海軍少佐だった。

赤子という言葉はその日使用されただけである。歴史的には〈天皇の赤子〉というこの不思議な言葉は誰が発明したのか、と疑問だった。しかし、1937年春長谷川テルと夫の満州青年リュー・レンが船で日本を脱出してシャンハイに渡ったことを思うと、この赤子は文字通り〈ベイビー〉の意味になる。長谷川テルとリュー・レンは、居留地に住んでいたが、日本軍の空襲を体験して、命がけでホンコン行きの船に乗って逃げた。最初にその日の記述を読んだとき、大陸との時間的な偶然の暗合に気がつかなかった。

2日後、秩父宮のスケジュールについて平和愛好派と親イギリス・アメリカ派を安心させる情報が入った。ナチス・ドイツに背中を向けて、カナダ経由で帰るという。高松宮は余裕を取りもどして、現代社会の傾向に触れる。ニュース映画とラジオ放送が広く生活に組み入れられるようになった。

海軍軍令部では上海事変のニュースを見たかもしれない。軍令部は世界中の情報をリアル・タイムに傍受収集している。高松宮はアメリカとの開戦前にそこに配属される。

☆　H

▼　肺炎の秩父宮、帰国かドイツ行きか？

▼　秩父宮の英国滞在と発病

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

大館橋南交差点

Updated 2010. 6.22

高松宮日記メモ:

肺炎の秩父宮、

帰国かドイツ行きか？

昭和12年　1937

8月6日

新聞に秩父宮がアメリカ経由でなく、インド洋より帰るという記事があった。アメリカまわりが損でないと思う。

右のことで電報があったが、病気のためか時局のためか、どうも了解に苦しむ文句で、両方かもしれないが、よく分からない。電報の作文、落第点である。

8月11日

9日副島伯爵が来談。

1　秩父宮とロンドンでお目にかかったが、とても弱った様子なので早く帰国するように願う。

8月18日

秩父宮がドイツへ行く希望、ドイツ駐在大使(武者小路公共)と武官(大島浩陸軍少将)より陸軍に電報があったとか。

[現代風に書きあらためた。テーマに無関係な文は省略した。]

☆新聞によれば、秩父宮は帰国することに決まった。しかし、随員の電報ではその理由が理解しがたい。この日も〈分からない〉という言葉が出る。まるで東アジアとヨーロッパでのように記号が錯綜している状況の投影である。この言葉は4年後の10月29日国際文化振興会の青木主事が退職の理由として話した〈よく分からない〉に反響する。

副島道正伯爵の訪問は危機感を強める。肺炎で衰弱している秩父宮を帰国するよう説得したのだろう。秩父宮は皇族としての責任感が強すぎるのか？

一方、ドイツ駐在大使武者小路公共と武官大島浩陸軍少将は無理をしてでも秩父宮とナチス・ドイツを結びつけようとたくらんでいた。電報は、〈秩父宮がドイツへ行きたいと希望する〉、〈秩父宮のドイツ行きを希望する〉という解釈ができる。本国の陸軍に電報を打つのは、重大問題であることを暗示すると思う。

ニュルンベルグで開催される伝統のナチス党の大会に日本の皇族が出席するなら、秩父宮自身がナチスを否定的に考えていても、皇族の参加というこのプロパガンダは世界を方向づけるにちがいない。

大島浩は1940年ドイツ大使として日本・ドイツ・イタリア三国軍事同盟を結んだ。極東国際軍事裁判ではA級戦犯として起訴されて終身刑。

☆　H

▼　秩父宮の英国滞在と発病

▼　文化という美名に隠れて

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

大館橋

Updated 2010. 6.1

高松宮日記メモ:

秩父宮の英国滞在と発病

昭和12年　1937

5月31日

秩父宮、2.3日前より風気という電報があった。

7月9日

7日の夜間演習中に北平の西方の盧溝橋でシナの騎兵隊第9師が発砲して、砲戦になり、対峙して今日に至る。

7月10日

午後、英国のお供より先に帰った本間少将に会う。

戴冠式の行列の列次。先頭で安心したという。

日本人(特にドイツ在留)は英国よりただちにドイツを訪問することを望んでいるらしいが、お兄様は英国でのせっかくの日英好転の気勢をそぐのをおもしろくなく思うのだろう、スカンジナビアを先に行くつもりであるという。

8月1日

秩父宮、妃、肺炎で重態。イギリス滞在。

8月5日

秩父宮両殿下、熱がある。電報には流行感冒、胃腸型とあるが、分からない電報である。やはり肺炎のあと、よくないのだろう。

[現代風に書きあらためた。テーマに無関係な文は省略した。]

☆5月12日秩父宮は大英帝国ジョージ6世の戴冠式に出席した。高松宮は、盧溝橋事件が起きて3日後に随員の本間少将から報告を聞く。戴冠式の行列の列次は秩父宮が先頭だったという。イギリスが日本との関係を大事にしたいという表現だから、秩父宮がドイツ訪問に消極的になるのは当然である。ヒトラーは前年1936年独裁政治を開始して、11月には日独防共協定がナチスと広田内閣との間で成立した。

秩父宮は予想外の大役を果たしたが、そのあと発病する。8月には秩父宮と妃殿下がそろって肺炎で重態である。それについての電報は、意味が分からない。この一言は、重要なことを暗示する。そして、秩父宮の次のスケジュールをめぐる舞台裏の騒ぎと病気に関する記述がしばらくつづく。

秩父宮雍仁(やすひと)は第2次世界大戦の終わりまで箱根で療養生活を送った。

☆　H

▼　肺炎の秩父宮、帰国かドイツ行きか？

▼　都鳥と上海事変

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アトリエ

Updated 2010. 5.15

高松宮日記メモ:

都鳥と上海事変

高松宮日記

昭和12年　1937　　

4月21日

幟仁親王のお手本3冊、盛岡の先々代だろう、下さったものが同家にあるのを千葉寄人が持参。写真にするために七条(表具師)に頼む。

5月19日

霊元天皇の都鳥、後陽成天皇の鷹、雉の掛け物、烈公の手製琴を出してお見せする。(18日)

7月9日

7日の夜間演習中に北平の西方の盧溝橋でシナの騎兵隊第9師が発砲して、砲戦になり、対峙して今日に至る。[略]

[現代風に書きあらためた。テーマに無関係な文は省略した。]

☆4月、高松宮は2.26事件以後書き込みが極端に少なくなった日記をふたたび付ける。〈何日続くことやら〉

上海事変前には有栖川宮の歴史にかかわる行為が目立つ。これは記憶をよみがえらせて、精神的な力をえようという願望から来るだろう。見せた相手は、あいまいである。

幟仁(たかひと)親王は熾仁(たるひと)親王の父であり、五箇条のご誓文を有栖川流で清書した。霊元天皇は112代天皇で、17世紀後半に君臨した。有栖川職仁(よりひと)親王と東山天皇の父である。明治天皇は東山天皇の直系である。後陽成天皇は霊元天皇の祖父で、鎖国のはじまりに徳川家康から無力にされる屈辱を味わった。その子の高松宮好仁親王から有栖川宮がはじまる。烈公とは最後の将軍慶喜の父徳川斉昭のことである。

霊元天皇の都鳥とは何か？それが象徴的な意味を持つとすれば、メッセージの解釈はむずかしい。一般には在原業平の歌である。業平は隅田川のほとりに来て、都鳥という名前の水鳥を見て、都にいる愛する人が無事かどうか、都鳥にたずねたいと思う…

7月7日、七夕の日にシャンハイ事変の序曲が始まる。これが陸軍幕府の陰謀であることは言うまでもない。

長谷川テルは夫リュー・レンと一緒に船でホンコンに脱出した。その年の春シャンハイに渡っていたが、日本での日記は2.26事件の話で終わっているということである。

☆　H

つづき

▼　秩父宮の英国滞在と発病

長谷川テルについて

▼　V字型の階段の記憶 11

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デンマークのクッキー

Updated 2009.10.6

高松宮日記メモ:

戦争を予感して悩む個人

　

昭和12年　1937

4月18日

日本が植民地をもつということは明治精神でないと思う。

植民地の概念として、その地の住民を非国民ないし第二国民として考え、資源的に、その生産力をも本国に吸収しようとするのが目的となるからである。…

[略]…少なくとも明治精神としては四海同胞という第一主義のもとに植民地は相許されないものと信ずる。

[現代風に書きあらためた。]

☆7月7日の第2次シャンハイ事変で中国との戦争が拡大する前のことである。その日の高松宮は、威厳を漂わせて、植民地支配は許されないと断言的に語る。欲張りな資本家に向かってバルコニーで宣言するような調子だ。

　明治精神という言葉はそこにしか出ない。個人的な考えでは、文明開化の理念が含まれている。四海同胞は明治天皇の歌に由来するが、その意味は世界が平等と愛情に包まれることである。排他的な概念ではない。植民地の範囲は、文明開化のスタート地点にもどって考えるべきだろう。

☆　H

▼　東京駅暗殺事件

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2011.9.15

大館橋　南交差点

高松宮日記メモ:

大館橋開通式の1か月前に

堤少佐がピストル自殺　　-前

昭和11年　1936

6月27日

6月17日午後学校にゆき、堤少佐が今朝9時頃自宅で自殺したと聞く。昨日も平常通り学校にきていて、今日も午前自宅作業で午後学校にゆくと言っていたという。家族の人が昼食を聞きに2階の室にへゆき発見したと。

自殺はピストルで4発ほど発射している、胸に。即死である。簡単な遺書といっても、その場で書いたもの「誰々に知らせ、(将来の修養に行きづまったと思わせる)非常時に軍人としての責任にたえられない」といった意味のことがある。そういえば、最近言葉少なく思いこむといっても一般のインキな型とは違う程度だったとも思えた。

[現代風に書きあらためた。そのあとの記述と曜日は省略した。]

☆大館橋の建設に関して何か暗示的にでも書いていないか、と期待してもう一度高松宮日記を読んだ。2.26事件のあとしばらく空白がつづいて、堤少佐の自殺がある。7月24日の大館橋開通式の約1か月前だ。

堤正之海軍少佐は高松宮の海軍大学校同期生。祖父堤正誼(まさよし) 男爵は福井藩出身の勤王派で明治4年侍従になり、その後宮中勤務が多い〔1〕。高松宮にとって堤少佐は信頼できる親しい友人だったと思われる。

高松宮が考えるように理解しがたい自殺である。〈昼食を聞きに2階の室に〉行くまで知らなかった、ということは誰もピストルの音を聞いていなかった。消音銃で自殺したか、家族がそのとき外出していたか？ともあれ、4度以上胸に向けて引き金を引くとは、普通でない。

長い推理を書くつもりはないので、他殺の仮説だけにしておく。ピストルはおそらく南部式だろう。弾丸には明治維新で破れた怨念がこもっている。

この日の記述には大館橋とリンクするような言葉がない、と思ったが、4発の弾丸と灯篭4個が結びついた。似たようなフォルムだ。高松宮は〈4発ほど〉とぼかしている。ショッキングなリンクをやわらげようとする自然な配慮か、あるいは、4という数字にこだわる理由があったのだろう。堤という単語が堤防の意味であることを考えると、〈弾丸と堤少佐〉〈灯篭と堤防〉は相似的な構図である。

☆　H

1 wikipedia

▼　2.26事件

▼　V字型の階段の記憶 21; 大館橋は特別な橋だよ

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

∫∫∫

Updated 2011.9.15

大館橋　

2011.8.16

高松宮日記メモ:

大館橋開通式の1か月前に

堤少佐がピストル自殺　　-後

昭和11年　1936

6月27日

☆日記にはそのあと寺本武治少将の話が書きとめられている。4月だったか、堤正之少佐が〈忠君愛国の感情がどうしても燃えてこない〉と話したということである。寺本は、大楠公(楠木正成)の事跡に照らし合わせて行動するように教えた。その後自宅に行くと、観心寺の〈非理方権（法権）天〉の掛け軸がかかっていた。これは楠木正成の格言として侵略戦争のスローガンにされたが、事実は江戸時代中期に伊勢貞丈が書いた儒教的な規範だという。「無理（非）は道理（理）に劣位し、道理は法式（法）に劣位し、法式は権威（権）に劣位し、権威は天道（天）に劣位する」〔1〕

忠君愛国とは天皇に忠実であり国を愛することである。寺本少将の話では、科学的な教育を受けた海軍少佐は勤皇家の祖父に近い生き方をしようとして煩悶したようだ。

堤少佐は天皇に忠実であることも国を愛する意欲も持てなかった。これは2.26事件のときのエピソードと関係するだろう。海軍大学校で馬術を教えていた西竹一男爵が「近く変な大きなことが起こる」と学生らに語った。まもなくクーデターをねらった陸軍青年将校らの反乱が東京の中心で起きた。西男爵は1932年のロサンゼルス・オリンピックの金メダリストとして世界的に有名だが、主謀者の一人安藤輝三の同期生であり、堤少佐の親戚である。のちに硫黄島で戦死した〔1〕。

2月26日の朝、高松宮は事件を知っても宮中に入ることを宮内省から止められて、仕方なく海軍大学校に行った。高松宮日記メモから引用すると、〈海軍の調査報告で高松宮を例外扱いにしている状況が浮かび上がり、それを指摘された宮内省が仕方なく高松宮を宮城に入れるように手配したようだ…〉という次第で午後3時天皇に会いに行くことができた。宮内省は天皇派でないことが鮮明に浮かび上がった。

ウィキペディアの記事によれば、海軍大学校で堤少佐は〈大井ら学生に高松宮を宮中へ参内させるよう主張した。学生長の大井は状況がわからぬ我々が動くのは筋違いであると答え、堤と激論になっている。〉

堤少佐はそういう事実から反乱軍が反天皇派の行動を取っていると懐疑的に考えたにちがいない。それは天皇の〈真姿顕現〉つまり天皇親政を求める反乱将校らのアピールを裏切っていた。〈変な大きなこと〉という意味の分かりにくい予言が現実になった。本当の目的は何なのか？堤少佐は、そこで反乱将校らの行動に対する疑惑を話さなければならなかったはずだ。そういう欲求に駆られたと思う。

しかし、日記では高松宮がそれを聞いた様子はないが、〈修養ではあるまい〉と最後に結論めいたことを書きとめた。状況が堤少佐の死と無関係だと考えるべきではない。反乱軍の裁判は6月4日から判決が言い渡され、7月5日までに16人の青年将校らが反乱罪で死刑と決まった。堤少佐の疑問は裁判のフィクションを暴いたにちがいない。

〈学生長の大井〉は大井篤(あつし)元海軍大佐のことである。昭和11年の秋卒業して、翌年3月11日海軍軍令部第1部イギリス担当主務部員になった。戦争中は作戦参謀や軍務局調査課などブレーンの位置にいた。1995年から刊行された高松宮日記の編纂者の一人である〔1〕。

☆　H

1 wikipedia

▼　2.26事件

▼　V字型の階段の記憶 21; 大館橋は特別な橋だよ

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2013.3.15

高松宮日記メモ:

2.26 内戦の危機

昭和11　1936

2月29日

黎明より砲撃するとの話で、5時に出かけようと4時15分に起きたが、秩父宮様より、おくれて8時過ぎになるとのこと。7時参内する。

大館橋

砲撃は火災をおもんぱかり止めて戦車を使って掃討するという。それも8時半、9時とおくれた。秩父宮、朝香宮、東久邇宮、竹田宮とともに振天府のところより配備などを見る。参謀本部の付近の様子を10時頃まで見る。無事にあの辺りの反軍が消散する。

昼食をして、3時-4時頃まで待ち、大方処分がついたという報をえて、大宮御所へ伺い、5時帰る。

昨日来、宮中近くの戦闘もあるかと心痛したものの、銃声はほとんどなく終わる。日本のありがたさである。

[上欄]…[略]

[ 現代風に書きあらためた。]

☆29日朝、高松宮は黎明から砲撃するという話を聞いて、朝早く宮城に行った。振天府から見ると、戦車が配備されていた。これは内戦に備えたものだろう。振天府とは、日清戦争がおわったあと明治天皇が忠勇な日本陸海軍の軍人の勲功を記念するために建てた博物館のような建物である。高松宮は砲撃準備の遅れを非難しているが、それが疑惑をくすぶらせたり苦痛を高めることを思うと、当然である。

幸運なことに後世の人間は客観的な状況を知っている。戒厳司令部は9時に反乱軍に対する攻撃開始をすると決定していた。しかし、ラジオで攻撃5分前に投降を呼びかけると、決起部隊はそれにしたがった〔1〕。

☆　H

1　昭和2万日の全記録

▼　高松宮日記メモ : 2.26　皇族集合と伏見宮の悲嘆

▼　高松宮日記メモ : 2.26　反軍が存在しない戒厳令

▼　2.26事件

2.26事件の記号論

▼　List1　V字型の階段の記憶　33;　2.26　復讐の記号

Updated 2013.3.4

高松宮日記メモ:

2.26 皇族集合と伏見宮の悲嘆

昭和11　1936

2月28日

アトリエの庭

陸軍の方はなかなか片づかない。しかし、騒擾はあの場面では拡大しないらしいので、通学する。昼、秩父宮より電話で皇族集合の件は伏見宮にお話したところ、そういうことは早いほど良いというので…[略]2時半−3時に宮中へ集まれ、ということになったので、直ちに帰り参内する。ぶどうの間で伏見宮、朝融王、秩父宮、朝香宮、東久邇宮、梨本宮、竹田宮、それに私の7人が集まる。今度の事件に対する皇族としての所見の統一ということであったが、別にそうしたことも定まらず、席上伏見宮は、私達二人して弟としてお上をおたすけしてくれ、と仰って、御自分も感泣なさった。そんなことは私もはじめてであった。

夕食をたのんで2100頃までいて帰る。

[ 現代風に書きあらためた。]

☆秩父宮が前日弘前から帰って天皇とどんな話をしたか、高松宮日記には書かれていない。しかし、28日秩父宮が皇族集合を提案したので、伏見宮、朝融王、秩父宮、朝香宮、東久邇宮、梨本宮、竹田宮、高松宮が皇族としての意見をまとめようとしたが、定まらなかった。重臣を殺した反乱軍に対して天皇とちがう認識があったのか ?

伏見宮博恭(ひろやす)王の態度は印象的だ。秩父宮と高松宮が協力して天皇を助けるように頼む。三兄弟の仲が良くないと思っているというよりも、自由な協力が妨害される状況であることを悲観している。ともあれ、涙を流す理由は陸軍統制派の底知れない力の絶望的な予感にあるだろう。伏見宮は日露戦争で連合艦隊旗艦三笠分隊長として黄海海戦に参加した歴戦の長老格で、クーデターにすばやく決断した最高実力者の海軍軍令部総長だった〔1〕。軍令部はどんな情報を持っていたのか？

☆　H

1 wikipedia

▼　高松宮日記メモ : 2.26　反軍が存在しない戒厳令

▼　2.26事件

2.26事件の記号論

▼　List1　V字型の階段の記憶　33;　2.26　復讐の記号

Updated 2013.1.7

高松宮日記メモ:

2.26　反軍が存在しない戒厳令

昭和11　1936

2月27日

一夜明けて、通学前に岩波に電話した。宮中はお変わりなしとのことで通学する。

大館橋から見た下流風景

昼休み帰邸して、状況を聞く。甲府、高崎、佐倉などの兵が来て、第1師団とともに戒厳配備についている。陸軍では反軍を占拠部隊と称して依然戒厳部隊の中に加えて給与も出している。唯、原隊に帰れ、と命令だか相談だかをしている。埒が明かない。海軍はすでに反軍と称して、連合艦隊を、第2艦隊は大阪に、第1艦隊は東京湾に集合を命じて、昨日来横須賀より陸戦隊を４大隊持ってきて芝浦や海軍省に配備して待機警備して、陸軍がやらなければ海軍の手でもやるという意気だった。[略]

[ 現代風に書きあらためた。]

☆27日戒厳令。第1師団と甲府、高崎、佐倉などの兵士が戒厳配備についた。しかし、反乱軍は政治の中枢を制圧していた。真夜中すぎ天皇の裁可で所属部隊への復帰命令が出されたが、状況は変わらない。皇道派の青年将校が天皇に反抗しているように見える。

日記にはショッキングな事実が出る。陸軍は反軍を占拠部隊と呼び、戒厳部隊の中にくわえて給与も止めないという事実だ。これは中立的な川島義之陸軍大臣の決定か？あるいは、閑院宮載仁(ことひと)参謀総長の下で事実上のトップである皇道派真崎甚三郎次長の決定か？いずれにしても、占拠部隊が戒厳部隊の一部なら、戒厳の対象は存在しないことになる。敵対する統制派つまり反天皇派の他には。事実、決起した皇道派は26日朝統制派の宇垣一成大将と南次郎大将の逮捕を要求した〔1〕。

といっても、陰でクーデターを演出しようとする統制派も反軍呼ばわりはしないだろう。体制変革をねらう統制派の戒厳の対象は、必然的に天皇と皇族である。

陸軍のあいまいさと対照的に海軍は誤解されない。陸軍と対決してでもクーデターと戦う準備をしている。この構図は東条英機首相が恐れたようにアメリカとの開戦のときも表面に浮かび上がり、記憶されなければならない。その日の日記は、海軍省と海軍があるからこそクーデターはあれだけで終わったのだ、と考えさせる。

〈高崎〉にはおかしなリンクがつく。〈榛名とハルと榛名山〉を参照。

宮中に変化がないと聞いて、高松宮は海軍大学校に行く。

☆　H

1 昭和2万日の全記録 : 講談社

東条首相の心配

▼　見せかけの中立の裏で

▼　パール・ハーバー

高崎 ?

▼　List3; 逗子なぎさホテル

▼　List3; 榛名とハルと榛名山　-前　-後

 2.26事件の記号論

▼　List1　V字型の階段の記憶　33;　2.26　復讐の記号

桂城公園　秩父宮ご休息の記念碑

昭和11年7月建立

Updated 2010. 4.20

高松宮日記メモ:

2.26事件　-前-

昭和11年　1936

1月21日

今朝、英国皇帝崩御の電報があった。[略]

宮城大宮御所にご機嫌伺いにあがる。宮中喪3週間を言われる。24日の幟仁親王の式年祭を1か月延ばすことにする。[略]

2月22日　

(前日)総選挙の結果は政友党が以外の不成績で、立憲民政党が良く、政府もこれで支持されるだろうが、安定の程度は必ずしも大磐石ではあるまい。

…[略]…これを見て、いわゆる軍部の一派や軍国主義的暴行に反省を加えるべき良い機会と思わさせる。[略]

2月23日　

雪は一日降りしきる。夕方吹雪しきる。

明日の幟仁親王50年祭の準備に雪中にテントなどを張るのも、ものものしい。　[略]

2月24日　

10時半より霊殿で、1時半より墓所で幟仁親王50年祭。

昨夜、清棲伯爵夫人、逝去。きく子5日の喪となる。[略]

[現代風に書きあらためた。]

☆ジョージ5世が死んだので、明治44年制定された内規で宮中の喪が3週間。高松宮は、有栖川宮幟仁(たかひと)親王の死の50年祭が延期されることに不満を表わす。故久邇宮5年祭は延期されなかったのだ。そこにも明治維新の暗い影が見える。

衆議院選挙では社会大衆党が躍進、与党の立憲民政党が第1党になった。〈議会政治に対する希望の現われを認める〉と高松宮は前日評価した。しかし、岡田啓介内閣があっけなく崩壊させられるのは時間の問題で、それまでの重苦しさは映画的である。

雪におおわれた宮城に式年祭のテントを張るというのを読んで、ぼくは写真で見た反乱軍のテントを想い出した。

清棲(きよす)幸保伯爵夫人敦子は喜久子妃の従姉である。喜久子妃は1月29日帝大青山外科で盲腸の手術を受けて、10日退院した。

☆　H

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

∫∫∫

桂城公園

Updated 2010.4.20

高松宮日記メモ:

2.26事件　-後-

昭和11年　1936

2月26日

秩父宮ご休息の記念碑

朝7時頃、本省(宮内省)の岩波事務官より電話とのことで、何事かと思えば、聞けば一層驚くべきことで、今朝5時頃、麻布3連隊の兵が将校指揮のもとに出動して、斉藤内府(内大臣、海軍大将斎藤実)、鈴木侍従長(海軍大将鈴木貫太郎)に暴行して、内府は即死、侍従長は重傷とのこと。高橋(是清)大蔵大臣や岡田(啓介)首相もやられたらしいが、警視庁や陸軍省が占領されて連絡が取れないので、不明ということだ。宮内大臣は参内して上奏した。私も行こうかと言ったが、今宮城の辺りは通行が止められ、とても入れないとのことで、仕方なく学校(海軍大学校)に行く。出がけに弘前(秩父宮)へ右の概況を電話して出た。昼休みに帰邸して状況を聞いたが、まだ参内できないとのことだが、海軍のほうの取調べでは伏見宮も9時頃参内され、朝香宮、東久邇宮も参内されたというので、また岩波に相談して、時間もないので学校にもどり、結局3時に通常礼装に着替えて参内した。(天皇陛下の)ご機嫌を伺う。ご心配は申すまでもないことながらお元気で安心した。

夜に入り、午後10時頃か枢密院会議があり、戒厳令を公布された。

岡田首相の方は、…[略] …(27日に御所で、生きていると聞いて夢のような気がした。)

2月27日

秩父宮ご休息の記念碑

5時すぎ秩父宮が上野駅に到着。直ちに参内。(昨夜弘前から電話で、帰ろうかどうしようかと言ったから、宮内省のほうに聞いたら、お帰りになっても不都合は少しもないが、3連隊や西田(税　騎兵少尉)、安藤(輝三 大尉　中隊長)等との関係でデマがとぶことは心配ということであった。それも秩父宮に話したが、重臣の不在はそれにもましてお帰りが必要とも思ったが、秩父宮の判断を願い、結局11時の汽車で帰ることになった。)

[現代風に書きあらためた。]

☆26日と27日は長い記述なので、事件発生の朝の電話から天皇に会うまで省略なしに引用して、その他は秩父宮にポイントを置いた。

高松宮は天皇に会うのを妨害された。海軍の調査報告で高松宮を例外扱いにしている状況が浮かび上がり、それを指摘された宮内省が仕方なく高松宮を宮城に入れるように手配したようだ…しかし、宮内省幹部にそんな権限があるのか？電話の向こうに反乱軍か陸軍の拳銃があるのじゃないか？いずれにしても、昭和天皇の弟の宮様が緊急の場合でさえ電話でも陛下と話せなかったという展開は異常である。天皇はそれをどう考えていたのか？

秩父宮に関する記述は、真相に触れる。高松宮の兄である秩父宮は昭和10年8月から弘前歩兵第31連隊に第3大隊長として勤務していた。皇道派のクーデターの主謀者安藤輝三大尉は部下だった。主謀者西田税(ちから)少尉は秩父宮と陸軍士官学校の同期生だった。デマとは、秩父宮がクーデターの裏にいる共謀者であるということだろう。それに似たようなデマは第2次世界大戦末期に中国戦線でラジオによるブラック・プロパガンダとしてアメリカが日本兵向けに流した。秩父宮のクーデターで日本が敗北したというデマ。この宣伝は2.26事件の伝説の模倣らしい。秩父宮は天皇に誤解されたかもしれない。つまり、皇道派の反乱は3月1日の陸軍大臣告示によれば〈国体(天皇)の真姿顕現にある〉にもかかわらず、それと反対の情報操作で天皇ヒロヒトは地位が脅かされていると想像したということだ。その意味でも秩父宮がすぐ天皇と話し合うために東京に帰ったのは、正しい状況判断だった。

ところで、秩父宮雍仁(やすひと)親王は昭和10年8月から昭和11年11月まで弘前歩兵第31連隊に勤務していた。昭和10年10月17日連隊の演習の講評を行なうために弘前から大館に来て、桂城公園にあった大館尋常小学校で休憩した。長木川にコンクリート製のモダンな大館橋が建設中のときだった。

2.26事件後の7月小学校保護者の会は公園の東側の入口に花崗岩のオベリスクを建てた。これは立派すぎる記念碑だが、秩父宮に対する疑惑が背景にあると考えれば、対抗的に信頼感を表わしたものだろう。

☆ H

▼　皇道派と統制派の違い:平等という言葉の魔力

秩父宮と大館橋の関係

▼　V字型の階段の記憶　21

秩父宮関連記事シリーズ　2　

▼　秩父宮の英国滞在と発病

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2009.2.27

函館湾　　

高松宮日記メモ:

なぜ函館大火を書かないのか？

昭和9年　1934

9月1日

３時少し前、函館入港。[前後　省略]

9月2日

9時の定期で上陸。市長の案内で火事あとを見て回る。公園から眺望して、あと海岸を湯の川の方へまわり…[後　省略。]

[現代風に書きあらためた。]

☆有栖川宮の継承者高松宮宣仁(のぶひと)大尉は巡洋艦高雄で函館に入った。日記にはそれ以前に函館大火に関する記述はない。4月2日秩父宮と高松宮など各宮家が罹災民に義捐金を送ったという新聞2紙の記事を切抜きしただけである。

十字街

函館大火とはどんな災害だったか？

インターネットで函館大火資料館を見ると、〈世界的な〉函館大火はその年の冬3月21日夜起きた。函館市消防本部の資料から大火の被害状況をのせる。

*死傷者

死者　2,166人 　重症者2,318人　　軽傷者　7,167人

罹災人口 約102,001人

*大火による死亡調べ

焼死　748人　　溺死　917人　　凍死　217人 　　

窒息死　143人　　その他　29人　　　

その他収容後死亡　112人　

合計2,166人

函館山と十字街

☆火事の発生は午後６時５３分。出火地点は観光コースの函館山のふもと住吉町。民家の屋根が暴風で飛んで炉火が燃え上がり、次々と飛び火して、市街の4分の3が焼けた。〈もはやもえるものがなくなった午前6時にようやく自然鎮火した。〉〔1〕　　

検閲済みの写真を見ると、函館駅周辺まで焼け野原だ。溺死者が最も多かったのは、海岸に避難した人たちが猛火に追いつめられて海に飛び込んだ結果だろうか？しかし、誰もが理解しがたい悲劇だ。

9月1日と4月2日という日付にも考えさせる記号のネットワークがある。高松宮は、その日想起したにちがいない過去の出来事に関連するようなことは書き記していない。想像に任せよう。

☆　H

1 大正・昭和・平成の事件簿　

Microsoft(R) Encarta(R) Reference Library 2003.

これに関する対話

▼　函館大火と大館大火

4.1と9.1

▼　ナチスの鉤十字と日の丸の旗　C

大館大火

▼　List 1 関連記事一覧

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

長倉町交差点

Updated 2009.10.6

高松宮日記メモ:

〈たたるから嫌だ〉と

北白川宮のおば様が反対

　

昭和9年 1934

8月23日　

盛岡町に立てる道場に北白川宮が今度払い下げる建物を使う、と香坂東京府知事が言うと、〈たたるから嫌だ〉と北白川宮のおば様が反対した。

11月17日

盛岡町の公園の開園式。[注:麻布の有栖川宮記念公園のこと]

11月18日

盛岡町の新公園を見に行く。見違えるようによくなった。建設費用約8万5千円。池の上左手にある岡は古墳だという。たたりの話もこんなところから来るのかもしれない。…[略]

☆適当に現代文にあらためた。北白川宮のおば様とは北白川宮大妃(正式には大妃殿下)房子のことである。夫の北白川宮成久は1923年(大正12)4月1日北伯爵の名でパリ遊学中に自動車事故を起こして死亡した。房子妃は負傷して後遺症に悩んだ。第2次世界大戦中の1943年二ツ井のきみまち阪上流にある天神貯木場と天神荘を訪れている。

☆ H

▼　北白川宮の自動車事故死と花

有栖川宮家の始まり

▼　キリシタンと朝廷

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2014.1.1

高松宮日記メモ:

原始的暗殺劇

昭和9年　1934

6月9日

(略)

御成町ジャスコSC跡

東京での話で、武藤氏の暗殺は刺客をまたその場で殺した人があるそうだ。刺客の頭の弾丸は〈ピストル〉が異なる弾丸だそうだ。その黒幕はまだ不明だとか。本当に世の中がめんどうになる。そしたらハルピンの伊藤侯爵が殺されたのも、安重根ではなく、そのときは弾丸とピストルを比べなかったから、どうも近くの二階窓から打ったらしいという(そのときいた人の話で疑っているとのこと)。

　　　　　　　　　　　　　　　　[現代風に書きあらためた。]

☆武藤山治は鐘紡(カネボウ)の社長で衆議院議員だった。実業と政界から去ってまもなく昭和7年時事新報の社長に就任した。これは文明開化のオピニオン・リーダー福沢諭吉が創刊した。しかし、昭和9年1月〈検察ファッショ〉と批判された帝人株をめぐる疑惑を取り上げて、3月9日鎌倉の別邸を出た直後に銃弾を受け、翌日死亡した。

ウィキペディアの記事によれば、犯人はその場で自殺したということだが、海軍大尉宮様の日記は世の中の複雑怪奇さを浮き彫りにする。暗殺犯が射殺されたのは、犠牲者の味方が反射的に報復したか、犠牲者の敵である黒幕が自白を防ぐためか、だろう。黒幕の陰謀だとすれば、法に対する挑戦だが、こういう残酷な手法は日本の社会の深層に根がある。つまり、汚れをはらう儀式、生贄にささげる儀式。

ケネディ(J.F.Kennedy)大統領暗殺事件は類似のパターンだろう。ただ、容疑者が射殺されたのは2日後である。初代首相伊藤博文の暗殺事件は、日記にあるとおりだとしたら、他に犯人がいると考えなければならない。

☆　H

▼　List 8 歴史　世界と日本; ケネディ大統領暗殺から50年

▼　List 5 東京駅暗殺事件

Updated 2009.13

高松宮日記メモ:

京都駅プラットフォーム

終端に7,8人の私服刑事

昭和9年　1933

1月8日

京都駅でプラットホームの終端で、誰もいないのに、二重に私服が背を向けて七、八人いたのも目ざわりなら、も大阪では窓の鼻っさきに尻向けて、やはり二重の私服陣が股を開いてガンバル。旅行者の眼をそばだたしめるに充分である。この方には不愉快を残す。それに加えてカーキの憲兵もいる。夕方、海田市でのりかえて、6時すぎ呉に到着。

(略)

　 [現代風に書きあらためた。]

☆出来事の相関関係に敏感な高松宮は、それを日記に書きとめる。呉で生活を始めるために特急で向かう途中なのだが、異動命令は前年の11月14日に出ていた。その日付は1930年浜口雄幸首相が東京駅の階段かプラットフォームで狙撃された日だということを想い出したはずだ。ただ、そのことには触れていない。しかし、それは明らかに恐怖をかきたてるために演出された場面である。

☆　H

注:高松宮宣仁(のぶひと)は海軍大尉として巡洋艦〈高雄〉の分隊長だったが、1933年(昭和8)年11月戦艦〈扶桑〉の分隊長になった。母港が呉なので、移り住んだということである。

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2012.3.27

JR大館駅前広場

左に山田桂月堂

高松宮日記メモ:

キューピーと明けがらす　　-後

昭和4年　　　1929

2月28日

風が激しく動揺するものの、机上のセルロイドのキューピーが不安定になったのみ。視界が狭く〈比叡〉と会合ができない。探照灯をつけて後にいると思ったのが前方にいた。7-20。

[略]

[無関係な記述と曜日は省略した。]

☆海軍少尉高松宮は2月から戦艦〈榛名〉に勤務した。しかし、〈榛名〉には親しみが持てないことを何度か神経質に書いている。

訓練で瀬戸内海の徳山近くにいるとき、思いがけなくふたたびキューピーが登場する。船の揺れが激しいが、机に飾っているセルロイドのキューピーが不安定に揺れただけ、というサスペンス・ドラマのようなシーン。裸のかわいいキューピーを船室に飾ってあるのは、考えてみると、自然なことだ。徳川喜久子との結婚問題の書き込みが増えていたあとだった。11日には結婚は喜久子の女子学習院〈卒業後に具体化すること〉と記されて、23日には新聞に盛んに出る結婚報道記事を気にしている。

それから1年後の1930年2月に高松宮妃になる喜久子は、有栖川威仁(たけひと)親王の王女実枝子(みえこ)を母に持つ〔1〕。キューピーのような赤ちゃんだっただろうと思わせるのは、新婚旅行でロンドンの街をパレードしたときの非公式的な写真である〔2〕。1923(大正12) 年のキューピーは彼女のことを連想させたかもしれない。

その日の日記は、サスペンス・ドラマのように感じられたが、想像力の揺れ動きも小さくなかったのが原因だ。ロンドンの写真の顔は、それを見たとき長谷川テルの姉ユキに似ていると思った。そして、長谷川幸之助の家族の写真で姉の顔を見たとき、ぼくは東京のどこかで会ったことがあるような気がした。

〈榛名　はるな〉という名前の裏にはメッセージがあると思う。高松宮はそれを意識して落ち着かなかったのだろう。ぼくが疑問を感じながら日記の空白にリンクさせたのは、そのころ東京で暮らしていた祖母の長谷川ハルと知り合いの金森ハルである。しかし、そう考えれば、宮様の心理が自然に理解される。

☆　H

1 wikipedia

2 菊と葵のものがたり: 高松宮喜久子妃

▼　キューピーと明けがらす　　-前

▼　長すぎる停電と殺人劇 F

長谷川テルと姉ユキ

▼　V字型の階段の記憶 3 4

長谷川幸之助と妻よね

▼　V字型の階段の記憶 3 28 29

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2013.1.5

高松宮日記メモ:

榛名とハルと榛名山　　　-後　　　

昭和4 年   1929        

2月17日　日曜　晴

大館橋

[予記欄]車中、黒井大将より海軍の乗馬会で一緒に外乗りをしようという話があった。5月中の日曜日に。承諾した。

5月に立山登りをやることになりそう。もちろんスキーである。

6-0　起床。7-15自動車で出発。8時赤城山の山腹箕輪(みのわ)で下車して、スキーをつけないで登る。僕の靴はとてもすべるので、なわをまいたり、とうとうアイゼンをつけたりして登る。峠よりスキーで行く。[略]峠でヘルセット、麻生、広田が迎える。9-15。10時頃シャンチェにつく。猪谷主人(独学で大したジャンパーである)。麻生、コルテルード、スネルスルード、秋野、伴君が飛ぶ。いずれもよく飛ぶ。スネルスルードは55メートル飛ぶつもりらしかったが、雪の具合で53メートル。昼は大倉のごちそう。ボーイも学生出の練習生である。11-40=0-25、小沼方面を回って旅館へ。1-35発。峠までとても疲れたが、あと割に面白い降りだった。3-20箕輪発、自動車。4-10前橋発。7-56上野着。帰宅。

[現代的な文に書きあらためた。]

☆高松宮は、なぜか日記に書いていないが、赤城山シャンチェではノルウェーのスキー選手の模範ジャンプ会が行なわれた。オラフ・ヘルセット中尉、オウレ・コルテルード、ヨオン・スネルスルードは暮れに日本に招かれて来て、北海道や青森大鰐、長野野沢温泉、志賀高原などのスキー場を回っていた。日本に招かれたのは、前年の昭和3年秩父宮が札幌にシャンチェをつくることを友人の帝国ホテル会長大倉喜七郎に進言して大倉がポケットマネーによる建設を決意したから、である。大倉シャンチェはその年12月ヘルセット中尉の設計で完成して、宮様大会の会場になった。1972年札幌冬季オリンピックでは90m級ジャンプ競技が行なわれた。

猪谷旅館経営者の猪谷六合雄(いがや　くにお)は、日本のスキー草創期の貢献者。ウィキペディアには1929年 国後島に移住とあるが、これは明らかな誤り。息子の千春は1956年コルチナ・ダンペッツォ・オリンピックのアルペン競技回転で銀メダルに輝いた。

スキー愛好家の秩父宮と高松宮は模範ジャンプ会に臨席した。高松宮は最初から靴のすべりやすさをクローズ・アップするが、まずいコメディ映画のような描写だ。

前夜列車で来た人たちについて簡単に説明すると、槇(まき)有恒は世界的な登山家。登山仲間の伊集院虎一と早川種三は〈秩父宮サロン〉と言われたグループのメンバーである。大倉喜七郎はモダン・ボーイの万能選手。海軍の予備役大将黒井悌次郎は日露戦争で旅順陥落に勲功があった人だが、高齢なので、シャンチェに行かなかったかもしれない。坊城は宮内官坊城俊良(ぼうじょう としなが)伯爵らしい。二荒は北白川宮能久(よしひさ)親王の第5王子二荒(ふたら)芳之伯爵の子芳徳。この人は1921年皇太子裕仁のヨーロッパ旅行に随行した。前田、渡辺、吉島、佐分利(さぶり)に関しては少しも分からない。佐分利は風変わりな名前だが、同名の外交官と俳優がいる。

高松宮は、前の日16日戦艦〈榛名〉から降りて上野駅発の列車で高崎駅に行き、前橋に宿泊、翌日には赤城山でスキーを楽しんだ。このアクションは、ウェッブログ〈渡り鳥のスポーツ日記〉の歴史記録によれば、17日赤城山シャンチェ模範ジャンプ会に臨席するためだったが、それを読むまで公式的な予定表にしたがった行動とは思えなかった。私的な旅行のような2日間のサスペンスである。

なぜ日記に赤城山行きの理由を書き記さなかったか？

1　逗子なぎさホテルの朝の出来事と二つの高崎の暗合であまり平静でなかった。

2 大倉喜七郎にシャンチェを建設させるという秩父宮の計画に反対だった。

〈昼は大倉のごちそう〉という一言が重要な鍵であると思う。秩父宮の計画を知る人には、この〈ごちそう〉はジョークに聞こえるだろう。そのころの経済情勢からすれば、大変な贅沢である。

そして、この計画は大館橋建設事業計画とリンクする。その背後にも秩父宮がいて建設工事中には弘前に勤務して大館を訪れたことは、〈V字型の階段の記憶〉で明らかになった。

青空の下に見えるはずの榛名山についてはその日も無関心である。しかし、登るときに榛名山が視界に入っていたら、靴がすべりやすいのは無理もないのではないか？高松宮は靴のすべりやすさで内面の動きを描いていたのだろう。そう考えると、北アルプスの立山にスキーに行くプランも、誰が言い出したか、遠回しの嫌味なレトリックである。

☆　H

関連する日記

▼　逗子なぎさホテル

▼　皇族の噂と非難

榛名とハル

▼　キューピーと明けがらす　-前　-後

▼　V字型の階段の記憶　21

▼　陸軍少佐秩父宮の弘前行きの背景

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2012.12.9

高松宮日記メモ:

榛名とハルと榛名山　　　-前　　　

昭和4 年   1929        

2月16日　土曜　晴

昨夜、山下に〈明朝は7時30分にたべる〉と言ったのを7時に出かけるとでも取ったのだろう、山口めが7時前にノックしやがった。あのお馬鹿さんにも困ったものだ。2度もノックしやがった。[略]

アトリエ

7-30　朝食。帰艦。今朝、靴をはこうとしたら、ちゃんとミカンが一つづつ入れてあった。高崎のお嬢さんのいたずら。いつか仇をうってやろう。

11-30　上陸。帰京。でも、風邪がなかなかある。[略]

8-30 上野発。秩父宮様をお迎えして列車に乗る。

大倉、黒井、坊城(ぼうじょう)、二荒(ふたら)、伊集院、早川、槇、前田、渡辺、吉島、佐分利(さぶり)。10時53分高崎着。自動車で前橋、知事官舎へ。知事は大森佳一氏。官舎は古いが、西洋館。ベッドは田舎市にふさわしくない。12時前に寝る。

 [現代的な文に書きあらためた。アンダーラインの箇所は原文どおり。]

☆高松宮は、逗子なぎさホテルの朝の仕事ぶりを感情的に想い出している。誤解があったようだが、ホテルの部屋のドアを2度ノックするのは普通でないのだろうか？

ともあれ、よくある朝のせわしないドラマを読んで失望させられた。宮様がそれを書きとめた理由が分からない。〈榛名〉に帰ったことを書いてから、もう一度なぎさホテルでの出来事を想い出したが、それも場違いで、つまらない話だ。ミカンを靴に入れるのは、お呪(まじな)いか匂い消しのためか？仇というのも似合わない表現だ。

高松宮は昼前にふたたび上陸して上野駅に行き、秩父宮を迎えて、11人のグループと一緒に8時30分の列車に乗る。これは映画でも見るようなスリリングな展開である。槇という苗字が槇有恒と冬山登山を連想させた。避暑地1泊の次の日に冬山へ？タフな宮様にあきれた。

列車は、鈍行か急行か分からないが、2時間半で信越本線と上越南線の分岐点高崎駅に到着した。上越南線は当時水上駅が終着駅で、1931年（昭和6）9月1日南線と北線がつながり上越線として全線開通した〔1〕。

高崎男爵と高崎駅。二つの高崎の暗合に気づけば、不機嫌になるのが当たり前だろう。シナリオがあることを想像させるから、だ。それは逗子なぎさホテルの朝の記述に現われていると思う。しかし、不安な想像はそれだけではない。

宮様グループは、車で前橋に行き、西洋館の知事官舎に泊まった。高松宮はベッドの良さに感心した。明日は赤城山に登るが、上越南線の鉄道の向こう側には榛名(はるな)山がそびえている。なかなか眠れない夜だったにちがいない。

☆　H

1 wikipedia

▼　逗子なぎさホテル

▼　皇族の噂と非難

▼　キューピーと明けがらす　-前　-後

▼　高松宮日記の逗子なぎさホテルに関する対話

▼

▼

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2012.9.30

高松宮日記メモ:

逗子なぎさホテル

昭和4 年 1929

大館橋と下流

2月15日　金曜　晴

6-20 品川発。9-15　長官が伺候する。〈榛名〉の艦内を巡視する。雑業(午前、午後とも)。5-30上陸。逗子ホテルへ。高崎男爵と令嬢、今さん、金子夫人、坊ちゃん、嬢ちゃんが同宿。高崎のお嬢さんはとても元気でにぎやかに一泊する。今さんはドライブもするそうだ。オーバラント[6867]号。

[現代文に書きあらためた。]

☆父秀之が生まれた日。

第2艦隊司令長官大角岑生(みねお)中将が戦艦〈榛名〉を巡視する。高松宮は雑業してから夕方、どこに上陸したのか、三浦半島の避暑地逗子のなぎさホテルに行く。

なぎさホテルは大正15年皇族の宿として海辺に面して建てられた〔1〕。湘南初の洋風ホテル〔2〕。2階建てに時計塔。昭和天皇も利用した。しかし、1988年〈建物の老朽と時代の流れに勝てず皆様に惜しまれながら昭和の終焉とともに〉時計台などを残してレストランに変わり、その後、時計台も取り壊されて面影が消えた。

高松宮がどんな目的で逗子なぎさホテルに泊まったのか、明らかでない。高崎男爵と金子夫人などは偶然その日宿泊したように思える。

注記によれば、高崎男爵とは明治時代初期に元老院議官や東京府知事などを歴任した高崎五六男爵の三男弓彦である。人物については明らかでない。五六の従兄弟の高崎正風男爵は皇典講究所所長である山田顕義初代司法大臣の懇請で國學院の初代院長をつとめていた〔3〕。

皇典講究所が逗子なぎさホテルにリンクするのは何か理由があるだろう。高松宮は前の日に皇典講究所総裁の就任の依頼を断っていたが、逗子なぎさホテルでもそれと関連する話を高崎男爵と交わしたのか？問題は片付いたのだから、その話をするために〈榛名〉から降りて逗子なぎさホテルに泊まるのはオーヴァーだろう。とはいえ、2日つづけて皇典講究所とのリンクが出るのは偶然ではあるまい。

注記によれば、今さんについては未詳。金子夫人とは内閣書記官金子武麿伯爵の夫人豊子。武麿は明治憲法起草者の一人金子堅太郎伯爵の長男である。金子伯爵の〈坊ちゃん、嬢ちゃん〉が書きとめられているが、こういう記述は他に類似の例があるとしても、そこでは高松宮の内面が投影されたように思える。

その日、東京の恵比寿で女官関口タキが男の子を出産した。既婚者の女官がどういう不倫の関係を持ったか、明らかでない。しかし、帝国の中心を揺さぶる複雑なスキャンダルだっただろう。これは14日の日記に出る皇族の〈噂〉と〈非難〉に二重のメッセージ(意味)として暗に言い表されているように思う。男の子は10月ようやく長谷川喜之助とハルの養子になることが決まった。産婆の名前が言い伝えられたのは奇妙だが、父の話では金森ハルという。

参考に言うと、昭和天皇の回想録はその年昭和4 年から始まる〔4〕。

☆　H

1 我が青春のなぎさホテル HP

2  スパニッシュスタイル:１９世紀末から２０世紀前半にアメリカで流行したスペイン植民地時代の南西部におけるスペイン風建築のリヴァイバル様式。なぎさホテルは岩下家一(かいち)子爵が創業した。設計者は明らかでない。

3  wikipedia

4　昭和天皇独白録

▼　キューピーと明けがらす　-前　-後

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2012.8.4

大館橋

高松宮日記メモ:

皇族の噂と非難

昭和4年 1929

2月14日　木曜　晴

7-20 品川発。

4-30上陸。帰京。小山トミに会う。老女にすることにする。ただし、具体的には何事も決められない。

7-0P.M. 　一木宮内大臣に会う。皇典講究所総裁の件である。大臣の意向により今回は断ることにする。[略]まったく私の若さでは頑固な神主は扱いきれないだろう。大臣にまた皇族の世間の噂と非難を知らせるようにいくら言っても、宮内省はそうしないで、皇族がどうのこうのと言う。それはいけないと繰り返して言っておく。

☆父秀之が生まれた15日の前の日にはどんなことが書かれているか？

〈榛名〉から降りて東京高輪に帰ると、高松宮は侍女長である老女の候補者に会い、雇うことに決める。小山トミという女性については情報がない。

夜7時、一木(いつき)喜徳郎宮内大臣に会い、大臣のアドバイスを受け入れて皇典講究所の総裁に就任するのを断る。皇典講究所とは、政教分離と信仰の自由論が広まる情勢で神道の教学の深化を目的として明治15年（1882年）有栖川宮幟仁親王の令旨で設立された研究機関である〔1〕。付属機関に國學院と日本法律学校がある。後者は日本大学の前身。初代からその年までの総裁は、有栖川宮幟仁1882年-1886年、竹田宮恒久王1908年-1908年、北白川宮成久王1908年-1924年、久邇宮邦彦王1925年-1930年。北白川宮成久は1923年4月1日フランスで自動車事故を起こして死んだ宮様である。

日記は、皇族に関する噂と非難に触れる。高松宮が新聞雑誌や世間の反応を客観的に知りたがるのは当然だろう。しかし、宮内省は協力しない。〈皇族がどうのこうの〉と中味の分からないことを言ったのは宮内大臣か？これは少し考えさせられる。

日記には婚約に関する悪い反応などは記されていない。しかし、皇族に関する噂と非難とは、その日までの日記のコンテクストから見れば、高松宮の婚約問題である。噂はともかく、宮様が気にするような厳しい皇族批判とはどんな内容だったのだろうか？

一木は枢密院議長在任中、1936年2.26事件で斎藤実内大臣が殺害されたあと、1日だけ昭和天皇の相談役として内大臣を務めたという〔1〕。

☆　H

1 wikipedia

▼　キューピーと明けがらす　-前　-後

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2012.3.19

大館橋南　有栖川宮通り

高松宮日記メモ:

関東大震災のニュース:

皇族が馬鹿げた職業だと思う

大正12年 1923

9月20日

[略]

石川から手紙が来る。７日の桑折の手紙を受け取ったという。

10月８日

[略]

官長の手紙に、私の都合のよい時帰ったらよいだろうと言うて来た。今頃になって帰るには何か事柄がなければならない。

また今更帰る気もない。冬休みで結構だ。

10月12日

８時すぎ石川が着いた。御内儀と兄上からお手紙。

訓練の前に生徒館にやってきた校長に聞いたら、２、３日中に〈長門〉が横須賀へ帰るから、それで帰ったらよかろうと言う話の由なので、私は今更そんなに帰る必要はないと言ったが、東京で宮内大臣と皇后太夫のこともあり、帰ることにして、御内儀へ伺う。返事が来ない。[略]

皇族ほど馬鹿げた職業はない。

10月15日　

[略]

艦載水雷艇で〈長門〉へ。８時出港。

10月16日

[略]

３時半横須賀入港。直ちに上陸して見学する。復興は遅々としている。惨状は心を痛める。

〈長門〉で泊まる。

[適当に現代風にあらためた。曜日などは省略した。]

☆20日になって、ようやく御付き武官桑折(こおり) 英三郎少佐から7日出させた手紙が東京に届いたという連絡が石川から来る。東京までほぼ2週間かかったのは、普通でないプロセスを想像させる。

10月８日に官長の手紙が来た。官長とは、皇族の儀礼をあつかう宮内省式部官の長のことだろうか〔1〕？高松宮の帰省を認めるというが、官長自身が決定する権限を持っていたとは思われない。拒否する理由も許可する理由も書いてないので、実際そのとおりだとしたら、戦後生まれでも侮辱的だと思う。

石川に関しては説明が見当たらない。12日御内儀と兄秩父宮からの手紙を持って来たが、御内儀(ごないぎ)とはかみさんのことではないだろう。特殊な意味の使い方らしい。校長は、官長からの指示にしたがったのか？高松宮の文章は平静でない。

高松宮は、その日虚無的な気分で皇族が馬鹿げた職業だと書きつけた。これは大震災ではじめて帝国の実体を感じ取ったことから来る。〈明治は遠くなりにけり〉という名句がぴったり当てはまる状況である。

16日戦艦〈長門〉でようやく横須賀に入港する。復興が進んでいないことにおどろく。

☆　H

1 wikipedia

▼　三年町の有栖川邸の不思議さ

▼　関東大震災のニュース: 高松宮の自由を奪った黒幕　–前 –後

▼　菊と葵のものがたり

▼　柳田国男追放事件　1 2

▼　関東大震災のニュース: なぜか江田島に閉じこめられた高松宮

▼〈たたるから嫌だ〉と北白川宮のおば様が反対

▼　ナチスの鉤十字と日の丸の旗　-C

黒幕

▼ 東京駅暗殺事件1; イニシャルを見れば、完全なミラー･イメージ

▼　List 3 ; 高松宮日記メモ　一覧

Updated 2012.1.25

アトリエ

高松宮日記メモ:

関東大震災のニュース:

三年町の有栖川宮邸の不思議さ

大正12年 1923

9月10日

東宮殿下よりお手紙が来る。名古屋のスタンプなので、飛行機で来たのだろう。

[略]

もう東京へ帰るのも当分あきらめた。

9月13日

[略]

やはり三年町の方は焼けなかった。

昨夕、石川から手紙が5通来た。それより先に3通か出ているけれど、それはまだ来ない。私が帰るのはもっての外だと言わんばかり。

9月17日

[略]

昨夜、三年町の洋館を内閣が他の官庁に貸してよいかと電照が来たが、ちょうど昨日中電報を郵便局が受け付けないので、今朝差し支えない旨を言いやる。

9月19日

石川からの第1信およびその後の第14信などが来た。それによると、土蔵はほとんど駄目らしい。第２回に出した武官の手紙は着いていないらしい。

[適当に現代風にあらためた。曜日などは省略した。]

☆9月7日高松宮は帰省の願書を提出したが、その結果は〈東京へ帰るのも当分あきらめた〉となる。

摂政裕仁からの手紙は、名古屋から飛行機で届いた。東海道線は静岡あたりまで不通なので、郵便物は船で名古屋に運んだらしい。手紙の内容は書かれていない。

13日には、興味深い記述がある。これは前後が空けてある。三年町の方とは、麹町区三年町の有栖川宮邸のことである。絶家のあとだが、無事だったという。やはり、という言い方には有栖川宮の不思議さを再認識した気持が表わされていると思う。この1行は特別に前後を空けている。

三年町の洋館とは、有栖川宮邸の建物のことだと思うが、大震災で建物がたりない惨状が浮かぶ。三年町の有栖川宮邸はのちに高松宮の住居、外務大臣官舎になる。しかし、1945年東京大空襲で焼けて、終戦後取り壊された〔1〕。

☆　H

1 wikipedia

▼　関東大震災のニュース: 高松宮の自由を奪った黒幕　–前 –後

▼　菊と葵のものがたり

▼　柳田国男追放事件　1 2

▼　関東大震災のニュース: なぜか江田島に閉じこめられた高松宮

▼〈たたるから嫌だ〉と北白川宮のおば様が反対

▼　ナチスの鉤十字と日の丸の旗　-C

黒幕

▼ 東京駅暗殺事件1; イニシャルを見れば、完全なミラー･イメージ

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Updated 2012.1.14

アトリエ

高松宮日記メモ:

関東大震災のニュース :

高松宮の自由を奪った黒幕　-前

大正12年 1923

9月4日

今日も焦慮の一日である。皇族方にも薨去された方々が数人あることが、知れた。宮城の損害はそんなにないらしい。御殿の方面も無事らしい。戒厳令でどんな人でも入れないということだ。一般状況が分かるにつれて、あの人はどうしているか、誰それはどうしているかとやはり心配だ。帰りたい帰りたい。

武官一人帰れと言ったが、なぜか帰らない。私を帰さない意趣ばらしに帰すつもりだが、帰らない。明日は何でも帰すつもり。

9月4日

どうしても武官さんは帰らない。理性のためか、攻略のためか。夕食後官舎に行って、果物の缶詰に思いをまぎらす。[略]

9月7日

第2期の震災に帰省させる願書を出させる。裁決は未定。明日運送艦〈室戸〉が東京に向けて出港する。公文書は持ちゆくという。武官より石川に手紙を出す。その中に盛岡町の地所は当分あいているのだから、どうにか施設して開放したらどうか、念のために言いやる。

[適当に現代風にあらためた。曜日などは省略した。]

☆大震災から3日、犠牲になった皇族の名前が知らされた。注記によれば、東久邇宮師正王、閑院宮寛子女王、山階宮武彦王妃佐紀子女王である。宮城の損害は大したことがないが、戒厳令で誰も入れないということである。大正天皇の三男、摂政裕仁の弟である高松宮でさえも、というのは理解できない。説明がほしいと思うが、高松宮も分からないにちがいない。

ところが、4日の日記には驚かされる。御付き武官が高松宮の命令に反して帰ろうとしないので、〈攻略〉があるのではないか、と推理する。攻略は個人に対してというより天皇と皇族に対する陰謀と考えるべきだろう。これは前に述べたとおり大正デモクラシーの舞台裏でひそかに起きていたことである。

ただ、その日は具体的な事実が書かれていない。

7日に兵学校側は帰省の願書を出させる。宮様も平等に扱われている、と思う人は宣伝教育にだまされた国民である。日記には宮様が汚い言葉で馬鹿にされた出来事も書きとめられている。無政府主義や共産主義の広がりが背景にあると思う。

高松宮の手紙は、〈攻略〉の説明だろう。現在の有栖川宮記念公園である盛岡町の地所は、南部藩の下屋敷だった。明治政府が取り上げて、その後有栖川宮が所有した。有栖川宮家が断絶したので、継承者の高松宮が将来正式に自分の所有地にして邸宅でも建てるはずだ。しかし、開放するべきだというのは旧南部藩の恨みに配慮したからだろう。この問題が大震災の騒ぎの中で出るのは、当時は無名だった東条英機が高松宮の自由を奪っていた黒幕なのではないか、と疑わせる。

☆　H

▼　関東大震災のニュース: 高松宮の自由を奪った黒幕　–後

▼　関東大震災のニュース: なぜか江田島に閉じこめられた高松宮

▼〈たたるから嫌だ〉と北白川宮のおば様が反対

▼　ナチスの鉤十字と日の丸の旗　-C

黒幕

▼ 東京駅暗殺事件1; イニシャルを見れば、完全なミラー･イメージ

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Updated 2012.1.25

アトリエ

高松宮日記メモ:

関東大震災のニュース:

高松宮の自由を奪った黒幕　-後

☆東条英機は当時陸軍歩兵少佐で、1922年（大正11）11月陸軍大学校の教官、大震災後の10月5日参謀本部員になった〔1〕。大震災からの復旧などの対策に当たったかもしれない。水沢藩出身の後藤新平は内務大臣兼帝都復興院総裁として復興計画を立てた。

有栖川宮記念公園の地所について触れると、赤穂藩の下屋敷があった。赤穂藩が断絶したあと、どんな経緯か、南部藩が所有した。有栖川宮威仁(たけひと)親王が屋敷跡を新邸の建築予定地にしたが、1913 (大正2) 年病死して、計画が中止された。

東条英機の父は南部藩出身の東条英教(ひでのり)陸軍中将である。東条少佐は盛岡町の南部藩下屋敷跡の取り返しに執念を燃やしていたのではないか？

南部伯爵はどういうかかわりだったか？しかし、他の文献資料から考えれば、高松宮を弱気につけこんで脅迫した黒幕にはやはり徳川家達(いえさと)兄弟がいたはずである。高松宮喜久子妃の回想《菊と葵のものがたり》には貴族院議長徳川家達侯爵の自慢話が書かれている。徳川将軍の後継者によれば、〈慶喜は徳川家を滅ぼした人、私は徳川家をたてた人〉である。そして、徳川家達兄弟は柳田国男追放事件の黒幕だった。

☆　H

1 wikipedia

▼　関東大震災のニュース: 高松宮の自由を奪った黒幕　–前

▼　菊と葵のものがたり

▼　柳田国男追放事件　1 2

▼　関東大震災のニュース: なぜか江田島に閉じこめられた高松宮

▼〈たたるから嫌だ〉と北白川宮のおば様が反対

▼　ナチスの鉤十字と日の丸の旗　-C

黒幕

▼ 東京駅暗殺事件1; イニシャルを見れば、完全なミラー･イメージ

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Updated 2012.1.7

リヴァー・ポート

高松宮日記メモ:

関東大震災のニュース:

なぜか江田島に閉じこめられた高松宮

大正12年 1923

9月2日

花曇り花なき210日かな。(それどころでなくなった。)東京方面(震源鈴川付近)に強震があって、東京は各所で火災などがある。何分中途で電信電話不通。中央電信局は火災で様子がわからない。とりあえずお見舞い電報を出したが、日光へはついたけれども、東京へはゆかない。何しろ大変なさわぎには違いない。

夜になって来た報せは想像以上のものだった。呉から軍艦が急行する。それで帰京を、と言い出したが、校長の反対、武官の弱腰に出会って止めるより仕方がなかった。明くる早朝の〈扶桑〉に乗るつもりにしたが。手紙は出す。

9月3日

東京出身の生徒は〈扶桑〉で急行した。[略]

報道はますます惨害の大きさ、悲惨の極を報ずる。心配で心配でたまらない。兄上は日光にまだいらっしゃるらしい。何故かしらない。じらじらして学科はそっちのけ。通信もよくできないので、断片的な一般的なことしかわからない。それもないよりはいいが、もっと知りたくて知りたくて。

[適当に現代風にあらためた。曜日などは省略した。]

☆関東大震災は1日正午に起きた。2日の日付に書いたのは、暇がなかったからか、2日まで知らなかったからか？江田島にある海軍の通信施設や軍艦が情報を出さなかったのではないか？

高松宮宣仁は東京に帰りたいと言ったが、海軍兵学校校長が反対して、しばらく江田島から出られなかった。これは2.26事件のとき皇族で高松宮だけが宮城に入れなかったのと同じ状況である。まだ軍国主義がはびこらない大正時代に、なぜ皇族が自由でないのか？それほど無力なのか？しかし、もっと現実的な疑問は校長にそんな命令を下したのは何者か、どんな理由か、ということだろう。

高松宮宣仁(のぶひと)は当時18才だった。大正2年有栖川宮家が断絶したとき、8才で有栖川宮家の祭祀を継承した。大正天皇の第3皇子の人生は、有栖川宮の後継者になることで決まった。若い宮様は歴史の裏面を知っていたかどうか？

日光にいる兄上とは、秩父宮雍仁(やすひと) 親王である。

☆　H

▼〈たたるから嫌だ〉と北白川宮のおば様が反対

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Updated 2011.12.17

　　バラ

高松宮日記メモ:

北白川宮の自動車事故死と花

大正12年 1923

4月3日

遥拝式後、外出する。桜を撮影しようとして徘徊したが、二枚より撮らなかった。北白川宮御遭難の詳報が来る。コスモス、ポルチュラカを蒔く。

北白川宮は御自身で運転して、75マイルで走っていて他の自動車をかわしそこなって並木にぶつかったらしい。運転台の宮と運転手は即死、客席の妃殿下と朝香宮、(フランス人御用掛り)は重傷(負傷)をして、妃殿下は御傷がことに重いということだ。

☆4月1日、高松宮は海軍兵学校本科のある江田島にもどる。3日は神武天皇祭の遥拝式。神武天皇が崩御した日が紀元前586年のその日であると明治政府が定めた。

高松宮は1日の事故については東京で知っていたはずだが、桜の撮影で気晴らしをした。詳報が届いたと書いてから横に逸れて、コスモスとポルチュラカの種を蒔いたと書き記すことには生命の復活を願う気持が現われている。

事故を調査した《皇族》によれは、フランス人の〈他の自動車〉は対向車でなく北白川宮の車の前を走っていた。北伯爵はそれを追い越そうとしてハンドルを切りそこなった。謎めくのは、北白川宮が前日のドライブをくり返したことである。

これをマチエールにしたフランスの作品の題は、《Duel 決闘》だったと思う。内容は分からないが、自動車レースをやって失敗したのかな、と疑わせる。

☆　H

1　皇族 : 広岡裕児

▼〈たたるから嫌だ〉と北白川宮のおば様が反対

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Updated 2012.3.27

JR大館駅

高松宮日記メモ:

キューピーと明けがらす　　-前

大正12年 1923

1月5日

[予記欄]キューピー羊カン　十三　明けがらす　三

[略]

[無関係な記述と曜日は省略した。]

☆大正12年と言えば、9月1日関東大震災が起きた。

高松宮宣仁が新年に菓子のことを書くのは、贈り物としてもらったからだろう。キューピーは日本のマヨネーズのメイカーを想い出させるが、羊かんのトレード・マークらしい。インターネットでサーチすると、マヨネーズのメイカーと羊かんの関係は明らかでない。しかし、マヨネーズのメイカーが〈キユーピー〉とイラストを商標登録した年は1922年、大正11年である〔1〕。

キューピー(KEWPIE)は1909年アメリカでローズ・オニール(Rose O'Neill)が雑誌のイラストに描いて人気者になった〔1〕。

それを日記で見たのは去年HHJの〈長すぎる停電と殺人劇〉でキューピーについて話したあとだった。上の妹はるみが赤ちゃんのときキューピーに似ていたので、そういうあだ名がついた。そして、3才のとき心臓手術を受けた。

キューピー羊かんが13個というのは、ぼくには何となく不吉である。しかし、その次に明けがらすという羊かんがあるのは、かなり当惑させる。これは大館の山田桂月堂が昔からつくっている名産品で、くるみが鳥のようにいっぱい浮かんでいる白い羊かんだ。歌舞伎に〈明けがらす〉という芝居があるが、それとは関係がないと思う。

常識的に考えれば、明けがらすは大館の独特な白い羊かんのみやげ品で、よくあるように高松宮には誰かが旅行帰りに贈ったか故郷の宣伝をかねて贈ったか、だろう。しかし、予記欄に書いてあるという注記を見ると、プレゼントかどうか？

☆　H

1 wikipedia

▼　キューピーと明けがらす　　-後

キューピー

▼　長すぎる停電と殺人劇 F

山田桂月堂

▼　ホームメイドのアイス・クリームは宮様のアイディアか？

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Updated 2011.12.3

桂城公園

高松宮日記メモ:

皇太子裕仁の欧州旅行のあいだに

アナーキストの《悪戯》を読む

大正10年 1921

3月30日

時事欄-大杉栄が快癒したという。(もちろん肺は免れない)

4月2日　　

新聞を読む。《悪戯》を二度目に読む。入浴。夕食。

この頃以来空想を楽しむ。空想に私の希望を実現し、私の煩悶を慰め、私の欲心を満たす。[略]

[現代風に書きあらためた。曜日などは省略した。]

☆皇太子裕仁が3月3日戦艦香取でヨーロッパに向けて出発した。手紙をもらったり送ったりの記述があるが、そこにアナーキスト大杉栄の最近の動向が出ると、緊張する。注記によれば、大杉は持病の喘息で入院していた。無政府主義者というよりテロリストのイメージがあったことを覚えている人は、高松宮が警戒感を強めて書きとめたことを理解するはずだ。

皇太子裕仁はその日どこにいたか、分からないが、4月2日ロンドンへ向かうという連絡があった。その日の日記は、信じがたい内容である。大杉栄と伊藤野枝が共同で書いた自伝風の随筆《悪戯》を読んだというのだ。〈二度目に〉と書いているので、新聞に連載されていたように思える。最初を敬遠する気持はよく分かる。

〈空想を楽しむ〉とは、アナーキストの空想だろう。凝った表現である。

2年後の4月1日、北白川宮成久親王がフランスで自動車を運転して事故で死んだ。アナーキストはドイツでの無政府主義の大会に出席するためパリにいたが、事故のあとパリから日本に帰った〔1〕。

高松宮は《悪戯》を想い出したにちがいない。

☆　H

1 皇族: 広岡裕児

▼　北白川宮の自動車事故死と花

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