MENU >  TOPはじめに観る習う知るBBSLinks  
第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回第11回第12回第13回第14回第15回

「花の心・風の姿」 (第8回原稿 8月3日(火)・産経新聞掲載) 


 麦酒のおいしい時節ですね。あまりお酒を召されない方でも、この暑い日々、冷えた1杯の麦酒で乾杯ぐらいは楽しまれるのではないでしょうか。あまり強くはありませんが、私もお酒は好きですね。控えようと心がけていますが、いつも心がけで終わってしまいます。今回はそんなお酒と狂言のお話を少し。
 狂言に於いて、お酒を描いた曲目は多くあります。留守中の盗み酒を防ぐため、主人は次郎冠者、太郎冠者を棒や綱で縛って外出しますが、二人はそれでも尚、知恵をしぼって酒盛りをする「棒縛」。伯父に振る舞われた酒を飲み過ぎて愚痴をこぼし、終いには酩酊してしまう「素袍落」。雪降る峠、あまりの寒さに伯父への大事なお使いの酒を飲んでしまう「木六駄」等、楽しく飲む事もあれば、誰しもある飲み過ぎによる失敗を描いた曲。そこに様々な悲喜こもごもが描かれています。お酒を召されない方から見れば、狂言に描かれる人々は何故にそこまで飲みたがるのか理解に苦しまれるのではないでしょうか。しかしながら当時のお酒の位置づけは現在と違い、非常に貴重な存在だったようです。大名や主人はともかく、召使いの太郎冠者にとっては年に数回、ハレの日に少しだけ口にすることができる。しかも量を気にせず、好きなだけ飲める状況は、非常に稀だったようですね。今でいう高級シャンパンで乾杯するような感覚でしょうか。そう考えると、飲める貴重な機会を得ようと奮闘する状況が描かれている事にも納得がいきます。
 そういう私は、数あるお酒の中でも葡萄酒が好きです。コルク栓を開ける作業がちょっとした儀式のようで、その過程でどんな風味がするのか期待し想像する。同じ銘柄や年代でも、決して同じ味に出会う事がない。まさしく一期一会でしょうか。舞台と同様、またと再現できない時間を思うと、次の1本もまた期待してしまいます。とまぁ、何かと言い訳を考えつつ、今晩も詮を開けているのでしょうね。
 【善竹隆司】

* 産経新聞夕刊文化面コラム 平成16年6月8日(火)より毎週火曜日夕刊掲載 全15回(途中翌週延期有)
  善竹隆司さん、隆平さんのご好意により、掲載させていただけることになりました。
▲頁頭へ戻る
ZENCHIKU KYOGEN FAN