最後の手紙

烏兎の庭 - jardin dans le coeur

第五部

江の島夕景

1/9/2016/SAT

浅野すずを探して—『海街diary』ロケ地を巡る江の島・鎌倉小旅行


昨年末、夏に見た映画『海街diary』のロケ地を巡る小旅行をした。

鎌倉江ノ島も知らない場所ではない。何度も行ったことがある。でも、映画『海街diary』に映った景色は美しく、自分の知っている鎌倉とは違うような気がした。

映画に映っていた、私が知らない鎌倉を訪ねてみた。

どこかに、すずや幸たちがいないか、探しながら歩いた。


小田急ロマンスカー

新宿で、小田急ロマンスカー、えのしま9号に乗車。8時53分発。乗車券は、江ノ電を自由に乗り降りできる江の島・鎌倉フリーパス

出発のBGMは、空から見下ろす旅ではないけれども、DEPAPEPE, “Start!”。ビールはまだ呑まない。


晴天の東浜 大橋から見る富士山

片瀬江の島駅で下車。東浜は雲一つなく、快晴。大橋から西を見ると、雲がかかった富士山がかろうじて見えた。このあと頂上の展望台に登ったときには、すっかり雲に隠れてしまっていた。


チューリップ園 黄色のチューリップ

階段を登り、有料のエスカレーター「エスカー」で頂上へ。サムエル・コッキング苑では、ひと月ほど早くチューリップが咲きはじめていた。


江の島、新旧の展望台

むかし、江の島はB級観光地だった。頂上では、無料のくじ引きがあり、必ず「あたり」が出て、「今なら10万円の真珠が1万円で買えます」という、わかりやすい詐欺師がいた。新しい展望台、Sea Candleができてから、イメージは格段に向上した。

写真は、江の島の歴史資料を展示した部屋でガラス越しに撮影した新旧二つの展望台。


江の島頂上から見る腰越漁港、七里ガ浜 輝く海

頂上から西側、腰越漁港と七里ガ浜、稲村ヶ崎方面を望む。この写真は拡大できる。漁港の防波堤が見える。腰越漁港は、すずと風太がシラスを釜あげしたところ。

もう一枚は輝く海。鳥取の浦富海岸に行ってから、こういう海の景色が好きになった。


螺旋階段 螺旋階段から海を見る

展望台はガラスで囲まれている。螺旋階段はオープンエア。高いところが苦手なのでドキドキしながら降りた。

ときどき、気分が落ち込んでいくことを「内巻きの螺旋階段」と書く。こうして実物に、しかも吹き曝しの螺旋階段に立つと、一歩踏み外しただけでどこまでも転げ落ちていきそうな怖さがある。


自動車とすれ違う江ノ電 腰越駅に入る江ノ電

江ノ島駅で江ノ電に乗る。腰越駅の手前では公道を走る。

江ノ電を撮影するときに困るのは、期待している車両が来るとは限らないこと。伝統的な緑と黄色の車両は、むしろ少数派。ラッピング車両やクラシックな装飾をした車両が多い。


腰越と鎌倉高校前のあいだ

腰越漁港から江ノ電、鎌倉高校前駅へ。腰越駅まで公道上を走った江ノ電は、ここで海沿いに出る。映画では、港で釜あげを手伝ったあと、シラスをもらったすずと颯太が自転車を漕ぐ後ろ姿が映る。


鎌倉高校前駅近くの踏切 鎌倉高校前駅から逗子、小坪を見る

鎌倉高校前駅近くの踏切は、撮影の定番スポット。いつでも人だかりができている。寒い朝にでも行かなければ人のいない景色は撮れないだろう。

鎌倉高校前駅からは、江の島方面は、もちろんいい景色だが、反対の稲村ヶ崎方面も美しい。

柱と屋根が額縁のようになった景色がいい。


極楽寺駅 極楽寺駅のベンチ

作品の要となる極楽寺駅。カメラを手に映画の話をしているグループも見かけた。

ホームにあるベンチは、「ときどき苦しくなるんだよね」と、すずがつぶやいた場所。映画では、背もたれの広告は消されている。場所も撮影時には違う場所に配置されていたようにみえる。

こんな言葉を交わせる関係が中学生にあるだろうか。あるいは、中学生だからこそ、風太とのあいだで、あの会話ができたと言えるかもしれない。

すずは鎌倉へ来たばかりで、まだ複雑な人間関係もなければ、ほかの人のそれも知らないし、彼女自身がまだ無邪気だから、こういう言葉をもらすことができたのだろう。

もし、風太が困惑した顔をしたり、自分の話もせずにすずの言葉を拒んでいたら、すずは、もう二度と同じことは言わなくなっただろう。

生まれ育った場所で、幼い頃から続いたしがらみのなかにいたら、うっかりでもこういうことは言わないように気をつけてしまうに違いない。少なくとも私はそうだった。


すずと風太のような、中学生の、友達以上恋人未満の男女の親友関係が羨ましい。ほかには『なぞの転校生』の岩田浩一と香川みどり。『エスパー魔美』の佐倉魔美と高畑和夫。『優しい音』の千波と「潮風」。


極楽寺橋 極楽寺駅に向かう坂道

幸(綾瀬はるか)が母親(大竹しのぶ)と別れたあと渡った極楽寺橋。映画では手前の欄干を写しているが、かなり高いところにいかないと撮れない。写真の欄干の先には江ノ電唯一のトンネル「極楽洞」がある。

確執のあった母と墓参りをすませたあと、出かけたときには降っていた雨は止んでいる。少し和んだ会話をして別れてから橋のうえを幸が歩いたとき、空は晴れ上がっている。

映画では、橋を鎌倉に向かって左側に渡ってから坂を上がったところに家がある。幸が恋人(堤真一)と別れたあと、梨を買い込んで歩いた坂は橋の右手にある。幸は谷の下で買物をしてから坂を登り、橋を渡って家に帰った。

この坂は「切通し」と呼ばれる、谷をU字型に削って作られた、鎌倉独特の道。その一例として『ブラタモリ』にも登場した。

幸が江ノ電に乗ったのは、一つ、鎌倉寄りの和田塚駅。鎌倉から来る電車に乗って極楽寺で下車したので、ここは現実世界の通り。

残念ながら、極楽寺の山門は、正月の準備のため閉まっていた。


江ノ電、青色、10形 江ノ電、緑色、20形

江ノ電には、多くのデザインの異なる車両がある

真剣な「撮り鉄」なら、お気に入りの車両が来るまで待つか、車両ごとのダイヤグラムを調べるのかもしれない。


西田幾多郎 歌碑 歌碑 銘板

長谷から七里ガ浜へ戻る。少しずつ夕暮れが近づいている。

西田幾多郎は晩年、七里ガ浜の丘の上に居を構えていた。歌碑にある歌のほか、鎌倉や海を思う多くの短歌を詠んだ。


稲村ヶ崎から眺める江ノ島夕景 稲村ヶ崎が見える曲がり角

小さな旅の最後は、七里ガ浜に面したカフェ。結局、最後はこういう展開になる。

グラスには違う銘柄が書いてあるが、呑んでいるのは江ノ島ビール

この写真は気に入ったので、スマホのロック画面に設定した。拡大もできる。

陽が傾いていく薄暮の時間をのんびり過ごした。何も考えない。映画のことさえ、忘れていた。

今日は一日、穏やかな天気だった。それでも、陽が傾くと海からの風が冷たく感じる。店を出て稲村ヶ崎まで海外沿いの歩道を歩いた。

稲村ヶ崎駅から海は見えない。狭い路地を二、三度曲がると、ふいに視界に海が飛び込んでくる。この場所もお気に入りの一つ。


七里ガ浜から眺める江ノ島夕景 江ノ島夕照

七里ガ浜から眺める江ノ島夕照。よく撮れた気がする2枚をおまけに。

クリックすると、600 x 600 のサイズになる。


幸とすずの距離が近くなり、幸がすずを抱きしめて「すずはここにいていいんだよ、ずっと」と言ったのは鎌倉の東にある衣張山。今回は行けなかった。

もう一つ、鎌倉へ行ったら行きたい、いや、本当は毎年、行かなければいけない場所がある。忙しさにかまけてなかなか行けていない。今年は、2月最初の金曜日に行ってみようと思う。


稲村ヶ崎駅から江ノ電に乗り、鎌倉へ。両親と駅前の中華料理店で待ち合わせた。

食が細くなり、酒も呑まなくなってしまった父が、その日は機嫌よく紹興酒を呑み、あんかけチャーハンも半分以上食べていたので、すこし安心した。


今回の小旅行の費用

  • 江の島・鎌倉フリーパス:¥1,470.-
  • ロマンスカー特急券:¥2,090.-
  • ツナときのこのアーリオオーリオ + 生ビール(GABBIANO Enoshima):¥1,600.-
  • 江の島、エスカー利用券:¥320.-
  • 江の島、サムエル・コッキング苑 + 展望灯台:¥470.-
  • 長谷寺、拝観料:¥300.-
  • 江ノ島ビール x 2 + 鎌倉野菜のピクルス(@Leaf Cafe):¥2,000.-

合計:¥8,250.-


ところで、『海街diary』は吉田秋生による漫画作品を原作としている。

原作は読んでいない。これからも読むことはない。理由は、まったくの個人的な事情というか、自分で決めた約束事。『海街diary』にも吉田秋生にも関係はない。

読まない、読めない悔しさが、一つの思い出をずっと忘れないものにしている。


2/6/2016/SAT、追記。
2/17/2016/WED、追記。
2/22/2016/MON、追記。
12/21/2016/WED、追記。