5/21/2016/SAT
わたしには夢がある (I Have a Dream, 1963)、spoken by Martin Luthur King Jr., illustrated by Kadir Nelson、さくまゆみこ訳、光村教育図書、2013
ぬすみ聞き 運命に耳をすまして (The Listeners, 2009, written by Gloria Whelan, illustrated by Mike Benny、もりうちすみこ訳、光村教育図書、2010
おじいちゃんの手 (These Hands, 2010), written by Margaret H. Mason, illustrated by Floyd Coope、もりうちすみこ訳、光村教育図書、2011
隣町にある図書館Cに行くときは駐輪場のある裏口から入る。絵本のコーナーを抜けて正面玄関傍にあるCDと雑誌コーナーをひとまわりする。
帰るとき、絵本のコーナーを見回して、キング牧師の顔が描かれた大判の絵本を見つけた。
ページをめくると文章は有名な演説、“I Have a Dream”の後半そのままだった。“I say to you today, my friends”で始まる後半部分は、高校時代、英語を熱心に勉強しはじめた頃、暗唱できるまで音読した。“I am happy to join with you today”で始まる前半も、スマートフォンに常駐させて何度も聴き返してる。
手に取って絵本の棚を歩くと、偶然に米国の黒人の歴史を主題にした絵本を見つけたので、3冊まとめて借りた。
『ぬすみ聞き 運命に耳をすまして』を読むと、小学生の頃に見たテレビドラマ『ルーツ』を思い出す。最近、ときどき再放送をしているけど、「あの頃」のように釘付けになることはない。
絵本を読むのは久しぶり。絵本の棚を歩きながら、毎晩、絵本を読み聴かせていた頃を思い出した。『おじいちゃんの手』を読みながら、「アメリカ」を作った名もない人々を描いた『彼の手は語りつぐ』や、『チキン・サンデー』を思い出した。
子どもが小さい頃は、読み聴かせる絵本をさがして図書館を見てまわった。最近は通り抜けるだけで絵本を探すこともなくなった。
キング牧師の演説には、アメリカの地名が多数登場する。絵本では、列挙された場所を一つ一つ丁寧に描いている。“one day right there in Alabama little black boys and black girls will be able to join hands with little white boys and white girls as sisters and brothers”などのくだりも、そのまま絵になっている。
この絵本で“I have a Dream”を知る子どもは、黒い手と白い手がつなぎあう姿を耳だけでなく、目でも覚えることだろう。
アメリカの絵本には政治を主題にした作品が少なくない。とりわけ、自由を求めて戦ってきた黒人の闘争史の絵本は数えきれないほど。
日本の絵本では、政治といえば戦争、戦争といえば原爆と空襲を主題にしたものがほとんど。自由や平等を勝ちとる闘争を主題にした文学は少なくないけど、生命の大切さを説く絵本は多くあるものの、人権の獲得する戦いを描いた絵本を私は知らない。
もちろん、それだけで米国の方が日本よりも民主主義を実現できていると言うつもりはない。多くの絵本が書かれていることは、多くの問題があり、子どもの頃からそうした問題を知ってもらう必要があると考えている人が多いことを示している。今では読み聴かせることはもうないので、絵本を探すこともない。
今年、18歳、高校三年生で選挙権を持つようになる。今まで以上に政治教育が求められる。政治教育とは、党派や何らかの政治的主張を指すのではない。政治教育とは、主権者としての自覚を促すこと。
そもそも、主権者教育は、教育基本法に明記されている。しかし、政治的教育と政治的活動が混同されていて、これまで重視されてこなかった。そのことは、2003年に聴いた講演会で聞き、感想を残している。
面白かったのは、教育基本法第八条についての指摘。条文では、第一項で「政治的教養」育成の必要性を説く一方で、第二項では、特定の政党に関わる教育を禁止している。従来、第二項を意識するあまり、政治についての教育が足りなかった、と中村は述べる。具体的にいえば、ルールを自分たちで作るという民主主義の基本活動よりも、校則は疑わず守らせることを優先するなどして、教育の現場では「政治教養」の育成はほとんど行われなかった、という説明があった。この点は、同感。
昨年夏から、安全保障や憲法第九条の解釈についての議論が続いている。集団的自衛権の行使を法解釈だけで無理強いする現政権に対して私も憤りを感じている。しかし、主権者教育を一足飛びに現政権への批判につなげることには賛同できない。
主権者教育は、国民一人一人が国を形作る主権者であることと、その権利を持つために一人一人が基本的人権を有していることを教えることが、何よりも大切と思う。
基本的人権は、戦後、米国に押しつけられた憲法で与えられたと誤解している人がいる。
憲法は、国が国民を従わせるためのものと勘違いしている人もいる。そうではない。憲法とは、主権者が国を縛るもの。
主権者教育は高校生になってからでは遅い。絵本を読み聴かせる頃から、始めなければならないと、アメリカでの人権の歴史を語る絵本は教えてえくれる。
基本的人権の教育が必要なのは、子どもたちだけではない。生徒の人権を蹂躙する教員たちこそ、まず基本的人権の大切さを理解してほしい。
日本でも、基本的人権を獲得するために戦った人がいる。そうした人たちを称え、その精神を受け継ごうとする取り組みが日本では足りないように感じる。そうした先人の足跡を子どもたちに伝えるために、絵本は重要な役割を果たすことができる。
『わたしには夢がある』の絵を描いた人は、『ヘンリー・ブラウンの誕生日』と同じ人だった。
さくいん:マーチン・ルーサー・キング、さくまゆみこ、もりうちすみこ