§.日本の技術立国の中身
可笑しくもあり悲しくもあり]
(Technology island Japan)

−− 2003.10.21 エルニーニョ深沢(ElNino Fukazawa)
2003.12.28 改訂

 ■はじめに − 中国の有人宇宙船打ち上げ成功
 04年10月15日の読売新聞のネットニュースで
  中国初の有人宇宙船「神舟(しんしゅう)5号」10月15日午前9時(日本時間同10時)、同国西部の甘粛省・酒泉衛星発射センターから打ち上げられ、予定された軌道に乗った。
という記事を読みました。まあ、打ち上げだけなら”半分成功”ですから帰還したらこの記事を書こうと思っていたら10月16日のニュースで
  中国の内モンゴル自治区に無事着陸し、「神舟5号」内からVサインを示す楊利偉飛行士。
というニュースを読みました。
 これはスゴイことです。打ち上げには『自前の長征2号Fロケットを使用し、最大直径約2・8m、重さ約7・5トン。有人宇宙船の打ち上げは旧ソ連、米国が1961年に相次いで成功させて以来で、世界で3番目。』ということですから、約40年の開きだった訳です。
 これで中国指導部に於ける旧・江沢民の影響力は薄れ、胡錦濤国家主席を中心とする新体制(※1)の足元が固まり、2008年の北京オリンピックに向かってインフラ整備と積極外交を推進して行くことでしょう。今年はSARSで大変な目に遇いました、中国は。
  {この論考は当初「外国旅行」のコーナーの[海外の話題]シリーズの一つとして掲載して居ましたが、日本の技術の現状を考える論考として、この「個人的見解」のコーナーに03年12月28日に一部加筆して移行しました。}

 ■日本とアメリカの反応
 このニュースには日本人の方が中国人以上に驚きショックを受けた様です。何故ショックだったのかは後述します。
 さてアメリカの反応は予想通り中国の宇宙開発競争への参加を外交辞令としては称え乍らも、ミサイル軍事技術への転用に釘を刺すコメントを出して居て、その論拠は「核拡散防止」(※2)です。
 そして日本は前記のショックを隠す為にアメリカの威光を借りて、中国の軍事技術の脅威を論じる論調がマスメディアで声高に叫ばれて居ますが、お目出度い話です。既に私は指摘して居ますが「核拡散防止」という思想は片手落ちの詭弁です。これは譬えて言えば会社内で社長と役員だけが肉を食って、一般社員に菜食主義を押し付けているのと同等だからです。
 又ハッキリ言って宇宙開発技術とミサイル軍事技術の間に区別は有りません。そして真っ先に宇宙開発技術をミサイル軍事技術と連動させたのはアメリカであり、真っ先に核兵器や生物化学兵器を開発したのもアメリカであり、それらの”大量破壊兵器”を真っ先に実戦に投入したのもアメリカであり、世界で唯一の被爆国日本に原爆を浴びせたのもアメリカである、という事実は忘れては為りません、日本人ならば!

 ■日本のショックと日本の技術の中身
 では日本は何故中国の有人宇宙船打ち上げのニュースにショックを受けたのか?、その答えは簡単です。日本人は誰しも「日本がアジアでは最先端技術国であり「技術立国」である、だからアジアで最初に有人宇宙船を打ち上げるのは日本である筈」と短絡的に思い込んで居たのです。それが15億の人口を抱える”貧乏農業国”(と日本人が思い込んで居た)中国に、”アジアの技術先進国”を標榜して居る日本が先を越されたのですから、ショックは大きかったのです。
 しかし、一体何を以て「技術立国」と言っているのか?、が問題です。多分日本人の多くは「電化製品や自動車」を高品質に量産出来る力を「技術力」と思っているのでしょうが、これらの製品はアジアの後進国でも品質のバラツキは有りますがそれなりに生産して居ます。日本も昔は品質が悪かったのを労働コストの安さでカバーし乍らここ迄来たということを思い出すべきです。日本の歩んだ道を追い掛けて来ているのがアジアや中南米の発展途上国で、鉄鋼・造船・半導体技術など可なりの分野で日本の市場は奪われて居ます。要するに日本の技術の中身は、日本人にしか作れない「絶対的技術」では無く、後進諸国も成長すれば充分に生産可能な「相対的技術=改良技術」に過ぎないのです。
 では「絶対的技術」とは何か?、と言えばそれは一口で言い表すと他の追随を許さない独創技術を指します。その多くは現在アメリカが独占して居て軍事や宇宙航空技術、CPU(※3)開発技術、ソフトウェア技術、それらを統合するシステム技術(※4)などで、この”絶対性”が今日のアメリカの一国覇権主義(unitarian hegemonism)の下支えに成って居ます。例えば半導体技術を取り上げて日米で比較すると、日本がシコシコと生産して居るのは殆どがメモリと言われる記憶素子、つまり”情報の容器”を生産して居るに過ぎません。そこに高集積性というハイテク技術は有りますが、この技術は後進諸国でも成長すれば追い付ける技術なのです。それに対しCPUと言われる素子は、Windowsで有名に成ったインテルCPUの様に、この中にコンピュータや周辺機器を制御・動作させ記憶素子を使い熟(こな)す”頭脳や神経組織”が埋め込まれて居ます。記憶素子の高集積性は連続的に向上しますが、記憶素子開発技術とCPU開発技術の間は大きな川で隔てられた様に不連続で、簡単には追随出来ない(=飛び越えられない)のです。従って記憶素子は生産過剰で価格がしばしばダンピングしますがCPU市場はほぼ独占的です。
 そして宇宙開発技術、これもスペースシャトル(※5)や惑星探査衛星を飛ばして居るアメリカの独壇場で、「はじめに」で述べた様に有人宇宙船でロシアと今回新たに加わった中国が遥か後方から何とか追随して居る状況なのです。
                (>_<)

 繰り返しに成りますが、日本の「技術立国」の中身はこの様に後進国が成長すれば幾らでも追随可能な、最後には労働コストの競争に成らざるを得ない「改良技術」に過ぎないのです。この日本の技術の弱点については既に
  「デフレ論議に疑問を呈す」
の中で既に論じて居ますので参照して下さい。
 そしてもう一つ言及して置きたい事は、この様な改良技術を寄せ集めて自動車などの組み立て製品を主にアメリカ市場に売る行為 −言い換えればアメリカという宗主国に買って貰わなければ成り立たない経済構造− は、日本を自給自足から益々遠ざけ宗主国にサトウキビ(砂糖黍)を買って貰わなければ成り立たないカリブの被植民地国家と同じ立場に貶めている、ということです。日本の皆さんが先進産業と信じている自動車産業などを、同論考の中で私は”砂糖黍経済”と名付けて居ます。
 こういう現状は「可笑しくもあり悲しくもあり」ですね!!

 ■日本の現状は「裸のピエロ」
 日本は人工衛生(=無人)打ち上げには何度も失敗し、ミサイル技術では”経済危機”国・北朝鮮に脅かされ、殆どの日本人が内心バカにして居るお隣の中国には有人宇宙船で先を越され、航空機技術ではブラジルにも遅れを取っているのが現状です。まあ、日本人が「世界」と言う場合、殆ど「アメリカ」と同義語なので、こういう真の”地球儀的”な世界の現状を認識することが先ずは先決です。
 「技術立国」を標榜して金髪の欧米に憧れカブれ、同じ黄色人種の近隣アジア人をバカにし乍ら見栄で金をばら撒いて居る間に、その「技術」の分野に於いて見下して居た韓国や台湾や中国にどんどん追い抜かれて行く姿は周りが見えて無いピエロ −「裸の王様」ならぬ「裸のピエロ」− と同じで、「可笑しくもあり悲しくもあり」です。更に日本人の欧米カブレの裏返しとしての近隣アジア蔑視の態度は、アジア諸国の中に反日感情の種を撒いて居ます。
 日本は東大阪宇宙開発協同組合を昨年(=2002年)の暮れに立ち上げて、無人小型ロケット「まいど1号」を民間力で開発するらしいですね、「夢を打ち上げるんやない。夢で打ち上げるんや!」そうです。しかし今やスペースシャトルが何度も往復し商業ベースの宇宙遊覧飛行が目前の時代に無人小型ロケットの”夢”(※6)とは一体何なのでしょうか?、今更無人小型ロケットを打ち上げても技術的に何の波及効果も無く、趣味で気球に乗ったりハンググライダーで空を飛ぶ様なもので、こんなもので”町興し”とは「可笑しくもあり悲しくもあり」です。
 そして他国の打ち上げ成功の時に決まってマスメディアに登場する毛利さんや向井さんて一体何なのでしょうか。いや毛利さんや向井さんは優秀で立派な方たちだと思いますが、人類初でも無い後発の「アメリカのスペースシャトル」に乗せて貰ったという事実が日本人全体にとって一体どれ程の”意義或いは意味”を持つことなのか?、が私には良く解りません。本国のアメリカでは嘗ての宇宙飛行士がタクシーの運転手をして居たりして、後発の宇宙飛行士は”普通の人”なのです。それが日本では皆”○○栄誉賞”なんか貰って英雄扱いです。私はここに宇宙開発後進国・日本の病理を見る思いがして、これ又「可笑しくもあり悲しくもあり」なのです。

 ■結び − 日本はどうすべきか?
 技術と言うのは進んで居る所から学ぶのが手っ取り早いので、結論はズバリ、日本はいっそ中国に技術留学したらどうですかね。或いは”飢餓”を体験する為に北朝鮮に留学するのも一考です、少なくとも今の日本の若者に一番欠けている「ハングリー精神」は身に付きまっせ!!
 以上の様に「技術立国」を標榜する日本の「可笑しくもあり悲しくもあり」の現実を見て来ると、字義通りに日本が「技術立国」なのか怪しいもので、寧ろ現代の日本が”勘違い国家”である事が浮かび上がります。こういうアホらしい現実に直面した場合はウンコボーイに登場して貰うのが当サイトの習わしです。写真をクリックすると拡大版が出現します。
 それでは、これにてケツ礼、いや失礼!!
                ウンコボーイです、こんな格好で失礼します。

−−− 完 −−−

【脚注】
※1:胡錦濤(Hu Jintao)は、中国の政治家(1942〜)。江蘇省に生まれ、清華大卒。水利電力部門で活動し、85年から貴州省党委員会書記、88〜92年迄チベット自治区党委員会書記として地方勤務、92年の党14全大会で中央政治局常務委員に大抜擢。93年中央党学校校長、98年国家副主席、99年中央軍事委員会副主席を兼務。02年に党総書記、03年3月に国家主席に就任し、中国の最高指導者と成った。

※2:核拡散防止条約(かくかくさんぼうしじょうやく、Treaty on the Non Proliferation of Nuclear Weapons)/核拡散条約(かくかくさんじょうやく、Nuclear Non-Proliferation Treaty, NPT)とは、1968年米英ソの核保有3か国と非核保有53か国の間で調印され1970年に発効した条約。非核保有国が核兵器を新たに保有することを禁じ核保有国は非核保有国に核兵器を渡すことを禁止するもので、核拡散避止義務を課している。日本は1976年批准。中国・フランスの核保有国は1992年に漸く加盟した。1995年この条約の無期限延長が決定
 非核兵器国には、核兵器製造禁止義務の遵守の検証の為、国際原子力機関(IAEA)に依る全面的保障措置の適用も義務付けられる。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>
 補足すると、核拡散防止条約とは核兵器を禁止するものでは無く、列強が独占的に核を保有・管理し、その他大勢は核を持たず列強に従い為さい、という差別的な不平等条約です。その為1970年発効当初から物議を醸し25年間の期限付きでスタートしましたが、95年の再検討会議で漸く無期限延長に漕ぎ着けて居ます。四半世紀(=人間の1世代分に相当)の既成事実で”悪法”に慣れて仕舞った訳です。
※2−1:国際原子力機関(こくさいげんしりょくきかん、International Atomic Energy Agency, IAEA)国連の機関の一。原子力平和利用促進の為1957年設立核拡散防止の役割も担う。本部はウィーン。

※3:Central Processing Unit の略、中央処理装置。コンピュータで、制御装置と演算装置との併称。記憶装置の内の主記憶装置を含めることも有る。

※4:システム技術(system technology)とは、システム工学の手法を応用する技術のこと。
※4−1:システム工学(system engineering, SE)とは、複雑なシステムの開発・設計・運用・評価などを合理的に行う為の思想・手法・理論などを包含した基礎的工学。<出典:一部「学研新世紀ビジュアル百科辞典」より>
※4−2:システム(system)とは、複数の要素が有機的に関係し合い、全体として纏まった機能を発揮して居る要素の集合体。組織。系統、仕組み

※5:space shuttle。アメリカで開発された、反復使用が可能な宇宙往復用の有人宇宙船1981年試験飛行に成功。

※6:無人小型ロケットに”夢”を託して開発して居たのは日本に於いても30〜40年前の話で、実は私も30年前には無人小型ロケットに乗せる光学的観測装置の開発に取り組んで居たのでした。

    (以上、出典は主に広辞苑です)

●関連リンク
参照ページ(Reference-Page):ウンコボーイとは▼
ウンコボーイ(Unko-boy)
補完ページ(Complementary):世界一の大量破壊兵器所有国且つ
唯一の原爆投下国の本性▼
(「世界」=「アメリカ」という”勘違い”を裁断)
狩猟民族国家アメリカの本性(United States of Hunting people, America)
補完ページ(Complementary):日本の「技術」の弱点や砂糖黍経済論▼
デフレ論議に疑問を呈す(Is our DEFLATION true ?)
03年は中国で新型感染症SARSが大流行▼
2003年・新型肺炎SARSとは?!(The SARS, new pneumonia, 2003)
「核拡散防止」の詭弁▼
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相対的技術立国・日本の戦後の歩み▼
戦後日本の世相史(Shallow history of Japan after World War II)
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