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「花の心・風の姿」 (第2回原稿 6月15日(火)・産経新聞掲載) 


 善竹さんのお家は堅いねと言われることがあります。私共もそう思います。芸風だけでなく、家の雰囲気をさしているのではないでしょうか。これは私共の祖父である初世善竹忠一郎の影響が多分にあるのではないかと思っております。芸事はもちろん礼儀作法などとても厳しくされていました。
 今でもベテランの能楽師の先生方から、「あんたんとこのお祖父さんはホント怖かった」と今だにお聞きします。私共も小さい時、本家に行ったとき、擦りガラスの戸を少しだけ開けて、両手をついておそるおそる挨拶をしていた記憶があ
ります。祖父から特段厳しくされた事は無かったのですが、祖父が持つ稟とした空気を受けて、こちらも少なからず緊張感を抱いておりました。一度だけ、隆司は祖父と二人きりで王子動物園に連れて行ってもらった事がありました。当時私は、どうしたらいいのか判らず粗相のないよう大変気をつかった覚えがあります。今となってはいい思い出です。
 祖父は「三番三」、これは狂言方が式楽「翁」の中で五穀豊穣を祈念して颯爽と舞う曲ですが、素晴らしい舞台であったと聞いております。その祖父も晩年は体調をこわして舞台から離れておられたので、直接私共に稽古をつけてもらえなかったのが、極めて残念でした。
 父である二世忠一郎もやはり厳しい存在です。善竹家当主としての責任ある立場故だと認識しますが、随分減ったとはいえ今でも容赦なく叱責します。以前にも食事中に私共のお椀の持ち方が適切でなく、逆鱗にふれた事がありました。些細な事でと不満も覚えましたが、芸事はもちろん何事にも真剣に怒ってもらえるのは、ありがたく思っております。
 昨今、昔に比べて父親の権威が失墜したと言われますが私共にはあてはまらないでしょうね。その父も「だんだん先代に似てきた」と先生方に言われます。私達もそう思います。将来の私共も同じようになるのでしょうか。
 【善竹隆司・隆平】

* 産経新聞夕刊文化面コラム 平成16年6月8日(火)より毎週火曜日夕刊掲載 全15回(途中翌週延期有)
  善竹隆司さん、隆平さんのご好意により、掲載させていただけることになりました。
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