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「花の心・風の姿」 (第10回原稿 8月17日(火)・産経新聞掲載) 


 先日縁があって「阪神大震災復興チャリティコンサート」を聞きに行ってきました。各ジャンルの演奏がもりだくさんで、楽しい時間を過ごせました。しかしあまり意識はしていませんでしたが、来年は、あれからもう10年になるのですね。
 被災時、私は軽傷を負いましたが、幸い家族も無事、家も少し損壊した程度で済みました。しかし神戸の惨状を考えると、当分舞台など出来ないだろうと思いました。むろん神戸での公演は全て中止や無期延期になりましたが、大阪での催しは予定通りあるとの事でした。この状況のなか、何故に公演があるのか訝しながらも辿り着いた時、神戸と別世界。いや、普段と何事も変わらない光景に憮然とした事を覚えています。被災直後には、まず元の生活を取り戻す事が大事であり、インフラの修復こそ必要なので、文化関係は二の次だと舞台に身をおきながらも自身思っておりました。私も元の生活に戻すべく奔走しておりましたが、文化関係の慰問より、自衛隊の災害派遣で、支援の部隊が展開されていくほうが心強かったものです。事実、美術館や映画館。飲食店など文化的なものは一時的に活動が止まってしまいました。しかし鉄路がつながり、道路が復旧し、復興が進むにつれ、お店が開き、映画館が上映を開始し、少しずつ文化の息吹が感じられるようになると、ひとつひとつの歩みを素直に喜びました。私も神戸で狂言の舞台を勤める
ようになりますと、それぞれ大変な経験をなされたであろうお客様が、舞台を楽しんでくださるのを目の当たりにし、改めて狂言役者であって良かったと認識しました。今では街並みだけは復興し、当時の名残を探すのも難しくなってきました。折しも、お盆の終戦の日。災害も戦乱もない平和な時間のありがたさを、少し考えるこの頃です。         
 【善竹隆司】

* 産経新聞夕刊文化面コラム 平成16年6月8日(火)より毎週火曜日夕刊掲載 全15回(途中翌週延期有)
  善竹隆司さん、隆平さんのご好意により、掲載させていただけることになりました。
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