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「花の心・風の姿」 (第12回原稿 8月31日(火)・産経新聞掲載) 


 今回は能舞台のお話を致しましょう。
ご存じの通り、能狂言が演じられる専用の舞台です。京間3間四方(約5.8m四方)の三方吹き抜け構造で、舞台下手へは橋掛かりと呼ばれる通路が延びており、その先は五色の揚げ幕で仕切られています。舞台背景には鏡板と呼ばれ、神様が影向されている(宿われている)老松が描かれています。客席正面から見る欧米の額縁式の舞台とは違い、周囲にも客席があり、また縦方向に奥行きのある演じ方をするのも特徴です。総檜造りの舞台下には瓶がおかれ、拍子を踏んだ音がいい響きになるように調音されています。残念ながら私はまだ、床下の瓶を見たことはありませんが…。また大がかりな舞台装置や照明設備を必要とせず、役者の演技や地謡によって、無限の広がりある空間になる能舞台。その為には、お客様自身で想像力を働かしてご覧いただく必要があります。その能舞台は元々、神社仏閣や大名の屋敷などに建てられていましたが、明治以降に現在のような、建物の中に舞台がある能楽堂となったようです。
 以前に、欧米は壁の文化。日本は屋根の文化であると聞いた事があります。なるほど欧米の建築では壁に装飾を施すのに対し、日本では、立派な屋根を誇ります。能楽堂も建物の中にもかかわらず、舞台を覆う屋根がある独特の構造で、初めてご覧になる方は驚かれるでしょう。その屋根を支える柱ですが、見所(客席)からご覧になると、舞台上を遮る存在です。しかし演じるにあたって、能面の視界はとても狭いものです。能役者は視野に入る柱を見て舞台上の位置を把握しますので、なくてはならないものなのです。私も各地のホールや特設舞台で、それぞれの環境に応じて勤めますが、やはり能楽堂で勤める狂言が一番具合がいいものです。
 都会の喧噪から隔絶された異空間である能楽堂に是非お出でいただき、舞台の造りにも注目されてはいかがでしょうか。

 【善竹隆司】

* 産経新聞夕刊文化面コラム 平成16年6月8日(火)より毎週火曜日夕刊掲載 全15回(途中翌週延期有)
  善竹隆司さん、隆平さんのご好意により、掲載させていただけることになりました。
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