土を掘る 烏兎の庭 第三部
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2010年1月


1/30/2010/SAT

ほぼ半年ぶりにシリコンバレーに出張した。8年ほど前、2002年から数年のあいだは毎年1月、“Consumer Electronics Show”が開かれているラスベガスへ行き、そのあとでシリコンバレーに立ち寄っていた。だから、1月にベイエリアに行くのは、数年ぶりのこと。

この時期の北カリフォルニアは好きになれない。サンフランシスコ空港は霧に埋もれて着陸が遅れることも多い。今回も、一週間ずっと雨だった。2000年より前、三ヶ月に一度行っていた南カリフォルニアのまぶしい空が懐かしい。

今回は一日遅れでいつも乗っている航空会社の便が満席となり、米系の航空会社を使った。一度会社更生法が適用されたことのある会社の機内サービスは驚くほどそっけないものだった。食事はお世辞にも美味しいとはいえず、酒類もつい昨年夏までは有料だったらしい。学生時代、安い予算で旅行するために乗った社会主義国の航空会社を思い出した。

向こうにいるあいだに、日本航空の会社更生法申請のニュースを聞いた。全日空が国際線に参入したのは1980年代の半ばになってから。それまでJALは外国旅行へ誘う夢の翼だった

債権を放棄させられる債権者の手前、あらゆる面でコスト削減が断行されるだろう。かつて憧れの的だった飛行機旅行が米系航空会社のような味気ないものになるとしたら何ともさびしい。

放漫な経営に責任があることは間違いないだろう。それはそれとして「悪貨は良貨を駆逐する」という箴言は、サービス業を含む、どんな商品にも当てはまると私はつねづね思っている。つまり、消費者が安いものを求める限り、企業は安いものをつくって競争に勝ち残ろうとする。

そのとき、同じ質でコストが安くなれば言うことはない。そういう努力はイノベーションと呼ばれるだろう。しかし、往々にしてコスト削減は質の低下をまねく。ビール系発泡酒は典型的な例

フェア・トレードという言葉は、けっして途上国と先進国のあいだだけにあてはまるものではない。いいものにはそれに応じた対価を与えなければ、ただ安いだけのものに駆逐されていく。消費者はそれほどバカではない、という意見に私は賛同できない。おそらく、いまの世の中では、モノの値段と原価と商品の質のあいだに明確な関係を描ける人などいないだろう。

それでは、自分の仕事はどうなのだろう。何を売り、何を手にしているか。手に入れているものに値する何かを生み出しているだろうか。

そんな問いかけさえできないでいることを、ただ「忙しいから」というひと言で済ませていないか、いや、間違いなく、そんな問いかけをしないようにして暮らしはじめている。

わかっている、そう、ここに書くことは自問にも自嘲にもなっていないことは。

写真は、ボウリングとカーリングを素朴にしたような“bocche ball”のボール。砂の上で重いボールを転がし合い、最初に投げておいた小さな銀玉に近づいたほうが勝ち。この場所には前にも来たことがある。“猫の街”の遊技場の風景。


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