HALF AND HALF JOURNAL
破 片 無 意味 な
無意味な破片
Fragments
HHJ
☆ ☆ ☆ Updated
2005.6.19 アロマ―12月8日をパール・ハーバー記念日にしようとHHJのトップ・ページに一言書いてたけれど、反応はありましたか?
ナモネ氏―ダレナニ君が冗談半分に、私に代表をやれば、と言うから、オーケー、と答えようと思ったが、声が出なくて自分が嫌になったよ。記念式で何を語るのか、と真っ暗な疑問が襲いかかって来たのだ。 特派員―まあ、気持は分かるけど、テーマは単純でしょう。花岡では毎年6月30日中国人蜂起の日に花岡事件の慰霊祭をやる。大館市と民間グループが、ね。 ナモネ氏―日中不再戦友好の碑にならって、アメリカと日本は二度と戦争しないことを誓い、太平洋の平和のために永遠に努力する、と演説すればいいのか? 編集長―太平洋の魚も安心しますよ。 長木川縁の火事 編集長―そうだな。卑劣な奇襲攻撃は人間性を無視したテロリズムであると自覚して、戦争開始に至る秘密工作の真相を日本政府は率直に記録する責任を負うと同時にフィクションを許さないための努力の一環としてパール・ハーバーに記念館を建設する。 特派員―政治が文学で、文学が政治だ、日本では! ☆ ナモネ氏―すると、硫黄島の合同慰霊祭とは根本的に異なる、ねえ。 特派員―太平洋戦争で共同記念式が行なわれるのは、硫黄島の戦いだけ〔1〕。参謀本部が〈一人でも多く殺せ〉と命令した島です。アメリカは対照的に兵隊にこう教えた、自分が生きるために戦うのだ、と〔2〕。この違いは大きい。 アロマ―どうせアメリカが嫌がるから、パール・ハーバーの方は実現しないわよ。 特派員―その理由を考えなければいけない。戦争開始について日本政府と右翼その他の権威が見えすいた嘘をついて、馬鹿者扱いにしてるということだよ。 編集長―そう、日本の社会ではよくあることだ。真実を知っても、それを公表すれば難しい問題を引き起こす。あるいは、調査の結論を間違いであると疑わせるような事実はどこにもないが、しかし、既成の法律で切り取れば真実の証明は完全でない。犯罪者は裏で笑ってる。 ナモネ氏―ううむ、傷は深いな。 アロマ―そういう場合、演技が自然に要求されるけど、あたしは嫌ね。 特派員―憲法改正も嫌だと言ってくれない?日本のスキー場にリフトを付けたのはGHQであって、自由民主党じゃないんだから。 ☆ ☆ ☆ 1 NHK オンライン 2005/03/13 2 IWO 地獄の戦場 ;
Richard Wheeler 1980 恒文社
参加した兵隊の生々しい回想録。 真相に接近するために |
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2005.5.22 特派員―あれ、編集長、市役所で会うなんて奇跡的ですねえ!
特派員―ぼくは公民館で絵夢人クラブの会長に、《海外特派員》について専門的な意見を聞かせてほしいと頼んだら、冷淡ですね、〈ぼくは表層しか見ない〉と逃げるんですよ。 編集長―そうだろうと思った。市役所の空気は非常に悪いな。 特派員―タバコの煙は全然ないけれど。 編集長―生きてるのか死んでるのか、分からないね、今は。 クラスの影 編集長―どうだった? 特派員―額に汗が滲んで、急に目玉が暗くなりましたよ。ジョーン・フォーンテーン(Joan
Fontaine)がローマ字を並べて〈MURDER(殺人)〉という言葉を作りますね、と言うと、〈ああ、アナグラムね〉と注を挟んだだけで、あとは何も。彼女が東京生まれの東京育ちだということは、知らなかったそうです。 編集長―彼が映画に関して知らないことがあるって、本当らしくないな。 特派員―今の話は各階に響き渡りましたよ、編集長。 編集長―続きは、帰ってからにしよう。 ☆ 特派員―アトリエに入ると、ほっとするなあ。 半分半分放送局長―何といっても、庭がいいよな。砂利の上を歩くと、ジャズの気分だ。NHKもこういうガーデンを作らなきゃいけない。そうすれば、映像デザイン部の連中が図々しく制作費を横領するなんて事件は起きない、と思うわけじゃないが〔1〕。 特派員―日本という国は、ガーデンとは正反対ですよ。何を言ってるのか自分でも分かりませんが、まあ、ニュース番組のコンピューター・グラフィックスを自分で作りながら、外部のNHKアートに委託したように見せかけて、約500万円だまし取ったというのは、ニュースも製造してやろうと悪乗りしたんでしょうか、ねえ? 放送局長―アナウンサーでなくって、よかったよ、君。 編集長―問題なのは、去年の7月チーフプロデューサー磯野の詐欺疑惑が明るみに出たあとも、その局員は不正に金を振り込ませるのを止めなかったということだ。発表では、3月から10月まで。これが事件を見るアングルを変えさせる。つまり、その局員は脅迫されて悪いことをしたか、謀略機関のメンバーではないか? 放送局長―金額が小さいから、脅迫説を取りたい。 アロマ―TBSの新しい火花も、たぶんそうね。スポーツ局の老いたる部長がコラムの記事を毎朝読新聞から〈盗用〉するプレイを繰り返していた〔2〕。 放送局長―ホームページだから、ホームに早く帰りたかったんじゃないか? 編集長―ホームシックになるのも無理はないよ。 放送局長―ヒットが出なけりゃ、セカンド・ベースで空しく終わり。 特派員―やはり焦りますよ、締め切り時刻が迫ると。 アロマ―しかし、まあ、うれしそうな顔で喋ってるわね。新聞社も、愉快そうに文句をつけてるなって感じがするけど。 特派員―今度のエラーは罠に嵌まった結果なんだ。環境サインによる脅迫の罠。ぼくが今日想い出したのは大館市のあの1996年に起きた農地転用事件で、秋田地裁で小畑元市長の身代わりに有罪判決を受けた農林課の当時課長だった佐藤秀明の反論です。農地法違反の計画を実行させたのは〈市役所全体の雰囲気〉だった、と。 編集長―そう、判決文にもそれが出てくる。核心に触れていると思う人は裁判官だけではなかった。雰囲気とは何か、一言で言えば、記号問題だ。それには単純に分けて、人が作る雰囲気とものが作る雰囲気がある。日本では、雰囲気の力が非常に強い。 アロマ―〈歴史はこうして作られる〉に書いていたことですね。アトリエの歴史だけど。 放送局長―なるほど、NHKでもTBSでもそんな真相を匂わせるような言葉はないが、枠の外を表現する努力が必要だな。言葉に限界を感じるなら、映像で。 ☆ ☆ ☆ 1
共同通信 5月19日 Yahoo Japan 2
asahi.com 朝日新聞
2005/05/12 その他 読売、夕刊フジ、共同通信 農地転用事件に関する当時のHHJ記事を読む |
☆ ☆ ☆ Updated 2005.5.3 アロマ―4月25日電車脱線事故のニュースを聞いたとき、テロだと直感したけど、それに反対するようなインフォメーションは別にない。どう考えていますか?
アトリエのドア ナモネ氏―わたしはカミカゼ・テロだと思ったよ。5日連続してJR西日本の電車が駅をオーヴァー・ランしたので、自分の思考回路も乱れてしまった〔2〕。あの辺は社会主義が盛んな地域だ。西宮市のCOOP運動は大館市と並んで全国的に有名だ。オーヴァー・ランは無言のレジスタンスだと思えるが。 特派員―大震災が残したのは大都市の廃墟ではなくて、戦後デモクラシーの真っ赤な嘘ですね。あの人たちはそれを見た。 放送局長―でたらめな仕事や行動はしたくない、と心に誓うよ、なあ。 アロマ―それなのにエラーが多いのは、無理な要求を止めない会社と国家に対する批判でしょうか? ナモネ氏―そうだとすれば、裏金づくりが背景にあるだろうな。 ☆ 編集長―4月25日はちょうどチェルノブイリ原子力発電所の悲劇的な事故が起きてから19年目だった〔3〕。フランスのメディアはウクライナのそれと日本の鉄道事故を両方取り上げていた。その日付を謀略機関が選んだ目的は、日本との関係がこじれているロシアか中国か南北朝鮮による破壊工作という疑惑を日本国民に植え付けることにある、と考えていい。 放送局長―それも全体主義国家の常套手段だ。握り飯を争って中国と戦争を始めるためじゃなくて、国民の関心を何かあることからそらすため、恐怖で縛りつけて操るためだね。 アロマ―日本の頭のいい人たちは、自分のやることがどう思われてるか、うまく想像できないのね。あたしの推理を聞いたら、絶対ドラマにしたくなるわよ。宝塚駅発同志社駅行きの快速電車のアクシデントは、その電車にいつも最前列に乗る毎日新聞久田宏記者を殺害するために仕組まれた。パワフルな若いジャーナリストは、ええと、そうね、あの西宮の朝日新聞阪神支局の記者殺傷事件を極秘に調査していた、という設定にしよう。 放送局長―そういう設定にしよう。5月3日で18年になる。 アロマ―しかし、彼一人を殺すと、目的を知られる恐れがある! 放送局長―ただでさえ社会的反響が大きい。 アロマ―犯人像もすぐに割れる。そこで、テロのシナリオ・ライターは電車の乗客皆殺し計画を立てた。新聞記者は運悪く犠牲者リストに名前が記入されるのであって、仕事とは無関係な死であると思われる。彼は少しもヒーローらしくない。事故の記事ばかり書いて、事故で死んだのだ。 放送局長―久田記者が吊り革につかまって生き延び、数十人の乗客を救助したのは奇跡だ〔4〕。アロマの推理は、何と言うか、宣伝広告や商品などの秘密のメッセージに狙い撃ちされる状況と共通性があるよ。 ☆ ☆ ☆ 1 kyodo news 4/29 2
読売 4/29 3
Tchernobyl
: les leçons d'un cafouillage français Propos
recueillis par Yves Miserey 26 avril 2005 4
MAINICHI
NEWSPAPERS 4月30日 レポート : 1両目にいた久田記者 事故前後を再現 現地の多角的なアングル 関連記事 |
☆ ☆ ☆ Updated
2005.4.22 特派員―ニッポン放送、と聞いても、ぼくなんか何の感情も湧かないけど、米さんや編集長には過去を眺めるようなニュアンスが浮かぶ。これは何ですか、ね?
編集長―TBSラジオより〈パック・イン・ミュージック〉だよ。 放送局長―高校時代に夢中になった深夜番組で、ね、勉強しながら聞くから、〈ながら族〉っていう流行語ができた。DJというのは、それで一般的になった。 編集長―野沢那智は、楽しかった。ナチっていう名前が気になったが、ね。 放送局長―〈オールナイト・ニッポン〉は、鹿角弁がうまい今仁哲夫。ラジオがテレビとの戦いを勝ち抜いたのは、あの真夜中のお喋りが若者の心を掴んだからなんだ。それまでは、ラジオが生きる空間はもうない、と言われていた。 ユリの花と影 放送局長―しかし、あの頃はまだ自由に空気が吸えたから、よかった。 特派員―放送局というのは、ぼくには王国のような存在ですけど、ね、視聴率ナンバー・ワンのフジテレビとインターネット関連企業の今をときめくライブドアが歴史のある王国を奪い合って争い、妥協して提携することに決まったこの背景には60年代後半と似た事情があるんでしょうね? 放送局長―楽な経営なんてあるわけがない。しかし、この春のごたごたは村上ファンドの社長村上世彰(よしあき)が不満をぶつけたとおり、ライブドアがニッポン放送株の公開買付(TOB)をしたら、意外にもそれに応じて株を安く売った企業がいて、ライブドアが王国の経営権を握ったということだ〔1〕。50%以上の株を保有して、ね。フジ・サンケイクループは、株の保有で持ちつ持たれつの親族関係にあるニッポン放送を完全に子会社にする計画を持っていたので、おもしろいわけがない。 特派員―ついこの間ニッポン放送の株を買い戻して目的を遂げたけれど、その代わりライブドアの経営と業務内容に責任を持たなければならないことになりましたね。ライブドアは人気一番のヤフーにとって脅威的な存在でしょう。 ☆ 編集長―TVとラジオという20世紀的な放送の在り方が問題なんだ。民主主義とグローバリゼーションの時代に適合するのを拒絶している。経営の仕方から番組の内容まで、たぶん同じだろう。つまり、経営は専制的に進められて議論する空気はどこにもない、ということだ。 特派員―フランスのメディアが非常にめずらしく日本の同業者に関心を示して、やはりそんな種類の鋭い批判をしていました〔2〕。敗戦後の再建を可能にした日本の政治と経済での談合主義に怒りをぶつけた記事で、ライブドアの青年社長タカフミ・ホリエは恰好よく〈既成の秩序をひっくり返した〉とサッカー・ファンみたいに応援してる。題名が本質を見抜いていますね。〈日本は新しい社会的なモデルを探している〉 放送局長―この人には、日本人は無気力に見えるようだが、それが〈エタ・マジョール(司令部)〉の決定に係わることだという認識は、正しいよ。 編集長―政府の対応は、思ったとおり自閉的だ。アメリカのリーマン・ブラザーズ(Lehman
Brothers)証券がライブドアの経営に参加してるのが怖いので、そういう外国資本が間接的に日本の放送局を支配する事態を防止するために電波法と放送法を改正した。世界の流れに積極的に乗ろうとしないんだ。 特派員―産経新聞によれば、外資による地上放送局への出資比率を〈直接出資と合わせた議決権ベースで20%未満に制限する。また、放送会社に出資する日本企業の外資比率が増加して外資規制に抵触する場合は、その日本企業が保有する株式の議決権を一部無効にする規定も盛り込んだ。〉外国の侵略から放送局を保護するということですね。 編集長―経営の面でも、放送局はもっと開放的でなければいけない。今度のドラマでおもしろかったのは、マス・メディアの顔が見えたことだ。フジTVの会長(日枝久)や社長、それにニッポン放送の社長(亀淵昭信)が生出演してくれた。 特派員―提携が決まったあとの記者会見でラジオ放送の社長さんが言ったことは、印象的ですね。〈コミュニケーションが大事なんだな、と思った。〉この人も〈オールナイト・ニッポン〉のDJだったようですね。 放送局長―放送局が主体性をなくしたり傲慢になったりする現実に嫌気がさしたために、視聴者はスイッチを切るんだ。外国人の知性が放送局に入るかどうかは、どうでもいいことだ。むしろファンが増えるね。 ☆ ☆ ☆ 1 毎日新聞 Web その他 2 Le Japon se
cherche un nouveau modèle social Arnaud Rodier [26 mars
2005] Le
Figaro |
☆ ☆ ☆ Updated 2005.4.7 ナモネ氏―NHKはゼロから考え直せ、という声だと思いたいな。 半分半分放送局長―ついでに海老沢勝二の退職金をゼロに。きわめて具体的な冗談だな。
放送局長―こんな退職金は必要がないと言いたい。海老沢は政治記者と会長をやって日本の形骸化に協力した責任を取るべきだ。新年度予算が国会で与党の賛成多数で承認されたが、馴れ合いだ。 編集長―70年前後の大学生にはいい迷惑だ。だいたい議員や役人、NHK職員というのは自分の収入のプロセスが分からない。想像力がそこに向かおうとしない。 《グレン・ミラーを聞きながら》 放送局長―おれが言うと笑い話だが、それは要するに、横取り精神なんだ。ヨーロッパ人やアメリカ人が考え出した新しい思想、新しいテクノロジーなんかを、アラブと極東のある種の利口な人たちがただ取ってきて活用する。自分の手で育てないから、生命を扱うような優しさがない。必要がなくなったら壊せばいい、という調子だ。 特派員―育てる苦労しないと、文化は終わりですね。 ☆ ☆ ☆ 1 共同通信 4月5日 2 夕刊フジ 3月24日 |
☆ ☆ ☆ Updated 2005.3.29
特派員―〈クリック20世紀〉にはいつも世話になってます〔1〕。作成者が誰か、分かりませんが、ね。 《グレン・ミラーを聞きながら》 特派員―ワシントンでどんなストーリーがあったか、これはアメリカ側の資料がなければ理解しがたいことですね。 放送局長―予想外の、と言われてるんだから、なあ。 編集長―ところが、ケーディスは予期していたかもしれないんだ。元共同通信記者の魚住によれば、12月8日日本を発つ前に涙ながらにこんなことを語っている。〈日本に理想の国を〉作ろうとしたのに、色々な妨害に会って〈中途半端に終わってしまった〉、と。 ☆ 放送局長―12月8日の怪しい出来事がもう一つ増えたな。パール・ハーバーの日に飛び立つというのは、ホイットニー局長の発案だろうか?… 特派員―ウィロビーの回想がそれを暗示しているように思えますね。旅行命令書を出したなんてことは、プロセスに疑わしい問題がなければ、わざわざ確認的に話しません。この単語は、1948年12月当時その旅行命令がGHQ内部やGIの間で話題になったという背景から自然に浮かび出てきたはずです。ホイットニー局長は当然最高司令官の命令でその手続きを取った。しかし、日付を決めたのは、マッカーサーの分身と言われていたホイットニーじゃないかな? 放送局長―君、今の発言でバーボン1ダースもらえるよ。この日付には、当然メッセージがあるんだ、ケーディスを追放しようと企んだ日本の悪党どもに対する。話題どころか、あちこちでタバコの煙が〈? クェスチュン・マーク〉になった… 特派員―自分で見たような光景ですね。どう思いますか、ジョーダン中佐? 放送局長―日野原から賄賂を受け取っていたので、ずらかったんじゃないかなあ? 編集長―失礼な妄想だ。 放送局長―冷戦に神経を尖らせていたアメリカ政府の政治的解決では? 特派員―マッカーサーが拒否すれば、できませんよ。 放送局長―帝国の制度を破壊して民主主義のレールを敷いたから、手を汚したヒーローは退場した方がいいと考えた人がいるんじゃないか? 特派員―ありえないことではないですね。ちょっとこの出来事のバックグラウンドを整理してみると、ケーディスはルーズヴェルト(F.Roosevelt)政権の社会主義的なニューディール政策に深く係わった弁護士です。この政策はアメリカ経済と文化が繁栄する基盤を築き上げることに成功した。終戦後日本で平和憲法草案作成の他に農地改革、公職追放、財閥解体など民主化政策を指導して、〈敗戦国日本に理想の火をともした男〉と評価された。だから、必然的に民政局は保守派の元外交官で老いぼれの吉田茂を嫌い、革新系の芦田均連立内閣を強力にバックアップする。そこへ昭和電工問題。GHQを孤立させようとする動きを知って、ケーディス次長は、内務次官の斎藤昇に吉田派の手先である警視庁を調査させた。すると、彼を日本から追い出す陰謀が進行していたことが明らかになった。主謀者は自由党吉田内閣の要人SとG2の反共主義者ウィロビー、それに内務省調査局長久山秀雄。それで、ケーディスは警視庁を捜査から排除してしまう。芦田元首相らを逮捕したのは、彼の指揮下にあって信用していた東京地検です。 編集長―アメリカ人ジャーナリストも協力してる。いい例が、ニューズウィーク東京支局長コンプトン・パケナム。《特捜検察》によれば、1947年11月か12月、昭和電工社長の日野原から200万円受け取り、GHQの行き過ぎた民主化政策を批判してアメリカ政府の対日政策の転換に影響を与えた。 放送局長―ううむ。そうか。平和憲法という名の特別急行が、他の線路を走らされたというわけだ。5月3日出発してすぐに。この栄光の日付は、ケーディスがアメリカで兵役義務を終える日になるが、どう見ても、トルーマン(H. Truman)政権の嫌味が入ってるよ。 ☆ ☆ ☆ □〈カレンダーのある事件1 〉を修正するためのミーティング 1
袖井林二郎著《マッカーサーの2000日》からの引用がある。 |
☆ ☆ ☆ Updated 2005.3.22 ナモネ氏―大館市が予算を割いている新聞雑誌について質問してから1か月あまり経ったが、案の定市役所は回答する気がないようだな。 特派員―次は、秋田県庁に質問する予定ですよ。
編集長―住民が、ですね。公務員は何も感じない生き物ですよ。ジャーナリストは、おそらくそれを意識したことがない。だから、報道機関は自由を万能薬に使って責任をごまかそうとする。HHJは税金の使い道とか予算問題から説得したくないけれど、哲学的に批判しても期待した変化が見えなかったんだから、仕方がない。 特派員―〈脳は身体の動きを下描きする〉というベルグソンの言葉を流用して〔1〕。 大館市役所 2階 特派員―戦争問題と同じく、選挙権のない人たちにも責任を問うのはナンセンスですよ。 編集長―迷惑な話だな。しかし、今は、報道機関の自由を少し割引きしてみよう。HHJが計算すると、大館市は新聞社にどれくらい金を無駄にやってることになるかな? アロマ―コマーシャル。HHJはフェア・プレイです! ナモネ氏―金が入ってこないんだから、悪いことができないのだよ。 特派員―ええと、賄賂の誘惑を乗り越えて特派員が算定した結果を報告すると、大館市は年間これだけ新聞社に支払ってる。飲み屋と海鮮料理屋の面倒まで見てる。購読数は、市役所の本庁舎と支所と公民館と保健福祉関係施設と文化施設などを数えました。 ナモネ氏―全国紙1紙、全県紙1紙、地域紙1紙と仮定して、消費税込みで、 全国紙---月3,007円×84部=252,588円 年3,031,056円(朝夕統合版) 全県紙---月3,007円×84部=252,588円 年3,031,056円 地域紙---月1,785円×84部=149,940円 年1,799,280円 計 7,861,392円 特派員―市民一人当たり約11万円ですね。 ナモネ氏―実際は地域紙2社、全国紙は毎朝読む新聞の3社ある。図書館を入れると、まあ、新聞代だけで1千万越えるだろうな。 特派員―これは報道機関にバランス感覚を要求するものですね。事実の選択と記事の作成における公平さと責任、それをジャーナリストの自由の反対側に置いてバランスを取るということです。住民監査請求で以前あったことだけれど、法律が明記してないからという理由で公表の責任を負わないのは民主主義を見殺しにするような態度ですよ。 編集長―そう。地方自治法の規定は信頼を前提にしている。マス・メディアに対して強制はできない。そんなことを職員が要求すれば、贈収賄罪に引っかかる。 特派員―収賄罪は公務員でないかぎり、適用されませんよ。 編集長―すると、強要罪だろうな。 ナモネ氏―図書館以外での購読は、腐敗を培養してると言いたい。 特派員―行政機関の実態から見ても、必要がない依存関係ですよ。地域で今何が起きて何が行なわれているのかをチェックすることも仕事の一部だけれど、何のために新聞をあれほど揃えてるのか、分からない。 アロマ―これだけ予算があれば、いろんな夢が叶えられて幸せだわ。どこでもほんのわずかな補助金をもらうのに苦労してるもん、ねえ。 ☆ ☆ ☆ 1 創造的進化 ; Henri Bergson フランスの哲学者 |
☆ ☆ ☆ Updated 2005.2.26
半分半分放送局長―それは、ナモネ氏の役割だと思うが。 JR大館駅に停車する小坂製錬の タンク貨車 2005.2.25 特派員―女優で、貴族的なムードを漂わせた美女ですね。 ナモネ氏―実際は、いたずらが大好きなヤンキー娘だったらしい。平和活動家の娘と同じく、政治にも関心があって、ルーズヴェルト(F.Roosevelt)大統領の熱心な支持者だった。それでヒッチコックはキャロルという名前を登場人物に付けたんだと思うね。 放送局長―よくあることです。何の意味もない機械的なネーミング。 ☆ ナモネ氏―しかし、その映画のあと、今度はキャロル・ロンバート主演でラブ・コメディを作る。この題名が《スミス夫妻》だ。特派員と純情な娘キャロルとの短い会話を冗談半分に現実の中に流用したわけだよ。これは1940年の《海外特派員》に続いて翌年製作された。 放送局長―パール・ハーバーの前だね。 ナモネ氏―そう。〈パール・ハーバーを忘れるな〉という合言葉で、アメリカ人はとうとう第2次世界大戦に参加した。キャロル・ロンバートは戦時公債の募集を手伝ってツアーに出た。ところが、1月16日インディアナポリスから帰る途中、乗っていた飛行機がラスヴェガス郊外の山に激突して、母とゲイブルのマネージャーとともに死亡してしまった。 放送局長―事故扱いだが、東京駅暗殺事件の考察からすると、テロの疑いがあるな。 特派員―テロだとすれば、枢軸国の外交官やジャーナリストは追放か拘留されたあとだから、事故の計画と実行はリストに載っていないスパイとテロリストが受け持ったということでしょうね。松岡洋祐外相の自信たっぷりな言葉は、その可能性を見通しています〔4〕。アメリカが第2次世界大戦に参加すればドイツ系がナチスに味方して反抗する、と、そういう意味の話を三国同盟調印後に天皇にしていた。この実態の卑劣な一面を暴くのは《逃走迷路》のテーマですね。 放送局長―汚い戦略がうまく行って、2月9日には戦艦ノルマンディ号がマンハッタン埠頭で火事を起こして横倒しになった〔2〕。この事故はテロの疑いをかけられたが、女優キャロルが乗った飛行機の事故では反対に沈黙が支配したように思える。NHKがそれを80年代にドキュメンタリー番組で取り上げたのを見たら、事故のあとクラーク・ゲイブルは志願して軍服を着るんだ。しかし、事故の原因については触れていなかったはずだが、どうだった? 特派員―沈黙が支配するというのは、当然だなあ。 アロマ―歌にあるとおり、〈別れるたびに、私は少しずつ死ぬ Everytime we say
goodbye, I die a little.〉〔5〕 放送局長―ヒッチコックの怒りは、次の作品《逃走迷路》に現われてるよ。当時、イギリスはナチスの無差別爆撃から本土を防衛するために壮絶な戦いをやっていた。映画の主人公(役Robert Cummings)はテロの黒幕のにやけたナチス礼賛を聞いて、こう言い返す。〈100年かかっても、必ず勝ってみせる!〉最前線にいるのと変わらない激しい情念で、ね。 アロマ―テロリズムとの戦いはまだ終わってない! 特派員―ぼくの想像にも、終わりがない。1944年6月6日に行なわれたノルマンディ上陸作戦に飛びます。決行の日をD-デイと名づけたのは、なぜなんだろうか?平和活動家の娘キャロルを演じたのがラレイン・デイ(Laraine Day)という可愛い女優だから、報復の意味を込めたメッセージだと思いますね。 放送局長―〈覚えてろ!〉というわけだな。 アロマ―去年60周年記念にフランスのメディアはD-デイの直訳のつもりで〈J-jour〉という呼び方をしていたけど、これは誤解ね。 放送局長―うむ、そうだ。マッカーサーがフィリピンを奪還するとき最初にレイテ島に上陸した。作戦開始の日をA-Dayと名づけたのは、アイゼンハワー(Dwight David
Eisenhower)が先にノルマンディでD- Dayを使ったからだということだ〔6〕。重要なのは、Dayという単語なんだよ。 アロマ―ゼロ・アワーじゃ、だめね。 特派員―ラレイン・デイはその後どうなったんでしょうね? アロマ―不時着した飛行機から脱出して翼に乗る、ラスト・シーンのような生活よ。 放送局長―君たちの会話もうまくできてるよ。 ☆ ☆ ☆ □ 東京駅暗殺事件~8 2 逃走迷路 3 The Darkside of Genius : Donald Spoto 4 天皇独白録 ; 半藤一利 注釈 この意外な事実は他の章でも語られる。 5
Every time we say goodbye ; 作曲 Cole Porter Duo
--- ピアノ Stan Kenton 歌 June Christy |
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ノルマンディが上陸地点に選ばれた謎について |
☆ ☆ ☆ Updated 2005.2.1 編集長―カレンダーは、遅くても年の暮れには製作を終えていなければならないな、そうだろう?1949年のカレンダーは前年の12月には完成して配布されていたはずだ。
編集長―その年GHQが使ったカレンダーはペンシルヴァニア鉄道会社のものなんだ〔1〕。これは当然アメリカで製作されたが、写真は日本の謀略機関の脅迫的な指示で選ばれた…立体交差する線路の光景で、おそらく列車が走っているだろう。時刻表のカヴァー写真のように、ね。それが太平洋を越えて極東に送り届けられたとき、日本では何が起きていたか? 広田薬品の看板と魁新報支局 特派員―12月31日には、昭和電工事件の捜査終了を祝って、GHQと東京地検がパーティーを開き、これにGS(民政局)のホイットニー(Courtney
Whitney )局長らが出席していますね〔3〕。ケーディス(Charls
L. Kades)次長はそこにいなかった。12月8日トルーマン(Harry S.Truman)大統領の民主化政策後退を批判するためにマッカーサー(Douglas MacArthur)の命令を受けて座間基地からアメリカに帰って…このあとはミステリー。アメリカを離れなかった。 編集長―昭和電工事件というのは、やはり謀略なんだよ。社長の日野原節三が復興金融金庫の融資を受けるためにGHQや芦田連立内閣や大蔵省などに巨額の金をばら撒いたり派手な接待をしたりして、それをジャーナリズムが国民の目に晒せば、極東裁判とその判決に対する報復と民主政治の右への方向転換ができる…単純に言うと、そう考えたシナリオだよ。 特派員―社長の日野原節三は6月に逮捕されているけれど、《特捜検察》を読むと、この人の供述は信用できない。ESS(経済科学局)化学班の化学肥料部門担当者へティックは帰国する際家具を20万円で買ってくれと日野原に頼んだそうです。日野原は世話になったので、さらに謝礼として30万円渡したというのは、何ですか?GHQに火の粉がかからないように思いやるなら、その30万円も家具の代金に入れればいいんです。 放送局長―そうすれば、法律上は問題は起きないよ、な。 特派員―東京地検はそれに悪意があるとは夢疑わないで、次席検事の馬場義続は帝国生命ビルにある憲兵司令部でフェラン司令官にその報告をしている。フェランの感想は、〈君たちは実にすばらしい捜査をしている。〉おそらく万事その調子で64人の逮捕者が出て、芦田内閣は倒れ、10月天皇崇拝主義の吉田茂が政権に返り咲いた。保守独裁テロリズム劇場の始まり。12月7日にはとうとう芦田均前首相が逮捕された。 放送局長―そういうことになるだろうが、GHQの逮捕者がなかったのは、幸運だったな。 編集長―そう。魚住がGHQの占領記録文書で見つけた手紙は信用していいと思うね。G1(企画、人事担当)の次長バイデルリンデンは10月民政局のホイットニー局長にこう書き送っている。〈現時点ではGSスタッフの関与を示す明白な証拠や信頼度のある情報はありません。〉ホイットニー局長は、答える。〈(略)…しかし、GSを中傷するうわさが市中や日本政府側で広まっているのは事実だ。これはGSの政策が恨みを買っているからだ。…(略)…捜査の過程でうわさの出所が突き止められるよう願っている。〉その事件は謀略だと疑っているのだ。GSをGHQあるいは占領軍と言い換えてもいい。 ☆ 放送局長―そうかもしれないな。どうでもよさそうなことだが、日野原の妻は鉄道工業会長菅原通済(みちなり)の妹だとここに書いてる。事件は〈やらせ〉で、日野原はきっと特攻隊にいたんだよ。 編集長―ううむ。それは気がつかなかったな。 特派員―本当だ。すると、例のカレンダーが、日比谷の第一生命ビルにあるGHQ本部のあちこちに配られたとき、何か目立った反応があったんでしょうか? 編集長―それは分からない。しかし、カレンダーはGHQ内部で使用されただけではなかった。霞ヶ関の官庁にも配布されたらしい。松本清張の《日本の黒い霧》の記述を信ずれば、運輸次官室の壁に張られて、下山定則次官が眺めていた。 放送局長―1949年のカレンダー、立体交差するレール・ウェイという別に珍しくもない光景。 編集長―それから半年後6月1日下山は初代国鉄総裁に就任する。憲法草案を作った民政局のケーディス(Charls L.
Kades)次長はG2(参謀第2部)の部長ウィロビー、ファシストの回想によれば、〈dead end (行き止まり)の旅〉で失脚して5月3日市民生活に戻った〔4〕。GSがバックアップする民主化政策に暗雲が重く垂れ込めたことをリベラルと左翼は悟ったはずだ。国鉄は独立採算制に切り替えるために12万人もの首切りを計画していた。GHQと日本の保守派は国鉄から共産党分子を排除する狙いもあった。労働組合は当然激しく抵抗した。ラジオが〈下山総裁が行方不明〉と放送したのは、7月5日の夕方だった。 放送局長―その深夜だな、東武線が立体交差する国鉄常磐線の線路で下山総裁の轢断された死体が発見されたのは。 特派員―カレンダーの写真と現場の類似は、話題を投げたそうですね。今はそんなことに触れる人はいませんが。マス・メディアはもちろん。 放送局長―仮説の正しさはともかく、列車のように時間を追った、曖昧さがないストーリー展開もやはり一種独特の怖さで迫ってくるよ。白日夢や幻想に似てるから、と言うべきなのか? ナモネ氏―写真を見てる人がその中に入って死んでしまう、か…かなり映画的だなあ。 編集長―それから、昭和電工事件の大勢の逮捕者が現場の線路脇にある〈東京拘置所〉に入っていたかもしれない、ということも想い出さなければいけないだろうな。小説家は現場の地図からその建物と荒川を削らなかったが、推理の途中には一度も出ないのだ。 放送局長―まあ、要するに、推理作家も黒い霧の中っていうことさ。 ☆ ☆ ☆ □ カレンダーのある事件 1 |
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1 日本の黒い霧---下山国鉄総裁謀殺論 ; 松本清張 著 文芸春秋 1960年 朝日ジャーナル連載 2 昭和2万日全記録 講談社 岸信介 : 1937年満州帝国総務庁次長。39年甘粕正彦を満州映画協会の理事長に据える。41年東条内閣で商工大臣に就任。---《岸信介》(原彬久著)より。 笹川良一 : 戦前の右翼結社国粋大衆党総裁。日本船舶振興会(日本財団)創設者。1979年岸信介元首相とともに国連平和賞受賞。---HPフリー百科事典Wikipediaより。日本赤十字社に献血バスを寄付した事業は記録されていい。献血バスは全国で活躍している。 児玉誉士夫 : テロリストから笹川良一の推薦で海軍の物資調達機関の長に。中国攪乱と戦後政財界の黒幕の一人。 3 特捜検察 ; 魚住昭 著 岩波新書 4 竹前栄二の《GHQ》では、
1949年5月失脚。HPクリック20世紀では、1949年5月3日辞任。SOUTH COAST TODAY のHPによれば、 Charles Kades,
formed Japan's constitution [By Associated Press] 〈Mr. Kades returned from active duty in 1949〉 《特捜検察》ではケーディスは1948年12月8日失意の帰国〔2〕。 五百旗頭(いおきべ)真の《昭和の歴史 6》では、〈四十九年五月、同地で辞職した。〉 |
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マスク・キングダム~4
☆ ☆ ☆ Updated 2005.1.9 特派員―環境サインは今では公然の秘密ですが、東武デパートの奇妙なレタリング〈Tœb〉は何か関係がなかったんでしょうか?池袋駅の通路で見て気になったと以前書いてましたね? 編集長―あれは単なるデザインとして意識に映っただけで、隠れたメッセージがあったかどうか分からない。しかし、あるとき東京放送局のTBSというローマ字がフランス語の発音で響いたのは、そのデザインの記憶のせいだったと思うね。 半分半分放送局長―テーベー。それでも、後浜裕成に会いに行かなかったのは、おかしい。 編集長―何も変じゃない。早稲田出身の安っぽい有名な軽薄才子たちは大学にいた頃から否定していたんだ、ぼくの個性的な才能が自由に伸びるために。それに、二科会という後ろ盾があれば、アメリカ人家族はそう心配ないと考えていた。心配というのは、生活とGHQで仕事をしていた建築家ヘンリー・アンダースン(Henry Anderson)の深い憂鬱のことだ。ぼくは、と言えば、アルバイト暮らしの気楽な日々を送っていたが、内面では重大な変化があった。シュール・レアリスムの小説《円形彷徨》は日本で出版できる状況でないと判断したことだ。これはウィスキーのCMが出る以前のことで、ぼくも憂鬱になって、現実的に売れる小説をめざして書いていた。主人公の日記にはアメリカ人家族の影がある、と感じ取られても仕方がない。困ったのは、GHQのアメリカ人建築家と広尾のおばさんに関する記憶が混じり合っていたことだ。ぼくは、〈敗戦後の東京〉から逃げて歴史は脇に置こうと決めた。それから、例の黒いトレーナーと自称作家呼ばわり事件。76年9月1日祖母の七回忌の法事で大館に帰っていた間の出来事だ。前に話したことだが、悪意を感じたと言っても、間違いじゃないだろう〔1〕。鮮明に記憶しているのは、朝日新聞の記事を読んだあと警察の手が入ってないかと心配になり、自分の部屋のベッドの引き出しを開けて《円形彷徨》の原稿の存在を確かめたことだ。別に変わったところがないので、安心したが、ね。大都会のおかしな記号がメッセージを送ってきたのは、確か77年だ。東急デパートが渋谷駅前にファッショナブルなテナント・ビル〈109〉を建てたのだ。壁につけられたこの〈109〉の巨大なサインは〈トウキュー〉を同音の数字に置換したものだが、ぼくの誕生日の日付だった。 放送局長―大館生まれのハチ公がそれを眺めて待つか…このメッセージは、何なのか? 編集長―メッセージにはそれを手配した実体の分からない権力の現前を示す働きがある。それだけで不安を引き起こすには十分だが、あの巨大さは他に目的はないはずだ。ぼくはそういう現象に慣れていたので、危機意識にほとんど変化の色はなかったと思う。超然として、ビルの受付嬢に〈10月9日生まれだけど、プレゼントはないの?〉と冗談を言ったほどだ。彼女は〈ふん!〉という顔だったよ。 放送局長―《日付のない日記》を書き終えたあとだろう? 編集長―それとの関係付けはなかったな。5分前にやっと気づいたことだ。ただ、10月9日という日付は早稲田にいた頃の仲のいい友人3人の誕生日に続いていたので、その偶然の一致に驚いたことがあった。あのビルを見ると、それを想い出したね。彼らも渋谷に行けば、やはり楽しくほろ苦い学生時代を想い出しただろう。恐怖のサインであるはずだが、ね。それから、この日付はシュール・レアリスムの記念碑的な作品《ナジャ》に出てくる。風変わりなヒロインと出会った10月4日から12日までの日記に〔2〕。 特派員―不思議ですね。しかし、これで、ともかく、環境サインという仮象の存在が疑いようもなく大都会の真ん中に出現したわけですね。 ☆ 編集長―76年に東郷青児美術館が新宿の安田生命ビルにオープンしている。荻原寛子の話では、戦前彼は女流作家の宇野千代と心中を図り、傷跡が見えるということだった。 放送局長―後浜が好きな太宰治も結構な人生を送ったよ、な。 特派員―映画《北斎漫画》で東郷青児そっくりの面が出たので、ぼくは同情しました〔3〕。戦前パリで撮った写真の美男子を見ると、晩年のあの顔は日本の国家権力が長い間かけて作った残酷な彫刻作品ですよ。 放送局長―テロリズムの、な。しかし、GHQにいた建築家ヘンリー・アンダースンと早稲田地獄から脱出した生意気な作家の卵との出会いは、誰も想像できないドラマだ。これからどう展開するのか、悪賢いシナリオ・ライターも冷汗が出るような嫌な出会いだったと思うね。それで、聞きたいんだが、つまり、例のウィスキーのCMで〈あなたは誰ですか?〉と声が流れる。それをアンダースンが知って何を考えたか、ハセが想像しなかったとは思えないんだ。 編集長―あのメッセージは両方に対して送られたものだろう。GHQのアメリカ人は、スパイか何か怪しい人物としてマークされているんじゃないか、マークする実体がアメリカのCIAか日本の秘密機関か、と推理したかどうか、ぼくには分からない。いずれにしても、アメリカやロシアのスパイと疑うのは卑劣な嫌がらせだ。荻原さんはその出来事で悩まされたと思う。というのも、ある日アトリエでさりげなく、アンダーソンは女優の浜美枝の箱根にある住居を設計したことがある、と言ったから。《007は二度死ぬ》の女優だよ〔4〕。ショーン・コネリー(Sean Connery)と同じくアンダーソンさんもスコットランド系だろうと想像していたが、しかし、その話にどう応えたかな? 放送局長―ハセのキャラクターも問題だね。 編集長―いや、問題は、敗戦後の歴史にある。不可解な事件が起きると、日本のジャーナリズムはアメリカの陰謀だと騒ぎ立てた。しかし、仮想敵国のソ連に疑惑の目を向けた例はないはずだ。自分の一方的な疑惑を反省してみなければ、これはアメリカに対する復讐心から出ていたことだね。大雑把に言えば、敗戦国の右と左を束ねて分裂抗争を防ぐためという計算で、だろう。 放送局長―なるほど。決まったな。忘れてしまうところだったが、GHQのアメリカ人は、あのCMの中に敗戦後の東京を見たと思うね。ウィスキーの液体がゆっくり波のように揺れる映像は、テロ組織ダーク・オーシャン・ソサイエティ(玄洋社)の亡霊だよ。 ☆ ☆ ☆ |
1 《消えた消しゴム》とその事件の前後関係は逆だったかもしれない。 3
1981年作品 松竹 制作: 赤司学文 中條宏行 企画: 金井彰久 監督: 新藤兼人 4 You only live
twice 1966年作品 Unite 監督: Lewis
Gilbert 原作: Ian Fleming |
☆ ☆ ☆ Updated 2005.1.4 ナモネ氏―北海道警の組織的裏金づくりの実態を北海道新聞の特集で読むと、命令に従った捜査員が勇気をふるいおこして、上層部を批判してる〔1〕。〈現場は裏金を止めようと、必死だったんだ〉という証言などは悲痛な響きがあるよ。警察のでたらめさがこれほど日常茶飯事だと、去年のHHJ記事を〈無意味な破片〉で広げたくなる。 特派員―どんな記事ですか? ナモネ氏―2月那覇空港で起きたコンピューターのケーブル切断事件の報道に関して、編集長が鋭く攻撃した記事だ〔2〕。〈意味不明な供述とは実際どんな内容か、意味が分からないと判断するのは誰か、疑問に思う。〉現状では、被疑者が話したことを客観的に正確に書いたかどうか、第三者は知りようがない。それで、国際人権規約委員会は日本に対してテープ・レコーダーとビデオ・レコーダーによる取調べの透明化を1998年勧告したが、自民党・公明党連立政権はまったく問題にしないのだ。 特派員―最近の日本の警察は文書の書き換えや事件のでっち上げが珍しくないですから、ね、信頼できないどころか、ますます危険な場所ですね、庶民にとっては。 半分半分放送局長―司法改革で民主主義制度の堕落を止めるためには、あまり期待が大きくちゃいけないが、新しい機械を活用するように意識を現代的に切り替える必要があるねえ。テープやICレコーダーは、裁判の傍聴でも使用が許されない。 特派員―ヴィデオによる記録や写真撮影さえも、駄目。 放送局長―検察庁でも、君、調書の作成はレコーダーなしだよ〔3〕。 特派員―科学技術の時代に反するこういう手法は、機械をぶっ壊す趣味があるからでしょうか、それとも? ナモネ氏―人権保護とか言ってるが、嘘だ。政治家や役人など偉い人はよく一般国民の批判に対して〈主観的〉という言葉で切り捨てる。しかし、これが客観的な方法だろうか? 特派員―そうだ、と言う人はいませんね。 放送局長―権力が恐れるのは、何よりも言葉なんだ。それを権力機関が自由に操ることができなければ国家は脆弱になる、という古い観念が染みついてるせいだ。だから、権力者はあらゆるメディアで言葉と映像を所有して、幻想を製造することに一生懸命だ。閉鎖的な島国では、非常に危険だよ。 特派員―日本の知識階層の伝統的な欠点は、文書を尊重しすぎるということですね。少し極端に言えば、暗記するだけで終わりですよ。現実がどうだろうと、ね。 ナモネ氏―私もその一人だ。しかし、ジャーナリストは現実を翻訳しなければ、失格だよ。
☆ ☆ ☆ 2 言葉の樹 : 警察の取調べが闇の中で行なわれる理由 2004.2.12 3 特捜検察 ; 魚住昭 著 岩波新書 |
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