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「花の心・風の姿」 (第3回原稿 6月29日(火)・産経新聞掲載) 


 私(隆平)は祖父である初世 忠一郎と同じ舞台に上がることは残念ながらできませんでした。稽古を付けていただいた記憶も私が小さい時でしたので、鮮明には残っていません。今となっては本当に残念で仕方ありません。祖父の舞台をご存じの方から色々な事をお聞きしますが、やはり直接ひとつの狂言をお相手してもらい、『間(ま)』や『息使い』、『型』を肌で感じて、勉強したかったと思います。しかし、本当に幸せなことに私が20歳頃の時、祖父の弟にあたる幸四郎大叔父から稽古をしていただくことができました。亡くなる迄のほんの短い間ではありましたが、昔の舞台の様子やご自分の稽古方法、狂言の時と間狂言においての息使いの違いなど、細かく丁寧に教えてくださいました。特に間狂言の語リの『間』の取り方にはかなり厳しく指導いただいたのを覚えています。『間』ひとつで語リの雰囲気が変わるのだと。また、大叔父はタバコがお好きだったようで、稽古場ではかなりの本数を吸っておられ「あんたらは吸ったらアカンで。これは体に悪いからな」と、モウモウと立ち上る煙の中でおっしゃっていたのが印象に残っています。大叔父には極重習曲「釣狐」を私が披キの時にお相手をして戴きました。日頃は温厚な狂言をする大叔父が、この時ばかりは本当に凄みのある猟師で、私が面越しに圧倒されとても緊張したのを鮮烈に記憶しております。幸四郎大叔父が亡くなって、この6月で早5年です。やはり、もっともっといろんな事を教えていただきたかったと今でも思います。
 先日あまりにも早すぎる訃報をお聞きしました。総合芸術家としてもご活躍だった野村万之丞さんが急逝されました。44歳。私共のすぐ上の世代の先輩でもあり、多方面との交流にも力をそそがれ狂言発展にとてもご活躍されていました。本当に残念でなりません。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 【善竹 隆平】

* 産経新聞夕刊文化面コラム 平成16年6月8日(火)より毎週火曜日夕刊掲載 全15回(途中翌週延期有)
  善竹隆司さん、隆平さんのご好意により、掲載させていただけることになりました。
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