[プロローグ] [2] [3] [4] [5][6] [7] [8] [9] [10][11] [エピローグ]
ゆっくりと4日間かけて少しずつ高度に身体を慣らして,元気に青海チベット鉄道乗車の朝を迎える。
07:36 3分遅れで発車!! 速度を徐々に上げていく,平均速度は120キロだというが,あまりスピード感は無い。周りの景色が広大過ぎるからだろうか? 車窓には荒涼とした大地が流れていく。1時間ほど走ると高度は既に4000mを越える。 うわ~ッ 雪が舞っている。 山が見えないよお~ (´⌒`。)
各車両には電光掲示板が設置されていて,標高や外気温や列車速度や駅名の案内などが中国語,英語,チベット語で逐一標示される。 列車は4000mの雪原を時速95~100kmでぐんぐん登って行く,車外温度は0℃~2℃。 ひと息ついた所で,5号車の仲間を表敬訪問?のついでに,各車両の探索に出かける。 列車は全部で客車16両,軟臥車(1等寝台 定員32)2両,硬臥車(2等寝台 定員54&60)8両,硬座車(普通車 定員98)4両,食堂車,最後尾に車掌兼空調器械車がついている。1,2号車は列車勤務員の仮眠・休憩用となっていて立ち入り禁止。 硬座車は,日本の新幹線と同じ一列5座席,座席はリクライニングがきかないので,長時間乗車はつらいだろう。チベットに出稼ぎに行く漢人,巡礼に行くチベット人,商売熱心な回族,お坊さんなど雑多な人々で満席。カップラーメンをすすったり,トランプに興じたりしている。 ゴルムド~ラサ間は,車内禁煙である。が,タバコ好きの漢民族が二人,デッキで吸っているのを見つけ,両手で×印をつくって注意したところ,ばつ悪そうにもみ消していた。スモーカーが14時間も煙草無しは辛いとは思うけど,空気の薄い高地では我慢して欲しいな!
9時30分 高度は,4683m。車内は航空機と同じく気圧調整がされているので,息苦しさは感じない。同席したIさんだけが頭が痛いと言って,座席に備え付けの酸素供給装置を使用していた。ところで,この車内の気圧調整機能は,ほとんど作動していないのではないかと思われる節がある。わたしの高度計は,ゴルムド~ラサ間での最高値を4994mを記録していた。ということは路線中の最高地点が5072mであるから,車内の気圧調整はほぼ行われていなかったことになる。通路側窓の上部が手動で開けられるようになっていたり(現にわたしたちの乗った15号車の窓の一部が開いていたのを現認している),トイレの窓が開いていたりするので,実際的には外気圧と平衡してしまっているのかもしれない。とすればいかにも中国的である。しかし,平地の7割程度の気圧を確保しているという言葉をまともに受けて安心している高地に弱い人たちには脅威であるし危険でもある。 9時46分 「不凍泉駅」通過 海抜4611m 一年中凍ることがない泉で有名。 「崑崙山トンネル」(海抜4648m,L=1686m 凍土の中に掘られた)を抜けて,モンゴル語で「青色の屋根」転じて「美しい娘」の意味もある「可可西里(ココシリ)」に入る。
酸素は低地の半分,平均気温は零下10~4℃,最低気温は零下40℃にもなり。第三の極地といわれている。 しかし野生動物たちにとっては天国である。 キャン(チベットノロバ)・チルー(チベットカモシカ)・ゴワ(チベットガゼル)・オオカミ・ユキヒョウ・野生ヤク・ヒグマ・大山猫・鳴き兎(タルバガ)など3000種の希少動物が数多く生息する。 大地の景観が緑豊な草原と点々と散らばる池塘に変わり,のどかに草を食むヤクや羊,雄大な風景が続く。 でました! チベットカモシカ! ちょっと遠いけれど,チルーが2頭,3頭飛び跳ねている。 皆 歓声を上げる。(写真撮影には遠すぎるし,列車のスピードも速過ぎて無理でした!) チルーは,かつて密漁によって激減したことがある。映画「ココシリ」で語られていた,密漁取締りに一命を賭した人たちのことに思いを馳せる。一時2万頭にまで減った個体数はいま5万頭以上に復活しているという。 チルーは野生動物保護のシンボルとなり北京オリンピックのマスコットになっている。
続いて,「清水河特大橋」 (海抜4600m,L=11.7km,野生動物の通り道確保の為に造られた世界最長の鉄道橋)。 崑崙山脈を越えてからタングラ峠までの約550km区間は,夏になると表土が溶け出して地盤が緩む凍土地帯である。ココシリ一帯の線路の脇には,不思議なポールが地中から3mほどの高さで設置されている。熱棒と呼ばれるもので,頭部はアルミ製?のラジエーター型になっていて,夏は地中の熱を放射して,凍土が溶けるのを防いでいるという。飛砂を防ぐ為の石枠工,真空吸引式のトイレや専用のゴミ圧縮機が設置され,ゴミはトイレの排泄物とともに到着駅等で回収される仕組みなどなど自然環境保全の為の工夫が随所に施されている。
11時00分 食堂車でお昼ご飯。 メニューはもちろん中華料理が主体であるが,あまり脂っこくなく,野菜がふんだんに入ったスープや炒め物など,たいそう食べやすかった。高度4500mを超す大地を堪能しながらのランチは格別であった。ゴルムドで仕入れた西瓜も美味! アルコール類もメニューにあるが,さすがに誰も手を出さなかった。 団体である為か?混雑している為なのか?食事時間が30分に制限されているのが気に入らない。 五道梁(ウーダオリアン)駅を過ぎて列車は風火山トンネル(標高4905m, L=1338m)を走り抜ける。世界で最も高所にあるトンネルである。 大地の景観が緑豊な草原と池塘に変わってのどかに草を食むヤクや羊,雄大な風景が続く。 よくぞ,こんな高所に様々な技術を駆使して鉄道を開通させたものだと感心する。中国人の底力に脱帽せざるを得ない。 さすが長江源流 広い広い!! 12時25分 長江源流のひとつ「沱沱河(トトガワ)」。複数の流れが交錯する湿地帯である。 「トト」とはチベット語で”おさげ”の意味 ナルホドね! 青海省とチベット自治区の境界に聳える唐古拉(タングラ)山脈の主峰グラタンドン(格拉丹 6621m)の氷河から溶け出した流れだと云う。河に架かる橋は,「長江源頭第一橋」(L=1389.6m) 続いて,野生動物に道を譲るために造られた開心嶺特大橋。もうひとつの長江支流に架かる通天河特大橋を渡り青海とチベットを分けるタングラ峠を目指す。 この辺りは,いつも天候が激変する所だそうだ。空を覆う暗雲・激しい雷鳴・横殴りの吹雪・視界ゼロ・・・・・。今日は雲が多いけれど好い方だと云う。
前方に立ちはだかる雪山,6000m級の嶺が連なるタングラ山脈,その向こう側がチベットである。
最地点はあっと云う間に通過! 14時50分 「唐古拉(タングラ)駅(標高5068m)」と「最高地点を示す石碑(標高5072m)」を時速94kmで通過。 皆カメラを構えて,”5072m”と標示されているタングラ駅標示板を撮影しようと構えていたが,あっという間に通過して撮影に成功したのはTさんだけだった。 青蔵鉄道のゴルムド~ラサ間には,32の駅があるが客の乗り降りする駅以外はほとんど停車しないし,乗降客のいる車両の扉だけ開錠される。 峠越えと云ってもひたすらだだっ広いなだらかな高原がひろがるだけなので,峻険な山あいを抜けていくといったイメージとは異なる,いささか勘が狂ってしまう。 列車はスピードを緩めず次第に標高を下げていく。タングラ山脈の南側はチャンタン高原(チベット語で北の平原)と呼ばれる。 15時30分 托居(トジュ)駅(標高4910m)と安多(アムド)駅(標高4702m)で長時間臨時停車。 対向車待ちだという,こんなことなら,タングラ駅をあんな猛スピードで走り抜けることなんてなっかたのに!少しはツーリスト向けのサービスしてよ~! お天気は好くなったり悪くなったり!外気温15℃が表示されている,意外と温かい! アムドはゴルムド以来の大きな町で,交通の要衝。チャンタン高原を突っ切り西チベット方面に延びる道路が分岐している。 ここで,8日間コースの添乗員Nさんが,血中酸素濃度を測ってくれた。他の方々は,やはり少こし低下していたり,もう少しで危険域という人もいて「注意怠りなきよう」と云われている。わたしは,91/70で平地での値とほとんど変わらず。酸素濃度が低くなると,それを補おうとして脈拍数も増えるという,個人差がかなりあるようだ。 とにかくわたしは,高地に対しての順応性はある方だということが分かりひとまず安心!! 16時50分 「措那(ツォナ)湖」駅通過 標高4594m 駅というより展望台風。いまは人っ子一人いない駅周辺であるが,近い将来には食堂,お土産や,観光ボート乗り場・・・・・俗化した姿が目に浮かぶ。 輝く湖面が線路のすぐ脇まで迫る。ツォナ湖は,チベット語で「ツォナク」,黒い海を意味している400k㎡の面積をもつ世界最高所にある淡水湖,冬にはカモメや白鳥がやってくる。四川省~雲南省~ミャンマーを経てアンダマン海にの注ぐ全長2815kmの大河のサルウィン河(アルファベット表記:Salween,Salwine,Thanlwin,中国名:怒江)の源流である。
18時08分 「那曲(ナクチェ)」 標高4513m 約10分間の停車,ホームに下りて記念撮影。 ナクチェは,古くからチャンタン高原のチベット遊牧民が集まる交易の拠点。町は駅から離れているが,人口7万人を越える大きな町だという。チベット語でナク(黒)とチュ(川)つまり黒い川という意味。またここは,成都からくる川蔵公路と青蔵公路が合流してラサに向かう交通の要衝でもある。
最後の絶景 ニエンチェンタンラ山を見逃す! ナクチェからは,車窓に家畜のヤクや羊の姿,遊牧民達の住む真っ黒いテントが目に付くようになる。ひたすら豊な草原が続く。 右前方にピラミッドのような山頂をもつ雪山 地図を広げて見当をつける,多分「サムディン・カンサン峰(桑丹康桑6590m)」と思われる。仏の教えを守る護法神が住むとされる聖山である。
18時40分 食堂車でつくったお弁当が配られた。 玉子,ハム,冬瓜,にんにくの茎,大根,牛肉,圧力鍋で炊いたほんわかかつ大盛りのご飯と添乗員Oさん差し入れの味噌汁。あったかくてしっかりしたお弁当で,美味しく頂く。
20:00 当雄(ダムション 4293m)通過。ゴルムドから928km。 もう,暮れなずんできた。ここらで右手に,最後の雪山 ニエンチェン・タンラ(7162m)が見えるはずなのだが,見つけることが出来なかった。残念至極! 羊八井(ヤンパチェン)あたりから標高は3000m台の低地に入り,石造りの家が建ち並ぶ集落がボツボツ現れる頃になると,ようやく外も暮れなずんでくる。 突然,外が黄色っぽくなて砂嵐に遭遇,すぐに雨と稲光。 21時52分 ほぼ定刻にラサ着 途中1時間近く遅れていたのに,びっくり! ラサ駅は,とてつもなく広い。ホームで運動会が出来るほど,小型トラックも乗り入れているのに驚く。
ローカルガイドの楊サンが迎えに来ていて,暗くなった駅前の駐車場まで10分ほどかかってたどり着く。ラサ駅は,町の中心からかなり離れている,ラサの町の南側を流れるキュチュ川を渡る橋上から,ほのかにライトアップされたポタラ宮がチラッと見えた。 ラサの宿は,ラサ飯店 ラサでは最高級のホテルだという。ここは海抜3650m,空気は平地の7割ほど,与圧された車内とはいえ,5000mを経験してきた身体にはさほどのこととは感じない。でもやっぱり富士山頂とほぼ同じ高度である,気圧は640Hpa,平地の65%,真空包装された飴玉の袋がパンパンに膨らんではちきれそうである。 油断禁物! 青海チベット鉄道乗車の14時間余りは,その時間の長さを感じないほどあっという間に終わった!車窓からの眺めがあまりにもスケールが大きく,時間と空間の感覚を忘れさせてくれたからに違いない。 今夜はゆっくりやすむ事にしよう。 夜半,強い雨が降った,もう完全なる雨季に突入したようだ。
|