第19話 大津波


モンスリーとダイスが変わりはじめる重要な一話。特にモンスリーの変化は、演出が細やかで、見るたびに新しい発見がある。

まず、「本物の紅茶」を20年ぶりに飲み、服は戦闘服でも表情が少し和らぐ。

帰る船を失っても、部下へは悲観的な顔は見せない。部下にとっては頼もしい上長。モンスリーは今の自分に満足しているようにみえる。している仕事に満足しているのか、仕事をしていることに満足しているのか。おそらくは後者だろうけれども本人は気づいていない。

ふと、占拠した家の庭を見る。色とりどりの花、木漏れ日、そよ風、そして犬。

「まだ、犬が生きていたなんて」と信じられない様子でつぶやく。そのとき、ずっと忘れていた名前が思わず口をついて出る


モンスリーはすでに変わりはじめている。まだはっきりとしてはないものの、疑問は頭をもたげている。ハイハーバーを占領せよというレプカの命令、ラナを人質にしてラオ博士を脅す作戦、太陽エネルギーを復活させる計画、インダストリアという存在、そして、生きるために自分の本心と他人を犠牲にしてきたこの20年間。さまざまな疑問……。

心が揺れ動いていなければ、コナンが無言で訴えた津波の襲来を信じることはなかっただろう。


こういう精神の危機を迎え、何日も目が見えなくなるような状態になった人もいる。そのあと彼は文字通り目から鱗が落ちるようにして見えるようになったと伝えられているけれども、実際はもっと行きつ戻りつだったに違いない。現代の伝記記者はそう考えている。

ダイスは相変わらず。でもコナンに指示され、思わず初めてモンスリーを抱きあげる。彼の変化も、ここからはじまる。


モンスリーは、最愛の犬の名前を忘れていたわけではない。忘れていたというより、自分でも知らないうちに封印していたのだろう。生き残るためには、そうしなければならなかった。幼い頃になくしたと思っていた「自分」はまだ死んでいない。地球も、まだ死んでいない。そのことに気づいたとき、封印されていた名前がよみがえる

だから、モンスリーが「津波だ」と叫んだコナンの叫びに身体が固まってしまった理由は、もう一つ、考えられる。

かつて大津波が彼女の心の奥底に深い傷を残した。その傷に、彼女は気づいていなかったし、無意識に気づかないように生きてきた。傷は、インダストリアのプラスチックの底に埋もれていた。ところが、おそらく20年ぶりでやはり記憶の奥に封じ込まれていた「名前」が、ハイハーバーで一匹の犬をみたとき、彼女の記憶の層を転覆させた

そして、再び彼女に襲いかかろうとした津波を目にしたとき、混乱する記憶は、自らを守るために彼女の心身を硬くした。


これからどうするのか。この20年はなかったことにして生きるか、この20年を懺悔しながら生きるのか。それとも……。

この答は、きっとこのあと続く物語にはない。きっと物語の裏にある私だけの世界にあるだろう。


参考:モンスリーのPTGとして『未来少年コナン』を見る  3.31.18