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「花の心・風の姿」 (第4回原稿 7月6日(火)・産経新聞掲載) 


 「人は話題に困ると天気の話をする・・」そういった話を聞きます。天気の話は誰でも共有できる事柄ですが、果たして消極的な理由からなのでしょうか。私自身は、よく空を見上げ、よく天候の推移を話題にします。子供の頃から、特に雷雨など悪天候が好きだった気がします。今でも台風が接近すると、不謹慎ながらわくわくしますね。以前は気象予報士の資格に挑戦しようかと考えたこともありました。
 これから夏にかけてよく上演される、狂言「神鳴」は気象現象である「雷」を擬人化して描いた秀作です。神鳴が「ピッカリピッカリグァワラリグァワラリ」と心のままに鳴り廻ると、ふと雲間を踏み外して落雷してしまい、腰を強打してしまいます。その時たまたま医者が居合わせたので、治療を強要すると、医者は大きな針を取り出し、仕方なく針治療をはじめます。あれだけ人々を驚かす神鳴が、針治療を受け痛がる様子が楽しい曲目です。
 昔は天候の善し悪しが、即生活を左右する重要な要素でした。そのために、自然を恐れ、また敬い、共存しようとする考えが、狂言にも如実にあらわれ、先の「神鳴」をはじめ、天候の描写のある曲目が多くあるのではないでしょうか。現在では衛星写真や詳細なレーダー降雨画像など、自宅や携帯端末で天候に関するあらゆる情報を得ることができます。しかし、先日佐賀での突発的な竜巻や、梅雨時期の台風上陸など、自然の脅威は今も昔も変わることがありません。人は今でも潜在的にある天候への関心が、冒頭の状況を生むのでしょうね。
 狂言「神鳴」では、最後に医者は治療費を請求しますが、神鳴は持ち合わせがありません。代わりに向こう800年間、干ばつ・洪水のないよう守ると約束し、天上していきます。中世に書かれた曲ですので、あと百年程度は守ってくれるはずですが、最近の異常気象は約束の期間も末期のため、だんだん「神鳴」の効力が失せているのかもしれませんね。
      
 【善竹隆司】

* 産経新聞夕刊文化面コラム 平成16年6月8日(火)より毎週火曜日夕刊掲載 全15回(途中翌週延期有)
  善竹隆司さん、隆平さんのご好意により、掲載させていただけることになりました。
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