§.旧石器発掘捏造はマスコミ犯罪だ
(Mass media led the paleolith fabrication)

−− 2003.05.25 エルニーニョ深沢(ElNino Fukazawa)
2003.06.28 改訂

 ■はじめに
 03年5月23日のニュースで、旧石器捏造問題(※1)の検証を続けていた日本考古学協会(会長:甘粕健新潟大名誉教授)は最終報告で、東北旧石器文化研究所(1992年設立の民間組織)の藤村新一前副理事長が関与した遺跡について
  藤村新一が『発見』或いは関与した『遺跡』約186ヶ所は、『前・中期旧石器』に限らず後期旧石器・縄文に至る迄、彼に依る捏造であり学術的資料としては無効である。
全面否定し24日の総会で最終報告として発表する、という記事を読みました。又、捏造を許した学会の責任や原因にも具体的に言及し、藤村氏が捏造を行った動機についても当初、同氏が述べた「プレッシャー」や「魔が差した」などの理由を否定し
  学問的な探求心では無く、名声の獲得を目的とする行為であった可能性が強い。
と結論付けて居ます。ま、一応は当然でしょう。

 ■御座なりな解決シナリオに疑問有り
 しかし私にはちょっと引っ掛かる点が有るので、この記事だけで無く他の記事を少し検索して見て行くと、マスコミは例に依って藤村氏の「特殊で異常な功名心」という点を強調して書き立てて居ます。藤村新一氏はこれ迄旧石器を数多く”発掘”し「神の手」と崇められて来た人ですが、彼の成果は殆ど全て捏造だったと言うのです。
 これらの記事から容易に推測出来るシナリオ(=事件の落し所)は、
  [1].藤村氏をスケープゴート(※2)にして「異常な功名心の異常な事件」とする。
  [2].日本考古学協会を始めとして、この偽遺跡を容認した「学会」や文化庁の責任を有耶無耶にする(=お茶を濁す)。
  [3].「誠に遺憾です、今後は”再発防止”に努めます。」なる常套句で終息する。

です。後は熱(ほとぼり)が冷めるのを待ち世間がこの問題を忘れるのを待てば一件落着です、いやはや。
 しかし、こんなんで良いのですかねえ?
 如何にも御座なりです。私は2000年10月22日の捏造発覚(→発覚の経緯は後で詳述)の数年前から(当時は藤村新一という人物も名前も知らなかったのですが)、次々に10万年単位で”記録”を更新して行く東北地方の”発見”に何か説明の付かない”臭さ”を感じていた私はこの”発見”の成り行きに注目して居たのと、私はマスコミやマスメディアの論調とは大分違った見方をして居ますので、それをこれから述べることにしましょう。そして何処に本当の原因が有るのか、という点を明確に指摘したいと思います。

 ■お断り − 前提条件と私の立場について
 その前に前提条件と私の立場を明確にして置きましょう。先ず前提ですが、私のこの記事は私の主張を展開する為に事件の概要をニュース記事から一部引用して居ますが、事件の経過そのものの記述は省いてます。事件の経過そのものを書くと前文が長く成り本論に入れないので、詳しく知りたい方は他のサイトや新聞等を参照して下さい。この記事は「事件の経過を一応把握して居る方」を対象及び前提条件として書いて居ます。
 次に私の立場をはっきり言うと、前記の[1]〜[3]の決着のさせ方で[1]の藤村氏に責任が有るのは当然です、[3]の常套句も仕方の無い所でしょう。問題は[2]なのです。学問的検証を怠った学会や、それにも増して偽遺跡を「国の史跡」に指定した文化庁(=国)の責任は重大です。[3]の常套句が誠意有るものかどうかの分かれ目は[2]の責任の取り方に在ると考えて居ます。今回の日本考古学協会の発表は藤村氏一人に全ての罪を着せることで、協会及び文化庁(=国)は頬っ被りして火事場から逃げ出そうとする「狡猾な魂胆」が見え見えです。
 そういう意味で社会的に大きな力を持つ訳でも無い藤村氏個人をスケープゴートにするな、ということです。しかしだからと言って藤村氏の”犯罪”を擁護して居るのではありませんよ、つまり「罪を憎んで人を憎まず」です。藤村氏一人をスケープゴートにして騒ぎ過ぎると日本考古学協会と文化庁(=国)の「狡猾な魂胆」にまんまと嵌まる結果に成り、彼等を免罪した儘それで終わって仕舞うからです。こういうパターンは皆さんも特に政治家絡みの事件で散々経験済みでしょう、要するにスケープゴート化は「トカゲ(蜥蜴)の尻尾切り」なのです。
 そしてもう一つ、この事件には[1]、[2]以外にも見逃しては為らない重要な犯人が居るということです。考古学を記録更新ゲームの様に煽って来たマスコミマスメディアの存在です。この事件は学会・文化庁(=国)・マスコミを巻き込んだ「立派な組織的犯罪」ですよ!!

 ■問題は何か
 日本の旧石器時代研究の幕開けは1949年の岩宿遺跡(※3)の発見からです(△1)。ここから地道に成果を積み上げて漸く後期旧石器時代の上限(=約3万年前) −旧石器時代は3万年前が一つの区切り(△2のp20)− に遡れる所迄漕ぎ着けて更には中期旧石器時代の4〜5万年前の可能性が言われ出した所へ、藤村氏が登場した1976年頃から発掘の成果が急に上がり出し、座散乱木遺跡の”発見”以降東北地方で立て続けに新遺跡が”発見”され、遂には約70万年前に迄遡ると宣伝された挙句に、再び振り出しの約3万年前に戻ったのです。つまり
  4〜5万年前 → 藤村氏で70万年前 → 元の木阿弥で3万年前
           (約186箇所の捏造)

という大きな振れ(=振幅)です。つまり新世紀に入り再び1976年の段階に押し戻された訳で、1976〜2000年は「虚飾と不毛の25年」だったのです。日進月歩の現代に於いて25年の空白は大きい、と言わざるを得ません。
 [ちょっと一言]方向指示(次) 実は岩宿でも石器を最初に発見したのはアマチュアの相沢忠洋氏でした。相沢氏は「掘り屋」に徹し、それを鑑定して理論付けを行う学者の「理論屋」との分業体制がこの時に出来上がった様に思えます。今回の捏造事件の裏に学者が”汚れ仕事”の発掘を他力本願的に「掘り屋」に任せ現場を見ずに鑑定や理論化などの”綺麗な仕事”のみに専念した「手抜き」が有った、と私は考えて居ます。実験科学や発掘では「生データ」の扱いが最も重要な筈ですが。

 現時点で私が一番怪訝に感じるのは、急激な大振れをクロウトの考古学者が誰も不審に感じなかったのか?、ということです。旧石器などにシロウトな私でも数10万年前の”発見”が立て続けに伝えられた95年頃には前述の如く”臭さ”を感じましたよ。何故ならば数10万年前と言ったら北京原人(※4)の時代です、相当数の北京原人が日本(←当時は大陸と陸続きだった)を闊歩して居たことに成って仕舞います。実は”臭さ”を感じていた人は学者一般の中に少数乍ら居たのですが、そういう人々の良心が黙殺される状況が存在したのです。次章でそれを明らかにしましょう。

 ■事件の関係者と事実認定
 (1)何が藤村氏をそうさせたのか
 ここで東北旧石器文化研究所(←前身は石器文化談話会)の前副理事長・藤村新一氏とはどういう人物なのか、について少し触れて置きましょう。
 宮城県富谷町に住む藤村新一氏は高卒で計器メーカーに入社したサラリーマンで、小学生の頃近所で偶々見付けた土器が約5000年前の物と教師から教わって以来、100万年前の石器や原人の骨を掘り出すことに”夢”を託して来たマニア或いはオタク(※5)、考古学オタクなのです。民間の石器文化談話会に参加し発掘に同行する内に遂に夢が昂じて”現実と夢”の垣根を越えて仕舞った、というのが今回の事件なのです。
 捏造が最初に発覚したのは2000年10月22日で、11月5日の毎日新聞の記事
  日本に70万年以上前の前期旧石器文化が存在したことを証明したとして、世界的に注目を集めている宮城県築館町の上高森遺跡で、第6次発掘調査中の10月22日早朝、調査団長である東北旧石器文化研究所の藤村新一副理事長(50)が一人で誰もいない現場で穴を掘り、石器を埋めるところを毎日新聞はビデオ撮影し、確認した。
と報道されました。
 新聞社がビデオを準備し待ち受けて撮影した、ということはこの発掘に疑念を抱く関係者のリークが有ったからでしょう。

 (2)オタクにご用心
 話はちょっと逸れますが、私は当サイトで折に触れオタク批判を展開して来て居ます。”自分の執心して居ることに盲目的にのめり込み、夢と現実の区別が付かなく成る”のはオタク(※5)に典型的な行動パターン(=症状)で、今回の事件は典型的なオタクの事件、ということを先ず強調して置きましょう。
 更に、これは最近流行りのインターネット・オタクがネットで知り合った見ず知らずの人間と簡単に集団自殺して仕舞う事件や、宗教オタク電波オタクが合体した「パナウェーブ研究所」の連中が引き起こした例の白装束集団事件と、同じ病根を持ち通底して居るということも。序でに言わせて貰えば、今では当たり前の光景に成っている、電車に乗ったら直ぐ俯いてケイタイをピポパポ遣り出す連中、アレはケイタイ・オタクで何れ何らかの事件を引き起こす予備軍である、ということも(既にケイタイの出会いサイト系メールを利用した誘拐や性犯罪は事件に成って居ますが)。

 (3)中央の文化庁の前に無力な学会(或いは学界)
 そこで誰でも持つ疑問、何故これ迄捏造が検証されず放置されて来たのか?、それも1ヶ所では無く186ヶ所にも亘って?、疑問を呈する声は上がらなかったのか?、考古学関係の学会は何をして居たのか?、と。
 そこでこの事件の仕組みをご説明しましょう。芹沢長介・東北大学名誉教授は前期旧石器の存在を唱える旧石器研究の”権威”で、岡村道雄・文化庁記念物課技官は東北大の芹沢門下生です。岡村氏は宮城県の東北歴史資料館時代に旧石器遺跡発掘を推進し、そこへアマチュアの藤村新一氏 −当時民間の石器文化談話会(後の東北旧石器文化研究所)に所属− が現れ、芹沢・岡村師弟の説を裏付ける”物的証拠”を次々と”発見”して行ったのです。しかし奇妙な事に藤村氏しか”発見”出来ず、何時しか藤村氏は「神の手」と呼ばれる様に成りました。これに対し「発掘された石器は縄文時代の石器ではないか?」との疑問の声も上がりましたが、”権威”の説を反証するには時間が掛かります。
 然う斯うする内に87年に岡村道雄氏が文化庁(=国の行政機関)に移籍 −この”栄転”は華々しい偽遺跡発掘と理論化の功績に対する論功行賞− し、地方時代に自らが発掘を推進した偽遺跡(=座散乱木遺跡など)を中央に於いて自ら「国の史跡」に指定しました。見事な「自作自演」で、こう成るともう学会(或いは学界)には手に負えないのです。新聞社にリークして証拠の映像を撮ったということは、専門家が学会に於いて真面(まとも)に反論出来ない状況が在ったという事であり、学問の暗黒政治ですよ!!

 (4)地方に於ける利権の構図
 ここ迄だったら単に学会と文化庁、即ちクロウト達の問題なのですが、この後は学会を離れて”或るベクトル”(※6)に後押しされ独り歩きし始めます。即ち、”新発見”が次々と煽動的に報道されることに因り引き起こされた、自治体の村興し・町興しや地元商店会の商業主義(=儲け主義の便乗商法)、一般の考古学ファンの夢やロマンへ向いたベクトルです。このベクトルに地元のシロウト達が大勢巻き込まれました、「衆愚の自業自得」(※1−1)ですが。
 この段階で藤村氏の”発見”は、「村や町の再活性と経済発展(=金儲け)の推進」という目的化したプロジェクトに、パフォーマンスとして組み込まれて行ったのです。そしてこのプロジェクト推進派が”善”とされ、反対派は発展を阻害する”悪”という単純化された構図が暗黙の裡に形成されたのも当然の成り行きです。これこそが今回の捏造事件の見逃しては為らない本質なのです。そして藤村氏はこのプロジェクトの中で期待通りの道化役(=ピエロ)を演じ切ったのでした。
 このプロジェクト推進派・反対派の構成は
  推進派=自治体+地元商店会+議員のセンセイ+夢とロマンの住民+マスコミ
  反対派=懐疑的学者のみ

と成り、推進派の中核は行政権力でありその周縁をマスコミに誘導された圧倒的多数の大衆が取り囲む構図です。これが、これ迄何故捏造が放置され学問的反対意見が圧殺されて来たのか?、のもう一つの答えです。
 こうして捏造を国(=文化庁)と地方の行政が二人三脚で推進した訳ですが、この構図って皆さん、アレッどっかで聞いた様な話だなと思いませんか?、そうです、ダムや原発や高速道路建設を誘致して活性化しようという推進派と反対派の構図そのもので、どちらも推進派には「利権」が発生するのです。

 ■主犯割り出しと私の推理
 それでは主犯格の真犯人は誰か?、以下に私の見解を述べましょう。先ず結論(=犯人指摘)を先に提出し、それから私の「推理」をお話しましょう。

 (1)結論
 この事件の犯人には、実際に舞台の上で踊った役者と黒衣を着て役者を躍らせた黒子(くろこ)が居て、マスコミが槍玉に挙げているのは役者だけであり片手落ち、ということです。図式的に書くと下の様に成ります。

 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
 ┃ ★前期旧石器考古学の捏造事件の犯人達               ┃
 ┣━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
 ┃役┃[1].主役:藤村新一[ピエロ役]                 ┃
 ┃ ┃[2].脇役:岡村道雄[二股武士役]、主犯格の自作自演特別賞    ┃
 ┃者┃     芹沢長介[誇大妄想の老人役]             ┃
 ┣━╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
 ┃黒┃[3].ヤラセ演出:考古学ブームを煽ったマスコミ各社        ┃
 ┃子┃[4].幇助兼追っ掛けファン:村興しに狂奔した自治体・地元商店会  ┃
 ┗━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

 (2)藤村ピエロと芹沢老人
 私は今回脇役を演じた芹沢老人は旧石器の誇大妄想に取り憑かれて居たと考えて居ます、それが老人性のパラノイア(※7)かどうかは定かで有りませんが。そして芹沢老人は藤村ピエロの中に嘗て岩宿遺跡を発見した相沢忠洋氏”影”を見て居たと考えられます(△1のp180〜193)。藤村氏は92年に「相沢忠洋記念館」が授与する第1回相沢忠洋賞を受賞(←この時の審査委員長が芹沢老人、賞は後に撤回)し、相沢氏も藤村氏も「学会」というアカデミズムの埒外に居た人物という点では共通して居ます。芹沢氏は相沢氏の発見を学問的に支持し立証して学会での”権威”に成ったのですが、「二匹目のドジョウ」を狙った藤村氏で手痛い”火傷(やけど)”を負って仕舞った、という格好です。
 考古学や歴史学のみならず、凡そ「学会」とかアカデミズムと呼ばれる閉鎖的なヒエラルキー社会(=ピラミッド型の組織)では、権威を牛耳る”派閥”が跋扈することは相沢氏も述べて居ます(△1のp161)が、今回の事件の裏にはそういったアカデミズム内部の派閥力学 −功名心に基づく派閥間の先陣争い− が働いて居たことは事実でしょう。

 (3)岡村二股武士
 岡村道雄氏は権力志向を持った野心的な二股武士(※8)です。脇役を装い乍ら実は陰の主役、役者であり乍ら黒子という難しい役処を見事に演じ分け、その自作自演の見事さは「ひょっとしたら筋書きも書いたのでは?!」と思わせる程です。彼こそこの捏造劇のキーマンです。彼は学者と執行官の両方の技量を持つ有能なテクノクラート(※9)で、彼の中央の権勢に靡くマスコミや御用学者を使って本を出し展示会を開いて次々に記録更新される旧石器時代を”既成事実化”し、疑念を抱く学者の反対意見を上手く躱(かわ)すことに成功しました。その手腕は見事でしたが、「策士、策に溺れたり」ですね。
 ということで、岡村二股武士には主犯格の自作自演特別賞を贈呈します。

 (4)余りにも無責任なマスコミのヤラセ演出の罪
      − ヤラセは捏造の一範疇
 以上は舞台上で演じた人たちですが、実は黒子や観客にも責任が有るのです。はっきり言って捏造を背後から後押ししたのはマスコミのヤラセ演出(※1−1、△3のp147〜173)です。この事件の背景には、無責任に「考古学ブーム」を煽って来た現代マスコミの体質が在りますが、考古学ブームが如何にして作り出されたかは下のコラムを参照して下さい。
 [ちょっと一言]方向指示(次) 考古学ブームに火を点けたのは1972年3月26日の高松塚古墳の極彩色壁画発見のテレビニュースでしょう。テレビに映し出される壁画の鮮やかな映像は圧倒的なパワーでアカデミズムを飛び越えて直接一般大衆の目に飛び込みました。しかし当時は文化財取材は余り重きを置かれて居ず、この一大発見の特ダネを逃がした所も多かったそうです。しかしこの報道でアマチュアの間に所謂「古代史ファン」「考古学ファン」が急増しました。予想外の反響の大きさの為に報道各社も文化財取材を強化して今では逆に報道合戦の様相すら呈して居ます。
 この問題だけでは無くテレビに於いては、最近は「公器としての責任」や「報道のチェック機能」をかなぐり捨てて、商業主義的な視聴率稼ぎに走る余り、入手した情報を鵜呑みにし短絡的・煽動的なキャッチフレーズで増幅して吐き出す為に報道が娯楽化して居ます。この時の高松塚以来、大衆にとっても学者やアカデミズムは無用の長物に成りました。大衆は最早、テレビに映るものこそ”真実だ”、と安直に錯覚する様に成ったのです。その後の健康食品超能力新興宗教財テク・ブームは何れもテレビを媒介して居ます。今回の発掘捏造事件はこの様なマスコミ状況の中で、「発生すべくして発生した」と私は見て居ます。


 マスコミ各社は学会の検証を待たず、「何10万年前の石器を発掘!」という見出しを大々的に掲げ、丸でオリンピックの様に考古学を記録更新ゲームにして仕舞い(まあ、今は戦争をもテレビで生中継する時代すからね)、前節で述べた様に岡村道雄氏と”持ちつ持たれつ”で藤村石器に基づく本を出版して宣伝して来ました。そして藤村氏の”新発見”の可なり早い時期からこれに否定的な見解を唱える、例えば小田静夫氏(東京都教育庁文化課主任学芸員)の様な研究者の意見を学会と共に圧殺して来たのです。現代ではマスコミの論調はその儘一般大衆の意見に早替わりして仕舞います。その結果当然、議論は研究者の検証などという悠長な作業を待たずに、”新発見”推進の方向に演出され誘導されて、マスコミの「期待される人間像」通りに藤村新一というアイドル(←実はピエロ、※10)が創り出され、藤村氏は或る意味でその”期待”に応えて来たのです。
 ですから今回の事件の本質的な原因は藤村氏個人の「特殊で異常な功名心」なんかでは断じて無いのです。藤村氏が段々と「特殊で異常な功名心」を持つ様に成ったのは、[学会+マスコミ+世間]の期待に応えようとして来た「結果」なのです。ですから仮にもし藤村氏が現れなかったとしたら、別の誰か=X氏が登場して居たに違い無いのです。何故なら演出家は常に主役を必要として居ますから!!
 この様にヤラセは捏造の一範疇と考えることが出来ます。【脚注】※1、※1−1に在る様に両者の間には若干のニュアンスの違いは有るものの、「故意且つ作為的(※1−2)に生データに或る方向付け(=ベクトル)を与える」という点では共通して居るのです。

 では最初に述べた点に立ち返って、何故マスコミは例に依って藤村氏の「特殊で異常な功名心」という点を強調して書き立てているのか?、もうお解りですね。それは主役・藤村氏をスケープゴートとして全ての罪を被せることに依って、自分の演出家としての罪を隠蔽しようとして居るのです、藤村氏をトカゲにして尻尾を切ろうとして居るんですよ!、皆さん。これに依ってマスコミは2重の罪を犯す事に成ります、即ちヤラセ演出の罪に加え、これから行おうとする隠蔽工作です。更に厚顔無恥なのが、自分が持ち上げたアイドルを今度は生け贄として地に堕とす為に、丸で関係無かったの如く”正義の味方”面して攻撃開始した点です、まあ、何時もの常套手段ですが。正に「攻撃は最大の防御なり」を地で行ってますね!

 (5)村興しに狂奔した自治体・地元商店会のヤラセ幇助罪
 今は被害者を装って罪を逃れようとして居ますが、こちらは役者の追っ掛けファンに相当します。確かに被害者の側面は有りますが、100%完全無欠の被害者ではありません。言わば観客席から役者の犯罪を応援・増長させた自己責任は有るのです。そしてその裏には便乗して村興しや町興しで売名し泡良くば一儲けしよう、という商業主義的な下心や魂胆が見え見えです、要するに売名と金儲けに目が眩んだ便乗商法です。ですからこちらも学者の悠長な検証など不要、否そんなものは寧ろ邪魔で、兎に角自分の村なり町なりの名前をマスコミに売り込める何らかの材料が有れば、例えそれが真実であろうと嘘であろうと、そんな事はハナから問題外だったのです。村興しに狂奔した人々を悪人とは言いません、多くは善を為そうという気持ちからだったと思いますが、それは結局「安っぽいヒューマニズム」の偽善に過ぎなかったということです。
 その様なサンプルを紹介しましょう、私が知っている便乗商法は”秩父原人”絡みですが。埼玉県秩父市では藤村氏が関与した小鹿坂遺跡(おがさかいせき)から99年に”50万年前”の石器が出土し、人骨は未発見(←生活遺構を発掘しただけ)にも拘わらず話は一挙に”秩父原人”にエスカレートし、2000年には3月に市長が「夢とロマン」という陳腐な常套句を添えて藤村氏ら捏造一派に感謝状を贈り、その後更に下記の様な商業主義的イベントを挙行し商品を売り出しました。
  市制50年を記念して”秩父原人”を市のマスコットに指定
  市主催のイベント:「日本三大原人まつり」(9月16日)、
           「前期旧石器フォーラム」(11月11日)
  便乗商品:「原人大福」「原人パン」「原人クッキー」「秩父原人酒」など

 特に「フォーラム」は捏造発覚ニュースが報道された直後にも拘わらず藤村氏の講演中止、文化庁の岡村氏欠席で決行され、秩父市民は笑い者です。この背景には御多分に漏れず秩父市の過疎化と不活性化が有り、埋没する埼玉の一現象です。{秩父市のサンプルは03年6月1日に追加}

 ■無効とされた主な旧石器遺跡
 以上が旧石器発掘捏造事件の経緯と私の見解ですが、冒頭のニュースの様に日本考古学協会は「約186ヶ所の遺跡が無効」と公式に結論しました。そこで無効とされた旧石器遺跡の主な名を下に列挙して置きます(ほんの一部です)。
  宮城県:座散乱木、中峰C、馬場壇A、高森、上高森
  北海道:総進不動坂
  山形県:袖原3
  福島県:原セ笠張、一斗内松葉山
  埼玉県:小鹿坂、長尾根
   などなど

 この中には既に国の史跡を解除されたものも有り、現在は教科書の訂正が進行中ですが余りにも大きな「負の遺産」です。
    {この章はは03年6月28日に追加}

 ■警告 − 過剰な商業主義が続く限り捏造は再発する
 ま、週明け(5月26日)位からテレビがガタガタ言い出すでしょうが、幾ら再発防止マニュアル作っても、過剰な商業主義が続く限り捏造は必ず再発しますよ、考古学に限らず全ての分野に於いて言えます。賭けましょうか?、アッハッハ。
 私はこの事件の背景に在る問題点を大雑把に示せば、▼下の図式▼の様に成ると考えて居ます。

  [1].社会全体がオタク国家ニッポン → 枝葉末節に没入、短絡的思考
  [2].一般人のテレビの見過ぎ→ アイドル崇拝、ヤラセ慣れ、イベント志向
               → テレビの神格化      │(群集心理)
                     └(ヤラセ願望)─↓
  [3].マスコミの煽動(視聴率・発行部数)─┬─→ イベントのでっち上げ
  [4].自治体の村興し・町興し(売名)   │(相乗り=”ぐる”)
    地元商店会の商業主義(便乗商法)──┘
  [5].他力本願志向 → 便乗主義、発掘を「掘り屋」任せ
           │
           │★ヤラセ、でっち上げも捏造の一範疇
           ↓←─────────────────┐
         ▼▼▼▼▼                │
           捏造             <悪循環の堂々巡り>
          ▼▼▼                 ↑
           ▼                  │
    事件に付和雷同して空騒ぎ → スケープゴート(=トカゲの尻尾切り)
                (原因・責任の有耶無耶化で何も改まらず)

 因みに、「でっち上げ」(※1−3)の「でっち」とは漢字では「捏ち」と書き、正に捏造の「捏」です。そして、この図式の意味する所は
  過剰な商業主義のイベントヤラセ(遣らせ:捏造の一範疇)を生み、原因や責任を有耶無耶に済ますと「悪循環の堂々巡り」の回路が形成され捏造は再生産される
ということです。

 さて上の図式で、[1]と[3]は説明要らないでしょう。[2]は後回しにします。
 [4]から先に説明すると、自治体・地元商店会が幾らイベントを開催したって、それで観光客の足を引っ張れる期間は1年の内高々数10日位ですよ、残りの約300日位の日常をどうするか?、又その翌年以降はどうするのか?、そこを真に「興す」方策を打たない限り過疎化を食い止められる訳無いでしょう。そもそも村興し・町興しと言い乍ら「興す」努力をせずに”便乗”する発想事態が他力本願で[5]の問題でも有ります。そこで[5]の説明に入ると、学者のセンセイの「掘り屋」任せも他力本願です。しかも「神の手」を持った特定の人物しか掘り出せないなど不自然だと思わない方が可笑しいですね、正に専門バカです。
 [2]もそんなに説明は要らないと思います。藤村氏も一種のアイドルだった訳ですが、アイドルやイベントで目先だけ盛り上げようとするとヤラセ(遣らせ)が発生し捏造を後押しする方向にベクトルが働くことは村興しの問題で見た通りです。「テレビの見過ぎ」の害毒については既に別稿にて説明して居ます。
 最後に[2]の中のテレビ(やマスコミ)の神格化とはどういう事か、について言及しましょう。実は今現在も新たなマスコミ先行型の「歴史の捏造」は進行して居るのです、ずばりテレビの大河ドラマの「宮本武蔵」ですよ。まあ、武蔵に限らず毎年何処かの場所が大河ドラマの”所縁(ゆかり)の地”に成る訳ですが、今年は武蔵を遣っているので武蔵を例に出した迄です。名を売るチャンスという地元の人々の気持ちも解るのですが、歴史的事実が検証されて無いものや、制作側が話を面白くする為にフィクションで挿入したエピソードを、恰も歴史的事実であるかの様に地元の宣伝に利用するのは止めて戴きたい、ということです。そういうものが”既成事実”として定着して仕舞う恐れが有るからです。この様にテレビを無分別に盲信することを私はテレビの神格化と名付けて居ますがが、それはヤラセ願望の聴衆を創出します
    {この章はは03年6月28日に追加}

 ■結び − 似非なるもののバブル崩壊
 ま、歴史的発見という事実の検証を必要とする事柄に、結果が出ない内からワアワア騒いだ人々は、昨年開幕7連勝しただけで優勝だ、と付和雷同して居た阪神タイガース・ファンと一緒で、結果が出た時は滑稽です。気が付いたら全てが泡の様な幻想に過ぎなかったと言えます。大衆誘導型のヤラセやイベント先行の似非学問・似非行政・似非商売(=便乗商法)・似非善意(=偽善)のバブルが、今弾けたということでしょう、...「可笑しくもあり悲しくもあり」ですね。
 しかし日本考古学協会の取った処置は”予想通り有耶無耶”で終わろうとして居ます。旧石器発掘捏造という前代未聞の事件に対し余りにも”御粗末”な対応です。正に「大山鳴動してピエロ一匹」、臭い物(者)に蓋を被せ、何も変わらず何も改まらず、唯時の過ぎ行く儘に...です!!
                (-_*)

 最後に【参考文献】△2は1987年に書かれた内容を文庫化したもので、勿論今回の捏造事件以前に書かれた本ですが、藤村・岡村・芹沢各氏の名前が登場した後の今読み返すと面白いですよ。この本の著者も相次ぐ東北地方の”新発見”に私が感じたのと同じ胡散臭さを感じて居たことが、その文章から窺えます(△2のp19〜21)。予めお断りした様に藤村氏をスケープゴートにした短絡的な”大衆裁判”の付和雷同に私は乗りません。私は寧ろ考古学に関わる者が事件前にどの様な見識を持って居たのか?、の方に興味が有ったのでこの本の一部を読み返してみたのです。皆が騒ぐ時程静かに振り返るというのが私の基本的態度です。

−−− 完 −−−

【脚注】
※1:捏造(でつぞう/ねつぞう、fabrication, made-up story)とは、(本来はデツゾウ)事実で無い事を事実の様に作り上げること。でっち上げ。「証拠を―する」「―記事」。
※1−1:ヤラセ/遣らせ(prearranged performances)とは、事前に打ち合わせて自然な振舞いらしく行わせること。又、その行為や演出。
 補足すると、日本のテレビ界は特にカラーテレビの普及以後、極端に「面白可笑しく、過激に、単純化」して見せることで視聴者を獲得して来ましたが、やがて過剰な演出虚偽の演出へとエスカレートして行き、「報道の公正さ」に対する感覚のマヒ(麻痺) −テレビ業界人と視聴者双方の感覚のマヒ− を発症しました。その結果、スポーツが”見世物”に堕落し単純化や虚偽の番組が横行して居ます。この問題でも「ヤラセをした方が視聴率が上がる」という”衆愚”の実態を見て取ることが出来ます。
※1−2:作為(さくい、artificiality)とは、自然の状態に殊更に手を加えること。拵(こしら)えること。「―のあとが見える」。←→無為。
※1−3:捏ち上げる/デッチ上げる/でっち上げる、とは、[1].無いことを有る様に作り上げる。捏造する。「証拠を―げる」。
 [2].間に合せに形だけを整えて纏め上げる。「報告書を―げる」。

※2:スケープゴート(scapegoat)とは、(元意は「贖罪の山羊」で、古代ユダヤで贖罪の日に人の罪を負わせ荒野に放したヤギを指す)他人の罪を負わされる人。民衆の不平や憎悪を他に逸らす為の身代り・犠牲。社会統合や責任転嫁の政治技術で、多くは社会的弱者や政治的小集団が排除や抑圧の対象に選ばれる。

※3:岩宿遺跡(いわじゅくいせき)は、群馬県新田郡笠懸町岩宿に在る遺跡。相沢忠洋(1926〜1989)の採集した石器が端緒と成って、1949年に発見。日本に於ける旧石器時代の存在を初めて立証した。

※4:北京原人/シナントロプス・ペキネンシス(ぺきんげんじん、Sinanthropus pekinensis[ラ])とは、北京の南西の周口店で1926年に発見された中期更新世(洪積世)の化石人類約70万〜20万年前に生存、現生人類に比べて眉上弓の発達が著しく、下顎も歯牙も原始的。現在ではピテカントロプス・エレクトゥス(=ジャワ原人)と共にホモ・エレクトゥスに含める。北京人類。

※5:オタクとは、パソコンやファミコン、ビデオ、アニメなど一つの事にのめり込み、その世界の中に自分自身を全て投入して仕舞う人間。自分が入り込んだ世界から外部を眺めると全て客体化されて居る為に、友達に対しても「お宅は...」としか表現することが出来ない。その世界に於いて全ての事を知ろうとする知識欲には凄いものが有るが、それ以外に関しては殆ど無関心である。コラムニストの中森明夫1984年に彼のコラムの中で名付けたものだが、一般的に成ったのは89年の連続幼女殺害事件の容疑者がアニメの中にのめり込んで居たことから言われる様に成った。おたく(お宅)。<出典:「最新日本語活用事典」>

※6:ベクトル(vector, Vektor[独])は、大きさ向きを有する量。力・速度・加速度など。数学的には、平面又は空間の2つの点の順序対(A,B)を、有向線分又は束縛ベクトルと言う。←→スカラー

※7:パラノイア(paranoia)とは、体系立った妄想を抱く精神病。妄想の主体は血統・発明・宗教・訴え・恋愛・嫉妬・心気・迫害などで40歳以上の男性に多いとされる。分裂病の様な人格の崩れは無い。偏執病妄想症

※8:二股武士(ふたまたぶし)とは、二股の態度の武士。二心を抱く武士。浄、一谷嫩軍記「源氏がたの―が頼みしにちがひはあるまい」。

※9:テクノクラート(technocrat)とは、高度の科学的知識や専門的技術を持って社会組織の管理・運営に携わり、意思決定と行政的執行に権力を行使する技術官僚

※10:アイドル(idol)とは、
 [1].偶像。崇拝される人や物。イドラ。
 [2].[a].憧憬の対象者。人気者。浮雲「此方はその―の顔が視度いばかりで」。
   [b].特に、青少年の支持する若手タレント。「―歌手」。

    (以上、出典は主に広辞苑です)

【参考文献】
△1:『「岩宿」の発見 幻の旧石器を求めて』(相沢忠洋著、講談社文庫)。

△2:『発掘された古代史』(高橋徹・天野幸弘著、にちぶん文庫)。

△3:『情報操作のトリック その歴史と方法』(川上和久著、講談社現代新書)。

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