<国内写真集>
私の昆虫アルバム・日本編-セミ類
[私の昆虫アルバム・日本編#3]
(My INSECTS album in Japan, Cicadas)

-- 2003.10.14 エルニーニョ深沢(ElNino Fukazawa)
2006.12.04 改訂

 ■はじめに - セミ(蝉)の仲間について

セミのマスコット。 {このページは、元々「私の昆虫アルバム・日本編(My photo album of INSECTS in Japan)」というページの中で全ての昆虫を同一ページに扱っていたのを、数が増えたので06年9月15日に分類学の「目」毎にページ分割し、構成を一新しました。その後は個々の「目」毎に個別に改訂されて居ます。}

 蝉の仲間は昆虫綱カメムシ目(旧:半翅目セミ科に分類されます。蛹を経ない不完全変態です。鳴くのはです。

 [ちょっと一言]方向指示(次) 蝉はあの臭いカメムシ(亀虫)の仲間、即ちカメムシ目ですが、更にはヨコバイ(横這い)(※1)とも近縁で樹木に止まってる蝉を観察してると時々横に這って移動します。大多数の種は幼虫として地中で数年過ごした後、地上に出て羽化し成虫(=所謂セミ)としては1~3週間位で、その一生を全うします。殆どは夏に羽化しますが春に羽化するハルゼミ(春蝉)も居ます。又、北米には17年も地中で過ごすジュウシチネンゼミ(十七年蝉)や13年過ごすジュウサンネンゼミ(十三年蝉)が居ます。
 尚、鳴くのはが♀を呼ぶ為で、♀は唖(おし)です。止まっている時は注射針構造の吸収管型口吻 -吸収管型口吻はカメムシ目の特徴で、アメンボやタガメの様な肉食性の種はこれで小動物の体液を吸います- を木の幹に刺し樹液を吸いますので、飛び立ち際に小便を良く掛けられます。


 蝶や甲虫は一般的にはミーハー・アイテムです。私は寧ろ蝉が好きで、あの鳴き声は「夏」そのものです。又、蝉の抜け殻も風情が有って良いものですね、昔の人はこれを空蝉(→後出)などと呼び、この世の儘為らぬ儚(はかな)い現実に掛けたりして居ました。

 ■2003年

 先ずは関西で一番有り触れたクマゼミ(熊蝉)からご紹介しましょう。

 <撮影日=03.08.04:撮影場所=大阪府平野区>下の2枚は街路樹に居たクマゼミで、「熊」の名に相応しく日本で一番大きな蝉です(△1)。
蝉1:クマゼミの♂。
 左の写真はで、ほぼ実物大です。
蝉1-2:1本の木に止まる3匹のクマゼミ。
 右の写真(上と下が、中央が、左の実物大の写真は右の写真の下に居るセミ)の様に1本の木に、しかも手の届く高さに何匹も止まる程、関西では一番数が多い蝉で、例年梅雨明け前後の7月10日頃から、朝の7時前に近くの木々で「暑中お見舞い」の様に一斉に鳴き出し、その声で目を覚まされます。でも今年(03年)は冷夏の様相で梅雨明けが遅く(ヨーロッパは逆に熱波で異常高温)例年より15日程遅く鳴き始めました。クマゼミの方が人間よりも梅雨明けに敏感です。
 ♂は黒い身体に金灰色の微毛が有り、透明な翅の翅脈が黄緑色なのが特徴です。♀は金灰色の微毛と翅脈の緑化が少なく♂より一回り大きい -昆虫では一般に♀が♂より大きい- ですね。
 東海以西では真夏に「シャーシャー」又は「シャンシャン」という鳴き声を聞けますが、関東では極めて希少な蝉です。実はこの蝉の分布域は東京以西から東南・熱帯アジア南方系です。センダン(栴檀)・柿・桜などを好みます。別名はウマゼミヤマゼミ。子供たちはシャンシャンゼミとも言います。中国名は蚱蝉(さくぜん)。
 数が多い所為か、関西では小型ですね。逆に子供の頃静岡県で捕ったクマゼミは最高に大きかったのを今でも覚えて居ます。横浜では一夏に1~3回位鳴き声を聞いただけでした。

    ++++ セミの漢字は鳴き声に由来 ++++
 「蝉」という漢字は中国から来て居ますが、それはクマゼミの鳴き声に由来して居る様です。「蝉」の音(おん)は現代中国音では「チャン」 -日本語の音(おん)は「セン」- です。因みに訓読みは日本だけで中国では全て音読みで発音しますので、「蝉」の音(おん)を中国古音で何と発音したか知りませんが、現在音の「チャンチャン」とそう懸け離れては無い筈ですので、私に「シャンシャン」と聞こえるのと大差有りません。
 「中日・日中辞典」を引くと、セミの中国名として「知了」という語も出て来ます。これも鳴き声からの命名で現代中国音では「チリャオ」、即ち「チリャオチリャオ」と鳴く訳です。これは「ジリジリ」と聞こえるアブラゼミ(後出)ではないか、と思えます。但し、日本では「知了」は「知り尽くす」の意味で、セミの意味には使いません。
    ----------------------

 ■2005年


蝉1-3:クマゼミの抜け殻(=空蝉)。 <05.07.15:大阪市>左は「私の庭」の大阪城で見付けたクマゼミの抜け殻(羽化殻)で、ほぼ実物大です。
 この木にはこの様な抜け殻が幾つも在り、根元には羽化する為に這い出して来た穴が幾つも在りました。俗に蝉の抜け殻のことを空蝉(うつせみ)と言い、「魂が抜けた虚脱状態」や「儚い現世」の譬えに使われ、『源氏物語』の帖名にも採用され、又「空蝉の」は「身」「命」「世」などに掛かる枕詞でもあります。
 この抜け殻をまじまじと見詰めると空蝉の儚さが伝わって来そうです。

 その『源氏物語』の「空蝉」の帖の中で光源氏が人妻の空蝉に宛てて

  空蝉の 身をかへてける 木(こ)の下(もと)
    猶人がらの なつかしきかな


と認(したた)めれば、空蝉は

  空蝉の 羽(は)におく露の 木(こ)がくれて
    しのびしのびに 濡るゝ袖かな


と返して居ます(△2のp105~106)。何故「身をかへてける」なのか?、それは「空蝉」をお読み下さい。空蝉を詠み込んだ歌は他にも在りますよ。

蝉2:アブラゼミ。
 <05.08.07:大阪市>右は大阪城公園で撮ったアブラゼミ(油蝉)です。翅は油紙の様に褐色で、鳴き声は絞り出す様な如何にも暑苦しい「ジージー」又は「ジリジリ」です。実際、人間でこういう声音を蝉声と言いますが。
 関東では一番有り触れて平凡で同じ木に何匹も止まる”安っぽい”蝉ですが、関西では余り見掛けませんが、朝鮮・中国東北部に分布する北方系です。中国名は鳴蜩(めいちょう)。
 

 <05.08.15:東京都台東区>右下はツクツクボウシ(つくつく法師)の♂で、不忍池の弁天島の木に鳴かずに止まっていたのを見付けたものです。
蝉4:ツクツクボウシの♂。 ♀の胴は金色で長い産卵管が尾部から突出して居るので、鳴かなくても雄雌の区別は直ぐ付きます。小型の蝉で写真はほぼ実物大です。関東に比べ関西では希少です。
 名前はやはり鳴き声に由来しますが、この蝉の鳴き声は他の蝉の様に同じパターンを繰り返すのでは無く
  「ツクツクツク、
   ........
   オーシーツクツク、オーシーツクツク、
   ........
   ツクイーヨー、ツクイーヨー、ジーー」

と、序奏主題コーダ(=終結部)を持ち「楽章」を成して居ます。毎年お盆を過ぎた頃に鳴き出すので、多分「法師」という当て字もそこから来ていると思われ、このセミの季語は秋です。別名は法師蝉とか筑紫恋し外国では台湾・中国大陸に分布する様です。
 この鳴き声を聞くと夏休みの残り少なさを思い出し、「宿題を遣らなきゃあ」と思ったのが懐かしく、私は何故かこの蝉に愛着を感じます。

 <05.08.15:東京都台東区>左下は上野公園の東京文化会館から直ぐの摺鉢山(すりばちやま) -摺鉢山古墳が在る- にいたミンミンゼミの♂です。
蝉3:ミンミンゼミの♂。
 鳴き声が「ミーンミンミンミンミンミー」なのでこの名が在ります。幼少の頃、鼻を抓んで「ミンミン」と言って、隠れてこの蝉の鳴き声を真似たことが有りましたね、すると近所のガキが「あっ、ミンミンだ」などと叫び乍らこちらへ走って来ました。左の写真の様に頭胸部に緑色の斑紋が有り、翅を少し開き気味に止まるのが特徴です。高い所に止まり鳴き声はしても見付け難く、更に中々用心深く鳴き終わると直ぐに別の木に飛び移って仕舞うので、アブラゼミなどに比べて”高級感”の有る蝉で、関東に比べ関西では希少です。
 左の写真は幸運にも私が居る近くの木の地上2m位の所に飛び移り鳴き出したので、斜面をよじ登って撮影しました、ここは摺鉢山古墳の上(右の写真)です、アッハッハ!
 この日はずっと浅草/不忍池/上野/アメ横/秋葉神社などを巡っていたので、写っている自転車を浅草のホテルで借りて来ました。一般には有料ですが私はホテルの宿泊客なのでタダで~す、オッホッホ!
 

 ■2006年


蝉5:蟻に食われた後のクマゼミの死骸。 <06.08.15:大阪市>右は大阪城公園に落ちていた、蟻に食われた後のクマゼミの死骸です。胸部の外殻と前翅のみの哀れな姿です。しかし蟻も生活が懸かってますから仕方無いですね、これが「自然の掟」ですから。
 ところで「蟻と蝉」と言えばイソップ寓話を思い出しますね。日本では「蟻とキリギリス」の話が現在広く流布して居ますが、この寓話は元々はエジプト辺りの「蟻と甲虫(特にスカラベ)」の話(△3のp186)に発し、地中海北岸辺りで「スカラベ → 蝉」に変容(△3-1のp129~131)し、蝉の居ないドイツ辺りで「蝉 → キリギリス(或いはコオロギ)」に変容して日本に伝わったのです。
 【参考文献】△3-1の『万治絵入本 伊曾保物語』は上記の変容途中の「蟻と蝉」の話を伝えて居ますので、お暇なら御一読下さい。
 話は変わりますが最近、関西では光ファイバー・ケーブルにクマゼミが卵を産み付ける被害が出ているそうです、木の幹と間違えてるんですかねぇ、いやはや! 

 ■結び

 [私の昆虫アルバム・日本編]シリーズの他画面への切り換えは最下行のページ・セレクタで行って下さい。(Please switch the page by page selector of the last-line.)

-- 以上 --

【脚注】
※1:ヨコバイ(横這い、leafhopper)は、(和名は横に歩くものが多いから)カメムシ目ヨコバイ上科の昆虫の総称。体長3~13mm。近付くと横に這って、葉裏に隠れる。ウンカ(浮塵子)に似るが触角が糸状で基部が太くない点や後ろ足に蹴爪が無い点などが異なる。成虫は普通夏から秋に発生。オオヨコバイ/ツマグロヨコバイ/イナズマヨコバイなど。植物の汁液を吸収し、又ウイルスを媒介するなど、農作害虫も多い。<出典:一部「学研新世紀ビジュアル百科辞典」より>

    (以上、出典は主に広辞苑です)

【参考文献】
△1:『学研生物図鑑-昆虫III バッタ・ハチ・セミ・トンボほか』(石原保監修、学習研究社)。

△2:『源氏物語(一)』(山岸徳平校注、岩波文庫)。

△3:『イソップ寓話集』(山本光雄訳、岩波文庫)。
△3-1:『万治絵入本 伊曾保物語』(武藤禎夫校注、岩波文庫)。

●関連リンク
参照ページ(Reference-Page):昆虫の分類学と特徴▼
資料-昆虫豆知識(Insect Trivia)
2003年夏の世界的天候不順▼
2003年・雲南で大地震、ヨーロッパは熱波
(The earthquake and heat-wave, 2003)

「私の庭」とは▼
ここが「私の庭」だ!(Here is the territory of Me !)
空蝉(うつせみ)を詠み込んだ歌▼
日本全国花見酒(Cherry blossoms and banquet in Japan)
東京上野の摺鉢山古墳について▼
ぶらり浅草(Drift in and trip out Asakusa, Tokyo)
05年8月15日は浅草/不忍池/上野/アメ横/秋葉神社を経巡る▼
初歩的な神道の神々(The gods of rudimentary Shinto)
厳粛な自然の掟について▼
2005年・年頭所感-幸せ保存の法則
(Law of conservation of HAPPINESS, 2005 beginning)


Select page:0:目次(Menu)1:トンボ類(Dragonflies)
         2:チョウ・ガ類(Butterflies and Moths)|3:セミ類(Cicadas)|
         4:コウチュウ類(Beetles)5:バッタ類(Grasshoppers)6:ハチ類(Bees)

総合目次に戻ります。Go to Main-menu 上位画面に戻ります。Back to Category-menu